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22年チャンピオンズCを振り返る~断然人気馬の誤算と、4コーナーの秘密の部屋~


いきなりマスクク~イズ!

14年 1
15年 2
16年 2
17年 1
18年 3
19年 2
20年 1
21年 1
22年 3

これな~んだ?

マスクが親戚のおじさんを適当な理由つけて葬り、会社をサボった回数ではない。

年間で総裁に怒られた回数?0が3つ足りないな。

クイズだけで枠を取って間延びさせるわけにもいかないから答えを書いてしまうが、これは、チャンピオンズCが始まって以降、3歳馬が出走した頭数だ。

今年はハピ、ノットゥルノ、クラウンプライドと3頭の3歳馬が出走していたんだ。3歳馬が3頭以上出走したのは18年、3歳馬ルヴァンスレーヴが勝った年以来の出来事なんだよ。

珍しい現象はJBCでも起きていた。振り返ってみてくれ。JBCレディスクラシックはヴァレーデラルナとグランブリッジの3歳牝馬がワンツー。JBCクラシックでは2着クラウンプライド、3着ペイシャエスが3歳馬。

これは異例なのだ。なにせここ過去10年のJBCクラシックで3歳馬が好走したのは、18年京都開催で2着だったオメガパフュームだけ。そもそも過去10年のJBCクラシックに出走した3歳馬は5頭しかいない

それが今年のJBCクラシックは、中央の出走枠7頭中、3頭が3歳馬だった。ここ10年で中央、地方合わせて5頭しかいなかった3歳馬がだよ?

もちろん出走優先順位が変わったり、制度面自体変わってきてるから一概に比較してはいけないんだけど、それだけ古馬が出てこないとも言える。

オメガパフュームこそ現役だが、チュウワウィザードはJBC前に引退。インティも引退。カフェファラオは骨折もあり(そもそもJBCとチャンピオンズCに出走意思もなかったが)、今、ダートは数年に一度の転換期を迎えているのかもしれない。

本来であればもっと賞金を持っている4歳世代も、ダートの稼ぎ頭がシャマルとかそういう状況。今の4歳、5歳世代が全体的に層が薄い結果、こうして多くの3歳馬がJBCクラシック、そしてチャンピオンズCに名を連ねた、というわけだ。

と言っても3歳馬はまだ完成途上。これからもっと強くなっていく時期だ。JBCクラシックでテーオーケインズに子ども扱いされたように、能力が高くてもまだ突き抜けてはいない。

前述したように4、5歳の全体レベルもそう高くないとあって、今年のチャンピオンズCは例年より低調なメンバーで、メンバー間の上下差がそこまで大きくないレースになったんだ

好きな馬が出ているのに低調なんて言わないでくれ」というご意見があるらしいのだが、実際レーティングを見ても昨年、同年度内にレーティング110以上を記録した馬が10頭いたのに対して、今年は同条件の馬が7頭。数字の上でも減っている。あくまでも『例年に比べて低調』と言ってもいいメンバーだと思う。

だからこそ、ほんの一つの動き、ほんの一つのポジションの違い、ペースで着順がより大きく変わると、レース前に予測はできた。以上の点を意識しながら、今年のチャンピオンズCを見ていこう。

●チャンピオンズC 出走馬
白 ①グロリアムンディ ムーア
黒 ③ハピ
水 ④スマッシングハーツ
赤 ⑤ジュンライトボルト 石川
青 ⑦オーヴェルニュ ルメール
黄 ⑨ノットゥルノ 武豊
紫 ⑩クラウンプライド 福永
緑 ⑫テーオーケインズ 松山
橙 ⑬シャマル 川田
桃 ⑯レッドソルダード 丸山

スタート時。ここにまず大きなポイントがあった。緑テーオーケインズの体勢を見てほしい。他の馬に比べて少し体が浮き上がっているのが分かるだろうか。

体が浮き上がっているということは、逆に言うとお尻が下に沈んでいるということ。これはゲートの中にいるところのVTRを見ると分かる(JRAのサイトに出ているVTRだとスタート直前過ぎて映っていない)。テーオーケインズがゲートの中で座ろうとしていたのだ

たまにゲートの中で座ろうとする馬はいる。実際日曜中京では7Rのソウルユニバンスがゲートの中で座り込んでしまって、その際に馬体に故障を発症したということで除外になってしまった。

