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22年ジャパンCを振り返る~1コーナーの閃きと、直線で光る名手の技~

今年のジャパンCが近年と少々違った点は、外国馬の出走表明が多かったことさ

割と近い段階まで7、8頭参戦する可能性が取りざたされていた。それこそここ10年で最高出走頭数は12年の5頭だったことを考えれば、これだけ出てくる可能性があるジャパンCは久々と言っていい。

まー、アルピニスタが出走を取りやめて、マジカルラグーンがエリザベス女王杯大敗でジャパンC転戦プランがなくなり、ブルームも直前で回避したことで結局4頭になってしまったんだけど、出走意思のある馬が増えるというのはいいことだ。

検疫面、芝の問題などもあって、近年のジャパンCの外国馬の出走頭数は増えなかった。まー、世界に通用する強い馬づくりを理念として設立されたレースで、世界から馬が来ないのは寂しいものだよ。7、8頭に出走意思があったのは、ひとえにJRAが検疫厩舎設置や招致運動に力を入れた成果が出たということ。歓迎すべき話だろう。

もう一つ、今年の外国馬出走意思が多かった理由として挙げられるのは、『メンバーレベルがそこまで高くない』ことも1つだろう。

三冠牝馬、ダービー馬、オークス馬がいるレースにメンバーレベルがそこまで高くないとは本来言ってはいけないのかもしれないが、今年中央のGIを勝った馬がゼロというメンバーで、前日まで、2走前まで準オープンにいたヴェラアズールが1番人気になっていたほど。

フランスのシムカミルなんかはかなり早い段階で出走意思表明していたから違うだろうが、ドイツのテュネスなんかは明らかに想定メンバー見て出走を決めたよね。

いや、もちろん海外からくることはいいことなんだよ。いいことなんだけど、それだけ日本馬のレベルが例年ほど高くなく、なおかつ力が拮抗していた裏返しであって、馬場、枠順一つで結果が大きく変わるメンバーだったんだ。

枠順のポイント、みんな好きだよな。いつも反応が多い。まー、こちらも明確な意図を持って書いているから、これを見て色々想像してくれるだけで嬉しいんだけどね。

今回、マスクが特に重要視していたポイントは1.だった。これは2、3、4番にも掛かってくる話だったからね。

改めて枠順を見てくれよ。内からブノワ、ルメール、レーン、マルタ、ギュイヨン、ムーア、ムルザバエフ、マーカンド…

騎乗18人中9人が外国人騎手という中で、その内7人が真ん中より内という、極めて極端な枠順が提示された

そして海外から参戦する4頭が全て、真ん中より内枠に入ってしまったんだよね。

これは昨年のジャパンCの振り返り記事さ。ここでも触れているが、基本的にヨーロッパの馬は、日本の馬よりスタート、テンが遅い。日本はしっかりゲート試験やって出してくるが、海外は短距離ならまだしも、中距離馬たちはそこまで速くない。

そこまで速くない馬たちが内枠なのだ。今年のジャパンCの隊列を考える上で、外国馬が内に固まった件は大きなポイントになると想定できる。

ジャパンC 出走馬
白 ①シムカミル ブノワ
黒 ③ヴェルトライゼンデ レーン
水 ④トラストケンシン マルタ
朱 ⑤グランドグローリー ギュイヨン
赤 ⑥ヴェラアズール ムーア
灰 ⑦テュネス ムルザバエフ
青 ⑧デアリングタクト マーカンド
銀 ⑨ユニコーンライオン 国分優
黄 ⑩ハーツイストワール 武豊
桃 ⑭ダノンベルーガ 川田
橙 ⑮シャフリヤール C.デムーロ
紫 ⑰ユーバーレーベン M.デムーロ

スタート後

スタート。外国馬4頭の中で、特に遅かったのが白シムカミルと灰テュネスだった。どちらも地元では逃げて勝ってきた経験がある馬だが、前述したように、これまでとはテンのスピードが違う

まー、テュネスはなかなかゲートに入らなかったように、そもそもレース前に消耗していた。

最内のシムカミルがそこまで速くなかったことで、銀ユニコーンライオンがそこまで苦労せずにハナを切ることができた。

これにより、外国馬たちが内で押し込められるような形になる。外国馬たちがメンバー上位の力を持っていれば話は別だが、客観的に見て今年の4頭は日本で、自分で馬群を割って伸びる可能性は薄い

内枠の日本馬にとって、内に外国馬が密集するのはまずい。よく書いているように『強い馬の後ろ』がポジションとしてはベスト。それは強い馬が自力で伸びてポジションを空けてくれるからだが、自力で伸びきれない可能性が高い外国馬の後ろは詰まる可能性が高くなってしまう

外国馬が外枠だったらこんなことは考えなくてよかった。内枠に密集して、しかもテンが遅くそこまで行けなかったことで、内目に外国馬の壁ができてしまうのだ。

色がないからもう外国馬をまとめて白矢印でくくってしまうが、1コーナー前の白・外国馬たち4頭の配置がこんな感じ。

黒ヴェルトライゼンデはもう外国馬の前にいるから、前に外国馬が入って詰まる可能性は薄い。しかし赤ヴェラアズールは、白の外国馬たちの後ろ。

なんとか抜け出して外国馬の壁を突破したいところだが、内に水トラストケンシンがいて、進路がより狭くなっている状況。この時点でヴェラアズールのポジションはかなり悪い。

ヴェラアズールは元々スタートからの出脚は速くない。前走京都大賞典も、2走前のジューンSも遅い。内枠を引いた時点で、内目で少し遅れる可能性は考慮していた。

ムーアも多少の遅れは覚悟していたはず。ここからどう対処するのか、マスクはレース中に注視していたんだ。

1コーナー前

1コーナーに入る前。1枠のシムカミル、オネストのフランス馬2頭は相変わらずラチ沿いにいるんだけど、同じくフランスから参戦した朱グランドグローリーのギュイヨンは少し考え方が違った。

ゴチャつくのを避けたかったか、内に入れようとしなかったんだよ。その後ろの青デアリングタクト、赤ヴェラアズールにとっては前にいる外国馬が1頭でも外に行って、が少なくなる点はいい。

微妙に朱グランドグローリーが外に動いたのが分かるだろうか。これで青デアリングタクトの前は完全に開く。内目、黒ヴェルトライゼンデの真後ろの青丸をつけた部分に1頭分のエアポケットができるんだ

