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復活のジダンマドリー...4局面+セットプレー戦術徹底分析

あけましておめでとうございます。

ラ・リーガ第12節セビージャ戦に続いて、ジダンの解任が懸かった"ファイナル"チャンピオンズリーググループステージ最終節ボルシアMG戦での勝利を機に、メンバーを固定して復活を遂げ、波に乗るレアル・マドリー。2020年最後の試合となったラ・リーガ第16節エルチェ戦での引き分けにより連勝は途絶えたものの、シーズン序盤の悪夢のような雰囲気は消え去り、首位を独走するアトレティコに食らい付き、巻き返していくことへの期待が高まります。

そんなジダンマドリーの、攻撃・ネガティブトランジション・守備・ポジティブトランジション+セットプレーの各局面を徹底分析しました。長文となっていますが、一日一項目でも良いので、ぜひ最後までご覧下さい!

【分析対象試合】
vsボルシアMG
vsアトレティコ・マドリー
vsアスレティック・ビルバオ
vsエイバル
vsグラナダ
vsエルチェ


メンバー

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基本フォーメーション4-3-3

カルバハルの離脱で代役に抜擢されたバスケスが右SBのポジションでハイパフォーマンスを見せると、カルバハル復帰後も右WGとしてスタメンを奪取。左WGはアザール不在のためヴィニシウスが起用されていましたが、ロドリゴやアセンシオもこのポジションで出場しており、メンバーを固定して戦ったここ数試合で唯一定まらないポジションでした。


I.攻撃

サッカーにおける攻撃の局面は3つに大別されます。それはプレス回避・ビルドアップ・崩しです。プレス回避とは、ハイライン・ハイプレスを仕掛けてくる相手をどう剥がすか、ビルドアップとは、主にミドルサードでどのように相手のプレスを掻い潜ってファイナルサードに到達するか、崩しとは、その名の通りファイナルサードで相手の守備ブロックをどう崩すか、です。それでは、一つずつ見ていきたいと思います。(ブレス回避とビルドアップはまとめて「ビルドアップ」と表現することも多いです。)

ⅰ)プレス回避

下で繋ぐことを放棄して前線にロングボールを蹴り、セカンドボールを回収するというようなダイレクトなプレス回避を行うチームもあれば、噛み合わせを少しずつずらし数的優位と位置的優位(レアル・マドリーは時に質的優位も)を担保しながら下で丁寧にボールを繋ぐポジショナルなプレス回避を行うチームもあります。レアル・マドリーは後者寄りです。基本的に外経由で、例えばバルセロナやマンチェスター・シティのようにGKを組み込んでGK→Ac(アンカー)のようなパスが出ることは、カゼミーロがAcポジションに入る時に関してはあまりないと言ってよいです。クルトワもそういうプレーは得意としていません。

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まずは右サイド。かなりの再現性が見られるのが上記の形。初期位置としては両CBがペナルティエリアの幅まで開き、SBがやや高い位置で大きく開くことで、相手の守備の距離を広げます。ヴァランにボールが出ると、カルバハルが相手左SHを引き連れて内側に移動します(ついて来なければ縦パスを受けますが、ほとんどの場合ついて来ます)。そうすることで右SBの位置にスペースが生まれ、ここにバスケスが落ちて受けることで時間を確保し、カルバハルやカゼミーロを経由して逆サイドへ展開、もしくはMF-DFライン間に位置するモドリッチやベンゼマに縦パスを差し込みます。このとき相手左SBがバスケスについて高い位置まで来れないよう、ライン間の二人の一方がサイドに流れる動きを見せることで深みを作り、牽制します。相手はこちらが前線に残す3枚に対してカバー1枚を含む4枚を後ろに残すため、プレスに割くことができる人数は最大で6人、対するレアル・マドリーは7枚+GKの数的優位と、さらにカルバハル、バスケスの基準点をずらす動きによる位置的優位を使って、よりリスクの低いサイドからボールを運ぼうということです。バスケスはSBへのコンバートがきっかけとなってこのようなシーンでの状況判断が大きく改善されており、成果がここで発揮されています。

