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23年フェブラリーSを振り返る~完璧な仕事をこなした新世代のトップランナー~

ウシュバテソーロ、ジュンライトボルト、ヴァレーデラルナ、ダンシングプリンス、テーオーケインズ、そしてカフェファラオ…

これはここ半年、古馬のダートGIを勝った馬たちだ。

今年のフェブラリーSは難解という声が非常に多かったし、実際難しかったと思う。ここ半年GIを勝った馬の出走はナシ。

サウジカップなどへ多くの遠征馬が出た影響は大きいね。このレースを連覇したカフェファラオも、今年はサウジアラビアへ旅立ってしまった。その分メンバーが空洞化したところは否めない。

まー、ダンシングプリンスとか出てきても消していたし、決してGI馬の数で予想が難しくなったり、簡単になったりするわけではないんだけど。

有力視されていたギルデッドミラーが骨折で引退したこともあって、それこそ「GII時代に戻った」なんて言われ方もするほど。俺もこれはスーパーGIIくらいのメンバーレベルだと思ったよ。


そして今年、マスクが気になっていたのは『1400m以下の活躍馬が多い』という点だ。前走の根岸Sを好時計で勝ったレモンポップもそう。ドライスタウトもマイルで勝っているとはいえ、ダートの1400mを連続で使ってきた馬。

ケイアイターコイズやジャスパープリンス、テイエムサウスダン、ヘリオス、レッドルゼルなど、マイルはペース次第、展開次第になりそうな短距離実績勢の出走が目立ったんだ。

やっぱりどの馬も距離を持たせるために工夫しないといけないもので、ジョッキーの技量がより試されそうな馬が多かった。

しかも枠を見たら、跳びが大きなドライスタウトが内に入ってしまった。今年のフェブラリーはどんどん難しくしていくね。せめてドライスタウトが外枠ならもう少し考えやすかったんだけど。

そしてヘリオスとケイアイターコイズがどちらも外枠に入ってしまった。この2頭は内枠だと揉まれたくない分ある程度行くが、スムーズに運べる外枠だったら強引にハナを切りに行かなくてもいい。

誰か掛からなければ、そこまで縦長にならず、馬群もある程度詰まって凝縮し、馬群を捌く難易度がより高まった枠順ではないか、そうマスクは思ったんだよ。

以上のポイントを頭に入れて、フェブラリーSを振り返っていく。

フェブラリーS 出走馬
黒 ④ドライスタウト 戸崎
赤 ⑥メイショウハリオ 浜中
青 ⑦レモンポップ 坂井
黄 ⑨ショウナンナデシコ 横山武
紫 ⑩テイエムサウスダン ルメール
白 ⑪ソリストサンダー 菅原明
緑 ⑫セキフウ デムーロ
橙 ⑭ヘリオス 武豊
茶 ⑮レッドルゼル 川田
桃 ⑯ケイアイターコイズ 横山和

スタート。赤メイショウハリオが思い切り躓いてしまった。いきなり東京ダート1600mの難しさが出てしまったね。

芝スタートあるあるだな。メイショウハリオ自身、芝スタートはかなり久々。それこそ準オープンを卒業した2年前の薫風S以来の芝スタートだった。

メイショウハリオは元々ゲートが上手くなかった。浜中も相当気をつけていたんだろう。出る際に立ち上がるような形になった時にもすぐ修正しようとしていた。

ところが3枚目で分かるように、その直後思い切りつんのめって落馬寸前になっている。よく落ちなかったよこれ。

普通ゲートが怪しい馬などはゲートを出る際に少し重心を後ろに置いておくものだが、もし最初から重心が前だったら、メイショウハリオに一本背負い食らって浜中は落馬していたのではないかな