元々中京ダート1800mというコースは上り坂の途中にゲートが置かれることで、後ろ脚が前脚より下に来ることから滑りやすく、ゲートが開いたところでトモ、つまりお尻が下に落ちて出遅れる馬がいる。

しかしこれは明確に座ろうとしている。その前のシーンからずっと見ていて、ケインズが座ろうとした時に思わず、まずい!と声が出てしまったほど。

実際レース後松山が「ゲートの中で座り込もうとしてしまって、それでも何とかゲートを出てくれた」と話していた。

本当に何とかってレベルさ。少なくともいいスタートではない。松山が技術で強引に出したような形で、この時点で緑テーオーケインズは後手に回っていた。

テーオーケインズのゲートの駐立の悪さは今に始まったことではないんだ。最近はだいぶマシになっていたんだけど、今回やってしまった。

ここでマスクが気になったのは、レース発走の3分前の出来事だ。

マスクは関東だからモニターでのレース観戦だったんだけど、発走3分前、出走馬たちがゲート裏で輪乗りしている中、テーオーケインズだけゲートの大外に入れられているんだよ

フジテレビから引用

確かマスクの記憶では、昨年もテーオーケインズはこれをやっていた。ゲートの前扉を開けるわけではなく、単純にゲートの中に入れて駐立の練習をしている。スタートに大した不安のない馬はこんなことはやらなくていいのだ

最近落ち着いてきた中でも駐立練習をやったにも関わらず、ゲートの中で座り込もうとしてしまった。つまり、テーオーケインズはいつもと違う精神状況でレースに臨もうとしていることが分かる

改めてスタートを見てほしい。注目したいのは黒ハピが好スタートを決めているところだ。

今回の枠順のポイント、2、3で取り上げているところなんだけど、今回枠順を見て最初に目についたのは2番サンライズホープ、3番ハピ、4番スマッシングハーツという並びだった。

レース前からサンライズホープ陣営は「前走のように控えて競馬する」と言っていた。前走スタートで失敗して後ろからになったら、偶然の産物で差してこれることが分かったため、陣営が味をしめて後ろから行くであろうことは、コメントを見ずとも推測できる。

ハピはテンがそこまで速くなく、スマッシングハーツは出遅れの常習犯。出遅れることが当然のような馬。

中京ダート1800mはコース形状からインに近いほど有利になりやすいのだが、今回のチャンピオンズCは内ラチ沿いを取れる可能性がより高い内枠が軒並み後ろからになって、ちょっと真ん中の馬でも内ラチ沿いに行ける可能性があったんだ。

と、思っていたところで、黒ハピの好スタートさ。やられたと思ったよ。ノリさんがよくやるインの3番手確保だこれ…ってね。

マスクはハピも買っていたが、あくまで差してくる展開で買っていた。この時点でまずい…と思いながらレースを見ていた。こんなにいいスタート決めて3番手に行ける馬だとは…

しかも今回、水スマッシングハーツの鮫島克駿くんが少しゲートで遅れながら、そこから出していってラチ沿いを狙いに行ったんだよ。彼は分かってるね、中京ダートの内ラチ沿いの優位性を。

まー、そもそも克駿は若手の中で最も内への意識が高いジョッキーだと言っていい。よく内ラチ沿いへ行くとはいえ、出してラチ沿いへ行ったことで、同じくスタートがそこまで良くなかった白グロリアムンディの前に入れたんだよね。

グロリアムンディは今日5カ月半ぶりの実戦。ちょっと体が緩かったこと、元々ゲートの出が速くないこともあって、ゲートが少し遅かった。ムーアもワンテンポ遅れてしまって、スマッシングハーツに前を取られてしまった。後々、これが響いてくる

1コーナー手前。ここで注目したいのは桃レッドソルダードがハナに行こうとしている点だ。

ポイント6番の部分。今回、レッドソルダードはハナ宣言をしていたんだよな。ところが引いた枠は16番枠。一番内ラチから遠い枠だ。

レッドソルダード自体そこまでテンが速いわけではなく、ペースもガンガン上げるようなタイプではない

つまりレッドソルダードがハナならそれだけスローペースだということ。前走逃げていたクラウンプライドあたりが引くのか、クラウンが行ってレッドソルダードにハナを譲らないか、その点に注目していた。

