大阪杯を振り返る~全てを変えた雨、3強はなぜ敗れたのか~
非常に、心が痛くなるレースだった。
今年の大阪杯。戦前から三冠馬コントレイルと、GI3連勝中の名牝グランアレグリア、そしてサリオスが集うレースとして、大きな注目を集めていた。
同時に気にされていたのは天候。日曜の予報は雨。レース前にTwitterでつぶやいたように、やはりこれだけの対決は良馬場でやってほしかったというのが正直なところ。
仕方ないというご意見を頂戴したが、そんなことは分かっている。天気などどうしようもない。
そもそも競馬で全馬が持っている力を100%出し切ることなどありえない。雨が降ってMAXを出せる馬はいないからね。よく言われる道悪がプラスになる馬というのは、100が90程度にしか落ちない馬のこと。
強い馬が、持てる力を最大限出してほしいと願う、これは仕事関係なく、あくまで一人の競馬ファンとしての希望なんだよ。
結果として3強と呼ばれた3頭は負け、レイパパレが勝った。三冠馬は実力を疑問視され、名牝はなぜ2000mに挑戦したのかと言われ、三冠馬のライバルはジョッキーの乗り方に問題があったのではないかという声すら上がった。
リアルタイムでレースを見ていた時点で、マスクはそんなことはないと思っていたが、改めて、何度もパトロールやレースVTRを見ていく上でその感情が強くなっていったよ。
同時に、競馬の深さ、線で捉える重要性を再確認したよ。今回の大阪杯は『点で競馬を捉えてはいけない』という基本的事実を、再度我々に伝えてくれるレースだったと思う。
※念のため書いておくが、マスクはレイパパレが弱いとは思わないし、今回の優勝がラッキーだったとは言っていない。もちろん大多数の読者は理解してくれていると思うが、この事実に関して頭に入れながら、今回の大阪杯回顧を読んでいただきたい。
これまでの回顧を見てくれた人間は分かると思うが、マスクはそれなりに、色々考えてレースに臨む。今回の大阪杯において、戦前、ちょっとだけ気になっていた点があったんだ。
●大阪杯 上位人気に騎乗するジョッキー
コントレイル 福永
グランアレグリア ルメール
サリオス 松山
レイパパレ 川田
●今日の阪神芝
・4R 降雨なし
フォルテデイマルミ ルメール
プリュムドール 川田
ーーーー雨ふりだしーーーー
・5R 小雨
ロードラスター 福永
レゾンドゥスリール ルメール
ジュンブルースカイ 川田
ウインアキレウス 松山
ーーーー強雨にーーーー
・9R 雨
ヴィクターバローズ ルメール
サンテローズ 松山
・10R 雨
メイショウミモザ 松山
日曜の阪神の芝レースが大阪杯までに4つあったのだが、当初の予報は朝から雨。雨が降れば馬場は刻一刻と変わる。なのに上位人気に推される馬のジョッキーたちが、後半のレースにほとんど乗っていなかった。
福永にしろ川田にしろ相当馬場を読むジョッキーだ。果たして後半、雨が強い時間帯に実際乗っていないのに、馬場を掴めるのかどうか、そこが引っかかった。
もちろんレースを見れば誰がどこを伸びたか分かる。検量室には各レース、パトロールビデオがリアルタイムで公開されているから、それを見ればどこを誰が伸びたかより詳細に掴める。
しかし実際乗ってみないと、『本当に悪いのはどこか』、やはり掴みにくいのは事実だろう。福永と川田という、馬場を読みまくるジョッキー2トップが後半乗っておらず、果たして馬場を掴んで乗れるのか、不安になった。
しかも今日の雨はいやらしかった。
予報では朝から雨なのに一向に降らず、降り出したのは正午前後。5Rの時はまだ小雨。この程度で馬場は大きく変わらない。しっかり降り出したのはその後だったから、芝の状態を測るレースが9Rの明石特別、10Rの淀屋橋Sしかなかったんだよ。
まだ小雨、阪神5R。