このスペースに入れる可能性が一番高いのは青デアリングタクトだ。よく見ると、赤ヴェラアズールより若干前にいるのが分かる。

デアリングタクトにとっては、今後白シムカミルなど1枠の外国馬2頭がどう動くか分からないため、早めに外国馬の壁を突破しておきたい。この青丸エアポケットを取れるかどうかはかなり重要なポイントだった。

まー、結論から書いちゃうと、青デアリングタクトのマーカンドは少し躊躇してしまった。朱グランドグローリーが外目に動いたとはいえ、開けたスペースは青丸の1頭分。

グランドグローリーは決して外外に張り出したわけではなく、デアリングが青丸部分に入るまでの進路に、少しだけグローリーが被ってしまっていたんだよ。

そんな青デアリングタクトのマーカンドの躊躇を見逃さなかったのがハンター、R.ムーアだ。一瞬の隙を突いて、赤ヴェラアズールが外の青デアリングタクトを少しだけ弾くように、インから上がっていったんだよ。

正面から見るとこんな感じ。青デアリングタクトを外に押し出すような形で、赤ヴェラアズールが1頭分前にポジションを上げ、黒ヴェルトライゼンデの真後ろに入っている。ヴェラアズールが外国馬の壁を突破した瞬間だった

どうしても直線、ムーアが狭いところを捌いて伸びてきたシーンが注目されがちになる。まー、目立つしね。さすがムーア、となっていたが、重要なのは直線の捌きよりこの1コーナーの動きなんだよ

ここでもし、デアリングタクトがヴェルトライゼンデの真後ろのエアポケットに入っていたら、ヴェラアズールは1列後ろにいた分、間違いなく直線届いていない

1列ポジションを上げたムーアのスーパーファインプレーと言っていい。1コーナーで勝負が決まったと言っても過言ではない。

デアリングタクトのマーカンドはレース後、「直線で前があかなかった点に尽きます。外へ切り替えざるを得なかったですね」と話しているが、そもそもこの1コーナーの時点でヴェルトライゼンデの後ろが取れていれば話は変わったんだ。

まー、難しいところだ。完全に進路ができていたかというと何とも言い難いし、マーカンドが迷う気持ちも分かる。これがもし⑥デアリングタクト、⑧ヴェラアズールと枠が逆だったら、ポジションも逆になって、ヴェルトライゼンデの後ろはデアリングだった可能性が高い。

でもそれはタラレバ。一瞬の隙を突いてポジションを取り切ったムーアが凄い

引き合いに出して悪いが、もしここでヴェラアズールに日本人ジョッキーが乗ったとして、1列ポジションを上げる選択肢を取ったか疑問は残る。

促してポジションを取りに行くのはいいが、その後、ハミをとってしまって引っかかる可能性が高い。ムーアはたとえ促して進出しようが、その後もう一度折り合わせる自信があるからやっているのだ

このような、ムーアの促してポジションを取りに行く騎乗自体は、実はよくある。ちょっと掛かる馬でも出たなりのポジションで折り合わせるのではなく、いつもより2列くらい前のポジションを取りに行って、そこで折り合わせてしまうんだよ。

派手なアクションから追い方に目が行くが、ムーアのバツグンに上手い点はここ。出していって折り合う技術が高い分、レースを有利に運べてしまう

話を戻そう。ここまで4000字、クロアチアがカナダに勝った。つい後半見入ってしまって、未だに1コーナーから抜け出せない。4コーナーに到達する頃にはラヴィット!が始まっているかもしれん。

ちょっと時間を巻き戻して、1コーナー前に戻る。外の動きも見ておきたい。

冒頭のツイートで、マスクが枠順のポイントに挙げた中の5番、『ダノンベルーガとシャフリヤールが隣』に注目したい。

何度も書いていることだが、強い馬、上手い騎手の真後ろというポジションは恵まれる可能性が高い。勝手に進路が開くし、前に強い馬がいれば、勝負どころで上がっていく前の馬についていけばいいからね。恵まれる。

ダノンベルーガとシャフリヤール、どちらも非常に能力の高い馬だが、隣同士の枠になったことで、この2頭が縦に並ぶことは想像できた

結果、ダノンのほうがスタートが良かったこともあって、桃ダノンベルーガの後ろに橙シャフリヤールという隊列になった

橙シャフリヤールとしては理想的な形と言っていい。この日の東京は内がよく残っていたように、内ラチ沿いが走れる状態。外枠を引いたシャフリヤールとしては、なるべくロスなくレースを進めたい。

桃ダノンベルーガの後ろであれば、ダノン川田が進出する後ろからついていける。外枠はよろしくなかったとしても、ダノンの隣の枠だったことは不幸中の幸いだったと言っていい。

当初俺は、シャフリヤールが行って、その後ろにダノンベルーガの可能性のほうが高いと見ていたんだよね。ドバイでも2番手で運んでいたように、シャフリヤールは前向きな馬だからテンから行ける時もある。

対してダノンは前走も11番手で運んでいたように、基本後ろでレースを作るタイプ。今回は少し距離が長い可能性もあったし、川田は昨年のジャパンCや、スーパーラップの毎日杯でシャフリヤールに騎乗しているように、シャフリヤールの能力の高さをよく知っている。ダービー馬の後ろについていくプランを取るのでは、と見ていたんだ。

ところが今日のシャフリヤールは、パドックから非常におとなしかった。こんなにおとなしかった記憶がない。結果シャフリヤールはいつものようにテンション高めに進んで行かず、ダノンのほうがスタートが良かったこともあり、ダノン→シャフリの隊列になったんだよ。

これ、逆だったら結果も変わっていたかもしれないね。シャフリヤールにとっては引っ張ってくれる存在がいなかったわけで、もちろん前でも好走していた可能性は高めだと思うが、ダノンの後ろのほうが好走率は高いと思う

向正面入り口

ここまで5000字、スペインとドイツの一戦が始まろうとしている。いいかげん1コーナーから脱出したいから向正面に話を変えよう。

内目では黒ヴェルトライゼンデの後ろに赤ヴェラアズール、その後ろに青デアリングタクト。外目には桃ダノンベルーガの後ろに橙シャフリヤール。内と外にそれぞれ隊列、ラインが生まれている。