この画像から分かるように、紫クラウンプライドはあまり行く気を見せずに、切り返そうとしているんだよね。桃レッドソルダードが行くのを待っている。

黒ハピもハナに行く動きではない。ノリさんがよくやるのはインの3番手。ハナで主導権を握るのではなく、3番手のインで、前に壁を作ってロスなく走ろうとする。

これによってレッドソルダードがすんなりハナという展開になる。

すると隊列はこんな感じになる。1コーナー前、桃レッドソルダードがハナに行くところ、後ろにいた紫クラウンプライド福永が切り返して、外の2番手に入ろうとしている。

そしてその外から橙シャマルがやってきて、外目の好位につけようとしているんだ。シャマルはこれまで短い距離を使っていて、テンもそれなりに速い。

ゲートの駐立練習までしたのにゲートの中で座り込んで、なんとかゲートを出たような緑テーオーケインズが、短距離上がりのシャマルより前につけるのはなかなか難しい

緑テーオーケインズの前に橙シャマルという隊列。これがポイントの5番『テーオーケインズの内外どちらが前か』にかかる。

予想でも少し触れているのだが、テーオーケインズの前にシャマルという隊列もレース前から想定できるんだけど、シャマルという馬はこれまで1800m以上の距離を使ったことがない。どうしても慎重な動きになる。

少なくとも早めに動いていくことは考えにくい。つまり、その後ろにいるテーオーケインズはシャマルを更に外から交わす必要がある

先程書いたが、中京ダート1800mはコース形状的に内目のほうが有利になりやすい。そんなコースで更に外を回されていいことはない。シャマルの後ろだとよりポジションが悪くなると見ていたが、まー、見事にシャマルの後ろに入ってしまった。この時点で分は悪い。

だって2コーナーでこれだからね。ロスなく内目を立ち回れている黒ハピに対し、前に入られて外外を回っている緑テーオーケインズのロスは大きい。

なんだか、いつか見た光景ではないだろうか。

20年チャンピオンズC 1コーナー前
桃 1番人気4着 クリソベリル
22年チャンピオンズC 1コーナー前
緑 1番人気4着 テーオーケインズ
20年チャンピオンズC 2コーナー
桃 1番人気4着 クリソベリル
22年チャンピオンズC 2コーナー
緑 1番人気4着 テーオーケインズ

一昨年、断然単勝1番人気、1.4倍のクリソベリルと、今年のテーオーケインズは非常によくダブる進路取りをしているのだ

まー、この時のクリソベリルはそもそも体重も重くて動き切れていないんだけど、それだけ中京1800で外を回すリスクは大きい。


●22年チャンピオンズC
12.7-11.2-13.1-12.8-12.6-12.6-12.7-11.9-12.3
前半600m 37.0(9回中7位)
前半1000m 62.4(9回中9位)

加えて今年はペースが遅かったんだよね。13.1-12.8なんてGIでなかなか見られないよ、こんなラップ。600m通過タイムは今年含めたチャンピオンズC9回中7番目に遅いタイム。1000m通過タイムは過去のチャンピオンズCで一番遅い

普通前半がここまで遅いと、ペースアップも速くなりやすい。マスクも予想に書いたようにスロー想定から早めペースアップと見ていたんだけど、ラップを見るとペースがまったく上がっていないことが分かる。

速かったのはラスト400mの11.9-12.3だけ。残り400って4コーナーの半ばだからね。そこまでペースアップしないレースで、ずっと外回されていいポジションが取れなかった、この時点でテーオーケインズは相当苦しい。

向正面。緑テーオーケインズがただ外を回される中、内にはラインができていた。

紫クラウンプライド福永の後ろに青オーヴェルニュルメールがいる。そしてその後ろに赤ジュンライトボルト。何度も回顧に書いているように、強い馬の後ろ、そして上手い騎手の後ろはいいポジションになりやすい。先週のジャパンC回顧でも何度も書いた話さ。

この場合、オーヴェルニュは客観的に見て今回分が悪い。オーヴェルニュの後ろというのは馬の後ろという観点ではちょっとまずいんだけど、乗っているのはルメール。ルメールの後ろと考えれば、ジュンライトボルトのポジションはいい。

しかもジュンライトボルトの右斜め前は黄ノットゥルノ。騎乗しているのは天才武豊。

馬群の真ん中にいる状況の場合、怖いのは前から馬がフラフラ下がってくること、そして外から締められることだ

この隊列だと、外からテーオーケインズが内を締めたとしても、武さんが防波堤のような役割になる。武さんは上手いから簡単に内で締められない。ノットゥルノは跳びが大きく馬群の中に入りたくないから、外から締められても抵抗する。