黒ジュンブルースカイに騎乗していたのが川田。改めてパトロールを見ると、スタートを出た後にすぐに内を捨てていることが分かる。
ジュンブルースカイという馬は折り合いを欠きやすいから、基本的に前に壁を作って運びたい。内でも可能なことを、わざわざ外に出してやろうとした。これは大阪杯のヒントになる動きだった。
日曜阪神5Rの続き。
黒ジュンブルースカイ川田は結局内に入れず、直線でも進路を外にとった。結局このラインを鋭く突き抜けて勝ったのだから、川田の中で、『内から10頭目より外から伸びる』という意識が強くなったと推測される。
ただ、パトロールをよく見ると、9番人気の白バルドルブレインが内目を通って粘っている。
確かに勝ったジュンブルースカイは外に持ち出されて伸びているが、見方を変えると、9番人気のバルドルブレインが内目を走って、1:33.6という好タイムで乗り切っているとも言えるんだよ。パトロールを見る限り、『内目を走ってもまだ足りる』と考えられる。
次の阪神芝は9Rの明石特別。5Rから9Rの間にだいぶ雨が降ってしまった。コースを使ってはいないものの、芝はより水分を含んで重たくなった。
●阪神芝の時計
・土曜6R 4歳上1勝クラス
12.6-11.3-12.3-12.2-11.9-12.0-12.0-11.4-11.4-12.0
1着ウインサンフラワー 1:59.1
・日曜9R 明石特別(2勝クラス)
12.7-11.7-12.6-12.6-12.2-12.4-11.9-11.8-11.5-12.0
1着ニホンピロスクーロ 2:01.4
前日の1勝クラスと比べると2.3秒も時計が掛かっている。もう前日土曜や、日曜の午前中とは完全に違う馬場だ。
この明石特別で、松山が騎乗した黒サンテローズは出遅れてしまった。すぐに外目に持ち出して、画像で分かるように、1コーナーでは外目を追走している。
この明石特別、黒サンテローズ、そして桃ヴィクターバローズのルメールは、ずっと外目を回っていた。
対して勝ったのは、ハナを切ったニホンピロスクーロ。内目を通ってそのまま逃げ切ってしまった。しかも直線後続を突き放し、2着ヒルノダカールに8馬身もつけている。
明石特別は大阪杯と同じ阪神芝2000m。もちろんニホンピロスクーロの道悪適性が高かったこと、スローペースだったことも一因ではあるが、『スローとはいえ、内回りの2000mで内ラチ沿いを通った逃げ馬が、8馬身差で逃げ切った』という事実が残った。
サンテローズに騎乗し、スローの外を回って内を捕まえられなかった松山にとっては『内は意外と悪くない。スローで外を回すとむしろ不利』という考えが頭をよぎったのではないか。
大阪杯のひとつ前、阪神10Rの淀屋橋S。1枠に入った白メイショウミモザ松山は、スタートからずっとラチ沿いを通した。
3コーナーで一瞬狭くなりかけた時も自ら主張し、ポジションを取り切っている。
メイショウミモザは接触などもあったか、直線ではまったく伸びなかった。しかし前を走っていた黄サウンドカナロアがゴール前まで粘っている。黒のラインより内、ラチ沿い1頭分はまだ見た目荒れていない。サウンドカナロアはこのスペースをうまく使っている。
基本的に競馬はレースをやるごとに内から荒れていくものだ。しかし事故防止の観点から、ラチ沿い1頭分だけ少し開けながら回ってくるレースが多い。つまり内が荒れていても、ラチ沿い1頭分だけは馬場が掘れておらず、内の荒れた道悪でもこの1頭分を使って粘り込む馬は結構いる。
松山はこのような『荒れた馬場のラチ沿い1頭分』を使うタイプの騎手。外差しになった京都で1人だけラチ沿いに行ったりするからね。そして実際残している。
結局淀屋橋Sは内から10頭目付近の桃ビオグラフィーが差し切った。2着はラチ沿いを通って逃げた黄サウンドカナロア。3着はビオグラフィーの更に外から伸びた青クリノアリエル。