●22年ジャパンC 2:23.7
12.8-11.2-12.3-12.5-12.3-12.2-12.4-12.1-11.7-11.4-11.3-11.5
前半600m 36.3
前半1000m 61.1

ここでラップを見てみよう。前半600mは36.3。1000m通過は61.1。1000mの通過タイムは過去10年のジャパンCにおいて、7番目に遅いタイム。昨年は1000m通過62.2だったからそれよりは1.1秒も速いとはいえ、まー、スローペースに分類される。

ハナを切ったユニコーンライオンはそこまで速いペースで飛ばすタイプでもない。まあまあ想定内のペースと言っていい。

向正面

ここで注目したいのは、外の2番手にハーツイストワールがいる点だ。騎乗しているのは武豊さん。

よく回顧で触れているように、『武豊の後ろ』というのは超人気銘柄の一つさ。武さんはペースを正確に把握して乗ること、そして圧倒的な技術力でフラフラしないから、武さんの真後ろの馬は強い馬の後ろにいるのと同じような恩恵を得られる

これまでの回顧でも何度も、武さんの真後ろにいる馬が好走した例を取り上げてきたと思う。今回の場合、真後ろにいるのは黒ヴェルトライゼンデ。

レーンとしてはもう言うことないポジションと言っていい。内目の馬場状態がいい中で、ラチから2、3頭目、ややスローペースの5番手。たぶんレーンもレース前に色々研究してきたろうが、これ以上ないポジションを取れたのではないかな。

もちろん、これ以上ないポジションを取れたヴェルトライゼンデの後ろにいるヴェラアズールも、ポジションとしてはいい。1コーナーのスーパープレーの影響で有利なポジションでレースを進められている

そんな中で、外目に動きがあった。うーわ、リュディガー今のオフサイドか。

紫ユーバーレーベンが外目に出して、早めに上がろうとしてきたんだよ。

ミルコ・デムーロさんはレース後「今日の馬場では後ろからは厳しいので、向正面から動かざるを得なかった」と言っているように、内前有利の馬場を意識した動きさ。

まー、ユーバーレーベンは気性の影響でこういう外目を上がるレースしかできない馬。後ろにいたままでスローのヨーイドン勝負になってはキレ負けてしまう。多少早かろうが動くしかない。

●22年ジャパンC
12.8-11.2-12.3-12.5-12.3-12.2-12.4-12.1-11.7-11.4-11.3-11.5

ミルコさんにとって不運だったのは、動いたところのラップがちょっと速かったことだ。太字にした部分、1400m→1200mが向正面にあたるが、前半の1Fラップより若干速いことが分かる

大体2400m以上になると、1F12秒中盤から後半くらいのペースならまくっていきやすい。1F12.2となると、まくるにはちょっと速過ぎる。その分、ユーバーレーベンが前まで進出できずに、中途半端なところで止まってしまっているんだ

3コーナー入口

このユーバーレーベンが中途半端なところで止まった影響を一番受けたのは、止まったところの内にいた桃ダノンベルーガだ。

止まった位置がダノンの若干斜め前だったことから、3コーナー前から紫ユーバーレーベンが、桃ダノンベルーガをひたすら締める形になってしまったんだよ

3コーナー

横から見るとこんな感じ。

3コーナー

後ろから見るとこんな感じ。紫ユーバーレーベンが内の桃ダノンベルーガをガッチリ締めている。

2歳戦なんかではなく、これは日本で最高峰のレース。当然馬群がタイトになる。しかもややスローで展開したことで、馬群がかなり凝縮していた。医師会の担当者が卒倒するくらい密な状況さ。

締められるダノンベルーガの真後ろにいた橙シャフリヤールのジョッキーは、心の中で「いいぞ兄ちゃん、もっとやれ!」と思っていたかもしれないね。

シャフリヤールにとってはダノンが締められまくって下がってきても、自分の外に馬がいないから回避できる。ダノンがプレッシャーかけられまくって下がっていったら、ライバルが1頭減る。いいことしかない。

まー、ユーバーレーベンに乗っていたお兄ちゃんは決して弟のために締めているわけではないんだろうけど。

3コーナー出口

正直、紫ユーバーレーベンのミルコ・デムーロさんは内を締め過ぎ。桃ダノンベルーガに接触しているレベルで締めている。また揉めるぞ。

ダノンの真後ろにいる橙シャフリヤールには逃げ場があるんだけど、斜め内の後ろにいる朱グランドグローリーのギュイヨンはすでに窮屈そうにしている。

4コーナー

本当にタイトな馬群だよ。これだもんね。ユーバーレーベンもびっしり締めたことで桃ダノンベルーガはかなりプレッシャーを受けている。

対して内に目を移すと、黒ヴェルトライゼンデの真後ろで、赤ヴェラアズールがポジションをキープしながら脚を溜めている。

ヴェラアズールとダノンベルーガ、どちらがこの時点で厳しいかなんて書くまでもないだろう。まー、これが仮にダノンベルーガが内で、ヴェラアズールが外枠だったら話は違っていたのだろうが、そうなると、そもそもレースの形も変わってくる。あくまでタラレバに過ぎない。

スペイン先制。モラタセンターにいると違うな。

直線入口

お待たせしました。お待たせし過ぎたかもしれません。

皆さんおまちかね?の直線です。非常に細かいやり取りになること、そして絡んでいる馬が多すぎてもう使える色がないことから、直線だけシーンに応じて出走馬の矢印の色を変えさせてもらう

直線入口。まずは赤ヴェラアズールの進路から。最初、空いていたのは橙テーオーロイヤルと桃ボッケリーニの間のスペースだ。1頭半。このスペースがあればムーアなら捌ける。

ただよく見ると、桃ボッケリーニの浜中は右ムチを叩いているんだよね。右からムチを叩けばボッケリーニは左、つまり内側に行く。

形としてはこうなる。桃ボッケリーニが内を締めてくる分、橙テーオーロイヤルとの間のスペースがなくなってしまう。

これで赤ヴェラアズールのムーアは外という選択肢がなくなってしまった

再度、直線入口

一方、内の動きに目を移すと、黄ユニコーンライオンの後ろに白シムカミルという状況で直線に入っている。

ここで注目したいのはユニコーンライオンの国分優作が左ムチを叩いているところだ。ユニコーンが少し内に行こうとしているんだよな。その矯正で左ムチを叩いている。

黒ヴェルトライゼンデのレーンはまだ緑ハーツイストワール武さんの後ろ。

左ムチを叩かれ続けた黄ユニコーンライオンは当然右側、つまり外のほうに行ってしまう。これによって、後ろにいた白シムカミルが、蝶野正洋にビンタされた月亭方正のような顔をしている。大晦日かな。

