見出し画像

オークスを振り返る~白毛のアイドルの敗因と勝負を分けた4コーナー~

昔話に出てくる白馬は、ほぼほぼ芦毛だ

以前そんな話を嫁さんにしたことがある。芦毛は歳を取ると白くなるから、ああいう絵本の白馬は大体歳を取った芦毛の馬なんだよと。

「夢がないね」と言われてしまった。実際そういうものなんだから仕方ないだろとマスクは言いたくなる。暴れん坊将軍で松平健が乗ってる馬も歳をとった芦毛だ。生まれた時から真っ白な白馬、つまり白毛なんぞ相当な希少種なのだ。

相当な希少種である白毛から、無敗の桜花賞馬が生まれてくる確率はまさに天文学的な数字だろう。騒がれるのも無理はない。

ただ、『白毛のアイドル』と巷で呼ばれるほど、白毛はかわいいものではない。日本の白毛の多くはサンデーサイレンス産駒シラユキヒメを祖としているわけだが、この血統は気性が荒い。俺も何度かこのファミリーに触れあう機会があったが、やばい。

レースでもよく引っかかる。国枝厩舎のヤッコさんことハヤヤッコはまだマシだが、土曜の東京競馬で走っていたブッチーニも引っかかりながら走っていた。いかにもシラユキヒメ一族らしいレースだったと言える。

さて、今回のオークス。

最大のポイントは、断然人気馬が『白毛のソダシ』であったことだ。ソダシが外見とは裏腹に気性がキツく、折り合いに難を抱えていることはこれまでのレースからも分かる。

なにせ母ブチコは何度もゲート再審査を食らって引退した馬。ソダシもゲート先入れをやっているように気性面に不安がある。だからこそ、折り合いに難を抱えたソダシが800m距離延長に対応できるかどうか。オークスの鍵だったのは間違いない。

もう一つ、マスクがポイントとなると考えていた点がある。Twitterにも書いたね。『ソダシの後ろを誰が取るか』という問題だ。

画像1

これは昨年の阪神JFの道中。

1着が赤ソダシ。2着が青サトノレイナス。結果的に6番枠のソダシが勝ったわけだが、その後ろについてきた隣の7番枠サトノレイナスが2着だった。

画像2

これは今年、ソダシが勝った桜花賞の道中。

4番枠を引いた黒ソダシの真後ろにいたのが、隣の隣、2番枠を引いたファインルージュ。ソダシにくっつくように追走したファインルージュが3着となった。

ソダシの真後ろに入らなかった赤アカイトリノムスメは4着。『ソダシの真後ろがゴールデンポジション』である点について、レース前に触れている。

これに関しては以前から回顧で書いている、『強い馬の後ろ』というやつだ。強い馬は進路を作ってくれる。脚も溜まるし、レースにおいて絶好のポジションになる。ソダシは特にその傾向が強くて、真後ろの馬を連れてくるという話は桜花賞の回顧でも書いた。

オークスの戦前ポイント
ソダシは2400mで折り合えるのか
ソダシの後ろのゴールデンポジションは誰が取るのか

この2点を中心に、オークスというレースを振り返っていく。

●オークス出走馬
白 ①ククナ 横山武
赤 ⑤クールキャット 武豊
青 ⑦アカイトリノムスメ ルメール
紫 ⑧ハギノピリナ 藤懸
黄 ⑨ユーバーレーベン デムーロ
緑 ⑪ソダシ 吉田隼
橙 ⑬ファインルージュ 福永
水 ⑮アールドヴィーヴル 松山
茶 ⑰スライリー 石川
桃 ⑱ステラリア 川田

枠順を見た第一印象は、これはルメールと福永が競馬しやすくなりそうだなというものだった。例えばソダシが1番に入ったとして、18番とかだとソダシの後ろに入りにくいだろう。なるべくソダシに近いほうがいい。