また、相手のプレスによりカルバハルとバスケスがサイドレーンに縦に並んでしまい、SB→SHの角度のない縦パス(いわゆる嵌めパス)が出ることがあるものの、その時には必ずと言ってよいほどバスケスがワンタッチで落とせる位置にモドリッチがサポートに入り、バスケスが内側でリターンを受けて中にドリブルしていくことで掻い潜っています。

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左サイドは毎回やるわけではありませんが、SBの位置に落ちるのはクロース。基準点をずらしてパスを受け、抜群のキープ力と広い視野でボールを捌きます。どんなに嵌め込まれても彼がボールを奪われるシーンをほとんど目にしないのは、"ボールを隠す"能力がずば抜けているからです。相手にとってボールを奪うここぞというタイミングで相手の足をボールの間に自分の足を入れ、ファールを誘います。立派な個人戦術であり、これぞ質的優位ですね。アスレティック・ビルバオのラウール・ガルシアが彼への2回のファールで退場になったことは記憶に新しいと思います。メンディも、中盤でマークを受けても一瞬の加速で相手を剥がすドリブルを持っています。

もう一つ、困った時のラモスの超高精度ロングフィードがあります。相手が片方のサイドの密度を高め、ボールを奪い切ろうとしている時、逆のSB、つまりカルバハルはほぼ確実にフリーとなっており、ギリギリまで寄せられてもラモスはカルバハルの足元にピタッと収まるロングフィードを通すことができます。戦術セルヒオ・ラモス。vsボルシアMG後半やvsエイバル前半に何度もこれを通しプレス回避していました。レアル・マドリーの他のCBにはできないプレーで、外切りプレスに苦しんだ昨シーズンのチャンピオンズリーグ、マンチェスター・シティ戦ではまさにこのプレーが欠けていました。この時レアル・マドリーはIH(インサイドハーフ)2枚(モドリッチ、クロース)を中央に落としてカゼミーロを前線に追いやることで一定の対応を見せましたが、今後そのくらい質の高い相手と当たった時のプレス回避は見ものです。

そして、見逃せないのがベンゼマのライン間あるいはサイドでの働き。相手が中盤ラインも高い位置まで押し上げてプレスをかけてきたとき、クルトワや最終ラインから繰り出されるロングボールを高い確率で収め、モドリッチへのレイオフなどから一気にサイドへ展開し、ダイレクトにゴール前まで迫ります。良くはなっているもののクルトワは足元がないので、基本的にパスコースを消しながらGKまでプレスに来られると大きく蹴ります。

また、ヴァランはラモスと比べるとロングフィードの精度が劣りプレスを受けたときに相手と正対することが苦手なので、誘導に乗ってしまうことが多いです。エイバルは左SHのブライアン・ヒルを積極的にヴァランまで出すことで嵌めようという狙いがありました。

(※追記)落ちてくるモドリッチとクロースに早めにボールを預け、彼らのプレス回避能力の高さを生かし中央経由でプレス回避していく形も持っています。その際、カゼミーロがポジションを上げ、前線のターゲット、フリーマンになります。

ⅱ)ビルドアップ

オープンにせず、サイドを揺さぶりながら相手を押し込みサイドの高い位置にボールを運ぶことが目的です。基本的に相手のFWの枚数でやり方を変えるということはなく後ろ3枚を形成します(なので、後ろに重たくなる場面は結構あります)。アンチェロッティが仕込んだIH落としの名残です。これにより相手の中盤を釣り出し、奥にスペースを作ります