しかし緑ハーツイストワールの武さんはほぼほぼ馬をまっすぐ走らせているから、その後ろにいる黒ヴェルトライゼンデ、その後ろの赤ヴェラアズールはこの被害を受けずに済んでいる。

改めて武さんの後ろが強過ぎる。そりゃ日本に来た外国人ジョッキーがみんな武さんの後ろに入りたがるわ。

しかも序盤に書いたように、武さんがまっすぐ走らせることで、黄ユニコーンライオンが再度内に行ったところで、ユニコーンと緑ハーツイストワールの間のスペースが開く

黒ヴェルトライゼンデのレーンは待ってましたとばかりにそこに入っていく。レーンがここを突き抜ければ、その後ろにいる赤ヴェラアズールの進路も開く可能性が高くなる。

一方で青デアリングタクトはまだ前が壁になってゴチャついている。これが1コーナーのポジションの差。ムーアが攻めてヴェルトライゼンデの後ろを取ったことで、直線に入って如実に差が出る。

競馬は直線がどうしても目立つものだが、結局、競馬はスタート、道中の積み重ねなんだよな。それがよく分かるシーンだよ。

しかし赤ヴェラアズールも簡単にはいかない。この形だと、進路としては緑ハーツイストワールの武さんと橙ダノンベルーガ川田の間のスペースが第一候補となる。

が、画像を見ると分かるように、ダノンの川田は右ムチを叩いているのだ。これによってダノンはどんどん内に寄ってくる。

つまり、ハーツイストワールとダノンの間のスペースはいずれ消えてしまう。

こんな感じ。さっきあった、緑ハーツイストワールと橙ダノンベルーガの間のスペースが消えてしまっている。

しかもこれ、残り300mくらいなんだけど、ハーツイストワールは段々下がってきているんだよね。その後ろにいる赤ヴェラアズールとしては、そのまま待っていると下がってきたハーツに衝突する

だからヴェラアズールは、赤矢印で書いたように、橙ダノンベルーガの後ろに逃げる。

川田も右ムチで内に行く橙ダノンベルーガを立て直したのは大きいが、何より緑ハーツイストワールがほとんどブレずに下がっていったのが大きい

これによって赤ヴェラアズールがダノンベルーガの後ろに避難することができている。これがもし、ハーツイストワールが外目にヨレてダノンと衝突するような感じで下がっていたら、ヴェラアズールに逃げ場がない。

下がっていく馬をほぼまっすぐに走らせられる武さんの技術があるからこそ、レーンの進路が開き、ヴェラアズールの避難通路ができているんだ。外国人ジョッキーの皆さん、武豊さんを頼り過ぎです。

そうやって緑ハーツイストワールが下がっていけば、当然元々ハーツがいた部分に進路ができる。一旦ダノンベルーガの後ろに避難した赤ヴェラアズールが、もう一度進路を内に切り換えようとしている。

いや、言うのは簡単だけど、これはとんでもない技術と判断力。馬、そんなラジコンみたいに動かないから。画像で並べていくとスルスルと抜け出しているように見えるが、520kg近いヴェラアズールを手足のように操って細かく進路変更するのはエグ過ぎる

しかもこれ、画像では分からないからパトロールビデオで見てほしいんだけど、ムーアは直線、ハーツイストワールが下がってきて避難通路に逃げる直前までほとんど追ってないんだよね

直線で進路がないのはもう仕方ないとして、強引に隣の馬に当てて進路を確保したりせず、エンジンを少しずつ吹かしながら進路が開くまで待っている。開く算段がついた瞬間に追い出して、避難通路経由でハーツイストワールを交わしていった。

よくルメールが前が壁になりかけた時も落ち着いて追わず、進路を見つけてから一気に伸びるようにエンジンを吹かしながら開くのを待つ騎乗をするんだけど、それに近い。

一応このレース、1着賞金4億円だからね。目の前に4億円あるのにこの落ち着き。ムーアの心臓は鋼鉄か何かで出来ていると言っていい


さて、ここで『なんでダノンベルーガがここにおるねん』と思った方もいるかもしれない。そこで、ここからは直線、外の動きを見てみよう。

再度直線入口

直線に入り、外を見ると桃ダノンベルーガの後ろに橙シャフリヤール、その斜め後ろに赤グランドグローリーという隊列。

ここからポイントになるのが桃ダノンベルーガの動きだ。桃矢印を打ったように、右ムチを叩いている。つまりダノンベルーガは内目に寄っていく。

最初の写真と見比べると分かると思うが、ダノンベルーガが内に寄っていくことで、橙シャフリヤールの前は誰もいなくなる。勝手に前が開いた。もう何も言うことのない形だよ。

強い馬の後ろの恩恵と言っていい。ダノンが伸びなかったら横に逸れないといけないわけで、ダノンにまだ脚があって、自分で進路を選びに行ったからこそ、シャフリヤールの前が開く

対して、青デアリングタクトの前には緑カラテ。カラテもよく頑張っているのだが、2400mでビュンとキレるわけでもない。脚色はデアリングタクトのほうが上。デアリングはカラテをどう捌くかを考えないといけない。

右ムチを叩きながら、次第に内に寄っていく桃ダノンベルーガ川田。川田の意図としては、内から手応え良く抜け出そうとしている黒ヴェルトライゼンデ、すでに抜け出そうとしている黄ハーツイストワールが視野に入っている。

直線、併せる相手を探す時、当然相手は自分より前にいる馬。結果的に後ろにいるシャフリヤールに差されているが、自分の後ろの馬の手応えなんて直線いちいち見てないからね。自分より前にいる馬なら手応えは見える。

しかも東京芝は内目がいい状態。走れるコースを目指して右ムチ叩いて内に寄せること自体に違和感はない。

問題は青デアリングタクト。マーカンドが緑カラテのインから抜いて出て行こうとしている。まー、確かに進路が開いているわけだし、このスペースに入るのは理解できる。

桃ダノンベルーガが右ムチ叩いて内に行っている状況を考えれば、カラテの外から抜いてダノンベルーガが元いたところを通過する手もあったように思うが、まー、結果論だなこれは。

