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23年天皇賞秋を振り返る~天覧競馬で完成形となった『天才』~

前回の天覧競馬はよく覚えている。2012年、エイシンフラッシュが勝った天皇賞秋の話だ

ちょうどマスクも検量前に詰めていたレースだったんだよ。東京競馬場ってのは取材スペースからちょうど真正面にモニターが設置されているんだけど、そこに映るデムーロの最敬礼は感動的なものだった

振り返れば、05年、ヘヴンリーロマンスが勝った天覧競馬の天皇賞も生で観ていた。あの時も感動的な空気だったね。

余談だが、天覧競馬では勝ち馬に騎乗するジョッキーがレース後に陛下に最敬礼をするよう、レース前にJRAは騎乗ジョッキーたちにお知らせを行っている。今年は誰が最敬礼するのか、マスクの日曜の楽しみでもあった。

さて、この2回の天覧競馬の天皇賞秋だが、レースの中身はまるで違う

05年 ヘヴンリーロマンス 1000m通過62.4
13.4-11.5-12.1-12.5-12.9-12.3-11.8-11.0-11.2-11.4

12年 エイシンフラッシュ 1000m通過57.3
12.5-11.2-11.1-11.2-11.3-11.6-11.8-12.0-12.8-11.8

最初の天覧競馬は1000m通過62.4の超スロー。対して2回目の天覧競馬は1000m通過57.3の超ハイペース。5.1秒差、まるで違うレースなんだ。1秒5馬身計算だと、25馬身以上の差だ。そう考えると相当差は大きい。

さすがに今年、どちらか極端なペースになるとは思わなかったが、どっち寄りのペースになるのか、予想する上でまず考えたところだ。ペースはレースの設計図だからね。

鍵を握るのはジャックドールだったと思う。今年の大阪杯を逃げ切った馬だが、昨年の天皇賞秋は4番手追走と、逃げたパンサラッサを自由にし、何とも中途半端な形になってしまったのは記憶に新しい。

今回は11頭立て。ジャックドールが引いたのは10番。内の馬に行かせるか、自分が行くかでペースが変わってくる。05年型か、12年型か、どちらになるかはマスクの最大の注目ポイントだった。

しかし何から書いていいか迷うレースだな。ドウデュースが突然乗り替わった話もしないといけないし、歴史的なラップになった話もしないといけないし、そもそもこの記事はパトロールを中心に振り返る記事だし。

まー、やはり前振りでラップの話をしていること、そして歴史的な一戦になったことを考慮して、ペースの話から進めていこう。

☆23年天皇賞秋 1:55.2
12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7
前半1000m 57.7
後半1000m 57.5

フタを開けてみれば、ペースとしては12年型に近いほうだった。マスクはややスローで予想を書いたんだけれど、あざ笑うかのようなハイラップさ。

57.7という前半通過は、2000mとなってからの天皇賞秋としては7番目に速いタイムだ。56秒台通過なんていうレースもあるから、決して超ハイペースとは言い難いが、速いことに変わりはないだろう。

57.9以内通過の天皇賞
92年 57.5 レッツゴーターキン 14-12-12
98年 57.4 オフサイドトラップ 3-3-2
03年 56.9 シンボリクリスエス 8-8-7
11年 56.5トーセンジョーダン 11-10-11
12年 57.3 エイシンフラッシュ 11-12-12
22年 57.4 イクイノックス 10-10-9

23年 57.7 イクイノックス 3-3-3

おかしいのはこれだ。過去の1000m57.9以内通過の天皇賞は基本的に後ろの馬が勝ってきている。トーセンジョーダンがレコードを作った時もそう。前回の天覧競馬でエイシンフラッシュが抜けてきた時もそう。そりゃそうだ、ペースが速いんだから。

するとオフサイドトラップが相当強いことになるのだが、この年はサイレンススズカが大逃げを打って、かわいそうなことになった年。

改めて映像を確認しても、大逃げしている白サイレンススズカと黄オフサイドトラップのいるあたりとはこれだけ差が離れている。

逃げたサイレンススズカのラップは57.4通過ではあるが、オフサイドのあたりはもう1000m通過が60秒を超えている。

大体天皇賞秋がハイラップになる時はシルポートのような馬が飛ばしたりして後ろの馬が来るというのがお約束なんだ。しかし映像が古いなあ。さんまのナンでもダービーくらい画質が粗い。時代を感じるよ。