本人は「ゲートでつまずいて、カバーするのが騎手の役目なんですけど…」と話しているが、この躓きはどうにもならなかった感じはある。

赤メイショウハリオの躓きがとにかく目立ったから見過ごされそうなんだけど、黒ドライスタウトのゲートもちょっと怪しかった

好スタートとは程遠く、『なんとか出したような』スタートだった。元から決してゲートが速い馬ではないんだけどね。これについてはまた後程。

スタートから100m、一番速かったのは一番人気だった青レモンポップだった。

ポイントに挙げた1~3番を見てほしい。ドライスタウトが芝スタートで少し遅れることは事前の想定の範囲内ではあった

ここで重要だったのは最内のジャスパープリンスや5番を引いたオーヴェルニュが、スタートからどこまで押していくかだったんだ。どちらも揉まれ弱いほうで、それなのに内枠。揉まれないために出していく可能性があった。

ところが画像の白線で囲った部分の内の馬たちが、そこまで出していかなかったんだよね。ジャスパーの勝春さんは行こうと思っていたようだが、スタートがそこまで良くなくて行き脚がつくのが遅かった

これによって、一旦はレモンポップが完全に先頭に立ってしまったんだ。

レモンポップは当然目標にされたくないわけで、ハナという選択肢はない。押していかない。

それを見て一気にハナを奪いに行ったのが黄ショウナンナデシコの武史だった。3走前のJBCレディスクラシック、4走前のレディスプレリュードはどちらも内で包まれる形になってしまい、力を出し切れなかった

牡馬相手に勝ったかしわ記念は逃げ切り。よりフットワークを伸ばすこと、しぶとさを生かすことを考えて、武史はハナに行ったんだろうね。レース後の「自分のしたいレースはできました」というコメントからも、ある程度プランに近い形だったのだと思う。

しかしここで問題になるのは、『ショウナンナデシコはハイペースで逃げる馬ではない』という点。かしわ記念も前半600mは36.6と速くない。むしろスローだ。

●23年フェブラリーS 1:35.6
12.3-10.9-11.4-12.0-12.5-12.1-12.0-12.4
34.6-36.5

前半600mは34.6。これはここ10年のフェブラリーSで6番目タイに速いペース。まー、速くはない。

黄ショウナンナデシコの更に外には、橙ヘリオス、そして桃ケイアイターコイズといった先行馬がいた。

ただここで、先ほど載せたフェブラリーSのポイント、7番目に書いた『ヘリオスとケイアイターコイズが外枠偶数』がレースに大きな影響を与えることになる。

冒頭に書いたように、今年のフェブラリーSは1400m以下を主戦場としている馬が多かった。ヘリオス、そしてケイアイターコイズは共に1400以下で実績を挙げてきた馬。

ヘリオスはマイルの南部杯で2着があるとはいえ、基本的にマイルは長い。1400以下でこそのところがある。ケイアイターコイズも同様で、これまでマイルを使ったのは1度だけ、11着だった。

この2頭はそこまで揉まれ強いわけではないが、外枠に入ったことで被される心配もなくなった。被されない中、少し長い距離でわざわざ自分から仕掛けて強引に先手を奪いにいくだろうか。

当然だが、行かない。ヘリオスやケイアイターコイズが後入れの外枠偶数枠でゲートをしっかり決めて外の2、3番手に入れば、流れはスローに近くなることが予測できる

このように橙ヘリオスの武さん、桃ケイアイターコイズの和生が外の2、3番手でガッチリ隊列を組んでしまって、ゆったりした流れで馬群が凝縮したんだよ。

すると、馬群の真ん中で揉まれる馬は辛い。黒ドライスタウトの戸崎がレース後「道中タイトになって一瞬力んだ」と言っているのがココ。

まー、周りを囲まれてガチガチに固められたらイライラもするよね。俺も満員電車に乗っている時に押されたらイライラするもん。気持ちは分かるよ。ドライスタウト、今度はもっと遅い時間に出勤できるといいな。