カラテのインに入ってしまったことが、その後のトラブルに繋がってしまう

青デアリングタクトが緑カラテの内から抜きに掛かっている。ただここで問題になるのは、外から橙シャフリヤールがやってきている点だ。

橙シャフリヤールとしては、自分より前にいる桃ダノンベルーガが併せ馬のターゲットになる。だからシャフリヤールのクリスチャンは右ムチを叩いて内に、内に寄っている。

すると青デアリングタクトの進路がなくなる。これでデアリングが詰まってしまう。

デアリングタクトも斜行の被害を受けている!」という声もあるが、JRAが発表した処分は『シャフリヤール号の騎手C.デムーロは、最後の直線コースで内側に斜行したことについて令和4年12月10日から令和4年12月18日まで騎乗停止。(被害馬14番)』。

14番、つまりダノンベルーガ相手の斜行しかカウントしていない

これが、橙シャフリヤールと青デアリングタクトが並んでいるか、わずかにシャフリヤールが出た状態で、クリスチャンが内に寄ったらまた話は違うが、シャフリヤールは完全に前に出ていた

つまりデアリングタクトは後からシャフリヤールのラインに入っていった状態に近い。後から入る系の案件も斜行に取られていたら、後から入っていく馬が圧倒的に有利な状況になってしまう。これは取らない。言い方は悪いが、入った側のマーカンドが悪い。完全にシャフリヤールに前に出られているわけだからね。

橙シャフリヤールが急に斜行したならまだしも、継続的な右ムチで右前から内を絞っている。本来であればムチの持ち手から進路を見て外に切り返す場面。

まー、完全に切り返すほどの差ではなかったのも事実。ややこしい状況だが、シャフリヤールと桃ダノンベルーガの間のスペースは埋まってしまって、デアリングタクトはここで一度追い出しを待たされてしまった。

対して内を見ると、黄ハーツイストワール武さんの下がり方も上手かった影響などもあって、赤ヴェラアズールの進路が完全に開いている。

前半の話を思い出してほしい。1コーナーでヴェラアズールのムーアがポジションを取りに行ったことで、並びがヴェルトライゼンデ→ヴェラアズール→デアリングタクトになってしまった

ヴェラアズールとデアリングタクト、この時点でよりいい進路を取れるのはヴェラアズールのほう

直線これまでの画像を見てくれると分かるが、ヴェラアズールの前にいるのはヴェルトライゼンデで、デアリングタクトの前にいるのはカラテ。この時点で大きな差ができている。

マーカンドがここで詰まった遠因は1コーナーにあるんだよね。いかに道中のポジショニングが重要か分かるシーンだ。もちろんヴェラアズールが詰まった可能性もあるほど凝縮した馬群だったが、詰まる可能性で言えば、デアリングよりは断然低くなる。

詰まったことで青デアリングタクトのマーカンドは外に切り返すことになった。確かにこれはロスなんだが、そもそもカラテの後ろで待たされ、ここでもう一度待たされ、何度か待たされるシーンがあった

レース後マーカンドが「直線で前が開かなかったことに尽きますね。一瞬、開いて入れそうだったがすぐに閉まってしまった。外を回さざるを得なかった」と言っているが、開かなかったことで脚も溜まっていた

だからこそ最後の伸びに繋がったとも考えられる。スムーズだった場合ヴェルトライゼンデは交わしていたと思うが、シャフリヤールを交わしていたかというと疑問。

橙シャフリヤールはクリスチャンが右ムチを叩いて更に内へ寄せていく。敵はもう内、赤ヴェラアズール、黒ヴェルトライゼンデ。併せるならこの馬たちだ。

桃ダノンベルーガは相手ではないのか?と思われるかもしれないが、この地点を斜め前から見ると、もうこの時点で橙シャフリヤールのクリスチャンはダノンを相手と見ていない。ダノンが止まっていたからだ

この地点を斜め前から見ると、2分12秒付近では桃ダノンベルーガが、橙シャフリヤールの前にいる。その4秒後、2分16秒付近では橙シャフリヤールが桃ダノンベルーガを完全に交わしているんだよ。

ダノンベルーガにもう脚が残っていない。だからクリスチャンは更に内、黒ヴェルトライゼンデをターゲットにする

しかし真ん中から赤ヴェラアズールも一気に伸びてきた。内目内目に寄ってくる橙シャフリヤールとの間にいた桃ダノンベルーガの進路はなくなり、挟まれる形になってしまった。

まずいと見たクリスチャンも左ムチを叩いてシャフリヤールを外に戻そうとしているが、さすがに時すでに遅し

完全に桃ダノンベルーガの川田が立ち上がっている。不謹慎と言われるかもしれないから貼らないが、2週連続で回顧にレッサーパンダの風太くんの画像を使うところだった。

この斜行により、先程書いたように『シャフリヤール号の騎手C.デムーロは、最後の直線コースで内側に斜行したことについて令和4年12月10日から令和4年12月18日まで騎乗停止。(被害馬14番)』という処分が下った。

シャフリヤールは降着だろ」なんていう意見を目にしたが、これはない。もうだいぶ前にルールが変わっているのに、令和にこんな意見は通用しない。

ありがたいことにJRAのホームページにも『降着とは「その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していた」と判断した場合、害馬は被害馬の後ろに降着となります』と明記されている。

完全にダノンベルーガが止まりかけている中で、シャフリヤールが斜行した。仮に斜行しなければ、ダノンベルーガはシャフリヤールに先着しただろうか。

脚色を考えたら、シャフリヤールになんらかのトラブルがない限りこの2頭の逆転はない。だから加害側のシャフリヤールの降着はない。

ただし、クリスチャンが継続的な右ムチでダノンベルーガに寄せ過ぎてしまったのは事実だ。左ムチで修正を図ったのは、ダノンの進路に入りかけてから。修正動作が遅かったところを取られている。斜行の程度であれば正直過怠金程度のものだからね、これ。

修正動作が遅く、なおかつクリスチャンは先週の尼崎Sレッドヴェロシティで半ば強引に抜け出そうとして、12月3日、4日が騎乗停止になった経緯もある。その分も加算されて、更に2週間長く騎乗停止を食らってしまった。