前を走っているのはルメール。先週武さんがまっすぐ下がるという話を書いたが、ルメールもこういう時にフラフラしない。フラフラしなければ当然後ろの馬は進路を見つけやすいんだよね。いいところに入ったよ、ジュンライトボルトは。

●22年チャンピオンズC
12.7-11.2-13.1-12.8-12.6-12.6-12.7-11.9-12.3

中京ダート1800の向正面というと、太字にした部分に近い。まー、ペースが遅い。昨年のこのレース、同区間は12.8-12.1-12.3。全然動かない。

動かないのは隊列の問題もある。紫クラウンプライドが外の2番手にいるんだけど、福永からすると、敵は前ではなく後ろなわけだ。いくらスローペースでも、自分の後ろのどこかにいるであろうテーオーケインズあたりより、自分の前にいるレッドソルダードに注意払わないだろう。

ここまで遅いと外の3番手にいる馬がプレッシャーをかけに動いていってもいいんだけど、橙シャマルなんだよな、外の3番手は。これまでマイルまでしか使ったことがない馬が、1800mで向正面から早めに動けるかっていうと、それは難しい。どうしても乗ってる川田は慎重になる。これは当然。

その外にいる緑テーオーケインズは、仮に自分で動いていくとしたらこのシャマルを外から交わしていかないといけない。せめてシャマルの走っているラインを走ればもう少し変わったかもしれないね。

具体的に言うと黄ノットゥルノが走っているポジションにいたら、3着はあったかもしれない。まー、武さんからしたら川田の後ろを松山に譲るわけもない。松山も武さんを締めてポジションを奪うのが難しいことはよく知っている。

これによって隊列も変わらず、ペースも上がらず、馬群は3コーナーに入っていったんだ。

3コーナー出口。ペースがゆったりしていたこともあって、馬群は未だに詰まったまま。普通これだけ馬群が固まると内は簡単には捌けないんだよね。

でも先程書いたように、黄ノットゥルノは大跳び。内目に入るより外目を走らせたい。だから武さんは真ん中より外目を走る。緑テーオーケインズが内を締めながら走ってきても、抵抗してポジションをキープし続けている。

武さんが自分のポジションをキープすることで、ノットゥルノの内に赤丸で囲んだスペースができる。

仮に紫クラウンプライドか、青オーヴェルニュにトラブルがあって急に下がってきたとしても、赤ジュンライトボルトは赤丸のところに避難できる。

何度も言っているように今年はスローで全然ペースが上がらなかったことで、クラウンプライドもオーヴェルニュも十分に脚が溜まっている。アクシデントが起こらない場合、簡単には下がってこない。

2着クラウンプライド 福永騎手「流れが遅く、2番手で我慢させる形でした。厩舎もそこに重きを置いていましたが、良いバランスで走っていましたし、かかるところも無く、脚が溜まりました

9着オーヴェルニュ ルメール騎手「クラウンプライドの後ろの良いポジションでした

レース後、ジュンライトボルトの前にいた2頭はこんなコメントを残している。完全にこの2頭の後ろに『石川裕紀人の部屋』ができるわけだ。

ちゃんと部屋の掃除しろよ。飲んだお茶のペットボトルそのままにするなよ。あ、これはマスクが普段総裁に言われてることだ。

更に内に目を向けてみよう。ここで注目したいのは、内のラインの最後方が白グロリアムンディであることだ。

かなり序盤に書いたように、グロリアムンディは休み明けや少し緩い影響もあってか、少しスタートで遅れてしまった。克駿の意識的な動きもあって、水スマッシングハーツに前に入られてしまった。

その影響が4コーナーで出てしまっている。ペースはスロー。もちろんこれだけ緩ければ後ろからだと間に合わない。早めに動きたい。

この画像を見て分かるように、簡単に動くスペースがないのだ。スローで馬群も詰まって、一塊。

これが黒ハピならまだ、自分より前にいるのは桃レッドソルダードと紫クラウンプライドだけ。この2頭を交わせばいいし、進路はまだ探せる。これがインの3番手を取る利だよね。前に壁を作れて捌く頭数も少ない。