実際ここまでのGIは阪神JFが隣のサトノレイナス、桜花賞が2つ隣のファインルージュがソダシの後ろを確保している。

●ソダシの周りの馬
⑦アカイトリノムスメ ルメール
⑧ハギノピリナ 藤懸

⑨ユーバーレーベン デムーロ
⑩エンスージアズム 岩田望
⑪ソダシ 吉田隼
⑫ミヤビハイディ 吉田豊
⑬ファインルージュ 福永

⑭ストライプ 柴田善
⑮アールドヴィーヴル 松山

2つ隣となると、⑨ユーバーレーベンから⑩エンスージアズム、⑫ミヤビハイディ、⑬ファインルージュが該当する。後ろを確保するチャンスがあるのは主にこの4頭。

と、思われるのだが、マスクはアカイトリノムスメがいい枠を引いたと思った。なぜなら5枠の2頭、ユーバーレーベンは定期的に出遅れているようにスタートが上手くない。ハギノピリナ、エンスージアズムもテンが遅いことから、アカイトリノムスメはソダシから4つ離れていても、真後ろを確保できるのではないか、それが戦前のマスクの見立てだった。

画像3

スタート直後。桃丸で囲んだ部分。外でニーナドレスとスライリーが接触している。逃げ馬不在と言われた今回のオークスで、数少ない前走先行馬の1頭であるスライリーは、折り合い面が非常に難しい。すんなり行けるかどうかで変わる馬だ。

ここでスライリーが接触したことで、騎乗した(石川)ユキトは先行策を諦めるしかなかったと思う。出していくと掛かるしね。すんなり行けない時点で先行策の目は消える。

この時点でペースはそう流れないことがほぼ確定したと言ってもいいかもしれないね。

画像4

予想した通り、スタート後の5枠2頭、ユーバーレーベンとエンスージアズムの行き脚は大したことがなかった。スタートから4秒付近をサイドから見ても分かる。

青アカイトリノムスメにとっては、開始4秒ですでに絶好の展開になりつつあるんだよ。だって、あとは緑ソダシについていけばいいだけだからね。ソダシを先行させて、その真後ろで脚を溜めればいい。

画像5

正面から見るとこんな感じ。確固たる逃げ馬がいないものだから、正面から見ても譲り合っているように見えるほど。

白ククナ、赤クールキャットとしては逃げ馬を行かせて、その後ろで脚を溜めたい。青アカイトリノムスメは前述したように緑ソダシの後ろに入りたいし、ソダシはソダシで折り合い面に不安な部分があるから、ここで出してはいけない

画像6

結局赤クールキャットハナ、緑ソダシが外の2番手、その後ろに注文通り青アカイトリノムスメが入って、隊列ができた。

はずなのだが、ここで桃ステラリアの川田がソダシを締め始めるんだよね。

画像7

画像8

1コーナーのパトロールでその光景が分かる。桃ステラリアが緑ソダシを締めあげるような形でポジションを取りに行っている。

あらかじめ書いておくが、こんなのは斜行でもなんでもない。ポジション争いとしては中程度の光景で、川田がソダシを負けさせるために邪魔したとか、そういう話ではない。

普通に考えて、内から2頭目と内から3頭目、より距離を走るのはどちらか。圧倒的に後者だろう。しかもペースはいかにも緩みそうなメンバー。外の3番手を回るより、外の2番手を回るほうが効率がいいと川田が考えるのはごく自然な話だ。

画像9

画像10

画像11

桃ステラリアが締めきって外の2番手を取ったことで、その後ろになってしまった緑ソダシは思い切り掛かってしまった。メイケイエールが出走している状態になってしまっている。

余談だがソダシとメイケイエールは共にシラユキヒメ一族。いかにこの一族の気性が難しいかはそこから何となく察せられると思う。

レース前のポイントで挙げたように、ソダシが折り合って2400mをこなせるかどうかはこのレースのポイントの一つ。1コーナー終わりの時点で、すでに厳しくなりつつある

画像12

では、ソダシは1コーナーまでに強引にでも出していって、ハナを切っていたら良かったか。結論から書くと、マスクはハナに立たなくて良かったと思う。

そもそも2400mに不安がある以上、スタート後に出していって脚は使いたくない。まずこれが第一。

そしてハナを切ってしまうと、これまで番手で控える競馬を教え続けてきたのに、前に壁がなくなってしまうことで、次走以降控えると行きたがってしまうかもしれない

これが仮にソダシにとって引退レースだったら話は変わるが、まだ6戦目。これからの競走馬生活が長い。気性面に危うさのあるソダシを、オークスを勝たせるためだけに出していってハナを切るのはリスクを伴う