現行ルールでシャフリヤールの降着はありえないし、前ルールだったとしてもこれは降着はないと思う。それくらいのレベル。

もちろん危ないっちゃ危ない。修正動作が遅かったのも事実で、クリスチャンにはしっかりと制裁が掛かっている。反省しましょう、これで終わりの話だ。

手前が左に変わると徐々に内に寄っていく橙シャフリヤールの癖もあったとは思うが、結果、真ん中から抜け出してきた赤ヴェラアズールが差し切り1着。ムーアのとんでもない技術の勝利、と言ってもいい。

まー、シャフリヤールはこの内有利馬場を考えるとほぼ完璧なレースだったと思う。レース後管理する藤原親分も「100点の競馬だった」と言っていたが、本当にそう。

仮に内枠だったら…という思いはあるけどね。与えられた枠も運。こればかりは何ともしようがない。

前述したようにパドックでは過去一番おとなしかったのではないかな。3歳時は能力の高さだけでなく、気性面の幼さが目立つところがあった。海外遠征を経験して、精神的にたくましくなったね。かわいい子には旅をさせろとはよく言ったものだと思う。英国遠征も結果は出なかったが、無駄ではなかったのではないかな。

天皇賞は休み明けということもあって、パドックから若干テンションも高かった。ただ一度使ってガスが抜けたか、今回はパドックも前走よりだいぶ落ち着いて、返し馬に入るところで一瞬テンションが上がったものの、そこからすぐに落ち着いて走っていた。余計な体力ロスがなくなった、というのは今後に向けて大きい

前半から断続的にペースが刻まれる毎日杯を勝ったように、どんなペースでも走れてしまうのがこの馬の能力の高さ。以前はテンション面も考慮して2000以下の馬と見ていたが、この落ち着きなら来年のドバイも楽しみ。

まー、宝塚はちょっと微妙。たぶん数字は落ちる。適性があると思っていた安田記念も、ここまで落ち着いているとむしろ短い可能性がある。秋、アメリカ遠征なんかで見たいんだけどね。使うとジャパンC使えないのがネック。


3着ヴェルトライゼンデは有力馬の中で最もスムーズな競馬をしたと言っていい。レース後レーンが「満足いく競馬ができた」と言うのも納得。

ダービーなどもこの馬の操縦性の良さが目立ったように、元々立ち回りは上手い馬。それに加えて左回りは手前変換もスムーズ。内有利の馬場も味方して全てが向いた。

デキも良かった。前走オールカマーと同じ494kgだったが、パドック映像見比べると締まり方が違う。オールカマーの前に牧場でトラブルがあって調整が遅れてしまい、オールカマーは仕上がり途上。

使った効果、そしてこの中間順調だったことで、状態は雲泥の差。「生涯最高のデキでは」と陣営も言う気持ちは分かるよ。屈腱炎経験馬で、坂路中心の仕上げに変わったのに、それでも馬をここまで仕上げた陣営が凄い。

まー、レーンは「ペースは遅かったが手応え良く走れた。直線でスペースが開くのを待たされましたが、すごい瞬発力で伸びてくれました」と言っているが、スローの上がり勝負がこの馬のポテンシャルを最も発揮させるレースか、というと疑問は残る。

本来もう少し厳しい流れで、上がりが掛かるほうがより良かったのでは?という気もしないでもない。

ただ一つ言えることは、これで左回りが1.1.2.0になったように、左回りのほうがより信頼できるということ。有馬記念に出てきても展開次第、それこそ内目の枠で立ち回りたい。

当分左回りの中長距離重賞がないんだよね。日経新春杯?ハンデ戦だからね。単まで狙えるレースは金鯱賞くらいまでないかもしれないね

4着デアリングタクトは先ほど書いたように、前が壁になった分脚が溜まった影響は少なからずあった。そして1コーナーでヴェラアズールにポジションを取られてしまったことで、後手に回ってカラテの後ろから選択肢がなかった点も痛い。

ただし、結果だけ見たらこれなのだが、繋靭帯炎になった馬が中1週でここまで走ったことに敬意を表したい。道中のポジション、進路がもう1段階違ったものであればより上があった可能性はあるわけで。

ここ2走は枠順の不利も大きかった。オールカマーはイン圧倒的有利の中外を回った影響があり、エリザベスは外外決着の中で内枠だった。能力をフルに出せていたとは言い難い。

加えて馬体重。今回は484kgで、エリザベスから2kg減だった。たかが2kgだが、パドックツイートで名前を挙げたように、体は数字以上に締まっていた

●デアリングタクト これまでの馬体重成績(今回は484kg)
462kg~470kg 4.1.1.0
472kg~480kg 1.0.2.0
482kg~490kg 0.0.0.3

復帰後ヴィクトリアマイルが+22kgの486kgで6着、1度叩いた宝塚が-6kgの480kgで3着。

休み明けのオールカマーが+4kgの484kgで6着、前走エリザベスは+2kgの486kgで6着。

4歳春まで470以下で走っていた馬。繋靭帯やってから調教で強引に絞り切れなくなった影響は感じていた。それが今回、レース間隔を詰めることで、エリザベスより馬体がスッキリしていた。2kg減でも大きかった。そういう意味では間隔を詰めるギャンブルに出た価値はあった気がするね。

もちろん繋靭帯をやっている馬だから、出否に関しては陣営も慎重に考えたはず。反動で再度傷めるようなことがないことを願うばかりだね。明らかにフットワークも小さくなっていて、全盛期のデアリングタクトが戻ってくる可能性は低いと思うが、それでここまで走れてしまうのだから地力はさすが

5着ダノンベルーガは結論から言ってしまうと、距離だろう。陣営とも「ちょっと距離が…」という話になったように、今ベストは2000。2400は乗り方、展開による。

●22年ジャパンC 2:23.7 36.3-34.2
12.8-11.2-12.3-12.5-12.3-12.2-12.4-12.1-11.7-11.4-11.3-11.5
前半1000m61.1

前述したように、前半1000m61.1はジャパンCにしてはスロー。中盤12.2と一度締まりかけた後に12.4とペースは上がり切らなかった。ペース的にはギリギリの範囲だったと思う。

