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21年天皇賞秋を振り返る~未来のリーディングが貫いた攻めの姿勢~

結論から書こう。素晴らしいレースだった

木曜日に枠順を見た瞬間、面白いレースを見せてもらえる並びだという感覚はあった。

3強』、世間ではそう称されていたし、実際コントレイル、エフフォーリア、グランアレグリア、この3頭の能力の高さは疑いようがない。

この3頭のうち2頭くらいが7、8枠に入っていたらまだしも、3頭中2頭が内枠、残るグランアレグリアもそこまで外ではない真ん中の枠を引いてきた。

強い馬が内にいると、その馬の後ろを巡って激しい心理戦、やり取りが繰り広げられるのが競馬。枠の並びを見て好レースになる可能性が高まったことに、一競馬ファンとしてワクワクしたものさ。

もちろん面白い、素晴らしいレースになるほど荒れる可能性は減っていく。地力勝負に近づいていくわけだからね。ちょっとしたジレンマだよな。馬券的には少し荒れてほしいけど、より凄いレースになると荒れる可能性は下がっていく。

結果的に3強で決まり、見応えとしてはこの秋一番のレースとなったと思う。今回の振り返りは、素晴らしいレースとなった『』を、いかに下げずにそのまま文章に残せるかが個人的に課題となったほどだ。


さて、今回のレースのポイントを考える上で、重要になったのは『3強に騎乗したジョッキーの道中の意識』だったのではないか。

ジョッキーにとっても難しいレースだったと思う。3強のうち、誰を信頼すればいいのか、そして予報が変わって日曜、日中から降った雨で馬場がどこまで変わるのか。

雨が降り続けば当然時間の経過と共に馬場は変わる。馬場を見極めながら、同時に作戦も考えないといけないわけだから難易度は高い。

そんな視点で見ていたマスクが、今日、天皇賞前に注目していたのは東京6Rだった。

雨が降り始めた後の東京芝
『3強』に騎乗するジョッキーの推移

・5R 1800m 11頭立て
1着③ティズグロリアス ルメール
2着⑤サトノレギオン 横山武
5着⑦アスクヴィヴァユー 福永

・6R 1600m 17頭立て
1着⑰イズンシーラブリー 横山武
3着②レーヴドゥラプレリ 福永
11着⑭ゾディアックサイン ルメール

・8R 2400m 本栖湖特別 8頭立て
1着④ワイドエンペラー ルメール

・9R 1600m 国立特別 8頭立て
2着⑥ドゥラモンド ルメール
4着②キタノインパクト 横山武

・11R 2000m 天皇賞秋 16頭立て
1着⑤エフフォーリア 横山武
2着①コントレイル 福永
3着⑨グランアレグリア ルメール

雨が降り始めたのは3Rが終わるかどうかの頃。午後、天皇賞を含めて芝のレースは合計5R。

その内、東京の中距離新馬戦なんてほぼスローになるし、8Rと9Rはどちらも8頭立て。天皇賞前に多頭数になったのが6Rだけだったんだよね。しかもそんな6Rに、3強に騎乗するとジョッキーがみんな乗っている。

マスクはこの6Rを距離は違うが、『仮想・天皇賞』として馬券も買わずに眺めていた。

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●6R 1600m
1着桃⑰イズンシーラブリー 横山武
3着白②レーヴドゥラプレリ 福永
11着橙⑭ゾディアックサイン ルメール

このレースで福永が騎乗する白レーヴドゥラプレリが引いたのは1枠2番。対して武史が騎乗した桃イズンシーラブリーは8枠17番を引いてきた。

道中の2人のポジションは枠なりだったと言っていい。レーヴドゥラプレリは内で若干掛かり、イズンシーは道中後方外目。

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これは6Rの直線。白レーヴドゥラプレリが内で抜け出そうとするところ、外を回った桃イズンシーラブリーが猛然と追い込んで、最後は差し切ってしまった