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右サイドは、カルバハル・バスケス・モドリッチの3人が常にトライアングルを作ります。1列前の選手が同じレーンに並ばないようにしながら、ポジションを流動的に入れ替えてマークの的を絞らせず、ワンタッチを駆使した連携で運びます。具体的には、カルバハルが手前で受けたらモドリッチがハーフスペース高い位置に入りバスケスが幅を取る、モドリッチが手前で受けたらバスケスがハーフスペースに移動しカルバハルが幅を取る、などといった形です。3人がこの3つのどのポジションもこなせる柔軟性と献身性を兼ね備えているため、このやり方の機能性は高まります。詰まったらクロースや最終ラインを経由してやり直します。クロースはサイドチェンジができるようFW-MF間にポジションを取ることが多いです。

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左サイドはもはや見慣れた光景ですがクロースが1列落ちます。ラモスの脇に落ちることが多いですがCB間に落ちてラモスが開くor持ち運ぶシーンも。相手右SHやCHを釣り出して幅と深みを取るメンディorヴィニシウス、あるいはライン間にパスを通します。この"餌を撒く"プレーもクロースの醍醐味です。

そして核となるのが左ハーフスペースから繰り出されるクロース、ラモスのこれまた超高精度サイドチェンジです。右は3人のユニットがメインですが、左はベンゼマが積極的に絡みモドリッチも寄っていくため、オーバーロードが起き、相手はサイドの数的不利を解消すべくスライドして横方向に圧縮せざるを得ないので、逆サイドに広大なスペースが広がります。バスケスとカルバハルのどちらかが裏に走ってラインを押し下げ、もう一方がフリーでボールを受けます。この一連の流れは再現性が非常に高く、パスを出せる選手が2人もいるため、相手も防ぐのは難しいですが、裏を返せばこの2人を欠くと途端にこのパスの本数は減ってしまいます。

エイバルのように相手のラインが高く設定されている場合は、前線3枚の動きに合わせて一発の裏へのロングボールを狙うという選択肢は常に意識されています。出し手となるのは主にモドリッチ、クロースです。

ⅲ)崩し

崩しの局面における問題点は以前の記事で詳しく指摘しました。ここ最近の連勝は、主にベストメンバーの固定、攻守の切り替えの速さ、右サイドの機能性の高まりが要因であり、崩しの局面でのオフ・ザ・ボールで裏を取る動きやそれに連動してスペースを使おうという意思統一に大きな改善が見られないのは、直近のエルチェ戦でも露呈した通りです。

ファイナルサードではライン間、サイド、DFラインの裏の主に3つのゾーンをどう攻略するかが鍵となりますが、レアル・マドリーは縦のコンパクトさを保ちながらラインを下げてライン間と裏のスペースを消し、さらにサイドへの揺さぶりに強いかなり従属的で守備的な布陣を敷かれると途端に攻めあぐねてしまいます。ネガティブトランジションの質向上(意識的なもの)とセットプレーやミドルシュートの得点力で問題点を覆い隠している状態です。

崩しのキーマン、タイミングを司るのはモドリッチ。ライン間にパスを差し込むのも、自らが狭いライン間でマークを外してボールを受け、前を向いてスルーパスを出すのも世界トップレベルです。アウトサイドを使えるのでどのタイミングでも出せる点で唯一無二ですが、肝心の受け手の動きが少ない。レアル・マドリーの場合逆サイドのメンディやヴィニシウスは例えばバルセロナのジョルディ・アルバのように外→内にダイアゴナルに走り込む動きが皆無で、サイドを変えてやり直す際の受け手(幅取り)、ぐらいの位置付けです。アセンシオが右でメッシになれない一因。

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クロースのサイドチェンジを受け、1vs1の仕掛けからクロス、あるいはチャンネル(SB-CB間のスペース)を狙います。バルベルデがいる場合、彼は縦へのダイナミズムを備え、ここを使うのが十八番です。素早く封鎖されてしまうと、内→外へのダイアゴナルランでパスを引き出し、リターンからのクロス、無理ならサイドを変えてやり直します。右からのクロスに対しベンゼマは、必ずファーでCBの視野から消え体格的に勝てるSBの前に飛び込みます。vsボルシアMGの2得点は両方この形でした。ヴィニシウス+もう1枚がエリア内に入りますが、実質フィニッシュはベンゼマに大きく依存しています。それでもバスケスやロドリゴのクロス精度が目に見えて向上して、それなりにチャンスを作れるようにはなりました。押し込んでいる時は右の3枚が同時に上がるため、背後のスペースはカゼミーロがケア。