2通りの考え方ができる。
たぶんこのレースを、騎乗せずにレースVTR、パトロールVTRで見ていたルメール、福永、川田は、『ビオグラフィーとクリノアリエルが伸びた外がいい』と判断した可能性が高い。
対して、大阪杯の上位人気騎乗者で、ただ1人淀屋橋Sに騎乗していた松山は感じ方が違ったはずだ。
●淀屋橋Sのラップ (稍重馬場)
12.3-10.5-10.9-11.7-11.8-12.9
前半3F 33.7
後半3F 36.4
そもそも阪神芝1200mの準オープンって、昔から施行回数のかなり少ないレア条件。年に2~4回程度しか施行されない。昨年の良馬場だった水無月Sが33.9-35.2。これでも速い部類で、普段前半3F34秒のレースになりやすい。
つまり稍重で33.7はかなり速いペース。普通だったら差し競馬になるペースなのに、道悪でタフな馬場になりながら、33.7で飛ばしたサウンドカナロアが残った。松山はメイショウミモザでその真後ろを追走している。
『速いペースで飛ばしたサウンドカナロアでも残れるくらい、内は走れる』、松山の認識は他の3人とは違った可能性が高い。
実際ニホンピロスクーロが大差をつけて逃げ切り、ハイペースで飛ばしたサウンドカナロアが残っているわけだから、内は駄目なわけではない。まずこの事実を頭に入れて、大阪杯を振り返る。
●大阪杯
12.4-11.1-12.1-12.1-12.1-12.8-12.2-12.1-11.6-13.1
1着レイパパレ 2:01.6
(明石特別1着ニホンピロスクーロ 2:01.4)
●大阪杯出走馬
白 モズベッロ
黒 サリオス
青 ワグネリアン
黄 コントレイル
緑 レイパパレ
橙 ハッピーグリン
桃 グランアレグリア
紫 アドマイヤビルゴ
大阪杯のスタート直後。緑レイパパレ川田が外にモタれて、隣のクレッシェンドラヴに接触している。まっすぐスタートを出る馬のほうが珍しいのだが、これだけしっかり接触していると後方からになってもおかしくはない。
しかし緑レイパパレはそこから行き脚をつけて先行策を取った。川田は『ゲートを出して先行する』というプランであって、決して絶対ハナというプランではなかったんじゃないかな。もし絶対ハナであれば、スタート直後に接触した後にもっと促して出しているだろう。
当初から先行馬の少ないメンバーではあったから、絶対に好位は確保するという気持ちがここから読み取れる。
内を見ると、黒サリオスの松山が外を見ている。松山としてはハナに立ちたくはない。過去にサリオスは先行したことはあっても、ハナに立ったことはない。初めてのハナでフワフワしてしまう可能性があるからね。外枠よ、誰でもいいからハナに立ってくれという気分だっただろう。
誰も行かなければハナに行くとまで言っていた橙ハッピーグリンが、強引に主張しなかった。ここで緑レイパパレは、ハッピーグリンが行かないのであれば自分でペースを作りに行くプランに切り換えたのだと思う。
黄コントレイルはこの時点で桃グランアレグリアをマークしていた。
馬場うんぬんを除いて、このメンバーを『誰が一番強いか』という観点で見ると、コントレイルかグランアレグリアだろう。グランはマイル以下を使ってきているわけだから、当然スピードの違いでコントレイルより前にいる可能性が高い。福永のプランは『外目でグランアレグリアをマーク』だったんだろうね。
黒サリオスは、それまでのレースから『インが使える』と判断している。青ワグネリアンが好位を狙う中、主張して緑レイパパレの真後ろをキープしにいった。
外に出そうとせず、インにこだわって主張した松山の思考は、9R明石特別、10R淀屋橋Sで醸成されたものと考えていい。『内枠で逃げ馬の後ろと、取りたいポジションで思った通りのレースはできました』とレース後に語っているが、これは本心だろう。