●6R 1600m
1着桃⑰イズンシーラブリー 33.7
3着白②レーヴドゥラプレリ 34.5

この時点で雨が降り始めて1時間以上。それなりに馬場が柔らかくなってきているのに、大外のディープ産駒イズンシーラブリーが、33秒台の末脚で外から差し切ったという事実が残った。

前述した、3強に騎乗するジョッキーの今日の芝成績を見てほしい。福永が天皇賞前に騎乗する芝のレースはこれが最後だったんだ

福永は本番前の最後の芝騎乗で、外の決め手のある馬、しかも本番でエフフォーリアに乗る武史に差される体験をしている。『直線外のキレる馬が届く馬場』『本番で、武史が内枠から外に持ち出す可能性がある』という感触を持ったはずだ。

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一方、6Rでイズンシーラブリーに騎乗し大外から差し切った武史は、天皇賞前に9Rにも乗っている。騎乗したのは黒キタノインパクト。引いた枠は2番だった。

道中内ラチ沿いを追走した武史は、直線でも進路を内目にとっている。先ほどのイズンシーラブリーとは対照的だ。キタノインパクトが掛かりやすいこともあるが、直線内目を使って、最後は外から差され4着に終わっている。

先週の外差し馬場に対し、今週からコース変わりでBコース。土曜まだ内ラチ沿いが使えたし、日曜も2Rはワールドコネクターが逃げ切り勝ち。内は使えていた。雨が降って、伸びどころが変わり始めていたわけだ。

8Rで内内を通ったキタノインパクト武史は4着に終わったことで、身を持って『インの有利は消えている』ことを知った。

本番の天皇賞、エフフォーリアが引いたのは3枠5番。イズンシーラブリーで外がいいことはもう確認済。インにこだわらず、早めに外に出そうというプランはここで固まったのだと思う

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残るルメールはというと、雨が降り始めた5R以降、ずっと似たようなところを回っていた。これは5R、6R、8R、9Rの直線、ルメールのポジショニングを示したもの。

6Rこそ多頭数でより外を回っているが、それ以外のレースはどんな枠順を引こうとも、直線で内ラチ沿いから5、6頭開けたところを回っているんだ。

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ルメールは雨が降る前、前述の2Rでワールドコネクターに騎乗し、内ラチ沿いを通って同着優勝している。

見た目も荒れているし、『雨が降ったら内が微妙になる』という感触もあったのかもしれないね。午後の芝のレースでは徹底して外目を回っていた。本番のグランアレグリアで引いた枠は5枠9番。内目に入れず、外目を回すことはある程度読める

●天皇賞の『3強』の想定位置
・エフフォーリア
内目の枠から外目に出したい

・コントレイル
直線で外にいたい

・グランアレグリア
道中も直線も外目

こうなる。

問題は、コントレイルは最内である点だ。16頭立ての多頭数で最内枠から外に出すには多くの『』を超えていかなければいけないし、一度でも内に押し込められては負ける、それが福永のレース前心理だったのではないか。

●天皇賞・秋 出走馬
白 ①コントレイル 福永
水 ②カデナ 田辺
灰 ③モズベッロ 池添
黒 ④ポタジェ 川田
赤 ⑤エフフォーリア 横山武
茶 ⑥トーセンスーリヤ 横山和
青 ⑧サンレイポケット 鮫島駿
黄 ⑨グランアレグリア ルメール
桃 ⑩カイザーミノル 横山典
緑 ⑫ラストドラフト 三浦
橙 ⑭カレンブーケドール 戸崎
紫 ⑮ヒシイグアス 松山

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スタートする瞬間から話を進めよう。ここで白コントレイルが出遅れかけた。

この画像を見てもらえれば分かるが、後ろ脚がハの字に開いているのが分かる。馬は4本脚でスタートする際に一旦重心が後ろに掛かるとはいえ、後ろ脚がハの字に開いてしまっては踏ん張りが利かない。