ところが白グロリアムンディのポジションだと、自分の前を走る水スマッシングハーツが動かなければ進路は生まれない。スマッシングは自分の前を走るハピが進路を見つけないと動けない。

もしこれが、グロリアがスマッシングハーツの位置を取れていれば、ハピを超えればいいだけ。交わす馬が1頭分増えちゃうんだよね。ムーアのチャンピオンズCは1コーナーで終わっていた

これは先週のジャパンC回顧だが、ムーアの状況は先週とは真逆だ。

先週のジャパンCでは自分からポジションを取りに行ったことで捌けたが、今回はポジションを取れず後手に回り、それこそデアリングタクトのような状況に陥っている。

まー、みんながみんなヴェラアズールではないしね。今日のグロリアムンディは少し緩く、完璧な状態にも持ってこられなかった。

スマッシングハーツも自分からポジションを取りに行っていつもより1列、2列前のポジションを取れたが、これだけのスローでは間に合わないポジションだし、早めに前が開かなければどうにもならない。

白グロリアムンディが外に出そうとしても、進路上には赤ジュンライトボルトがいる。ジュンが捌いた後でないと進路は生まれにくい。

本家ムーアからすれば、早く自分から馬群割って行けよと思うものかもしれないが、和製ムーアは前述した『自分の部屋』でおとなしくしている。

先週魔術師かと思うようなイン捌きを見せたムーアだが、いくらなんでもこの馬群は捌けない。それこそ昔のマリオカートのようにラチ飛び越えてショートカットするしか道がない。そんなバグは中京競馬場に存在しない。

レース後ムーアは「スタートが少しスローでそこからの位置取りが混戦になって前がなかなか開かなかった」と話している。まー、その通りだよね。せめてスマッシングハーツより前にいたら、もう少し上位はあったかもしれない。

直線。赤ジュンライトボルトはここまで自分の部屋でおとなしくしていたことで脚は十分溜まっていた。あとは前を捌くだけ。

第一候補は当然自分の真ん前、青オーヴェルニュと橙シャマルの間の赤丸で囲んだ部分のスペースだ。ただここは画像で見て分かるように、1頭分のポジションもない。1頭分も空いていないところを突いてはいけない不文律があるからこの進路は選択できない

すると選べる可能性がある進路は外となる。注目は緑テーオーケインズの松山が右ムチを叩いている点だ。右ムチを叩けば馬は逆に行くから、テーオーは左側、つまり内側に寄っていく。

ちょっと見えにくいが、テーオーの後ろに黄ノットゥルノがいる。騎乗している武さんはジャパンC回顧でも書いたように、直線でもフラフラしない。だから武さんの後ろのポジションが人気なわけだが、このまま武さんがまっすぐ走れば、内に行ったテーオーケインズがいたポジションが空く

形としてはこう。緑テーオーケインズが次第に内に寄っているだろう。右ムチ叩いてるんだからそれはそうなんだけど、赤ジュンライトボルトゆきとの最大の好走ポイントはここだ。

だって自分の進路が勝手に開いていくんだよ。これが黄ノットゥルノがもっとキレる脚が使えればまた話は違ったかもしれない。テーオーが元いたポジションの真後ろにいるわけだから、まっすぐ走るだけでこのコースに入れるわけで。

ただ「いい位置で流れに乗れたけどペースが遅くなったからね」とレース後武さんが話しているように、ノットゥルノは中団からヨーイドンで持ち味が生きる馬ではなく、ビュンと一気に反応できない。

反応できなかったノットゥルノの前のポジションが空く。『石川裕紀人の部屋』が改築されて、部屋のドアが自動ドアになった瞬間だった

緑テーオーケインズの松山の思考としては、先に抜け出していた紫クラウンプライドを目標に右ムチ叩いて寄せていきたかったんだろうな。

道中外を回し続けたのもそうだが、そもそも序盤に書いたようにレースに向かうメンタルからしていつもと違う。反応も鈍い。なるべく併せてなんとか脚を伸ばすとなると、先に抜け出している馬を目標に競りかけるしかない。

そのおかげで自動ドアのごとく赤ジュンライトボルトの進路が開いた。ここまでの形の構成の仕方からラッキーだっただけ、とは言わないが、テーオーが内に寄っていったのはユキトにとっては非常に大きかった。

