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『ラストレター(2020)』を観ました。

私は久々の岩井俊二作品でした。やはりキラキラして心地よいです。
作り手からの「今の時代に発したいのはこういう物語なんだ」という思いを感じました。

私には岩井俊二作品はあまりに眩しすぎるのです。
この人の作品の特徴とも言える、学生時代の回想の映像でドーーンと感情が溢れてくるような感覚があります(『Love Letter(1995)』の自転車で登校する酒井美紀のシーンとか)。しかし、学生時代にいい思い出がほぼないような私は、しんどいことばかり思い出してツラいのでした。

中国や香港や台湾とかの映画を見てて「おーっ、岩井俊二だ」って思うことがあったりします。
最近では『ソウルメイト/七月と安生(2021)』(デレク・ツァン監督)で強く思いました(岩井俊二作品好きの方は是非見て下さいませ)。
じゃあなにが岩井俊二らしさなんだろうってことですが、ノスタルジア(故郷を懐かしむこと、過ぎ去った時代を懐かしむこと)なんではないかと思います。

少しひねくれた言い方をしますと、岩井俊二作品っていうのは、学生時代(中学や高校)に男子なら女子と、女子なら男子と付き合ったりしたような(スクールカーストが上の方の)人が観る作品であって、いじめとかに遭ってやっとのことで学校に行ってた、底辺にうごめく私なんかの見ていい作品ではないのでした(と思い込むようにして見ないようにしていたのでした)。

そんな意地張ってたって損するだけで、今作も観終わってから「もっと早く観たらよかったな、なんで観なかった私」とか思いました(松たか子さんが出てる作品はいつもは必ずといっていいほど観ているのに)。最初の学生服の3人が川を進んでいくとバッと滝が現れるシーンで、ドーーーンと感情が溢れました。

同じ現実でも、それを見る人によって全然違ったりします。例えば同じクラスで1年過ごしても、ある人は「最高の1年だった」と言ったり、ある人は「なにもない退屈な1年だった」とか言ったりします。その人がどの部分に焦点をあてるかによって見え方も違ってくるし、そうなるとその人の思い出も全然違ってくる。
だから、悪いところやツラいところに焦点を当てるのではなく、素敵なところや楽しいところに焦点を当てる、そんな生き方の姿勢が大事に思います。今作は素直な性格の人が素直に観る作品であって、ひねくれているような人はもう最初から観ないか、素直な気持ちになってから観るかした方がいいのかもしれません。曇りなき眼(まなこ)で見たい作品(もののけ姫より)なのでした。

この物語にもダークなストーリー部分(お姉さんのところ)もあって、でもそこはサラッと語られるだけ。あとは見る側が想像して埋めていくことになります。だいたいお話全体が透き通っている感じなので、ダークなストーリー部分の想像をそこまで暗くは考えにくいのでした。
人によっては(小説とかでは特に)ダークな部分に焦点を当てて掘り下げて描きがちですが、そんな暗くジメジメとはならず、抜けが良くクッキリしているのが岩井俊二らしさのような気もします。そしてそういうところがあって、「女性にも受ける作品」になっているように感じます。

特に観てよかったのは森七菜の存在でした。松たか子、広瀬すず、神木隆之介、福山雅治、庵野秀明。この辺りはだいたい「こんな感じだろうなあ」という想像を先にしてまいがち(そういう見方はよくないが)。なので森七菜+岩井俊二作品の組み合わせというのは新鮮だったし、引き付けられました。「今作を観てよかったなあ」はほとんど「今作の森七菜を観れてよかったなあ」だったようにも思います。

でもやはり見終わってクレジットが出てくると、なんだか明るい場所に引っ張り出されてしまったような感じがして、「ああ、なんか場違いなところに出てきてしまったなあ」と、薄暗い場所に隠れたい気持ちになる私なのでした。


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