枠順確定した木曜、ネット上では『福永がいい枠を引いた』『JRAの忖度』なんていう意見も目についた。東京2000mが内有利だからなのだろうが、コントレイルにとって最内は決して好枠ではない

元々ゲートの中でおとなしくない馬だ。日本のジョッキーで一番上手い福永が騎乗するものの、事前にスタッフさんが「最内だと待たされるのが…」と言っていたように、今回福永は相当スタートに気を遣っていたはず。それでも暴れてこれだ。最内が完全にマイナスに働いている

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凄いと思わされたのは、スタートの出し方だ。後ろ脚ハの字で出遅れかけ、一瞬外側に傾いた白コントレイルを、福永が内に重心をかけて即座に立て直している

あんなに体勢が悪かったのに五分以上にゲートを出ている。さすが日本で一番スタートが上手いジョッキー。ヨーロッパは日本よりスタートが遅いし、たぶん世界で一番スタートが上手いのではないかな。

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コントレイルにとってラッキーだったのは、自身の外2頭が水カデナ、灰モズベッロだったことだろう。

これはレース前に租界でも指摘しているが、カデナもモズベッロもスタートが遅い。もし仮にこの2頭のスタートが速かったら、コントレイルはスタートをミスしてしまうと前に入られてしまう。

ところがカデナもモズベッロもスタートが遅いものだから、コントレイルはゲートをちゃんと出さえすれば、前に外隣に前に入られる心配がない。たぶん戦前から福永も外がカデナとモズで良かったと思っていたはず。

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今回、福永にとって幸運だった点はもう1つある。黒ポタジェもいいスタートを切ったことだ。

●天皇賞・秋 内の隊列
白 ①コントレイル 福永
黒 ④ポタジェ 川田
赤 ⑤エフフォーリア 横山武
黄 ⑨グランアレグリア ルメール

Aパターン
   ⑨他
← 逃⑤④①
ーーーーーーー
内ラチ

福永としては、この形だけは避けたかったはず。よく回顧に書いているように、『強い馬の後ろ』はベストポジション。強い馬が勝手に進路を切り開いてくれるから、その後ろをついていけば進路を取れる。

でもこのAパターンだと、①コントレイルが④ポタジェの後ろに入ってしまう。べスポジがポタジェになってしまうんだ。ポタジェが動かないとコントレイルが動けない展開まである。

Bパターン
  ⑤空
← ④空①
ーーーーーーー
内ラチ

だからこそ福永は、この並びだとBパターンのこの形が欲しかったと思う。④ポタジェが⑤エフフォーリアの後ろに入らない形だ。

②カデナと③モズベッロは前述したようにスタートが遅いから、ポタジェ&エフフォーリアの後ろに入れない。ましてカデナは(一応)同馬主。進路を消すかもしれないのに、コントレイルの前になんて入るわけがない。

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改めて2コーナー手前の画像を見ると、このBパターンになったんだよね。黒ポタジェ川田のゲートが決まったことで、赤エフフォーリアの後ろに入る可能性が少なくなった。

そのおかげで、白コントレイルが流れるように、なんの不利もなくエフフォーリアの後ろに入ることができている。ここまでは福永の作戦通りだったと思う。

前述したように、エフフォーリア武史はこれまでの騎乗から、本番でも内目の枠から外目に出したい意図があった。コントレイルも直線で外にいたい。つまり3強のうち、2強は目的が一緒だったのだと考えられる。

コントレイルはエフフォーリアが外に出す動きについていけばいい。

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しかも内枠はラッキーだった。外枠が全然速くないんだよな。