これがレモンポップとドライスタウトの枠が逆なら、また話は変わったかもしれない。レモンがドライスタウトのポジションにいて、挟まれて揉まれていたかもしれないよ。

22年霜月S

これはドライスタウトの2走前、霜月S。桃ドライスタウトは大外枠から外目を回っている。揉まれていない。

23年すばるS

これは前走、中京のすばるS。橙ドライスタウトは外からバトルクライに締められながら、決して馬群の中で取り囲まれて揉まれているわけではない。

先ほどツイートであげたポイントの2番に『外枠続きのドライスタウトが芝スタートで内枠』と書いているが、まー、懸念した悪いところが全部出てしまっているよね。

ここ2走はそれぞれ馬番12番、14番。そしてそれ以前は兵庫チャンピオンシップが12番で、全日本2歳優駿は10番。ずっと外枠が続いていたんだよね

まー、前走のすばるSは多少締められても最後伸びてきたし、戸崎も多少揉まれてもいけるのでは?という思いはあったんだろうけど、4番はちょっと内過ぎるとは思っていたはず。

ドライスタウトという馬は1400を中心に使っている割に跳びも大きい。外枠だったらスムーズに運べても、内枠で、しかも芝スタートで少し後手に回ってしまうとこのように囲まれてしまう。せめてレモンポップの7番から外が欲しかったな

外に目を移すと、こちらもなかなか激戦だった。緑セキフウが内を締めたことで、紫テイエムサウスダンが1列後ろに下がってしまったんだよね

ドライスタウトといい、テイエムサウスダンといい、道中からしてスムーズに行っていない。ペースが上がらずに馬群が詰まればどうしてもこうなるよね。

これまた冒頭に『誰か掛からなければ、そこまで縦長にならず、馬群もある程度詰まって凝縮し、馬群を捌く難易度がより高まった枠順ではないか』と書いたが、まさにこんな展開。ジョッキーとしても難易度の高いレースだったのではないかな。

そんな観点で考えると、後方の茶レッドルゼルはマイペースの競馬ができている。揉まれてリズムが崩れている馬がいる中で、後方でじっくり脚を溜めている。

レッドルゼルはこれが3度目のフェブラリーS挑戦。過去2回は4、6着。マイルは若干長く、最後は甘くなっていた。どう乗ればレッドルゼルはマイルをこなすのか、川田も相当色々考えたんだろうな。

これは昨年のフェブラリーS。赤レッドルゼルの川田は内枠からポジションを取りに行って、茶カフェファラオの真後ろに入っていったんだ。

何度も書いているように『強い馬の後ろはベストポジション』。セオリーとしては正しい競馬だったと思う。しかし止まってしまった。

レッドルゼルのフェブラリーS(全部川田)
21年4着 34.7-35.9 10-11
22年6着 34.5-34.6 8-6 
23年2着 34.6-36.5 14-14

昨年のレースを踏まえたのか、今年は前半600mがほぼ変わらない中、思い切り引いて、最後の最後まで脚を溜める形を試したんだよ。直線だけの競馬だよね。

距離をカバーするために、あえて流れに乗せずに脚を溜める。決して自分で勝ちにいく形ではないが、今回も流れに乗せていたら着順はもっと下がっていた可能性が高い。

でもこれが嵌まる時点で、やっぱりレッドルゼルにとってマイルは長いんだと思う。

3コーナー手前。テイエムサウスダンを締めた緑セキフウのデムーロが、今度は青レモンポップを締めにいった。

まー、これは締めるよね。締めずに内を開けたら、セキフウは内から4頭目→内から5頭目を回ることになってしまう。セキフウも1400での実績が目立つ馬。マイルもこなしている馬とはいえ、ただ外外を回るわけにはいかない。

しかし青レモンポップの瑠星も締められ続けるとマズいことを知っている。仮に緑セキフウが締め続けた場合、桃ケイアイターコイズの真後ろにずっといることになる。

これがケイアイが強い馬で、自力で上がっていくならまた話は違うが、マイルのGIで自分から動いていける馬ではない

締めるセキフウを外に追いやって、レモンポップは1頭分外出しているのが分かる。デムーロの締めって結構厳しいのにね。抵抗して外に出した瑠星の上手さがここに出ていたと思う。