サイレンススズカの1000m通過が57.4、今年のジャックドールが1000m通過57.7。0.3秒しか違わない。

それが今年、桃ジャックドールと3番手の緑イクイノックスとの差はこれしかないのだ。さっきのオフサイドトラップの画像と比べてみてくれよ。比較にならないほどの差がついているのが分かる。

22年天皇賞秋
12.6-10.9-11.2-11.3-11.4-11.6-11.8-11.6-12.4-12.7
1000m 57.4

23年天皇賞秋
12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7
1000m 57.7

ペースが速かった昨年とも比べてみよう。逃げたのはパンサラッサだった。

一応逃げ馬とイクイノックスの位置関係を分かってもらうために、逃げ馬だけでなくイクイノックスにも矢印を入れた。

昨年と比較すると、ペースは0.3秒しか違わないのに馬群が詰まっていることが分かる。今年はみんな逃げ馬を追いかけているのだ

53秒地点、3コーナーを正面から見てもこんな感じ。ペースからすると0.3秒の違いしかないが、2番手以下のペースは今年のほうが断然速い

当たり前の話だが、前半早く走るほど後半早く走れない。全体的なペースがこれほど速いと、断然後ろ有利になる。

23年天皇賞秋 11頭立て
1着イクイノックス 3-3-3
2着ジャスティンパレス 10-10-10
3着プログノーシス 11-11-10
4着ダノンベルーガ 8-7-7
5着ガイアフォース 2-2-2

…当然後ろ有利になる…はずなんだけどなあ。後方2番手にいたジャスティンパレス、最後方のプログノーシスが差してくる中、1頭、3番手から勝ってしまう馬がいるらしい。いや、UMAがいるらしい。

ここからはこのUMAの進路取り、そして周りの進路取りについてパトロールを見ていこう。

天皇賞秋 出走馬
赤 ③ドウデュース 戸崎
青 ④ダノンベルーガ モレイラ
黄 ⑤ガイアフォース 西村淳
黒 ⑥ジャスティンパレス 横山武
緑 ⑦イクイノックス ルメール
橙 ⑨プログノーシス 川田
桃 ⑩ジャックドール 藤岡佑

スタート後。細かいところだが、緑イクイノックスルメールの細かな気配りが見える。

お分かりだろうか、黄ガイアフォースとの間、緑丸の部分が1頭分空いている。ここを仮に開けずに行くと、外から桃ジャックドールに締められた時に不利を受け、ポジションが1、2列下がってしまう可能性がある。

それを避けるため、あえて最初に1頭分だけ開けて、外に張るように回るわけだ。ジャックドールも内を締めていくことで、真ん中にいたヒシイグアスが若干挟まれるような形になる。

こんな感じだ。桃ジャックドール、緑イクイノックスの間にいたヒシイグアス松山が、行き場をなくすような形になって少し立ち上がっている。

まー、この程度で裁決にはかからないし、松山は回避するにはジャックを張るために出していかないといけない。でもヒシイグアスはそういう馬でもない。回避のしようがないから仕方ない。

ここで緑イクイノックスが外を張ってくれたことで、その内、赤ドウデュースは楽な形さ。想像してみてほしいんだけど、イクイが内を開けずに締められた場合、その後ろにいるであろうドウデュースも巻き込まれる可能性がある

イクイが内を開けたことで、自分の前のスペースが開く。そういう意味ではここまではドウデュースもいい運び方だったと思う。

ここでポイントになってきそうなのが、ドウデュースの鞍上が直前で戸崎に変更されてしまった件だ。

5Rの後、武さんが騎乗したブラックライズが検量室前の枠場で暴れてしまい、思い切り蹴られてしまって騎乗不可になったのは陣営にとっては誤算だろう。もちろん競馬だから何があるか分からないのだが、それにしてもこんなところで乗り替わるとはなあ。

ドウデュースという馬は、それこそプログノーシスのようにスタートしてから急かすと終わるとか、そういう類の極端な難しさはない。戸崎のような技量のあるジョッキーを確保すればある程度走れる。