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そして今回特に紹介したいのがカゼミーロの偽トップ下としての役割。強靭なフィジカルを生かした空中戦の強さはvsアトレティコ・マドリー、vsグラナダの得点でも証明されており、Acとは思えない得点力があります。エリア内の迫力を増すため、ジダンは押し込んだ状態でカゼミーロを実質トップ下に置き、クロスに飛び込ませます。vsエルチェでは長い時間をベンゼマのすぐ後ろで過ごしました。この形から得点したvsグラナダとの共通点は、左サイドにアセンシオがいた、ということです。メンディとヴィニシウスはどちらも大外レーンで輝けるタイプなのでハーフスペースとの棲み分けがスムーズにいかず攻撃が硬直化しがちです。またどちらも左からの精度の高いクロスは持ち合わせていません。アセンシオ(+マルセロ)の高精度クロスに期待して、ジダンはこの役割を任せたと推測しています。上述の通り右サイドは押し込んだ際3人とも高い位置をとるので背後をカバーする必要がありますが、左サイドはクロースが低い位置をとっているため、この動きが可能になります。しかし、やはりネガティブトランジションでカゼミーロがフィルターとして機能しないことを意味し、そこはトレード・オフなので一概に良いかどうかは判断しかねます。

またヴィニシウスがハーフスペースで縦パスを受けてワンタッチでベンゼマに渡し、ベンゼマが大外のメンディの裏に送る流れは何度か見られ、vsセビージャでこの形から決勝点が生まれました。


Ⅱ.ネガティブトランジション

ネガティブ・トランジション

ミドルサードより前では、ボールホルダー付近の2、3人がアグレシッブにボールを奪いにいくゲーゲンプレスが基本です。その周りの選手が人を基準に選択肢を消して認知に負荷をかけ、前に蹴らせたところをパスコースに立つカゼミーロがシャットアウトする場面やラモスが前に出て潰す場面が目立ちます。vsボルシアMGの先制点はカゼミーロのパスカットが起点です。また後ろに下げさせた場合後述のハイプレスにそのまま移行することが多いです。急先鋒となるのはバスケス(とバルベルデ)。攻守の切り替えの速さは目を見張るものがあり、エイバル戦では彼のボール奪取からゴールが生まれています。

一方で両SBが高い位置をとるため、ゲーゲンプレスを剥がされるとサイドに広大なスペースが広がっており、時にヴァラン、ラモス、カゼミーロの3枚でのカウンター対応を強いられます。多くのチームがリスク管理に最低4枚を残す中、レアル・マドリーは3〜4枚なので、この3人の個の能力に依存しているのは誰もが知るところでしょう。ここ最近はバスケスの右WG起用や意識的な部分の改善により即時奪回が機能していますが、シーズンを通してどこまで保ち続けられるかが焦点と言えそうです。メンディの帰陣の速さに助けられることも多々あります。

ミドルサードより後ろで失った際はリトリートし、後述のブロック守備に移行します。


Ⅲ.守備

守備の局面は2つに大別されます。ミドルサードより前でボールを奪う、あるいは前進させないことを目的としたプレスと、自陣に引いて陣形を整えてのブロックです。マドリーはコンディションや相手チームの戦い方、スコアや時間帯などを見てかなり柔軟に戦い方を変更します。特に先制した後のブロックはかなり強固です。

