『川っぺりムコリッタ(2022)』を観ました。
まるで見えない大きな台風が来たような数年間でありました。
そんな暴風雨の中で亡くなられた人も多く、人と会うこともできずにじっと家にこもっていたら余計なことばっかり考えてしまって、大変だったような人もおられたのではないでしょうか。やっと雨が止んで、雲の間からうっすら陽がさして来たような今日この頃です。
そんな世の中の状況もあって、今作は一年公開が遅れたようです。
見てよかったです。この時期だからこそ見て欲しい作品でもあります。
『かもめ食堂 (2006)』、『めがね (2007)』、『彼らが本気で編むときは、(2017)』の荻上直子監督の作品ということで見たかったのもあり、前情報をがんばって入れない(見ない)ようにしてました。なので、ムコリッタの意味(婿入りの話かと思ってたくらい)も見るまで知らなかったです。
「人はなぜ生きるのか?」と空海さんも問うておられたような。生きると言うことには目的やゴールがあるわけでもなく、何が正しくて何が正しくないとかも明確にされず、気がついたら生きていましたみたいな感じがしています。それで、なんだが死ぬもの罰当たりみたいな雰囲気もあるので、なんとか日々生きているのかもしれません。
都会なんかで生きていて駅のホームなんがで列車を待っていると、まあ頻繁に起きるのが人身事故でして、それを防ぐためにホームに塀みたいのができて、それでも塀を乗り越えていく人がいくらでもいる始末。
そんな世の中だからこそ「生きるってどういうことなの?」というのは最重要なことだと私は思うのですが、あんまり映画やテレビではそう言う「生きるってどういうことなの?」という内容にはあえて触れたりしていないように見えます。むしろ逆方向に、笑ってたり刺激的なものを見たりして考えないようにするような作品が圧倒的に多いように見えるのでした。
(最近だと『ソウルフル・ワールド(2020)』がありましたが、これはアメリカのピクサーアニメ作品ですね)
映画ってのはセリフでなくて場面で見せるものと私は思っていて、今作はキャラクターの存在とやりとりが面白く、映像に出てくるものの色や形や光が美しかったです。
その場所に確かに彼らが存在して生きていて、その瞬間を映像で見せてくれて伝わってくるものがある。だから、また彼らに会いたくなる(また作品を見たくなる)。私にとってそんな愛(いと)おしい作品となりました。
どこかから来てこの土地に住み始めた山田(松山ケンイチ)とお隣に住んでるのにやたらとご飯どきに現れる島田(ムロツヨシ)がいて、そのハイツの大家さんは娘さんと暮らす南さん(満島ひかり)。ご近所に住むのが溝口(吉岡秀隆)さんで、イカの加工工場には工場長(緒形直人)がいる。そういうところでのお話です。
なんだか今作は限界集落に移住してきた感覚に近いような感触がありました。
そんなに欲張って(お金とか地位とか)沢山のことを求めてるわけではなくて、自分のことを「そんなんじゃダメだ」とか言わないで受け入れてくれるとか、たまに普通に世間話ができるとか、周りに住む人とそういうことがあるだけで、なんだかこれからも生きていきたいと思える。この作品はそういうやさしい感触がありました。