しかも仮にハナを切って、上の写真の赤丸付近にいたとすると、真後ろからクールキャットのプレッシャーを受ける。乗ってるのが武さんだからね。武さんは道中思い切り緩めたりはしないし、難しい隊列になる。

たぶんソダシに乗った隼人の最大の騎乗テーマは『距離を持たせる』こと。出してハナに行くより脚を溜めに行く判断は理解できる。たぶんステラリアに限らず、外から来られて掛かって頭を上げるシーンは隼人も想定していたと思うんだよね。

この馬がスムーズに2400mを折り合ってこなせる確率はそこまで高くないことは、これまで乗り続けてきているわけだから十分理解していたと思う。

まー、結果締められ控えたところで掛かってしまった。リズムが崩れてしまった時点で後手に回ってしまったことは否めない

画像13

2つ目のポイントだった、『ソダシの真後ろがゴールデンポジションを誰が取るか』。スタート後ユーバーレーベンら5枠が行かなかったことで、注文通り青アカイトリノムスメのルメールがガッチリポジションをキープした

この時点でアカイトリノムスメは好走すると思ったね。ソダシの後ろという最高のポジションが取れたのはもちろん、橙ファインルージュの前に入れている。

ファインルージュは桜花賞でソダシの真後ろについて立ち回り、3着に食い込んだ馬。福永も前回同様『ソダシの2つ隣』の13番という枠を見て、最初からソダシの真後ろについていく、桜花賞と同じ作戦だったはずだ。

ただ前回の桜花賞と決定的に違ったのは、同じ『ソダシの2つ隣』でも、桜花賞は『2つ内』、オークスは『2つ外』だった点。先行馬に限らず、ロスなく回れってこれるのは内ラチ沿いだから、同じ2つ隣の枠でも、先行馬の後ろにすんなり入れるのは、2つ隣の内のほう。当然だよね。今回は外だった。ソダシの後ろは『取りに行かないと入れない』。

対してアカイトリノムスメは桜花賞でソダシより1つ外枠だったのに、今回はソダシより内枠を引いた。自然な感じでソダシの内に入れる。ファインルージュが短距離向きの体型、血統であることを置いておいて、この枠順が桜花賞とは逆だったこともファインルージュの敗因だろう。やりたかったことをアカイトリノムスメにやられてしまっている。

画像14

画像15

画像16

画像17

画像18

向正面で危なかったのが黄ユーバーレーベンだ。2コーナー出口では橙ファインルージュの真後ろにいた。ソダシ→アカイトリノムスメ→ファインルージュ→ユーバーレーベンというラインができていたんだよね。

ところが橙ファインルージュを基準にすると分かるように、黄ユーバーレーベンが蛇行している。これはパトロールで見たほうがより分かる。

実はこの蛇行は今回が初めてではない。アルテミスSでも蛇行している。アルテミスも今回も、馬群の中という共通点があるんだよな。直線毎回外目に出される馬だから、単純に馬群の中だとこうなってしまう馬なのかもしれない。

後ろに4頭くらいしかいなかったからいいものを、これがもし1列前、中団で競馬していたら、周りは巻き込まれていたかもしれない。その場合は裁決にお呼び出しだ。

パトロールで見たほうがいい。本当に蛇行している。今回に関しては外に誰もいなかったこと、後ろに数頭しかおらず邪魔する対象がいなかったことはユーバーレーベンにとって良かったと思うね。

画像19

●21年オークス
12.5-11.1-11.8-12.3-12.2-12.6-12.6-12.4-12.1-11.3-11.7-11.9
600m通過 35.4
1000m通過 59.9

残り1400m→残り1000m地点までの400mが少し緩んだんだよね。逃げた赤クールキャットの武さんは、ハナに立った場合は基本的に厳しいペースを作る。

跳びが大きい馬で初騎乗だった分、完歩からペースを測りづらかったのかは分からないが、武さんにしては中盤を少し緩め過ぎている感覚を受ける。ほんの0.2、0.3秒くらいだけどね。