ただこれも前述したように、3コーナー前からユーバーレーベンに締められ続けていた。プレッシャーも厳しい。かといって4コーナーまで動かないと、馬場的にもインが有利な中、上がり勝負で外から追い込むのも難しい。残り800前後から川田が動き出したのは、ペース、展開を考えたら妥当なところだと思う。直線の不利がなくても着順は変わってない。

それでも最後、残り200m付近で完全に止まってしまった。これはもう距離の止まり方。内枠でインで脚を溜めていたらまた違っただろうが、外枠を引いた時点でダノンベルーガをインに持っていくのは難しい。

では天皇賞秋3着だったことも踏まえ、最初から2000m路線にこだわれば良かったのでは、という話になるかもしれない。実際香港カップの招待はあった。

ただ香港シャティンは右回り。今回もパドックで右トモを引きずるように歩いていたように、右トモに不安のある馬。右回りより左回りのほうが圧倒的にいい。天皇賞秋の回顧に書いたように、香港はレース前のメディカルチェックがかなり厳しく、せっかく輸送しても出走させてもらえない可能性すらある

2400mと多少距離が長くても、左回りのジャパンCを選ばざるを得なかったのだ。これはもう陣営もレース前から覚悟していてのこと。

収穫だってある。これまでダノンベルーガは間隔をここまで詰めて使ったことがない。詰めた時にどう調整すればいいか、ノウハウが溜まった点はこの先に繋がる話。パドックで馬体面は前走より良かったが、右トモのひきずり方は天皇賞より悪かったあたり、もう少し間隔を開けたほうが使いやすいね。

レーティングを考えるとたぶん来年の春、左回りメイダンのドバイターフから招待状が届くはず。1週前の調教に乗った英国紳士が騎乗することにになると思うが、適距離だったら粘りも変わってくる。見直したいね。

6着グランドグローリーは、レース後ギュイヨンが「最終コーナーを回ったあたりから前が詰まって、思うように乗ることができませんでした」と言っているように、スローで何度か詰まっていた。

実際4コーナー前もユーバーレーベンが外から締めたことでダノンベルーガが動けず、その斜め後ろにいたグランドグローリーも動けなくなっていた。それを考えればよく差していると思う。

まー、最初からこの展開を想定して、ギュイヨンが1コーナー前に内枠から外目に持ち出そうとしていたあたり、動かしてからトップスピードに乗るまで時間が掛かるんだろうね。枠はヴェラアズールより内だっただけにヴェルトライゼンデの後ろに入る資格はあったと思うが、それをしないあたり、ギュイヨンなりの理由があるんだろう。

今回で引退。今後は社台ファームで繁殖入りする。現役時代の実力はもちろん、硬い馬場への適性の高さ、そして何より血統背景から楽しみ。

グランドグローリー 血統表

グランドグローリーの曾祖母Light of Hopeは、名種牡馬Alzaoの5歳下の全妹にあたる

グランドグローリーは父方にAlzaoを抱えていることから、Alzao×Light of Hope3×3の全兄妹クロス、Lady Rebecca4×4の牝馬クロスという凝った配合を持っているんだ。

架空配合 コントレイル×グランドグローリー

これが大きい。なにせディープインパクトの母父がAlzao。ディープはもう亡くなったから無理なんだけれど、ディープ系の種牡馬を交配すると、Lady Rebeccaの5×5×5の牝馬クロスが誕生する

ディープ系なら何をつけてもこうなる。いい繁殖になりそうだね。産駒を楽しみにしておきたい。

8着カラテはよく頑張った。初めての2400で2:24.4で乗り切り8着は健闘と言っていい。以前と比べて全体的にズブくなっているため、もうマイラーではないね。

ただ明良が「少し真面目過ぎる」と言っているように、2400だとハミの掛け方が難しい馬だろう。現状1800~2000くらいがベスト。体重が増えなければ中山記念で買いたいかな。大阪杯は枠次第。

爪の形にかなり問題のある馬。関東にいた頃もかなり苦労していたのに、パドックでは天皇賞から更に状態が上がっていることが伝わってきた。この馬を一段階上げられる助手さんはさすが。キセキなどを仕上げた職人の腕を改めて実感したね。

10着ユーバーレーベンはイン有利馬場の外枠、外から早めに動く形で、しかも動くところのペースアップにより中途半端なポジションになってしまったのが痛い。

ポジションとしてはダノンベルーガとそこまで変わらないが、ダノンの更に1頭分外、しかも早めに脚を使ってる分、止まるのは早い。

以前回顧にも書いたが、気性的に馬群を突けない馬。現状これしかできないからどうしても馬場、展開の助けが必要になる。イン有利馬場で前半1000m61.1では難しい。

せめて外差し馬場ならまだ話は違うと思うんだけどね。現状、条件が綺麗に揃うことが少ない。京都記念も来年は阪神開幕週だし、金鯱賞は2000mと短い。適性の合うレースが国内に少ないのが難点。

一度脚をやってから仕上げも難しくなった中、今回はここ最近で一番状態は良かった。追い切りもここ2走に比べたらだいぶいい。ただ予想にも書いたが、この馬の本当にいい時を俺は見ている。もっと上がある。今の脚の状況で、状態を更に上げられるかが今後の課題。

11着ハーツイストワールはペースを考えると止まるのも早い。武さんがレース後「思い通りのレースができました。一瞬、抜け出しかけましたが、さすがにここは相手が強かったですね」と話しているように、力負けと考えていいだろう。

左回りだと本当に行きっぷりが違う。この先左回りの2000以上の重賞となるとダイヤモンドS、金鯱賞、新潟大賞典、目黒記念と続く。

ちょっと短い気もするが、最短で金鯱賞かな、狙えそうなのは。3400mはちょっと長そう。目黒記念はハンデが57kg以下で内枠なら買いたい。

14着テーオーロイヤルはもったいないな。今回中2週で使ってきたが、有馬記念まで待ってほしかった。さすがにオールカマー→アルゼンチン→ジャパンCと短期間に使い込んで上積みが薄い。

オールカマーはイン有利レースで外を回り5着、アルゼンチンはテンションが高く、加えて不利まで受けてしまってほぼノーカンなんだけど、それだけに少し開けて有馬記念を使ってほしかった。今回はテンション面はおとなしかったが、次、有馬記念も使った場合、より上積みがあるとは現状とても思えない