まー、そもそもオーヴェルニュのルメール、ノットゥルノの武さんといった歴代屈指の名手たちの後ろというポジションに自分の部屋を作れたことが大きかったわけで、ユキトのポジショニングも良かった。ちょっと研究してたなこれ。


ここまでのレース経過を見ると、クラウンプライドはなかなかかわいそう。だって道中福永はノーミスだからね。スタート後切り返して外の2番手を取って、スローで流れに乗って、あとは押し切るだけという流れから差し切られてしまった。

こちらも上がり3F36.7と十分速い脚は使っているんだよな。仕掛けるタイミングに関しても早かったとも遅かったとも思えない。それを36.2なんていう脚で差し切られてしまってはどうにもならない。現状の力は出し切ったと思う。

福永がレース後「良い感じで4コーナーまで来られたので、これなら止まらないだろうと思ってゴーサインを出しました。この馬は最後まで止まっていませんが、勝ち馬の切れ味が凄かったです」と話しているが、これ以上でも、これ以下でもない。

前走のJBCクラシックもかなりいいデキだったから、今日はキープしたという感じ。いいデキをキープすることが難しいわけで、さすが仕上げている助手さんが上手いだけある。

予想にも書いたように、この馬を日本テレビ盃前まではあまり評価していなかったんだよね。日本テレビ盃で数字を考えたらいい内容で評価を改めたんだけど。

スローを2番手から流れに乗って押し切りかけたように、レースの上手さはある。形としては先着したがテーオーケインズとの力量差はまだ感じるだけに、今後来年に向けてもう一回り成長しないとメンバーが揃った場合にGI奪取というところまでは行かない感触。相手が薄い川崎記念ならありそうだけど、スローになってほしい。


3着ハピは道中の形としては100点だったのでは。ノリさんがレース後「よく走ってくれました」と話しているのだが、その通りだと思う。

ただもったいなかったのは、ペースがノリさんの想定以上にスローだった、ということではないかな。

●18年チャンピオンズC 1着ルヴァンスレーヴ
12.8-11.2-13.1-12.5-12.3-12.3-12.3-11.7-11.9
前半1000m 61.9
後半1000m 60.5

●22年チャンピオンズC 1着ジュンライトボルト
12.7-11.2-13.1-12.8-12.6-12.6-12.7-11.9-12.3
前半1000m 62.4
後半1000m 62.1

以前同じようにスローだったチャンピオンズCとして、18年、ルヴァンスレーヴが勝った年が挙げられる。18年と22年は前半1000mだけなら0.5秒差

ところが後半1000mで比較すると、18年は60.5なのに今年は62.11.6秒も違うのだ。もちろん今年の中京ダートが重かった影響はあるが、それにしても違う。

原因はレース後半1000m12.6-12.6-12.7-11.9-12.3が示すように、今年の場合残り400mまでペースが上がらず、4コーナー半ばから一気にペースアップする上がり勝負になってしまったから。

だから4コーナー出口まで、黒ハピのノリさんの進路がなかなか開かなかったんだよな。前には桃レッドソルダードで、外には青オーヴェルニュのルメール。

ノリさんはルメールがなかなか外を開けてくれなかったから、早めに吹かして上がっていけなかった。ちょっと待たされてしまったんだよね。

斜めから見るとこんな感じ。ノリさんとしてはスローは想定していたと思う。だからいつものように後方からではなく、インの3番手に出していって勝負に行ったわけでね。

しかしノリさんが思ったより途中からペースが上がらなかった。内目でヨーイドンのような形になってしまったんだよな。もっと惰性にスピードに乗せていくタイプ。今回はテーオーが色々あって完全に伸びきれなかったこともあってのハピ3着だったのではないかな。

もちろん力がないと3番手を取ってもそこから伸びれないわけだし、決して展開利だけで走ったとは言わないが、ノリさんの好騎乗、枠の影響は大きい。

まー、これが天井とは思えない。ノリさんもレース後「周りの馬は重戦車のような馬ばかりで、この馬は華奢に映ります。実際、騎乗しても、こんな走りができる雰囲気はありません」とかなり辛口なことを言っているんだけど、実際そうで、まだまだ細い。

デビュー戦の馬体重が466kg、今回が466kg。もちろん当時よりは成長しているが、ここの1年馬体重が全然増えていない。中には増えないタイプもいるが、この馬に関してはパドックツイートで「現状悪くないがもっと成長する」と書いたように、まだこれからの馬。