これによって何が起こるかって、外の馬たちがついてきちゃうんだよね。おかげで緑ソダシは囲まれてしまっている。前を走る桃ステラリアの川田は武さんのペースに合わせている。これがもう少しペース速ければ、ソダシは外目からのプレッシャーが弱くなっていただろう。

まー、もう少し速いと今度はペース的な問題が浮上する。難しいところだよな。速いペースを選ぶか、プレッシャーを受けるほうを選ぶか、どっちにしても良くない。

画像20

●21年オークス
12.5-11.1-11.8-12.3-12.2-12.6-12.6-12.4-12.1-11.3-11.7-11.9

3コーナー。太字の部分。12.4だからまだそこまでペースは速まっていない。ここで外を見ると、黄ユーバーレーベンがめちゃくちゃ外を回っている。普通に考えてロスしかない。

向正面で蛇行して外に出されることになり、そうしたら前に茶スライリーがいたもんだから、通常であればスライリーの更に外を回すことになる局面だ。

画像21

内ラチから8、9頭ほど外だろうか。さすがに遠過ぎる。本来、この時点でだいぶ厳しい。その後ろにいる紫ハギノピリナも、伸びるには黄ユーバーレーベンの外を回すか、馬群を縫うしかなくなる。

正直言ってしまうと、内目のロスなく立ち回れている馬たちに対して、ユーバーレーベン、ハギノピリナは馬場のいいところを走れているものの、大幅に距離をロスしている。言い方を変えれば外をぶん回している。普通だったら負けるパターンだ。

画像22

今日のデムーロは何かを持っていたようだね。黄ユーバーレーベンにとって大きな幸運が4コーナー。

●21年オークス
12着スライリー 9-11-8-2

この位置取り推移を見て分かるように、茶スライリーが3コーナーから早めに動いていったのだ。

スライリーに乗っているユキトとしては、このままだと外5、6頭目を回り続けると脚をなくしてただ下がってしまう。スライリーは『2走前のクイーンCで、乗っていたユキトが脚を溜めすぎてしまって、結局内を突いてしまう不完全燃焼競馬だった。本人も相当反省していた』と裏話にも書いたように、溜めていい馬ではない。ユキト本人としては反省を生かして早めに動かしたのだろうね。

当然まくるように動いていけば、その内にいる馬たちは張っていく

画像23

こうなる。茶スライリーに合わせて黒で囲んだ馬たちがまくられまいとポジションを上げていくから、その後ろにいる黄ユーバーレーベンが過剰に外を回さなくて良くなっているのだ。

これ、スライリーが動かなかったら、ユーバーレーベンはスライリーの外を回していることになるから、大幅な距離ロスが生じてしまう。動いてくれたスライリーに大感謝だよな。

紫ハギノピリナは更に外を回している。スライリーが動いてくれたおかげでその後ろをついてこられた利はあったが、それにしても外過ぎる

これまた正直に書いてしまうと、ユーバーレーベンのラインを通っていれば勝ってた。結構ネットではよく乗ったという声が散見されたが、マスクからするとパトロールを何度も見る限り、藤懸は勝てたレースを落としたのではないかという思いのほうが強い。

画像24

外が動いたことで、内が渋滞している。

アカイトリノムスメはまだ前がソダシだから助かっているが、内ラチ沿いは逃げたクールキャットがもっと伸びてくれないと、ククナ、ウインアグライア、スルーセブンシーズ、パープルレディーとみんな動けない。

結果的に今年のオークスの最大のポイントとなったのは、スライリーが4コーナーで動いたことで、内と外の有利不利が逆転したことだった点だったかもしれないね。

画像25

直線。入口で進路を一瞬考えていたのが青アカイトリノムスメのルメールだ。

外、茶スライリー側か、内、緑ソダシ側か。前にいたストライプは手応え的に伸びそうもなかった。普通なら緑ソダシの後ろに進路を取る局面

ただソダシは一瞬でキレたりしない。ジワジワと伸びていく馬だ。ソダシが抜け出し切るまで後ろの馬は進路が開かないし、勝ちに行くならもうソダシの後ろにこだわる必要がない