ただしこれまで武さんしか乗ったことのない馬で、『どのタイミングで仕掛ければ最後まで脚が持つか』は実戦で乗ったことのある武さんしか分からない。

もちろん先入観なく乗れるというテン乗りのメリットはあるが、このクラスでは『その馬を知っているか』も大きな要素になってきてしまう。

そのため戸崎は無難に行くしかない。これで近走のように後方から進めたとしても仕掛けどころが判別できず、脚を余すor早めに脚が上がる可能性があるからね。

そのため選択されたのが緑イクイノックスの真後ろでマークするという戦法だった。いわゆる『強い馬の後ろ』。

これについて新たに長く語っていると日をまたぐから省略するが、イクイノックスの後ろというポジションは考えられる上で最高で、これ以上ない。

当然強い馬の後ろというポジションは、赤ドウデュースの後ろにも同じことが言える。ドウデュースの後ろに青ダノンベルーガがついていき、その後ろに黒ジャスティンパレスがついていって、亀田トレインのような隊列が形成された

するとイクイノックスが亀田史郎ポジションにあたるのだが、これについて書いていくとまた長くなりそうだから省略する。

ダノンベルーガのモレイラとしてはラッキーだよね。亀田史…もとい、イクイノックスの後ろが理想だったろうが、取れなくてもドウデュースの後ろなら文句はない。

問題はその赤ドウデュースが平常心で競馬できなかったことだ。映像で見たほうが断然分かりやすいのだが、この画像を見ると、騎乗している戸崎のバランスが少し悪くなっているのが分かるだろうか

掛かってるんだよな、これ。戸崎が引っ張って、何とか折り合いをつけようとしている。序盤だいぶ手間取っていたんだ。

7着ドウデュース戸崎騎手
「スタートは上手に出てくれたし、思ったより前に行けてイクイノックスを見る形で運べました。ただ、道中力んでいる感じがありましたね。それが最後に影響したように思います。もう少しリラックスさせてあげればよかったですね」

その通りだよね。スタートは上手く出たし、行き脚もついてイクイノックスの真後ろを取れた。しかしここで掛かったりと今日は落ち着きがなかった。

まー、休み明けだしね。ドバイもレース前に取消になって、ガス抜きできていない状況。たぶん武さんが乗っても掛かっていた可能性があるから、これは仕方ない。もちろん武さんが乗っていたら折り合っていたのか、それは気になる。

しかし今年はハイペース逃げに後ろがついてきたなあ。

23年天皇賞秋
12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7
34.9-34.7

向正面の入口のあたりだからこの太字の部分。前半3Fが34.9、これはここ10年で2番目に速い。なのに真後ろに黄ガイアフォースがピタリとくっついてきて、緑イクイノックスがこの流れなのに大して離れていない3番手。ジャックドールにとってはしんど過ぎる。

11着ジャックドール 藤岡佑騎手
「離すつもりがついて来られてしまいましたね。速い勝ち時計の中、アグレッシブに行った結果なので仕方ありません」

まー、気持ちは分かる。せめて昨年のパンサラッサくらい後続を離して逃げたかったんだろう。

藤岡の思考の考えられる理由
1.イクイノックスとドウデュースの存在
2.昨年の天皇賞秋の思い出

イクイノックスとドウデュースがいる限り、他馬のジョッキーは間違いなくこの2頭を意識する。この2頭に意識が向けば後ろは動きづらくなるし、そうすれば前で立ち回る利が生まれる。予想にもその可能性については書いた。

加えて藤岡の頭にあったのは昨年の天皇賞秋の記憶だろう。昨年の天皇賞秋ではパンサラッサを行かせ、自身は4番手。上がり3F33.5を使うも4着止まりだった

まー、相当叩かれた。俺も回顧に書いたように、あれがジャックドールの良さを生かせる騎乗とはとても思えなかった。実際ヨーイドンから上がり3F33秒台を使って勝負する馬ではないからね。

その分藤岡も今回攻める騎乗をしようという心づもりだったと聞いている。逃げて、ペースをそれなりに上げたこと自体はマスクは妥当な作戦だったと思う。

22年白富士S
12.8-11.3-11.8-11.8-11.7-11.8-11.5-10.9-11.4-12.4
600m通過 35.9
1000m通過 59.4