1周目の直線から上手さを見せていたのが白モズベッロの池添だ。これは1コーナーだが、黄コントレイルが桃グランアレグリアのコース上にいる、その後ろにモズベッロがいる。
コントレイル福永→グランアレグリアを外目でマーク
モズベッロ池添→一番強いコントレイルをマーク
このプランはレース前にできていたのだろうな。池添はヴェルトライゼンデの菊花賞でも、ずっとコントレイルの後ろをキープしていた。強い馬をマークさせたらこのジョッキーは上手い。
向正面を前から見るとこんな感じだ。桃グランアレグリアは青ワグネリアンの後ろで脚を溜めている。
たぶんルメールの作戦はシンプルなもので、『外の前目で折り合う』、これに尽きたと思う。ワンターンを中心に使ってきたグランアレグリアを、今回ツーターン、一周の阪神2000mで使う。
もちろんペースの違いもあるし、馬がワンターンに慣れちゃっているから、半周してもレースが終わらないことで、グランアレグリアが戸惑う可能性がある。ポジション取り、動きを考えると、ルメールはレース全体の流れを見るというより、前目につけて折り合わせることに専念していたと考えていいだろう。
この位置の並びが勝負を分けた。
これは3コーナー。
●大阪杯
12.4-11.1-12.1-12.1-12.1-12.8-12.2-12.1-11.6-13.1
レイパパレは400m通過地点から1000m通過地点までずっと12.1を刻んでいる。9Rの明石特別、ニホンピロスクーロのこの地点のラップが12.6-12.6-12.2。条件戦と比較するのは難しい部分は残るものの、12.1の3連発は、この馬場を考えるとやや速い。
やや速いラップを刻んでいたレイパパレだが、中盤唯一、1000m→1200m地点までの200mだけ、1秒近く遅い12.8とペースを緩めている。息を入れているのだ。
この1000m→1200m地点、阪神内回り2000mだと3コーナー入口から3コーナー半ばにあたる。
絶妙なところでペースを落としたなと思う。
改めてこの息を入れた、ラップを落としたポイントの画像を見ると構図が見える。外の2番手はハッピーグリン。前走京都記念11着。客観的に見て今回は厳しい。メンバーの中では力が足りない部類だ。
2番手がグランアレグリアやコントレイルレベルの強い馬だったら、もっとプレッシャーを掛けられていただろう。2番手がハッピーグリンであることで、プレッシャーをそこまでかけられずに逃げられる。3コーナーでペースを落としても、2番手ハッピーグリンはそこで動いてくる馬ではない。
桃グランアレグリアは今回が初めての2000mだ。そんな馬が道悪でタフな阪神2000mにおいて、3コーナー、残り1000mから動くだろうか。動くわけがないよな。その前にいた青ワグネリアンも、全盛期ほどの状態ではないから動けない。
川田は、周りが動けない、動けないところでペースを落とした。絶妙だよ。
この川田の絶妙な動きを察知したジョッキーがいる。
黄コントレイルの福永だ。
パトロールビデオでは分かりにくいが、横からの映像で分かる。福永が残り1000m過ぎから動いて前を捉えに行っているんだよ。
もちろん勝負所だからポジションを上げないといけないんだが、わざわざ前を走るアドマイヤビルゴを外から交わしてまでポジションを上げ、グランアレグリアに迫るところまでポジションを上げている。
もし仮にこの川田がペースを落としたポジションで動かなければ、もっと脚は溜まっていたはず。それでも前が楽をしているわけだから、届く可能性はかなり低くなってしまっていたはずだ。勝ちに行くならここで動くしかなかったと思う。
残り1000m過ぎから、道悪の力のいる馬場で、外を回って動く。普通に考えて苦しい競馬だよね。できるもんならやりたくない手だ。しかしコントレイルは三冠馬。このレースの1番人気。勝ちに行くしかない。