ⅰ)プレス

 プレス①
プレス②

ラインが押しあがっていればプレスの開始地点はかなり高く、GKを除く10人の「人」を基準とするオールコートマンツーマンを採用します。最終ラインの数的均衡を受け入れ、近くの相手を捕まえにいく攻撃的なハイプレスで、奪ったらショートカウンターです。この場合GK→CBがトリガーとなり、ボールを蹴らせて最終ラインの質的優位によりボールを回収します。カバーシャドウしながらGKまでかけて蹴らせることも。ブロックからハイプレスに移行するトリガーとしては、相手選手が後ろを向いた時、またSB→CB、GKの長い距離のバックパスが出た時になります。ボールに近い位置にいる選手、バルベルデなどIHやヴィ二シウスのスプリントがスイッチになることが多く、一気にラインを押し上げます。ヴィニシウスは勢い余って一発で飛び込んで躱されてしまうことがあります。

プレス③

特徴的なのはIHを2枚とも高い位置に押し出すところでしょうか。そのため中盤でCBが前に出れない高さで数的優位を作られた際に(ラモスは相当高い位置まで迎撃に行きますが)、誰かがマークを受け渡して出る必要があります。この判断に時間がかかると前を向かれて一気にピンチになります。ボルシアMGはCHを落としてモドリッチを引き連れ、GKとCBのパス交換でベンゼマを剥がして中盤に落ちてくるマルクス・テュラムに縦パスを入れることでプレス回避しました。用意していた形でしょう。ロドリゴが遅れて出るも簡単に剥がされ、大事には至らなかったものの危険なシーンを作られました。

ⅱ)ブロック

昨シーズンのラ・リーガ制覇の要因がこの強固なブロック守備にあります。4-1-4-1で5レーンをバランス良く埋め、縦方向のコンパクトネスを保ち、「ボール」と「味方」を基準に守るゾーンディフェンスを採用します。崩しの項でライン間、サイド、DFラインの裏の主に3つのゾーンをどう攻略するかが鍵と述べましたが、ブロックではここをどう守るかが鍵となります。複数の決まり事が確認できるので、見ていきましょう。

ブロック①

最終ラインに対してはIHが中央へのパスコースを遮断(カバーシャドウ)して前に出ることでベンゼマとプレスラインを形成します。中盤の高さに合わせてラインを上げ下げすることで(基本的にラインは低め)中央を圧縮し、サイドへ誘導。この時ベンゼマはCB、Acの中間ポジションをとりAcに出たら献身的にプレスバックします。サイドにボールが出たらSHとSBで素早く囲んでボールを奪いにかかる、あるいはラインを下げてクロスをはね返します。鍵となるのはバスケスで、彼の豊富な運動量を生かして主に右サイドでボールを回収します。

ライン間、特にカゼミーロの両脇にボールを入れられた際は、ラインを崩してでもヴァラン、ラモスが強く前に出て潰します。このとき、必ずCBが空けたスペースをカゼミーロがカバーします。ここだけ「相手」に基準を置いていると言ってもよいでしょう。

ブロック②

DFラインの裏、主にチャンネルへの対応には、優先順位が決められているように思われます。特にボール保持時に5レーンを埋めてくるアトレティコ・マドリーとの試合で顕著でした。

①SBは外に簡単に釣り出されず、SHが戻って5バック化する
②SHが間に合わなければSBがボールホルダーに対応し、チャンネルはSHが埋める
③SHがチャンネルを埋められないとき、カゼミーロが埋める、もしくはCBがスライドして埋めてカゼミーロがDFラインに落ちる

右サイドがカルバハル、バスケスの組み合わせのときは①②におけるバスケスの貢献度は絶大です。一方左のヴィニシウスも献身的ですが、メンディが縦スライドしてラモスがチャンネルを封鎖、カゼミーロが中央に落ちる(つまり③)をする場面が多いです。その際ヴィニシウスはメンディの横に立ちライン間へのパスコースを遮断します。

ポイントは、カゼミーロが2CBと常に近い距離を保っており、すぐにカバーリングに行けるということです。彼の危機察知能力は非常に高く、出場停止だったvsアスレティック・ビルバオの終了間際にクルトワとの1対1を作られたシーンでヴァランやクロースの対応が話題になりましたが、本来カゼミーロが埋めてくれるはずのスペースだったので混乱が生じたのでしょう。とはいえ彼がいればかなりシステマチックで、最後尾に大正義クルトワもいるため(集中力を保っている限り)このブロックから得点を奪うのはなかなか難しいのではないでしょうか。