まー、これが『セキフウだったから良かった』部分はあるかもしれない。GIを勝っているような実力馬で、なおかつマイルにも不安がない馬がセキフウのポジションにいたら、もっと外に出してもらえなかっただろう。

そういう意味では序盤にも書いたように、全体のメンバーレベルが高くなかったことも幸いした感じはある

そうして青レモンポップがセキフウを外に飛ばし進路を確保したことで、今度はレモンポップが黒ドライスタウトを外から締める形ができた

ドライスタウトとしては桃ケイアイターコイズとレモンポップの間の桃丸のスペースに入っていくのが理想。

しかしレモンポップの瑠星がガッツリ内を締めているんだ。丁寧なコーナリングでドライスタウトを締めて、外に出さないようにしているんだよ。瑠星上手い。

1頭分のスペースが開いているかどうかっていうところ。跳びの大きなドライスタウトは入りにくい。つくづく枠がよろしくなかった

22年フェブラリーS
23年フェブラリーS

これは昨年と今年の、フェブラリーSの残り600m付近。どちらもある程度馬群は詰まっているんだよな。

●22年フェブラリーS 1:33.8
12.2-11.0-11.3-12.3-12.4-11.6-11.2-11.8
34.5-34.6
1000m通過 59.2

●23年フェブラリーS 1:35.6
12.3-10.9-11.4-12.0-12.5-12.1-12.0-12.4
34.6-36.5
1000m通過 59.1

馬場が違うから一概に比較してはいけない部分はあるが、ペース的には近い。

馬群も同じように詰まってはいるんだけど、今年は前1列目が横に5頭並んでいるのが分かる

18年フェブラリーS

5年前、ハイペースだった時のフェブラリーSの残り600m地点がこれ。今年や昨年より縦長で馬群が伸びているのが分かる。

今年は流れがそう速くない中、一塊のまま4コーナーを迎えたんだよね

23年フェブラリーS

●23年フェブラリーS 1:35.6
12.3-10.9-11.4-12.0-12.5-12.1-12.0-12.4

残り800m→残り600m地点が12.5だった影響も大きい。本来であればショウナンナデシコの外にいる2番手ヘリオス、3番手ケイアイターコイズが動いていく局面だが、前述したように、どちらも主戦場は1400m以下

東京ダートの残り800m→残り600m地点というと、3コーナー真ん中から、4コーナー出口付近にかけての部分。1400以下を中心に使っている馬が、長い直線が控える東京で、3コーナーから動いていく可能性は低いよね。

前が動かずここで1F12.5とペースが上がらなかったことで、直線をひと塊で迎え、ヨーイドンのレースになってしまったんだ。

さすがに同じようなポジションからショウナンナデシコとレモンポップがスピードを比べたら、どうやってもレモンポップのほうが強い。これで内枠先行組はみんな終わった。

直線入口。完全に内を締めきったまま回ってきた青レモンポップの前には誰もいない。

対して黒ドライスタウトは締められながら回ってきて、未だに前には桃ケイアイターコイズがいる。ケイアイがヨーイドンの末脚比べで強いかというと、まったくそんなことはない。ビュンと切れる馬があったらもう重賞を何個も勝っている。

ドライスタウトはそんな馬の後ろにいるのだ。このまま追ってもケイアイに詰まる。だからレモンポップの後ろに入っていかないといけない。

その時点でもう『後手に回っている』のだ。最後までレモンポップに主導権を握られたままだったね。

もったいなかったのは白ソリストサンダーだろう。最初、4コーナー出口で外に出そうとしたんだけど、茶レッドルゼルが一気に進出したことで進路を消され、内目の緑セキフウのほうを目指すしかなくなった