逆に言えばコントレイルをこの地点で動かした時点で、川田の勝利だったと言ってもいいかもしれないね。
コントレイルの不運だった点は、内にいた馬が現役どころか近年最強クラスの女傑だったことだろう。
3コーナーで外から上がっていった黄コントレイルだが、桃グランアレグリアは締められたくない。内から張っていって、コントレイルをブロックしているんだ。
しかもグランアレグリアの右前にいた青ワグネリアンが、その内にいるサリオスと1頭分スペースを開けて回っている。ワグネリアンに騎乗した吉田隼人が馬場の悪い部分を避けて乗りたかったのだろうね。
その分、グランアレグリアとコントレイルは『更に1頭分外を回されてしまった』。ただでさえコントレイルは仕掛けが早くなったのに、大外の更に外を回されてしまった。
グランアレグリアだってスタミナ不安があるから、ギリギリまで仕掛けは待ちたかったはず。しかしコントレイルが外から早めに締めあげてきたものだから、内から張らないと後手に回って進路をなくす。勝ちに行くなら自力で張って、外コントレイルをブロックするしかない。
レイパパレ川田にとっては、3強のうち2頭が早めに外で苦しい競馬をやってくれたことは相当追い風になっただろうね。
そしてグランアレグリアが張ってコントレイルをブロックしに行ったことで、その後ろにいた白モズベッロは進路が開いた。外を回さずに人気馬の後ろからついていくことができる。この時点でモズベッロは絶好位となった。
一方、内では黒サリオスの松山が、外に出すスペースが十分あったにも関わらず、ラチ沿いから離れずに、緑レイパパレが内ラチ沿いを開けるのを待っている。
サリオスは昨年の皐月賞、ダービーでコントレイルに完敗を喫している。皐月賞は内目を通しながら、大外を回ったコントレイルに外から差されてしまった。今回も単純に外に出して回ったとして、コントレイルを逆転できるだろうか。
こと、コントレイルを逆転するという発想で乗るとすれば、馬場の内目がまだ使える状況である以上、ロスなく運んで、2000mぴったり回る作戦に出るのはむしろ当然のことだろう。
内目が悪い馬場で内を突いて、外を通ったコントレイルに逆転されたらジョッキーのミスだと思う。しかし松山はそれまでの9R、10Rに騎乗して、内が使えることを知っている。
だからこそ早めに外に出さず、ずっとレイパパレの後ろで脚を溜め、インを狙ったのだと思う。
これがマイルならまた話は違ったと思うが、サリオスにとって2000mはなんとか守備範囲と言えるもの。しかも馬場が重い。本当に距離がギリギリの状態で、コントレイルをどう倒すかを考えた結果が今回のイン突きだった可能性が非常に高い。
直線入口。
今日の阪神で、後半の芝のレースに騎乗していなかった川田、福永、そしてヴィクターバローズしか騎乗していないルメールの3人が勢いのまま外目を目指して進路を取っている。
しかしそれまでのレースに実際乗って、内目が使えると判断した松山は内に進路を取った。松山としては、『勝ちに行く手』を打ったんだよ。
この画像を見ても、松山は内しか狙っていない。
よく見ると右足のほうに重心が掛かっていることが分かる。馬は重心が掛かったほうに行くわけだから、サリオスは更に内のほうへ行く。外に出す気はサラサラない。
松山からしてみたら、外のほうに流れていくレイパパレしか見えていない。その後ろにいるグランアレグリアやコントレイルといった2頭は、自分より後ろにいるのだから視認できない。『まだ使える内ラチ沿い』を使って、あとはレイパパレを交わすことだけを考えている。
対照的に、緑レイパパレ川田、黄コントレイル福永は右からムチを叩いて、より外に外に持ち出そうとしている。
まー、複雑だよ。乗ってるからこそ松山はインを選択し、乗ってなかった、映像しか見ていない川田と福永は外に外に行こうとしている。