Ⅳ.ポジティブトランジション

4局面の最後になります。ショートトランジションロングトランジションに分けることができます。

ハイプレスにより敵陣でボールを奪ったときのショートトランジションは、あまり分析の余地はありません。数的均衡あるいは数的有利の状況を生かして少ない手数で前線のコンビネーションによりゴールへ迫ります。バルベルデの台頭とともに導入されたこのハイプレスからのショートカウンターはレアル・マドリーの一つの大きな武器となっています。

ブロック守備によりボールを奪ったときのロングトランジションは、すぐに前方のスペースに向かってボールを運びロングカウンターに転じるか、ポゼッションを確立しようとするかに分けられます。レアル・マドリーは前者です。

ポジティブ・トランジション

この時絶大な存在感を放つのがサイドに流れて起点を作るベンゼマです。抜群のテクニックでボールをキープし、両WG、IHがスプリントして彼を追い越し裏のスペースに走り込む時間を作ります。レアル・マドリーはvsアスレティック・ビルバオ、vsエイバル、vsグラナダの3試合とも試合終了間際にロングカウンターから追加点を奪っていますが、そのすべてでサイドで起点を作ったのがベンゼマであり、さらに2得点1アシストとフィニッシュの仕事も担います。相手の枚数が揃ってしまったらスピードを落としてポゼッションを確立しますが、その判断もベンゼマに委ねられます。また、ヴィニシウスがそのスピードを生かして一人で長い距離を持ち運ぶシーンも珍しくありません。


Ⅴ.セットプレー

PK、直接狙うFKはラモスが蹴ります。PKはパネンカなどとんでもなく上手いですが、FKはほとんど入りません。アセンシオがいるときに限り右寄りの直接狙うFKはアセンシオ。その他CKや合わせるFKはすべてクロースが蹴ります。なので右はアウトスイング、左はインスイングになります。

セットプレー①

CKで中に入るのはラモス、ヴァラン、ベンゼマ、カゼミーロとWGの片方の計5枚で、こぼれにモドリッチともう片方のWG(モドリッチがショートコーナーでボールを貰いに行く際はWG1枚)、最終ラインのリスク管理はカルバハル、メンディの両SBに任せます。FKは基本的にカゼミーロが上がらずに最終ラインに入り、カルバハルとモドリッチでこぼれ、両WGが中に入ります。カルバハルのスーパーミドルもありましたね。

中の動きに決まった形は見受けられず、ターゲットはラモスですがその時々で被らないように動きを変えながら交差してゴール前に突撃します。初期ポジションはカゼミーロヴィニシウスと、ラモスヴァランベンゼマで固まることが多いです。

ショートコーナーは決まった形を持っています。一度モドリッチに預け、オフサイドにかからないように再びクロースがゴールにより近い位置でボールを受けてクロスをあげます(マイナスが多い)。相手は一度ラインを上げてから下げることになるのでマークに混乱が生まれやすいです。即興的でしたがvsアスレティック・ビルバオでアセンシオのショートコーナーを受けたカルバハルがそのままアーリークロスをあげ、ベンゼマのヘディング弾が決まりました。

いずれにせよ、ロナウド退団後1点が遠いレアル・マドリーにとって今後もセットプレーの得点は非常に重要になりそうです。

セットプレー②

守備はマンツーマンで、ベンゼマがニアでストーンラモスがフリーマンです。クルトワが圧倒的な高さでゴール前の全域をカバーします。ヴィニシウスを最前戦に残します。


これで4局面+セットプレーの分析は終わりになります。この記事1本でレアル・マドリーというクラブの戦術は大体伝わったかなと思います。2021年も引き続き宜しくお願いいたします!


最後までお読みいただきありがとうございました!

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