COP26が終わって、ファクターX再考 20211114解説
COP26は、「気温上昇を1.5℃以内に抑える努力を追求する」で決着しました。では、追求しているかどうかは、どうやって計るのでしょう?
ファクターXとは
ファクターXとは、「掛ける何倍」。
持続可能な社会をつくるには、環境効率をどのくらい高めればいいかということで、30年前に登場した考え方です。
たとえば、1991年にブッパタール研究所が提唱したファクター10なら、効率10倍。わかりやすくクルマの燃費で考えると、10km/ℓが、100km/ℓになれば、ファクター10です。
ファクター4なら、効率4倍。同じくクルマの燃費で考えると、10km/ℓが、40km/ℓになれば、ファクター4です。
で、こういう考え方の元、1990年代から、省エネ家電や低燃費車など、いわゆる環境配慮型製品の開発が進められ、今日では、身の回りに当たり前のように存在するようになっています。
なぜ1990年代かといえば、1987年に持続可能な開発の概念が定義され、1992年に地球サミットが開催された、という時代背景です。
最近に置き換えれば、2015年にSDGs・パリ協定ができて、6年後の2021年にCOP26で1.5℃目標や脱石炭が議論されている、そういった時間感覚です。
活動量×原単位=環境負荷量
ファクターXは、環境負荷を減らすのに、原単位を改善していくことを目指す考え方です。
見出しの計算式の、活動量は、たとえばGDPとか、人口とか、輸送量とか。
原単位は、たとえばGDP100万円当たりとか、人口1人当たりとか、t・km(トンキロ)当たりとかのエネルギー消費量。
同じGDP、人口、トンキロであれば、ファクター4なら、エネルギー消費量は1/4で済み、環境負荷は大きく削減されます。
では、活動量の方はどうなるのか。現実は、ファクターXによる原単位の改善が進むと、その分だけ、活動量を増やす誘発効果が生じます。
渋滞を解消するために新しい道路をつくると、当初は古い道路も新しい道路もスイスイ走れますが、やがて、どちらの道路も渋滞するまで交通量が増えてしまうようなものですね。
また、蛍光灯と比べて、LED照明のエネルギー消費量は約半分なのでファクター2。照明の使い方が同じなら、その分だけ電気代も下がるはず。ところが、LEDにしたから、つけっぱなしでいいや、となって、電気代が下がるどころか上がってしまった、という笑えない話もあります。
したがって、活動量の方は「野放図」にならないような社会経済政策、マネジメントが必要です。
ファクターXのルーツをたどると
持続可能な開発の考え方が生まれてくるルーツは、1972年のストックホルム会議のキャッチフレーズ「かけがえのない地球」と、ローマクラブ報告「成長の限界」です。
「かけがえのない地球」は、英語だとOnly One Earthです。つまり、「地球は1個しかないよ」。
その1個しかない地球で、1950年代、1960年代のように、経済成長と人口爆発を続け、それを支えるための資源・エネルギー消費の拡大を続け、環境汚染の拡大を続けたら、どうなるの?と考えて、シミュレーションしたら、「限界にぶちあたるよ」となりました。
そして、「1個しかない地球の、成長の限界」を超えたらどうなるかというと、、、経済は破綻し、社会も破綻する、人口は激減する、という暗い未来が予想されたので、そうならないためにどうしたらいいかと考えて出てきたのが持続可能な開発という考え方でした。
その基本的な考え方は、経済成長と環境負荷増大のデカップリング(切り離し)です。
経済成長しても、環境負荷が増えなければ、限界には達しない。これを技術により具現化しようとすると、環境効率ファクターXを追求する、となるわけです。
50年で達成できたのはファクター○.○○
で、実際はどうなったか?世界人口とエコロジカルフットプリントという指標で、ざっくり見てみましょう。
エコロジカルフットプリントは、要するに人1人が生きていくのに、どれだけの面積の土地が必要か、という形で、1人当たりの環境負荷を見える化した指標です。
「成長の限界」が人類の問題意識にのぼってきた1970年ごろ、当時の人口37億人が暮らすのに、ちょうど地球1個分の環境負荷がかかっていました。別の言い方をすると、当時の経済や生活の水準で、人口37億人が、地球がまかなえるギリギリの人数だった、ということです。
最新のデータは2017年で、地球1.7個分の環境負荷がかかっています。世界人口は76億人。50年で人口は約2倍、環境負荷は1.7倍です。
したがって、50年で達成できたのはファクター1.18(環境効率1.18倍)ということになります。一方、人口2倍でも環境負荷量を増やさないためには、人口2倍×原単位1/2倍=1、つまりファクター2(環境効率2倍)が必要でした。
活動量×原単位=環境負荷
人口2倍×原単位=環境負荷1.7倍
原単位=環境負荷1.7倍/人口2倍=0.85
環境効率:1970年当時を1とすると、1÷0.85=1.18倍
超ざっくりとした計算ですが、少し成果はあったけれど、かなり不十分。結果、地球0.7個分、環境負荷が超過している状態です。
家計でいえば、年収1.7年分の暮らしをしているようなものです。年収1年分を、1年が終わるだいぶ前に使い果たしているのと同じということで、地球1個分を超えた日を「アース・オーバーシュート・デー」と呼んでいます。
2021年は、7月29日だったそうです。7月30日以降は、借金暮らしということです。
UNEPギャップレポート
COP26を前に出されたUNEP(国連環境計画)のThe Emissions Gap Report 2021(排出ギャップレポート)では、各国が提出した目標を足し合わせると、2.7度上昇で、1.5度の目標に対し、1.2度のギャップがあることが示されました。
1.5度目標達成には、2030年時点でのCO2排出量は25Gt-CO2(250億t)に抑える必要があるところ、各国目標の合計は、プラス28Gt-CO2(280億t)。
要するに2030年時点で、53Gt-CO2から25Gt-CO2へ、53%削減、言い換えると、ファクター2が求められていたわけです。やっぱり。
※元レポートはこちら→https://www.unep.org/resources/emissions-gap-report-2021
それが、CO26期間中の削減目標積み上げで、1.5度までは無理だが、1.8度はいけそうだ、というところまでは進んだようです。
それでも、UNEPのレポートと照らし合わせてみると、まだ10Gt-CO2(100億t)ほどの排出ギャップがあると思われます。
結論:「気温上昇を1.5℃以内に抑える努力を追求する」=2030年時点で100億t-CO2/年の削減策を追加する
ということで、これが結論。
これ、ちなみに日本の排出量12億t-CO2の約8倍です。日本が完全に脱石炭しても、2億t-CO2くらい。
世界の100億t-CO2を減らすことに貢献する中で、その2億t-CO2もこなせるとよいのですが。