23年天皇賞秋
12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7
600m通過 34.9
1000m通過 57.7

コースの違いはあれ、東京2000mの白富士Sを逃げ切った時のラップと比較すると、今回の速さが際立つ。

まー、同じラップで逃げられるとは藤岡も思っていなかったろが、600m35秒前半、1000m58秒中盤~後半ならもう少しやりようがあったんだろうがね。

まさか藤岡もこのペースでここまで付いてこられるとは思わなかっただろうなあ。今年の天皇賞を左右したのは2番手の西村の思考が原因だったところもある。

5着ガイアフォース 西村淳
「勝ちに行くレースをして思った通り乗ることができました。4角を回ってどれだけリードを保てるかでしたが、勝った馬が強かったです」

西村の思考としては、ジャックドールが強気に逃げたところにくっついていって、直線早めに抜け出して位置取りのアドバンテージを生かす、というパターンだろう。

さっきの藤岡の思考と一緒だよな。『イクイノックスとドウデュースの存在』がある。この2頭が後ろで牽制し合えば、その分前が残るという算段だ。

この作戦を成立されるには後ろとの距離を開いて直線に入らないといけない(溜めると後ろに捕まる)わけで、西村に引くという選択肢がない。

藤岡、西村の思考は痛いほどよく分かるのだが、この2人の誤算は無慈悲イクイノックス地獄の3番手だろうな。先行するとは事前にルメールが示唆していたが、イクイノックス自身の1000m通過は58秒前半。例年の天皇賞であれば逃げているようなタイムだ。

おかげでこの前2頭は相当厳しいレースを強いられることになってしまった。まー、逃げ馬はこういうリスクもある。仕方ない。3番手に鬼がいた

そうなると後ろ有利だよ。

23年天皇賞秋 
1着緑 イクイノックス 3-3-3
2着黒 ジャスティンパレス 10-10-10
3着橙 プログノーシス 11-11-10
4着青 ダノンベルーガ 8-7-7

3コーナーで後ろにいる馬たちが上位を占める中、なんでこの形で3番手の馬が勝ったんだろうな。3番手の馬、表記がUMAでいいと思う。

後ろの馬にも見どころはあった。4コーナーの入り口で黒ジャスティンパレスの外から、橙プログノーシスが動いていったんだ。ジャスティンにフタをするような形だ。

ペースを考えればプログノーシス川田が動くタイミングは少し早い気もするが、ならここで追い出しを待ってイクイノックスを交わせていたかというと、それはないだろう。

もう1点、仮に動かずに先に黒ジャスティンパレスを行かせていたとしたら、橙プログノーシスは更に外を回されることになる。

相手がイクイノックスというUMAである以上、1頭分のロスも削っておきたい。その分黒ジャスティンパレスの先手先手を打って動いたやり方は納得感はあるな。

先に動かれた黒ジャスティンパレスの前には、微妙に1頭分ないスペースが空いている。これがもう少し空いていれば話は変わったろうが、ジャスティンパレスは一瞬で小さなスペースを割ってこれない

それも踏まえて黒ジャスティンパレス武史は外に動いていったら、元いたポジションの前が思い切り空いてしまった。まー、最初のスペースをスムーズに突き抜けていたとして、イクイノックスを逆転できたとはとても思えないがね。

ゲートがうるさいと聞いていたので対策をしましたが出遅れてしまいました。でもペースが速くて結果的にいいポジションでした」と武史が言うように、不幸中の幸いのようなレース。

前回の天覧競馬がハイペースになったとは冒頭書いたが、あの時の勝ち馬エイシンフラッシュ、2着フェノーメノ共に、京都3200mの天皇賞春でも好走歴がある。スタミナが生きたとも言える。

まー、上がり3F33.7を使っているように、単純にスタミナを生かしただけでもない。杉山師が「個人的には中距離馬だと思っている」と言うように、本質的に一番合うのは2000~2400で断続的な流れになった時に脚を使う形なのかもな。フィエールマンに少し近いところがありそう

まー、ジャパンCにジャックドールはいないだろうから、ペースが少し落ち着きそう。緩急ある流れだとモタつくところがあるから、この先のレースもペース次第にはなりそう。フィエールマンが好走した条件で買っていく馬かもね。