俺はパトロールビデオを何度も何度も見るが、見るたびに心が痛くなったよ。
ただ内を突くだけでなく、黒のラインを引いた内、わずか1頭分あるかどうかのまだきれいなスペースに、540kg近い大柄なサリオスを入れて脚を伸ばそうとしている。
確かに最後、外が伸びているように見える。しかしレースラップを見ると12.1-11.6-13.1。レイパパレがラスト、脚が上がってしまっているだけで、サリオスやグランアレグリアも止まっている。道中重たい馬場に削られてしまったことで、距離がギリギリだった馬たちは脚が上がっているわけだ。
タラレバは禁物とはいえ、午前中の天気、馬場で大阪杯をやっていたらどうなっていたか。ジュンブルースカイが1:33.5という好時計で勝てるほど高速馬場で、内も使えたあの馬場で大阪杯をやっていたらどうなっていたか。
道中の負担はもっと減っただろうし、サリオスのインの3番手というポジションはむしろ絶好位となり、内から突き抜けていた可能性もある。あくまで可能性の話で、絶対突き抜けていたとは言わん。そこは勘違いしないでほしい。
突き抜けてもいいレベルの仕上がりはあった。昨年秋は腹痛を起こしたりして調整がずれ、立て直して、これまでのサリオスで一番順調に来ていたこの中間。パドックの仕上がりも、昨年のMAXと思えた毎日王冠に近いデキには持っていけていたと思う。毎日王冠を100とすると、90、95くらいはあっただろうか。
それだけに雨が悔やまれる。せめてあと3時間、雨が降る時間が遅くなっていたら…そう思わずにはいられない。同期に怪物がいて、適条件のレースの前に腹痛を起こし、しかも外枠にブチ込まれ、立て直した今回は雨。運がないとしか言いようがない。
よく『強い馬は条件を問わない』という。確かにそうなんだが、それは1頭力が抜けている場合の話で、これだけトップレベルの馬が揃うと、本当に1つの要素でレースの中身が変わってしまう。
少なくとも松山は勝ちに行ってこの作戦を選択したのだということは、それまでのレースから察することができる。外伸び決着はあくまで結果論だ。ネットでは松山が相当叩かれていたが、斜め横から見たらそうなっているだけであって、プロセス的に、勝ちに行った、やることをやった5着だったと個人的には考えている。
順番は前後するが、残り1000mくらいから動いて、グランアレグリアにブロックされて更に外を回りながら、最後直線の坂を上がってももう一段階粘ったコントレイルにはちょっと引いた。
別に前半緩んだわけではない。むしろ川田は12.1を連発してペースを締めていた。にもかかわらず、この重い馬場で残り1000mから動いて、ラストもう一度粘る…改めて、コントレイルの凄みを感じたよ。
レース後の「思ったより馬場が悪く、最後は苦しくなりました。それでも、グランアレグリアには競り勝ってくれましたからね」というコメントも納得できるもの。福永としても、この馬場で残り1000mから動かしたくはなかっただろう。
明らかに早いと思いつつ、それでも勝ちに行って、最後まで粘ってグランアレグリアを交わしたのだから立派なもの。展開面では一番苦しい競馬をしている。矢作師の「ついてない。雨の降り出しが2、3時間遅ければ…」というコメントはその通りだと思うよ。
悪い馬場を走るのはみんな一緒、そう言われてしまうかもしれないが、競走馬の能力を100として、道悪になると一律80になるわけではない。90で済む馬もいれば、50、60になってしまう馬だっている。個体差という概念を考慮せず、『みんな一緒』と言ってしまうのは非常にどうかと常々思っている。
この3着はむしろコントレイルは相当強い、そう思わせるには十分の結果だった。
ただ一つ思うことは、パドックのコントレイルを見てマイラーにしか見えなかったこと。