だいぶ馬が良くなってもうGIでも足りるレベルになっているだけに、この秋の使い方に関して疑問は残る。休ませてダイヤモンドかな。ハンデ重くなりそうだけど。いい馬だから立て直された姿でまた楽しみたい

さて、今回の回顧で最後に取り上げるのは勝ち馬ヴェラアズール。ここまでなんと1万8000字、カメルーンが先制点を決めた。

ずっとサッカー見てるなコイツと思われるかもしれないが、さっきまで昨日録画していたサザエさんを見ながらこの文章を書いていた。

話を戻そう。ヴェラアズールの最大の勝因は、やはりムーア。8割ムーアと言っていい。

もちろん馬は相当強くなっているのだが、テンがそこまで速くない馬で、1コーナーで内からあそこまで出していって折り合わせるジョッキーはムーアくらい

1コーナーでポジションを取れたことで、4コーナーから直線にかけて、狭くなりながら捌くことができた。レース後「位置取りも良いところがとれましたし、塞がってしまったときは心配してしまったのですが、道が開いてからはうまく縫っていくことができました」なんて簡単に言っていたが、普通あんな捌き方できないんだよ。

中には危ない騎乗は上手いとは言えない、なんてご意見も目にしたんだけれど、パトロールを見ても他馬を巻き込むような動きはほぼない。あのスペースで立ち回れていることが、割と信じられない。本人も自分の技術に絶対的自信があるからやっている

個人的にムーアの日本のGIでのベストライドは17年チャンピオンズCのゴールドドリームだと思っていたが、今回更新。素晴らしい騎乗、この一言に尽きる。

レース前は、他の馬のこともよく調べました」と話しているように、研究も怠らないのが強い。ヴェルトライゼンデの後ろにつけたということは、ヴェルトライゼンデの実力を把握していた裏返し。実際3着に粘るレベルの馬で、その後ろのポジションが最適解だったことを本人が証明している。

技術もすさまじく、追いだしてから上半身は激しいアクションなのに下半身がまるでブレない安定した体幹、重心。どちらも兼ね揃えたジョッキーが研究まで熱心にやってきたら強いよ。クッパが赤本過去20年分何周も解いて東大を受験するようなもの

もちろんムーアの技術についていったヴェラアズールも立派、能力がないとこのレースはできないからね。ムーアもレース後「跨ったときから、感触はとても良く感じていました」と言っているように、能力を感じたからこそ1コーナーで早めに動いてポジションを取りに行った。

WIN5新聞に書いたように、今回のマスクの◎はヴェラアズール。根拠となったのは2走前のジューンSの内容だった。

●22年ジューンS(3勝クラス)
13.1-12.0-13.2-13.1-12.4-11.9-12.2-12.1-11.4-11.2-11.3-11.8

序盤緩んだとはいえ、残り1400mから11.9が入る厳しい流れ。なのにラスト800mから11秒台前半が連発され、ラスト1Fも11秒台。非常に優秀な数字だ。

実際2着のブレークアップは今月頭にアルゼンチン共和国杯1着。この時点でヴェラアズールをジャパンCで本命にすることは決めていた。本当に強くなった。

直線、内から突き抜けた姿に、天皇賞で内から突き抜けた父エイシンフラッシュの姿を重ね合わせた方はいるんじゃないかな。マスクもそんなうちの1人さ。

5歳1月までダートを使われていた馬が、5歳3月から芝路線に移って、その年のジャパンCを勝つ、こんなことはもうないかもしれないね。新聞の6走前に濃尾特別6着なんて書いてあるジャパンC勝ち馬、今後出てこないのではないか

ずっとダートを使っていたのは大型で、脚元に不安があったから。ダートのほうが芝よりまだ脚に負担は掛からない。それこそデビュー前に骨片摘出手術をして、何度も歩様が乱れて3歳3月のダートデビューになった馬。とてもではないが、若い時に芝は使いづらい。

パドックを見ていても、柔軟で、前脚が大きく前に出る歩き方をする。見た目で芝のほうがいいのでは?と思うような歩き方なんだから、乗っているスタッフさんたちはより芝向きだと感じていただろう。

それでも若いうちは我慢してダートを使い続けた結果今がある。もっと早く芝を使っていれば…なんていうご意見もあったんだけどね。まったく賛同できない。もし3歳時に芝使ってたら高確率で脚は壊れていた。馬体の上のほうはオープン馬なんだけど、下のほうはもう怖くて見られないくらい怪しい。

トールポピーやアヴェンチュラの甥として血統背景はいいが、母ヴェラブランカも現役時代仕上げにくそうだったのを思い出すね。池江パパ厩舎にいた馬で好きな馬体だったんだけど、結局7戦しか使えなかった。

産駒はなかなか中央で勝てず、産駒の中央初勝利は5番子テイクザヘルム。なかなかいい馬だったが、屈腱炎となってキャリア4戦で引退してしまった。アドマイヤサンデーの牝系は脚元の故障が本当に多い。

テイクザヘルムの1つ下の半弟がヴェラアズールさ。母ヴェラブランカも走る馬が出せずに2年前に繁殖セールでノーザンから外に出てしまった。

だからこそ血統背景がいい割に預託先がリーディング上位厩舎ではなかったのかもしれないが、待てる調教師に巡り合えたことがこの馬にとって何よりの幸運だったのかもしれない

今後も脚元が怖いが、まだ底が見えない。ここからもう一段上があるかもしれない。中山が合わないのは4走前に証明済だから来年春以降も広いコースを狙って使うだろうが、ドバイでも楽しみなくらい、今強くなっている

渡辺薫彦と言えばジョッキー時代、ナリタトップロードとのコンビでお馴染み。振り返れば2001年のジャパンCに挑んだが、ジャングルポケット、テイエムオペラオーといった強豪に敗れて3着だった。京都大賞典の落馬競走中止明けでね。懐かしい。翌年のジャパンCは乗り変わりで鞍上にいることもできなかった。

あれから21年。渡辺薫彦が調教師としてジャパンCの舞台に戻ってきて、タイトルを獲得するなんて当時、誰が想像したか。

21年前の忘れ物を取った馬は、調教師同様苦労を重ねて初めて大舞台にたどり着いた馬だった。これもまた、不思議な縁を感じるよ。競馬は不思議な縁に満ち溢れている。

あ、カメルーン追いついた。




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