陣営もノリさんも「来年以降(良くなる)の馬」と言っているのも分かるんだよな。その状況でここまで走れるのだからこそ、その後「ブエナビスタみたいです。1年先、2年先には凄いことになっているかもしれません。楽しみです」というコメントも出てくる。

あれだけ不器用だった馬がインの3番手で立ち回れたこと自体に驚いている。あと10kgちょっと増えてきたら、クラウンプライドとの差はひっくり返るね。マスクも来年以降に期待している馬なんだよね。これだけ立ち回りが良くなれば1800以上の小回りでもある程度信頼して買えそう。


4着テーオーケインズの推測される敗因についてはここまでほとんど触れてきた。まー、一昨年のクリソベリルのような進路取りになったことが一番なんだが、それ以前にレースに向かうまでのメンタル面から違った

他でも書いたように、この馬はスクみやすい。JBCクラシックの反動がなかなか抜けず、調整も遅れ、なんとか整えて出したデキ。ツイートでも租界でも何度か触れたが、明らかに前脚の出が硬かった。テーオーが飛んだ3複の目を買い足したほど。

帝王賞もそうだが、一度使った後間隔が狭まると難しいね。下級条件ならそれでも勝てたが、上級でトップクラス相手に走る場合はそうもいかない。

馬場も痛かった。これまで重馬場、不良馬場のダートは3.0.1.0とまったく崩れていない馬にとって、今開催の名前通り重たく力のいるダートが完全にマッチしていたとは思えない。

まー、昨年はJBC4着を叩いてチャンピオンズ1着だったように、一概に叩き2戦目が悪いというわけではないんだけど、間隔を詰めるとこのようなリスクがあるということは頭に入れておきたい。この感じだと海外はなさそうだし、間隔ちょっと空けて川崎記念かな。立て直せれば次はいいと思うけど。

5着シャマルは距離が若干長い中でよく頑張った。使うところがない中で、むしろ新たな選択肢を生み出せたとも言えるが、スローだったのも事実。ペースの速い1800だとやっぱの長いと思う。

持って1700かな。競馬の上手さでなんとかしている感じ。実際のところワンターンのマイル以下のほうがいいと思う。フェブラリーSが楽しみだね。少し長めの距離を使って馬が勉強したと思う。

6着サンライズホープはペースとポジションを考えればよく差してきている。が、上がり3F36.7は2番手クラウンプライドあたりと同じなんだよね。

後ろから運んで内で溜めても脚が使えることは分かった。もう控える形ならどのような場合でもある程度は差してこられることまでは把握したから、ペースとコース次第だろう。

重たい馬場になる1月の良馬場東海Sで、もう少しペースが流れればあり。フェブラリーSは序盤から流れる分、対応できるかはちょっと何とも言い難い。

7着スマッシングハーツも本来はワンターンのダートのほうがいいからフェブラリーS向き。ただ致命的にゲートが悪い。今回はいつもより出ているが、それでも他より遅め。もう少しゲート出てくれればフェブラリーでも楽しめると思うのだけどね。

8着ノットゥルノの敗因もすでに書いたから割愛。大跳びであることをもっと使える条件、ペースなら。こちらもまだ子ども体型の延長。成長の余地はある。

古馬になってから伸びる馬で、現状これだけやれているのだから来年楽しみ。ペースが流れた時のアンタレスSかな、直近買いたいのは。東海Sでもいいけど、出てくるか微妙。

12着グロリアムンディはゲートが少し遅くスマッシングハーツにポジションを取られたことで、どんどん後手に回ってしまったことが敗因。つまり元をたどれば休み明けで少し緩かったことも遠因。まー、中間の調整も決して順調ではなかった。

今年のアンタレスSの内容から力があることは分かる。予想にも書いたが、これまでのダート戦は全部外を回っていた。初めて内を捌く形になっただけに、今回はいい勉強になったのではないかな。順調に使えれば違う。もう少し流れるレースのほうがよりいい。


さて、今日のラストは1着ジュンライトボルト。5歳夏にダートに転向して一気にダート王になるという珍しいパターンとなった。

もっと早くダート使えば良かったのではという声もありそうだが、デビュー時は452kgしかなかった馬。華奢で芝のほうが合うと判断されるのは当然。今日は482kg。30kgも増えて、厚みが出て若い頃とは違う馬になった分、適性もより変わったと言っていい。