進路的には緑セキフウと紫テイエムサウスダンの間のスペースを狙うことになる。

ところがよく見ると紫テイエムサウスダンのルメールは右ムチを叩いているのだ。これによってテイエムサウスダンは少し内に切れ込む

そうすると緑セキフウとの間のスペースがなくなってしまう。まー、当たり前の流れだ。

緑セキフウがもう少し伸びてくれれば良かったんだけどね。距離延長で、道中ずっと大外を回っていたセキフウにそんな体力は残っておらず、ほとんど伸びない状況だった。

その後ろに入ってしまった白ソリストサンダーは詰まる。

レース後騎乗した明良は「いい手応えで回ってくることができました。結果的には早めに外に出せば良かった。大事に乗りすぎてしまいました」と話しているが、もっと早く外に出していれば、最初レッドルゼルに締められることはなかった。

締められた結果、後手に回って直線の進路をなくしてしまっている。まー、明良としてはどう勝たせるかを考えた時、「なるべくロスなく」という意識でアプローチしていたのだろうし、その結果の判断だったと思う。

でも外に出さずに内にいても、前にいるのは1400が主戦場のセキフウとテイエムサウスダンだったわけで、この2頭が止まるシーンは十分考えられる。厳しく言ってしまえば相手関係に対する見通しの甘さ。これに尽きる。もったいなかったね。


道中スムーズに行かなかった組を挙げていくと、4着ドライスタウト、6着スピーディキック、8着ソリストサンダー、14着テイエムサウスダン、このあたりだろうか。

4着ドライスタウトは何度も書いているように、枠が内過ぎた。外枠だったらここまで負荷の掛かるレースにはなっていなかったろうし、もっとうまくレモンポップを使えたと思う。この形で4着、むしろ頑張ったほうではないかな。

ただ、あくまでタラレバ。跳びが大きいシニスターミニスターという時点で内だと怪しい可能性はあったしね。内に入ると対応が甘い=まだGIを勝つには早かった、とも考えられる。

まだ経験も浅く、短所がより明確に出てきた形。今回がいい勉強になって、これからに繋がってくればというところではないかな。

戸崎も結構叩かれているようなんだけど、ならどうすれば良かったか。俺も色々考えたが、具体的な対策は思い浮かばなかったんだよね。

スタートもそんなに速くないし、外に出せる並びでもない。一度下げて外を回すと今度はロスがある。内をうまく使えなかった、今回はこれに尽きるね

休養から復帰後、霜月S、そしてすばるSは仕上げが明らかに甘かったんだよね。脚のことを考えてソフトに仕上げているのは明らかだったし、仕上げを甘くしていたことは陣営も、ジョッキーも言っていた。

それが今回久々にしっかりやって、体重も減って、馬がだいぶシャープになっていた。もちろんまだ上はあるのだろうが、休み明け以降は一番いい馬体。この体をキープできればプロキオンSあたりで出番があるんじゃないかな。1400m以下なら一周でも対応できる。交流重賞でも楽しめそうだね

もちろん体をキープできればという前提でね。今回割としっかり仕上げたから、反動が脚に出なければいいんだけど。

6着スピーディキックは正直予想以上に走ったという思いが強い。今年から斤量設定が変わったことで、牝馬は56kgを背負わないといけなくなってしまった。牡馬換算で58kg。冬場のハードなダートGIでこれは重い。

しかも初めての芝スタート。初めての東京。ペースも一気に速くなる。超えるべき壁は大きいと見ていて、たぶん道中ついていけないと見ていたんだ。

実際ついていけなかったし、このまま下がっていくだけだろうと思ったら、直線でまた差してきた。挟まれて、そこから切り返してしぶとく頑張っていたんだよ。

まー、御神本が「ペースが上がってついていけなくなるところもあった。最後も外に出すだけの手応えはなかった。何とか内が開いてくれと思っていたんですけど…」と言っているように、いっぱいいっぱいまで頑張っての6着だったんだけど、ナイスファイトだったと思う。