元々今回は逃げ馬が不在と言われていた一戦。1コーナーの時点で茶トーセンスーリヤが先頭。言い方を変えればトーセンスーリヤでも先頭に立つくらい周りが遅い

桃カイザーミノルや黄グランアレグリアはそれまでマイル以下を使っていた分出脚が違うとして、橙カレンブーケドールでも好位にいるほど。

外がそこまで行かないことで、内がそこまで密集していない。その分エフフォーリアやコントレイルの周りにはスペースがある。この時点である程度内目の枠が有利なレースとなった

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2コーナーにも見どころがある。ここまで順調に赤エフフォーリアの後ろに入ろうとしていた白コントレイルだが、一瞬だけポジション争いを経験しているんだ。

相手は青サンレイポケット鮫島克駿。克駿もこの並びだと、一番近くにいる人気馬である赤エフフォーリアの後ろが欲しい

コントレイルにとって、直線外に出すためにはエフフォーリアの後ろに居続けなければいけない。サンレイポケットにポジションを譲るわけにはいかない。

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後ろから見るとこんな感じ。本当に一瞬の動きなんだけど、白コントレイルが外にいる青サンレイポケットを内からプッシュして、1頭分外に押し出しているんだ。

絶対このポジションは譲らんという福永の意志を感じる動きだ。サンレイポケットはこれにより外に飛ばされているが、こんなものは斜行にも入らない。ポジション獲得のためのプッシュなんて技術のあるジョッキーはよくやること。

実際戒告などの処分もまったくない。この程度なら裁決はまったくカウントしないし、むしろ1頭分飛ばす程度のプッシュは上手い。これでコントレイルは完全に赤エフフォーリアの後ろに入ることになった。

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向正面入口。この時点で赤エフフォーリアのポジショニングは完璧と言っていいだろう。黄グランアレグリアの後ろのラインを確保し、外は橙カレンブーケドール。

これが力の足りない馬だと問題だが、カレンくらいの実力があれば動いていくから、進路は作れる。

白コントレイルは赤エフフォーリアの真後ろ。こちらもポジショニングとしては当初の予定通りだろう。

ここで注目したいのは黒ポタジェ川田の動き。この時点ではまだ内ラチ沿いにいる。

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ところが完全に向正面に入った時には、黒ポタジェが黄グランアレグリアの真後ろに入っているのだ。

強い馬の後ろがべスポジ』であるわけだから、川田がすぐにラチ沿いを捨て、切り換えてグランの真後ろに入っている。

こういうところだよね、トップジョッキーの上手さは。技術面はもちろんのこと、切り換えが早い。川田がグランの後ろに入った結果、内ラチ沿いに大きなスペースができた。

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黒ポタジェが空けた、茶トーセンスーリヤの真後ろのポジション(茶丸)に目をつけたのが青サンレイポケットさ。

他の馬が内ラチ沿いを若干開けているように、向正面の内ラチ沿いは大して良くなかったはず。実際先週の東京芝は外伸び。今週からコース変わりをしたとはいえ、内の荒れた部分を仮柵でカバーできていないのだろう。

だからこそ、そんな内ラチ沿いを走るにはパワーがいる。サンレイポケットは道悪東京のジューンSを勝ってオープン入りを決めたように、パワーに関しては相当。この馬なら荒れた内を走れるという確信が克駿にはあったのだろうね。

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青サンレイポケットは完全に内ラチ沿いに入ったことで、茶トーセンスーリヤのラインに入った。

白コントレイルはわざわざサンレイを外に弾き飛ばしてまで赤エフフォーリアの後ろを確保したわけだから、もう一度内ラチ沿いに戻ってくることはない

凝縮した馬群の内ラチ沿いに偶然にも開いた、大して馬場の良くないけど走れるラインを克駿は追走できたんだよ。

東京競馬場に、横山兄弟が作ったラインということで、東横線と命名する。これって東急に使用許諾取らなくていいよね。

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ここで外目にも動きがあった。紫ヒシイグアスの松山が、橙カレンブーケドールが上がっていったのに合わせて、外から上がってきたんだ。