が、外の馬の手応えも明らかに弱い。人気薄中心で、外を選んでも簡単には前が開かないだろう。スライリーが4コーナーでまくったりしなければ、もっと直線の入口でスペースがあったと思う。ここで一瞬進路取りを悩む必要性がなかった。改めてスライリーの動きが重要になったことが分かるシーンだ。

画像26

画像27

まー、結局青アカイトリノムスメは緑ソダシの後ろについていく判断をした。妥当な判断だったと思う。

本来アカイトリノムスメのルメールは、桃ステラリア、緑ソダシの間の青線のスペースを突きたかった。ただ1頭分開いてない。1頭分以内のスペースは突いてはいけないという暗黙の了解があるから、ここは進路が開くのを待たないといけない。

ステラリアの川田は右手にムチを持っていたから、内目に寄っていくだろうという読みがルメールにはあったと思う。少しすれば開くだろうなっていう確かな予感があったはずだ。

画像28

ここでルメールの誤算は、白ククナがスタミナ切れを起こしたのか、外にヨレてきたことだった。

ククナが外外にヨレると、当然その外にいる桃ステラリアは緑ソダシ側に行く。こうなるとステラリアとソダシの間、青のスペースはほとんどなくなってしまう。完全に青アカイトリノムスメの進路が閉じてしまったんだ。

画像29

一瞬パトロールビデオから青アカイトリノムスメが消えた

お分かりだろうか。緑ソダシの真後ろにいる。金子真人ホールディングスの勝負服のおかげで、完全に同化している。パトロールビデオから消える馬は初めて見たよ。

要は一旦ソダシの真後ろで待ってるんだよね。この時点でソダシまだ伸びてはいた。いずれソダシの内のスペースが開くのは間違いなかったから、ルメールは冷静に待ってたんだ。

画像30

画像31

結局桃ステラリアの川田が右ムチ叩いてちょっと内に行ったこと、白ククナがまっすぐ走るようになったことで、ククナと緑ソダシの間にスペースが開いた。

1着ユーバーレーベンと2着アカイトリノムスメの差は結果1馬身。ここでスムーズに加速できていたら、着順逆転が起きたかは何とも言えないが、少なくとも着差はもっと縮まっていた。ククナの細かい動きは予測できない。これは仕方ないよ。

画像32

画像33

画像34

もう一つ気になったのは、最後の直線で黄ユーバーレーベンが斜行していること。左ムチ連打で水アールドヴィーヴルが切り返すロス。

3着ハギノピリナと5着アールドヴィーヴルの差は0.2秒。決定的ではあったんだが、ここでロスがなければ4、5着は確実に逆転していたと思う

もちろんこの斜行は裁決に取られていないし、この程度は競馬である限りよくあること。不利がなくてもアールドヴィーヴルは4着以下なんだが、向正面で蛇行している点といい、よく見ると粗い。

もちろん、ユーバーレーベンが恵まれたとは言わん。外を回っているのは事実だし、2:24.5で東京2400を乗り切っているのも事実だ。実力がないとこれはできない。

マスクが気になるのは道中の挙動。あれだけ蛇行してしまうと、今後内枠に入ると単となると微妙ではないかな。これまでのレース振りからも絶対外に出さないといけないようだし、内伸びレースだと過度の信頼は禁物じゃないかな、現状。

一歩間違えると裁決行きのような挙動は、逆に言えば気持ちの面がしっかりしてくると伸びしろもあるということだ。課題と伸びしろの両方を多く持ったオークス馬の誕生と言える


2着アカイトリノムスメは上記の通り、直線のククナのヨレがなければもう少し差は詰まったと思う。ただ、今日に関してはそれまでの進路取りが完璧。ソダシの後ろを取り切って、ルメール本人が「いい競馬ができました」と言うように、現状やれることは全部やっての2着。完敗だ。

今日のデキは前走の桜花賞に比べると断然良かった。あと二回り大きくなる余地がある身体、そしてチャカつく精神面、心身共に成長すればもっと走れる可能性があるし、逆に言えば心身共に成長しないとGIは勝てない

3着ハギノピリナは道中ずっと外を回り、ユーバーレーベンと0.1秒差の3着。あの隊列では簡単に内に入れられないとはいえ、いくらなんでもロスがあり過ぎる。スライリーが動いてなければより外を回っていただろう。