3着プログノーシスはほぼほぼ出し切っているのでは。前述したようにスタートから急かすと良くない馬で、どうしてもテンから後ろになってしまう。ペースに左右されるところがあるのは仕方ない。

序盤を上手くクリアできればGIに手が届いてもおかしくないだけのポテンシャルはある。たぶん次は香港になるだろうが、来年春はオーストラリアなんていうプランもありかもしれないね。芝は合いそう。

4着ダノンベルーガは今日も右トモが怪しかった。もうこれは今後治ることはないだろう。このトモの問題がある以上、獣医診断が厳しい香港に行っても絶対弾かれる。

今日はポジションも取れた。前に置いていたドウデュースが思ったより伸びなかったのはモレイラとしてもやや誤算だったろうが、ほぼほぼスムーズだし現状出せる力は出たという判断

まだデキは8割程度。ここから更に良くなる。あとは次のジャパンCでどこまで戻せるか、そこに尽きる。昨年より少しズブくなってきたところがあるから、2400は決して長くない。まー、単は厳しいだろうが、相手候補。左回りであとはデキ次第という馬

5着ガイアフォースは前述したように、西村の思考もあってかなり強気の競馬。ペース、ポジションを考えればよく粘っている。相当強い競馬をした。断続的に流れるワンターンは安田記念でも僅差の4着があるように、この手の流れに適性があるのもいい。

加えて今日はデキも良かった。脚に不安のある馬がついにコース追いができたように、少しずつ脚が固まってきて、持っている能力を出せるようになってきた

セントライト記念を勝っているとはいえ、本質は2000以下。2000以下である程度ペースが流れるレースで、そして馬場が大して荒れてない時が狙い時になる。

今後使える条件で買い候補になってくるのは中山記念。開幕週で断続的に流れる1800は合いそう。コース追いを始めてこれだけ負荷掛かるレースをやっただけに反動が心配だが、無事なら。

6着アドマイヤハダルは展開利もあっての結果ではあるが、よく走っているほうだろう。以前一度脚を壊しているだけに再度爆発する危険性はありそうから、脚次第ではある。

ただこの馬のいいところは、3歳春に若葉Sを勝って以降、オープン特別で2着3回、重賞で3着2回と、微妙に収得賞金を積んでいないところ(収得賞金はオープン1着、重賞2着以内でないと積めない)。

このおかげで、別定の重賞だとほぼ基礎斤量で出られてしまう。オープン特別もそう。ハンデではない重賞なら有利な立場だから、1800~2000の別定で狙いたい。中日新聞杯はハンデ戦だし、ディセンバーSかな。

先に11着のジャックドールの話からしようか。昨年の件なども伏線になってペースを刻んでアドバンテージを取ろうとしたのだろうが、これだけついてこられたらもはや仕方ない。

だって後ろ振り向いて、2番手のガイアフォースの西村に「ついてこないでください」と言うわけにはいかないだろう。それで西村が「はい分かりました」って言って下がっていったら、それはそれで変な話さ。

気になるのは藤岡の「メンタル的に以前より踏ん張れなくなっているのかなというのは少しあります」というコメントだ。ついてこられて苦しいペースではあったが、それにしても手応えが悪くなってから下がるのが早過ぎる。気持ちの問題の影響は確かに感じる。

元々一戦ごとに完全燃焼して走り切るタイプで、だからこそ詰めて使えない。そんな気持ちで走る馬が、気持ちが減退しちゃったら当然成績は出ないよね。

母父がアンブライドルズソング。父アンブライドルズソングのクリームソーダが昇級してからプッツリと気持ちが切れたように負けていたことがあったが、少し母系の影響を感じなくもない。

対応策としてもう少し短い距離を使う、なんていう手もあると思うが、左回りのほうがよりいい馬。左回りの1800以下で使えるレース、当分ないんだよね。少し長い間、静観したほうがいいのかもしれないな


この先を考えなくてはいけないのは7着ドウデュースもそう。今日は見て分かるレベルで掛かっていたし、取消挟んで長期休養明けだけに酌量の余地がある負け方。これでガス抜きできればいいが、問題は『単純に馬が掛かるようになっていた場合』。