●21年天皇賞秋
12.8-11.5-11.9-12.0-12.3-12.0-11.8-11.1-11.1-11.4

太字にした部分が大体向正面だ。このレースで緩んだ部分と重なる。ちなみにこの太字の部分である600m→1000m部分が、どちらも12秒台だったのはここ5年で2度目

前回はキタサンブラックが勝った17年。不良馬場の時だ。今回は雨が降ったとはいえまだ良馬場。天皇賞秋としてはちょっと遅い。そりゃ逃げ馬がいないんだから緩むわな。

それもあって、外枠の馬たちが外から上がってきたんだよ。紫ヒシイグアスが外からやってくるのは厄介さ。放置していたら、赤エフフォーリアは直線で外に出せなくなってしまう。

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武史はよほど今回、直線で外に出したかったんだろうな。よく見てたと思う。

紫ヒシイグアスが外から上がって締めてきた時、察知して、内からヒシを押し返しているんだ。それまでの画像と比べて、若干赤エフフォーリアが外目に動いているのがお分かりだろうか。

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赤エフフォーリアがヒシイグアスに締められないように外目に動けば、当然エフフォーリアの真後ろのポジションにいる馬が変わる。

変わって真後ろに入ったのは緑ラストドラフトだった。ただ隣にいる白コントレイルは絶対にエフフォーリアの後ろを譲りたくない

それは2コーナーのVSサンレイポケットとの争いを制してポジションを取ったことから分かる。

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そこで白コントレイルが、緑ラストドラフトを更に外に押し出したんだ。先ほどのVSサンレイポケットと構図は一緒。絶対に譲りたくない意志をビンビンに感じる動きだった

ラストドラフトにコントレイルの圧を跳ね返す力はない。プッシュの影響を受けて1頭分近く外に弾かれてしまった。

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これによって3コーナー前では、このような隊列が出来上がる。橙カレンブーケドールの真後ろでいつでも外に出せる赤エフフォーリア、その真後ろに白コントレイル。

道中のコントレイルはやや口を割るシーンがあったのだが、ペースがそこまで速まらなかっただけでなく、エフフォーリアの後ろを確保し続けるために2度も他馬を外にプッシュした影響もある

16頭立ての最内枠から外に出すっていうのはそれだけ難しい。そんな簡単に、はい外に出していいですよと、他馬もポジションを簡単に譲らない。

一方前を見ると、グランアレグリアが楽な感じで2番手を追走している。スプリンターズSも勝っている馬が、そこまで速くない流れを折り合いを欠かずに追走していることに驚く

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今回の天皇賞、3、4コーナーでそれだけ大きな動きはなかったんだけど、赤エフフォーリアは道中ヒシイグアスを飛ばして外目に進路を確保した結果、もう前が開いている。

そしてその後ろの『べスポジ』に白コントレイルがいる。だいぶ前に『3強のうち、2強は目的が一緒だった』と書いたが、ここまではエフフォーリアに比べてコントレイルのほうが消耗が大きい。外プッシュは体力の浪費も大きいからね。

この2頭の目的が一緒だったことで、その内のスペースはずっと空いていた。1頭だけで楽に走れていた青サンレイポケットはかなり楽な競馬になっていたと思う。

結局向正面で内が空いた時、克駿が即座に進路を切り換えて内に入ったのが大正解だったよね。

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そして直線。

赤エフフォーリアの武史が、道中ヒシイグアスをちゃんと弾き飛ばしたことで、しっかり進路をとって、前が開いた状態で直線を向けた。その後ろに白コントレイルがくっついてくる。福永もこと、コース取りだけならイメージ通りだっただろう。

ここで思い返してみてほしい、今年の日本ダービーを。

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これは今年の日本ダービー。

白エフフォーリアは『絶好』とも言われた最内枠からいいスタートを切ったものの、外からやってきた橙タイトルホルダーを前に入れてしまったことで、ズルズルと後ろにポジションを下げてしまった。