調教時の動き、歩き方、写真を見ても、母系の影響で筋肉がついたことで、以前と比べて馬の本質的な部分が出てきたと思う。よくこの馬、3000mのGI勝ったと思うほど、馬はマイルに寄ってきた。
左回りのほうがよりいい馬だから安田記念を使えば相当走ると思う。逆に言えば右回り2200mの宝塚記念、右回り2500mの有馬記念は、展開、馬場の助けが必要になる可能性が高くなってきたね。週中から『馬が良くなり過ぎている』と書いてきた懸念が当たってしまった。条件選択は難しくなったと思う。
コントレイルが動いてくれたことが大きかった2着モズベッロは、池添の好騎乗、雨、そして距離短縮が噛み合った結果と言っていい。日経賞を直前回避し大阪杯に参戦した判断は大正解。
池添自身はレース後「積極策をとりたかったけど、ゲートがもうひとつで後ろからになった」と語っているものの、毎回お約束のように出遅れるモズベッロで、絶対積極策が取れるなど本人も思っていなかっただろう。最初からコントレイルをマークするプランは頭にあったはずだ。
昨年大ケガを負って競走生命を危ぶまれた経緯、ここまで立て直したスタッフさんの苦労を考えると、報われて良かったと心から思うね。
裏情報に書いたように、今回はデキがかなり良かった。そして全部噛み合った。昨年の宝塚も同様だったから、右回りの道悪では常にマークしておきたい。
勝ったレイパパレに関しては、ソフトな仕上げも良かったと思うが、何より川田のペースメイクが素晴らしかった。
12.4-11.1-12.1-12.1-12.1-12.8-12.2-12.1-11.6-13.1
テンから一定のペースを刻みつつ、中盤1Fだけ落として息を入れるラップは芸術。もちろんハッピーグリン2番手、雨、外の動きに助けられた面はあるから、これが=実力とは言わない。というか、言えない。
ただし、条件が揃えば3強を倒せるだけの実力がある、とも言える。チャレンジカップのように、間隔を詰めるとテンションが上がってどうにもならなくなってしまうこと、仕上げが難しいことから、今後無敗が続くとはとても思えないが、ラッキーで片付けられる程度の実力ではないと思うね。今後は条件次第だろう。
4着グランアレグリアには驚きしかない。コントレイルが早めに動いてきたことで自身も動くことになってしまい、加えてこの道悪。1200mのGI馬には到底厳しい条件だった。
しかも返し馬を見ていると、脚がしっかり地面を捕まえられてない。滑るようなフットワークだった。多少緩い馬場はこなせても、雨中の重たい馬場は不向きなのだろう。それで4着に粘っている。
恐ろしいポテンシャルを感じたよ。ルメールがレース後「良馬場なら2000mは問題ないと思います」と話しているように、東京良馬場のマイル~2000mだったら現役どころか、近年最強クラスに成長しているんじゃないかな。今日はコントレイルとグランアレグリアがただただ強いという感情が一番残ったね。
6着以下は馬場の影響もあって何とも言えないが、ワグネリアンの奮闘ぶりは記しておきたい。
12着、下から数えて2番目。ダービー馬の権威を落とすという見方をされてしまうかもしれないね。俺はローテ、引退時期に関しては、所有者である馬主さんが決めることであって、他者が強く主張すべきではないと考えているから、どこで引退させるかは馬主さんの判断が尊重されるべきだと思っている。
ノドの手術をしても完治しているわけではない現状で、厳しいペースを先行してついていった姿には、馬券的なうんぬんを除いて、一競馬好きとして感動を覚えた。
スタッフさんが何とかしようと懸命に努力されている姿を見ている立場だからこそ、復活とまでは言わないまでも着順を上げて、種牡馬入りしてほしい。
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