調教からそんな暴走特急になっている感じはないのだが、母ダストアンドダイヤモンズがダート1400mのGIで2着がある短距離馬。ダービー馬に2400mが長いなんて言いにくいが、この休養で本質的な適性が出てきて、2000でも掛かるようになってきた可能性も否定はしきれない。

この先マイルCSを使うなら別にそれでもいいが、今後ジャパンC、そして余力があれば有馬記念を使う予定になっている馬。

筋肉量も増えて、気性が前向きになってきた現在、2400m、2500mが持つのか疑問が残る。単純にガス抜きできてなかっただけならそれでいいんだが。

ダービーを勝った時とはイクイノックスもドウデュースも別の馬。もうあのダービーの時はこうだったから、として比較対象に持ち出して予想することはできないな。筋肉量も増えて、馬のシルエットは良くなっていたが…

さて、最後に勝った亀田史…イクイノックスの話をしよう。ここまで9200字。いつもよりだいぶ短い。いや、仕方ないよね。パトロールビデオも面白いかというと、そうでもない。

11頭立ての時点でしょうがないのだが、一番強い馬が自分からポジションを取って周りを囲まれなければ、そりゃパトロールが面白くなるわけがない

この『一番強い馬が自分からポジションを取る』という点が重要で、例えば昨年のダービーなんか、ハミが抜けて最後方から運んでいたり、有馬記念で掛かっていたりとか、気持ちをレースに合わせるのが難しいシーンが見受けられていた。

それがもう自分からハミを噛んで、ポジションを取って、3番手から横綱競馬ができるようになってしまった。このUMA、より弱点がなくなってしまったな。アンデッドアンラックのシールよりヤバいUMAになりつつある。

23年天皇賞秋
12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7

何度見ても笑っちゃうラップだもんなあ。1800m通過タイムがサリオスの東京1800レコードより0.6秒速いのは笑ってしまう

西村が攻めてジャックドールが11.4を4連発も刻んでしまい、普通なら3番手にいる馬は不利になる。なんて、もうこのUMAには関係ないもんね。11.4-11.7でラスト2Fまとめられたら他の馬は太刀打ちできない

22年天皇賞秋
12.6-10.9-11.2-11.3-11.4-11.6-11.8-11.6-12.4-12.7
1000m 57.4

23年天皇賞秋
12.4-11.0-11.5-11.4-11.4-11.4-11.4-11.6-11.4-11.7
1000m 57.7

昨年の天皇賞は10番手からの差し切りだったが、パンサラッサが12.4-12.7と最後止まったところを差している。

それが今回は速い流れを前で受けて、自分で11.4-11.7を作ってしまうんだから、もうお手上げ。昨年のイクイノックスが逆立ちしても、今年のイクイノックスを倒せない状況だ。

しかもこれでまだ状態はMAXではない。中1カ月でジャパンCを使うためにまだMAXで上げていない。ここで反動がなければ、デキは更に上がる。

昨年の天皇賞秋のデキが素晴らしかった馬。それ以上を見せてくるかもしれないし、仮にMAXでジャパンCを迎えたとして、相手がリバティアイランドときたらもう楽しみしかない。砂被り席で観たい好カードだ。

余力があれば年末も視野には入っているとのことだが、もうこの馬を見れるのはあと1、2回の可能性が高い。完全に完成形に入ったところで種牡馬入りするのは大歓迎でもあり、寂しくもあるね。

1:55.2か。俺が競馬を始めた頃の天皇賞秋は勝ち時計が1分59秒前後で決まる時代だった。あれから4秒も縮まった。4秒、約20馬身。飛躍的な進歩だよなあ。

以前から厩舎でも『天才』なんて呼ばれ方をしている馬だが、これほどまでに『天才』という言葉が似合う馬もそういないね。この馬だったら2000mで1分54秒台も出してしまう気がする

来月のジャパンCで今やもう馬とは違うUMAになりつつあるこの馬と、リバティアイランドが激突する。

タイトルホルダーがいいペースを刻めば、アーモンドアイが作った不滅のレコード2:20.6が破られ、異次元の2分19秒台なんて数字も見れるかもしれないね。こんな時代に競馬を見せてもらっていることに感謝の言葉しかない。

と、ここまで1万字以上書いてきたが、今回の天皇賞を天皇陛下がこれ以上ない一言でまとめてしまった。

すごいレースでしたね


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