誰もが勝ちたい、それが日本ダービーさ。絶対勝ちたいからこそ武史は慎重になった。慎重になっているうちにポジションを悪くしてしまったわけだ。まー、この時は距離延長だったこともある。折り合い面も重視したことで起きた事態だろう。

短縮だった今回は、ダービーほど折り合い面を気にする必要はない。もちろんエフフォーリアの気性が成長して、より操縦性が良くなったこともあるが、武史は今回、道中で攻めの競馬に徹した。攻めに徹したことで、ヴィクトリーロードが開けた

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そしてもう一つ取り上げておきたいことがある。

これは画像ではちょっとわかりにくいから映像を見てほしいんだけど、赤エフフォーリアの武史は今回、残り400mの標識まで促すくらいにとどめ、400の標識を過ぎたあたりからしっかり追いだしている

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こちらは今年のダービー。これまた映像で見てもらったほうが圧倒的に分かりやすいのだが、白エフフォーリアは残り500mくらいからはっきりと追い出されている

あとでダービーの映像を見てみてくれ。今回のほうが100mくらい、はっきり追い出すタイミングを待っている。

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武史本人がどう考えているかは分からないが、ダービーのエフフォーリアは道中、ポジショニングがどんどん悪くなり、直線残り500mでスペースが開いた時に一気に追いだした。正直、追い出しは早かったと思う

実際白エフフォーリアは最初はまっすぐ走っていたものの、追い出されると外に外に体が流れ、真っすぐ走った黄シャフリヤールに内から交わされてしまった。

タラレバになってしまうが、少なくとも体が流れていなければハナ差程度ひっくり返っていた可能性が高い。直線の挙動に関して、武史も相当悔やんでいたはずだ。

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間違いなく今回はダービーの反省を生かすレースだった。しっかりした追い出しも残り400m標識まで待って、直線もずっと右ムチ。外にはヨレさせない、そんな武史の執念が伝わってくる。

これがダービーが3馬身くらいつけられて完敗だったらまだしも、シャフリヤールとの差はハナ。ジョッキーの乗り方一つで全然変わる差だ。武史も相当パトロールは見ただろう。悔やんだと思う。

時は戻せない。次に繋げるしかない。

道中の早い外出し、直線の追い出し待ちに右ムチと、ダービーで守りに入った反省点を生かして、攻めの姿勢を貫いたことが勝因。そして攻めの競馬に耐え抜いたエフフォーリアも立派

21年菊花賞を振り返る~23年の時を越え発現したDNA~
https://note.com/keiba_maskman/n/n8c8b23cfc01b?magazine_key=m7842050bb22c

これは先週の菊花賞回顧。実は先週も似たようなことを書いた。タイトルホルダーに騎乗したセントライト記念で守りの姿勢に入ったことで結果大敗。その反省点を生かし切った攻めの競馬で菊花賞優勝。

構図が一緒なんだよな。武史は若さ、勢いが取り上げられることが多々あるが、菊花賞といい、天皇賞といい、パトロールを見ると一か所ずつ、前走の失敗点を踏まえた騎乗がなされている

たぶん自宅で相当レースを見ているのだろうね。相当研究しているのだと思う。単なる攻めは無謀と表裏一体だが、計算された攻めは無謀とは明確に異なる

桜花賞を振り返る~暴れ馬が作り出したサバイバルと、枠順の作り出した運命
https://note.com/keiba_maskman/n/n28820282a95b?magazine_key=m7842050bb22c

こちらは桜花賞の回顧だ。この中で、アカイトリノムスメに騎乗した武史が『べスポジ』を外した騎乗をしたことについて、マスクは「武史は5年目、まだ22歳。粗いレースももちろんあるが、今回のレースを見て、『横山武史はGIでも戦えるジョッキー』であることを確信した。タイミングさえあえば、GI勝ちはそう遠くない話になると思う」と書いている。