次はかしわ記念。数字、そして今回の内容を見る限りは、相手が揃わなければワンチャンというところ。まだ勝ち負けに持ち込める内容ではなかったが、牝馬限定交流重賞は普通に勝ちそう。

8着ソリストサンダーは書いた通り。4コーナーの捌き一つでもっと上の着順はあった。勝ったとは言わないが、3着争いに加わっていた可能性はあると思う。

本来叩いて調子を上げてくる馬が、この中間は調教でも自己ベストを出していたように、やけに調子が良かった

いつも通り順当に叩いた上積みがあれば次、いいかもしれないね。ゴドルフィンマイルに出られると買うこともないし、かしわ記念は間隔が開くから何とも言えないけど。

14着テイエムサウスダンは前走よりデキは良かった。前走は気持ちも入りきらず、体も太かったからね。調教も重かった。

この中間ブリンカーを着けて追い切ったことで、時計自体はだいぶ出るようになっていたし、今日のパドックもだいぶ気持ちが前向きになっていた。ただ最後は完全に止まっていた。距離というより、気持ちっぽい止まり方にも見えるね。これは根深いな。

ルメールが合っていないのは間違いないと思うけど、ここまでくるとそれ以前の問題。ズブくなっている以上1200に戻しづらいし、ブリンカーは効き過ぎて使いづらいし、難しい馬になったな。とりあえず1400に戻したほうがいいとは思うけど、気持ちのトラブルは難しい。


逆に、スムーズに行ったのは2着レッドルゼル。好走理由に関しては前述したように、今年はタメを作ったこと、これに尽きる。

加えてタメを作るための調整も嵌まった。当初サウジアラビア遠征を予定していたところ、脚部不安を発症して回避、こちらに回ってきた。サウジなら1200を使うことになるため、それが急にマイルに変更になって調整も難しいところだったと思う。

マイルに対応できるようコース中心の調教に切り換えていたが、そんな数週コースに切り換えただけでいきなりマイルに対応できないからね。スタッフさんの教え込みも良かったのだろうし、年齢を重ねていい意味で気性面のズブさも出てきているのではないかな。

とはいえ、やはりこの形は『勝ちに行く形か』というと何とも言い難い。本来もう少し流れに乗せられる1400以下でこその馬なんだろうし、次、折り合い、距離を気にせず乗れる1200のゴールデンシャヒーンなら楽しみ。

まー、今回テンに出していかなかった分、次走、短縮でついていけるかちょっと疑問な部分はあるけどね。今日に関しては、川田が言う通り「全力で走っての2着」だったと思う。


3着メイショウハリオは中盤から後半にかけてスムーズだっただけに、やはりゲートが痛い。ダート馬の躓きはよくあることとはいえ、大一番での躓きは陣営の心情を察するに余りある。

あくまでタラレバだが、仮に出遅れていなかったら、単はどうかも2着はあったかな。出遅れたことで逆に序盤からタメる形に切り換えたことも奏功した部分は若干ありそうだし、出ていたら勝ったかは何とも言い難いところ。

ただ収穫もあった。これは2走前のJBCクラシック。青メイショウハリオは道中から直線まで外に張ってしまって、浜中が右ムチ叩いたら内に切れ込んで、カフジオクタゴンと相撲をとっていた。

以前から左回りで外に張ってしまう面があった馬。フェブラリーS対策で陣営がトレセンのコースが左回り調教になる日曜に、みっちりと稽古を積んだことで、今回左回りでもスムーズに回ってきていた

陣営の熱意が実っただけにね…それだけにゲートがもったいなかったね。仕方ない、こればかりは。


5着アドマイヤルプスはパトロールを見ると分かるが、レモンポップの後ろを走れている。『強い馬の後ろ』を体現する形での5着だった。ブリンカーもだいぶ効いていた感じ

そもそも当初はフェブラリーに出ない予定で、枠に入ることが分かってから切り替えた経緯がある。状況を考えれば大健闘の5着だろう。ブリンカーの効果が続けば、春の東京のオープンで出番がありそう。

