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GAFAが活用して莫大な利益を上げている【ノーベル経済学賞受賞】のオークションシステム(メカニズムデザイン・VCGメカニズム・電波オークション)

2020年、ポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン教授がメカニズム・デザインの分野で「オークション理論の改善と新たな方式の開発」によってノーベル経済学賞を受賞しました。(こちらで詳細に説明されています)

ヤフオクのようなインターネットオークションを始め、家畜、中古車、絵画などなど、社会のあらゆる場所で執り行われているオークション。オークションと言ってもひとえには言えず、入札方法や支払い金額の設計など、システムのデザインの仕方によって社会全体が大きく得をしたり損をすることがあります。

オークションデザインの何が凄いのか

例えばGoogleやFacebookは、メカニズムデザインによって広告枠のオークションを最適化することで莫大な利益を挙げています。もしオークションの仕組みを安易に決めていたら、彼らがここまで大きな企業になることはなかったかもしれません。

メカニズムデザインは、2020年だけでなく、1996年や2007年にもノーベル経済学賞が出ている分野です。誰もが利用するGAFAの広告や、電波の利用権の販売で利用されているオークションのデザインは、今や世界のインフラを支えていると言っても過言ではなく、「世界中の売り手や買い手、納税者に利益をもたらした」ことがノーベル賞受賞の理由となっています。

現在も使われている有名なオークションにはコンビナトリアル・クロックオークション(Combinatorial Clock Auction)、SMRA(Simultaneous Multi-Round Auction)がありますが、それらを支える基礎概念・システムであるVCGメカニズムについてここでは説明します。

オークションの入札は競争ではない

普通、オークションというと、相手との戦い・読み合いという印象を抱くのではないでしょうか?

『相手より高い価格を提示して買いたいが、なるべく安くしたい。』

しかし、これは一位価格入札という伝統的なオークション方法など、限定された仕組みの中で生じてきた現象です。メカニズムデザインによって、オークションのやり方を工夫すれば、「嘘や詮索」の無い仕組みを作ることができます。

VCGメカニズム(Vickrey-Clarke-Groves)とは、1996年ノーベル経済学賞受賞者のヴィックリー氏をはじめとした三人によって確立された仕組みです。

VCGメカニズムが実現したオークションの特徴を簡潔にまとめると、以下のようになります。

1. 各プレイヤーは自分がいくらで欲しいのかを正直に表明した時に最も得をするようになる。
2. その結果、社会全体に最も効率的な配分が行われる
(Incentive Compatible in Dominant Strategy)

つまり、オークション参加者が「嘘や詮索」をせずに正直に入札すれば、参加者も社会全体も最も得をするような結果になるということです。

これ、凄くないですか?

今まで、色んな人が勝手にオークションのルールを決めて実施していたわけですが、社会全体にとって良いルールを数学的に証明してしまった訳です。ノーベル賞をとったのにも納得です。

VCGメカニズムを支える支払いの仕組み

では、どうやって、『正直に入札すれば、参加者も社会全体も最も得をするような仕組み』を実現できるのでしょうか?

鍵となるのが、支払い価格の設定です。

ネットーオークションなどでよく使われている仕組みは、一位価格入札というものです。これは、一番高い価格で指値・入札をした人が、その価格で支払うということです。各々がこのグッズを「〇〇円で買います!」と表明し、1000円と言った人が一番高ければ、その人が1000円で買うということです。

実にシンプル。というか、当たり前。それ以外にあるの?という感じです。

これをVCGメカニズムでは、次のように定めました。

引用元:https://www.econexp.org/hitoshi/18MGUNG8.pdf

日本語の説明を付け加えると次のようになります。

まず注目するべきが、二つ目です。ここにはマイナスの符号がついています。つまり「自分以外の参加者の便益」を貰っているのです。

そして、hが取り立て分ですが、hは「自分がいなかった時の他プレイヤーの最大便益」となるように設定します。

細かい説明は省きますが、要するにVCGメカニズムの鍵は、上記のような支払い価格を設定することで、自分がいくらで買いたいのかとは無関係に支払い金額が決まることです。その結果、プレイヤーは、自分がいくらで買いたいのか(Willingness to Pay)について嘘をつく必要がなく、正直に表明することになる。そしてそのことが、社会全体にとっても最も良い結果になるという非常に美しい仕組みになっているのです。
*但し、Private Values, Interdependent Typesが仮定されている場合に限る。

まとめると支払い価格の設定方法はこんな感じになります。

貰うお金=自分がいる時の他のプレイヤー全体の便益
払うお金=自分がいない時の社会全体の便益


その結果
プレイヤーが得られる利益=自分がいることで増えた社会総余剰の増加分

このオークションデザインには、『内部化』という手法が使われています。内部化は、ミクロ経済学の基礎で習うピグー税のような市場の失敗を是正しようとする仕組みにも使われている、とても重要な手法です。

以上、面白いオークションの仕組み、VCGメカニズムの説明でした。さらに詳しく知りたい方は以下の書籍をお勧めします。(自分は東大の松島先生の講義で学びました。)

<メカニズムデザイン>

<ミクロ経済学の基礎から>

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