その翌週に皐月賞を勝ってしまって、これでGI3勝目。桜花賞の際の言葉を訂正させてほしい。リーディング奪取はそう遠くない話になると思う


エフフォーリアに関して触れておくと、11.1-11.1だった残り600m→残り200mで10秒台が連発されているはず。操縦性の良さに加えて、反応の良さ、上がり勝負への対応力、どれを取ってもハイレベル。この馬はとにかく競馬が上手い

次は有馬記念の予定。2500mで厳しい流れになった時は正直不安があるが、たまにある緩んだ時の有馬記念でこの操縦性は大きな武器。内枠でも引いてくれば普通に勝ち負けしてきそう。

今日のパドックも素晴らしかった。ちょっと体は立派だったが、全体的に筋肉がついて、春より明確にパワーアップしている。天皇賞ぶっつけは大正解だった。

どうしても脚に小型爆弾があるから当面の間は間隔を開け続けることになると思うが、故障さえなければ来年の大阪杯や宝塚でも楽しみ。阪神内回りでも問題なく立ち回れるだろう。まー、ドバイに行ってるかもしれないけどね。順調ならあと3つほどGIタイトルを積める馬だと思う。


2着コントレイルの敗因で一番大きなウエイトを占めたのは、『エフフォーリアより内枠』だったことではないか。

もちろんエフフォーリアが近くにいたからこそ外に出せたのも事実だが、競馬がエフフォーリア頼みになってしまったのもまた事実。エフフォーリアの真後ろを死守するために体力を使い、最後は疲れて手前も怪しい。

それでもメンバー中最速の上がり3F33.0を使っているように、実力面は示している。せめてこれが真ん中くらいの枠なら、話は違ったと思う

少なくとも大阪杯3着は道悪で外から早めに動かされたことだということははっきりしたのではないかな。成長力などが足りないと言われていたが、成長力が足りない馬は休み明けでこの数字は出せない。

一度叩いたジャパンCは引退レースだけにギリギリの仕上げで出してくるはず。今まで不安のある脚に配慮した仕上げをやってきているだけに、まだMAXのコントレイルを見ていない。見てみたいよね、MAXのコントレイル

3着グランアレグリアは道中2番手から不利を受けずに回ってきた分、文中であまり触れる機会がなかった。

●天皇賞秋
12.8-11.5-11.9-12.0-12.3-12.0-11.8-11.1-11.1-11.4

確かに中盤に12.3は入って息は入っていた。11秒台が並ぶような天皇賞ではなかった。とはいえ、この流れを2番手で追走し、ラスト3F33.8で乗り切ったのは立派。

スプリンターズSの勝ち馬が2000mのGIで、中盤緩んだとはいえラスト3F33.8って凄いことだと思うよ。もちろん1200mGIはかなり忙しそうだったけど、1200の速い流れもやれて、2000の中盤緩む流れもやれて、ちょっと異次元

それこそ昔は1200mも2000mもこなせる馬はいた。ただ分業化がはっきりした現代競馬で、まるで違うカテゴリーをこなしてしまう能力の高さは特筆すべきものだろう。

しかも今回はパドックから明らかに状態がMAXではなかった。トモが前に入らず踏み込みが浅い。歩幅が出ない。調教本数自体は積んでいたものの、トップコンディションではなかった。そんな状態で2000mもこなしてしまうのだからオバケ。

惜しむらくは雨だろう。当初の想定よりは降らず良馬場のままだったとはいえ、GIデーにダートが稍重に変更されるレベルの雨は降った。当然馬場も柔らかくなりつつある。

ルメールがレース後「柔らかい馬場で、いつもと反応が違いましたし、2000mも少し長かったです。1600mの方が良いと思います」と話しているように、少し柔らかくなった馬場の影響は間違いなくあった。マイルだったらこの程度の馬場でも勝ったのだろうがね。