9着シャールズスパイトに関しては今回消していた。実力が分からないからとりあえず、なんていう買われ方もしていたようだが、今回は内枠に入った時点で消し。

というのも日本と北米ではダートの質が違う。アメリカでは砂を被れても、日本だと砂質が違うことで砂を嫌がってしまうことが多いんだよね。この手の北米からの遠征馬がダートで内枠に入ったら消すくらいでいい

馬自体は良かった。発表は470kgだったが、実際のところそれ以上に見える馬体。実際の体重より大きく見える馬は基本いい馬。歩き方を見ても前脚の出方なんかは芝だもんね。

ドバイターフに向けて、日本で芝スタートの高速ダートを使うという発想がマスクにはなかった。オーナーがフィプケ氏だから実現したような気もするが、来年以降、このローテが一つの選択肢として定着すると面白いと思う。また来てね。

11着セキフウは最後止まっていた。道中ずっと外を回り、前に壁を作れずハミを噛み気味だった。相変わらず難しいね、この馬は。

内枠で砂を被ると今度はハミが抜けて気持ちが抜けてしまって何もなくゴールしちゃうし、今回のように外枠だと掛かり気味になって粘れなかったり。理想は外目の枠で前に壁を作っての1400だと思うけど、毎回そう都合のいい条件にはならないだろうから、今後も戦績に波はあると思う。

いい馬なんだよね。持っているモノはGIでも通用していいレベルだと思う。狙えるポイントが少ない分狙いどころが難しいが、1400の外目の枠で見直したい。

15着ショウナンナデシコはこれが引退レースのよう。お疲れさまでした。包まれたとはいえ数字が出なくなったレディスプレリュードあたりから少しずつ衰えは感じていたけど、6歳まで一線級で走れる牝馬は一握り。よく頑張った。

牝馬は難しい。食べない馬も多いし、一度ちょっとヘソ曲げたらもうずっとヘソ曲げ続けて戻ってこない馬もいる。2歳新馬勝って、6歳春までGI戦線で走れることが凄い。

そしてこれに合わせて担当さんも定年で退職。勝てなかったとはいえ、無事に戻ってきて、一つのストーリーが終わって良かった。今度は子どもたちで新たなストーリーが始まる。どんな物語を作っていくのか、楽しみだよ。


さて、最後に1着レモンポップの話をしよう。

まずはレースレベル。勝ち時計は1:35.6。

●20年フェブラリーS 1:35.2
1着モズアスコット
12.5-10.9-11.2-11.8-12.3-12.2-11.9-12.4
34.6-36.5

●23年フェブラリーS 1:35.6
1着レモンポップ
12.3-10.9-11.4-12.0-12.5-12.1-12.0-12.4
34.6-36.5

過去のフェブラリーSと比較した時に、もっともラップが似ているレースは2020年、モズアスコットが勝った年のものだろう。似てるねほんと。今年のほうがより4コーナーで後ろを引き付けるラップだったけど。

勝ち時計は0.4秒今年のほうが遅い。ただ馬場差は、現在のところ、推定で20年フェブラリーS当日より0.5秒前後速い馬場だった感じ。すると実質1秒近い開きがある。

モズアスコットの年の数字は標準前後だったことを考えると、そこから1秒遅い今年の数字は正直低い。

もちろん低い中でもマイルを乗り切ったレモンポップの内容は評価しないといけないと思うが、『距離が長いレッドルゼルが2着』、『大出遅れしたメイショウハリオが3着』という視点で見ると、数字の弱さは気になるところ。

当初スーパーGIIと言われている、なんて話をしたけれど、GIとしては数字面で低いかな。あくまでGIでは、という話で。


しかしレモンポップの場合、現在の状態がMAXではないという点も考慮しなければいけないだろう。マイルはギリギリというところで、中2週。明らかにデキが良かった根岸Sに対して、今回は中2週を考慮して超ソフトメニューでここに臨んでいた。

何とかキープしたデキで、しかも少し長い距離のGIをこなしたという事実は称賛されるべきことだと思う

まー、あとは合う条件の少なさだよなあ…中央のダート1400重賞は根岸SとプロキオンSだけ。交流も1400になると一周ばかり。跳びがそこまで大きくないから小回り一周もできそうだけど、浦和のレモンポップと言われても…ねえ?