エンジンの掛かりが遅いから内枠から内を捌ける馬ではない。ただラスト、100mで馬が止まっていたあたり、道中のロスがもう少し軽減されていれば止まるタイミングはもっと後ろだったはず。あくまで机上ではあるが、違うジョッキーなら勝っていたのでは…と、レースを見るごとにその気持ちが強くなる。

4着タガノパッションはローテ、状態面を考えればかなり頑張っている。気性面もなんとか持っていたし、レースを使うごとに馬が成長しているね。この馬は秋、もっとやれていい。先が楽しみな馬だよ。重賞は勝てる。秋華賞でも買いたい馬

アールドヴィーヴルは見た目、まだ細い。デキは良かったが、それでも細く見える状態で5着。この馬が完成したらGI馬になるのだろう。それくらいの素材だ。完成するかどうかは、これからいい夏を過ごせるかどうかによるね。あと20kg増えたらGI馬

7着ククナ、11着ファインルージュはジョッキーも納得の騎乗だったと思う。この2頭はほぼ完璧に乗られた。ククナに乗った(横山)武史の「やりたい競馬はできた」というコメントは本心だろう。

11着ファインルージュの福永の「馬も脚を溜めながらだったけど、思いのほか脚が残っていなくて、伸びることができなかった」というコメントも本心のはず。競馬は完璧だった。血統通り、距離だろうね。

さて、距離と言えば8着ソダシだ。

レース後吉田隼人が「ひと言で言うと距離が長いのかもしれません」と話すのも分かる。残り200手前まで伸びてはいるからね。いつもより反応が鈍くとも。200手前でバッタリと止まった。あれは距離の止まり方だ。

1コーナーにうまく入れず掛かった影響ももちろんあっただろう。ただ仮にそこがスムーズでも、勝ちまではどうだったか。あれだけ綺麗に止まっただけに、スムーズでも残り100過ぎで止まっていた可能性のほうが高いのではないかな。

ただこの走りで評価が下がるかというと、そんなことはない。いくら阪神が高速馬場だったとはいえ、猛烈なペースの桜花賞を3番手から1:31.1で乗り切ってしまう能力は特筆モノ。間違いなくこの世代トップクラス

今日は『ソダシの弱点』を全てさらけ出してしまったレースだったんじゃないかな。これまで無敗だったから、ソダシは現実的に考えてどういう条件で負けるのか、見えない部分もあった。距離とかそういう話ではなく、どういう競馬をすると負けるのかとか、そういう部分の話だ。

外から削ると掛かるとか、中盤プレッシャーを受けて後ろに下がると間に合わないとか、これまでソダシが見せなかった負の面を全部出してくれた。無敗だったソダシが負けたことで、『こうやるとソダシは負ける』ことがはっきり分かったのが収穫。

某バスケマンガの31巻で、堂本監督が「負けたことがあるというのが、いつか大きな財産になる」と語っている。その通りだよ。今日の負けは次の1着。秋華賞で巻き返してくると思うよ、この馬は。


さて、最後にちょっと余談。

画像35

画像36

これは今日の東京9R調布特別だ。赤矢印は勝ったルリアン川田。

川田は馬場を選んでいくというのは以前から回顧で書いている。俺は今日の馬場を把握する時に川田と福永の動きをずっと見ていたが、調布特別を勝った時の川田は、ラチ沿いを開けながら回って、直線内から5、6頭分外に持ち出していた。

別にもっと内を走れる局面で、わざと内を開けている。つまり道中の内ラチ沿い2頭分、直線は内ラチ4頭分くらいが悪いのだと判断できる。オークスも上位馬は内ラチ沿いを通っていない

来週は日本ダービーだ。

例年、日本ダービー週から東京芝はCコースとなる。つまり現在の内ラチが、外に3m移動する。3mといえば内から3、4頭分は楽にカバーされるわけだから、『川田が空けたスペースが全部カバーされる』。

東京の芝が例年より掘れやすいこと、ダービーデーに雨予報が出ていることから一概には言えないが、仮にこのまま内だけカバーしたら、ダービーウィークはお馴染み、Cコースマジックによる内有利になる可能性がある

競馬の祭典まであと1週間。頭の片隅に入れておきたいね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?