これが硬い良馬場だったら、近年の天皇賞の傾向からすると時計が速くなってマイラー有利になっていた。グランアレグリアのスピードがより生きて、結果は変わっていたかもしれない。それだけに雨が恨めしい。

まー、仮にそういう馬場だったら今度はエフフォーリアに追い風は吹かなかったわけで、全馬にフラットな条件なんてこの世に存在しないし、天気も含めて競馬だ。ただ大阪杯が道悪だっただけに、完全な良馬場の2000mで見たかった気持ちはある。


4着サンレイポケットは後回しにさせてくれ。5着ヒシイグアスはいい話を何も聞いていなかっただけに、この5着は驚きしかない。しかも外枠から外外を回っている。エフフォーリアやコントレイルのようなインアウトではない。

それだけに、順調にいかなかったことが悔やまれるね。輸送熱に反動に、素質はあるのに体がついていっていない。一戦ごとの反動も大きいタイプだから現状次に関しては何とも言えないが、反動が少なければ次以降、香港でも楽しみ。5歳秋だけに残された時間はそこまで多くない。もう少し体質が強くなってほしい。

6着ポタジェはグランアレグリアの後ろという絶好のポジションを確保して、ほぼ不利なし。現状の力は出し切った。上がり勝負になり過ぎると苦しいタイプだけにもう少し流れてほしかったか。中日新聞杯あたりで巻き返しを狙ってほしい。

11着ワールドプレミアはスタート後、右隣のサンレイポケットに若干寄られてしまっている。その分ポジションが後ろになった影響は確かにあった。まー、そもそも2000mで上位が上がり3F33秒台を使う流れでは厳しい

パドックでも体重以上に重たさがあり、スタッフさんの話通りの状態だったと言っていい。今回は春の疲れが尾を引いた分参考外。ジャパンカップに状態面が間に合うかはなんともいえないが、次以降、上がりの掛かるスタミナ戦になれば、状態次第で一変もある。

12着カレンブーケドールも上位が33秒台の上がりを使う2000では微妙。加えて外外組。それにしても負け過ぎた感は否めないが、蹄の状態は春より良かっただけに、これ以上悪化せずに延長してくれば押さえたい。


さて、今日のラストは4着のサンレイポケットだ。どうして上位に来れたかについてはもう、これまでの回顧で十分書いたから割愛。

レース後克駿が「ここを目標に、素晴らしい仕上がりでした。ベストか、それ以上の走りができました」と語っているように、仕上がりはエフフォーリアと双璧。素晴らしいパドックだったね。

これまでで一番前脚が伸びて、パドックから歩幅が非常に大きかった。それでいて気負いもなく、裏話に書いた通りのデキだった。

それだけに、相手が悪かったという言葉に尽きる。この馬場で4コーナー6番手から上がり33.6を使っているのに前が止まらないのは不運極まりない。3強が強過ぎた。2200m以上の重賞ならまだ勝てるね。

今回の好走を生み出したのは克駿が向正面、好判断で内ラチ沿いに寄せたこと、これに尽きる。本人は「自分自身技術を向上させたいです」としているが、今の積極的に内に入っていくスタイルが確立すれば、毎年関西のトップ3に入るジョッキーになれると思う。


現在6歳。ここまでは平坦どころか、何度も大きな山を乗り越えてきた競走馬生活だった。

3歳夏に骨盤を骨折。骨盤は治しにくい箇所で程度によってはもうアウトの重傷。骨盤骨折を完治させて競走馬として戻ってくるだけでも奇跡的なのに、そこから出世してオープン馬になり、重賞を勝ち、GIで見せ場を作った。

我々はサンレイポケットに今、奇跡を見せてもらっているんだ。サラブレッドの生命力の強さ、そして生き物の神秘を目の当たりにしている。

どうしても強さが目立つ3強に注目が集まる結果となってしまったが、同じようなケガを負ったサラブレッドたちに希望の光が見える4着だったと俺は思う。


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