とにかく競馬が上手いからコースを選ばずある程度やれそう。1400にGIが欲しいね。JBCも今年は大井だからスプリントは1200になる。今後は条件選びが鍵になってきそう。


この馬を語る上で避けて通れないのは、2歳冬から3歳冬までの1年間の長期休養だろう。脚がそこまで強くない馬を、3歳春シーズン全部諦めてじっくり休ませるのは相当勇気がいることだ。

当初はヒヤシンスSを目標にしていたが、スパっとやめて休ませたから今がある。ヒヤシンスに出ていたらどうなっていたか、想像するとなかなか興味深い。

長期休養の判断は難しい。2歳馬なんて緩かったり、体の弱い馬はたくさんいる。もちろん休ませて成長を促せばいい馬になる。かもしれない。

あくまで『かもしれない』なんだよな。未来の話になるから、答えが見えない。本当に完成するかも分からない。しなかったら、ただ休ませただけだから。

しかも休ませている間は費用が掛からないなんてことはなく、赤字続きの状況になってしまうわけで。

もちろんゴドルフィンだからここまで休ませられた側面はあると思うよ。モハメド殿下が来月の電気代の支払いを苦にすることはないだろうしね。どちらかというと電力会社ごと買うレベルの富豪だ。金銭的負担を除いても、これだけ待てるのは凄い。

そして休ませた後、陣営もいきなり一気に上げず、じっくり馬を作ってきたんだ。実際数字を見ると条件戦時代はそうでもないもんね。本気で作れるようになったのはここ数カ月の話。壊さず丁寧に作ってきたから今がある。

休ませて体を強くしていなかったら、根岸SからフェブラリーSまで中2週で使えなかった。開業6年目、まだまだ歴史の浅い厩舎でこんな大胆なことができる田中博厩舎の未来は明るい


未来が明るいのはジョッキーも同様。瑠星はこれで昨年10月からGIを3勝。凄いペースだな。しかもドルチェモアとレモンポップはテン乗りだ。

今回はテン乗りで、しかも1番人気。間隔も距離もギリギリという難しい状況で、自分の与えられた仕事を完璧に遂行してみせた点は、今後の騎手人生にも大きなプラスとなりそう

馬質もより良くなるだろうし、何よりGIで、テン乗りでこのような経験ができる機会は少ないからね。

直線で仕掛けを待ったのも、内前の手応えをしっかり確認して、相手が自分より後ろの馬だと冷静に判断を下せていたからに他ならない。

ちょうど年末にこんな記事を書いて、坂井瑠星について特集したんだ。この時神奈川新聞杯のライラボンドの話を取り上げたんだけど、この時も、距離が微妙に長い馬を前受けして残していた。

欧州での経験もこの世代の日本人ジョッキーとしては異例の多さ。ヨーロッパのポジションを取ってそこで折り合わせるやり方を、完全に自分のモノにした感じはあるよね。

もちろん本人はもっと上のレベルを目指しているだろうし、これで妥協することはないんだろうけれど。

ちょうど今日は福永の国内最終騎乗、東京競馬場でセレモニーがあった。(来週もサウジで乗るけど)名手が一人またムチを置くそんな日に、次代の日本競馬を背負うであろう若手が完璧に仕事をこなしてみせた

日本の競馬の未来は明るいと思う。この世代のトップランナーとして、福永の穴を埋め、それ以上の活躍を見せてくれることを期待したいな。


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