昔からちょっと硬いところがあったから陣営もダートを使うタイミングをうかがっていただろうが、マイルで上がり3F33秒台の脚を使って勝っちゃう馬を次にダートには使いづらい。

まー、もっと早くダートに変わっていたらそもそも福島を使っていなかった可能性が高いし、ユキトが乗ることもなかったと思う。縁だよね。

ここまでダートを3度使えたことも良かった。前走のシリウスSで、今回と同じ中京で砂を被っても我慢する、という競馬をこなしていただけに、ユキトにとって競馬の選択肢が広がっていたのも大きい。その分自信を持って乗れるわけだからね。

今開催の重たい砂で末脚を封じられる馬が多く、ましてや過去のチャンピオンズCで一番遅いペースの中、完全に内、前決着だった流れを上がり3F36.2で差し切っちゃうんだから、前を走ってた馬はかわいそう。普通だったらクラウンプライドが勝つ流れ。この馬場の1800で36.2なんて使う馬がいるとは。

それこそスローで完全に前決着だった中を差し切った17年ゴールドドリームを思い出したね。あの時ゴールドドリームに騎乗したのは本家ムーア。まさか和製ムーアが似たようなレースをすることになるとは。

まだ使ってないだけで、ワンターンのダートのマイルもいいと思う。正直これまで数字が低調なレースが多かったから疑っている部分もあったが、この数字ならフェブラリーでも買いたい。


曾祖母エアグルーヴと、血統的には良血、超良血なんて言われる部類だ。アドマイヤグルーヴにルーラーシップ、ドゥラメンテと、同牝系には名馬の名前が並ぶ。

なら決してエリートかというと、果たしてそうだろうか、と思う。祖母のソニックグルーヴは父がフレンチデピュティ、母エアグルーヴで姉がアドマイヤグルーヴと血統的な期待度が恐ろしく高かった馬だが、脚の繋ぎが立ちすぎていて『竹馬』とまで言われた馬。

あまりに立ちすぎていて脚に負担が掛かることから、競走馬としてデビューできずに未出走引退となってしまった。

そんなソニックグルーヴにスペシャルウィークを交配して生まれたのが、スペシャルグルーヴ。この馬もまた繋ぎが立っていた。脚が非常に難しく、デビューから2戦しただけで引退。超良血ファミリーながら、ソニックグルーヴの系統は脚元との闘いの歴史がある

そんな苦難の歴史を乗り越えてスペシャルグルーヴが生んだのがジュンライトボルトさ。そういえばスペシャルグルーヴと、先週ジャパンCを勝ったヴェラアズールの母ヴェラブランカはキャロットクラブで同期だったな。ジュンライトボルトとヴェラアズールも同い年。何かと縁がある。


思い返せば騎乗した石川裕紀人のジョッキー生活も決して順風満帆ではなかった。順風だった時期のほうが少ないかもしれない。

期待の若手、和製ムーアなんて言われて2年目、3年目は40勝以上を挙げていたのだが、4年目の夏の福島で騎乗したダイワエキスパートの故障による落馬事故に遭って、復帰まで9カ月もかかる大ケガを負ってしまった。あの時のことはよく覚えている。

戻ってきてからもそれなりには勝てるが、勝っても期待馬をクビになってきた姿を見てきた。日々手を尽くしてもクビになってきた姿を見てきた。

もちろんこれはジョッキーである以上仕方ないことではある。今の競馬は結果を出しても乗り変わりがある厳しい時代だ。待ってるだけで乗せてもらえるなんてそんなことはない。

一昨年は勝ち星が前年の半分になってしまった。年15勝。まさかこの状況になった翌年にGIを勝つとは思わなかったな…色々と思い出のあるジョッキーだけに、余計驚いている。

デビューからなかなか勝てなかった姿とか、これまでの思い出がゴール後一気に頭に浮かんだよ。それこそ5年前の夏、福島で落馬した時のこともね。

それなりに近くにいたからこそ、これまで腐らずに地道に頑張ってきていた姿も見てきた

努力した者が全て報われるとは限らん。しかし成功した者は皆すべからく努力しておる」とは、マンガ・はじめの一歩に登場する鴨川会長の名言だ。改めてその通りだと思ったね。

トレドの件もあって、競馬に神様がいるとしたら酷なことをすると思ったものだが、それでも折れずにユキトは馬に乗った。

その先にGI勝利があった。競馬の神様はいる。

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