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22年菊花賞を振り返る~次代のエースが見せた完璧な騎乗~
1957年、つまり昭和32年といえば、『ミスター』長嶋茂雄氏が巨人に入団した年であり、オール阪神師匠が生まれた年。今から65年前にあたる。
この年の菊花賞は混戦だった(らしい。マスクも生まれていないから詳細は知らん)。この年のダービー馬で皐月賞2着のヒカルメイジは屈腱炎で離脱中で、皐月賞馬でダービー2着馬カズヨシも菊花賞には参戦しなかった。
今年はこの1957年以来、65年ぶりに『春の牡馬クラシック2冠の連対馬が不在の菊花賞』だったんだ。ジオグリフは天皇賞へ、ドウデュースはフランスへ。桃太郎の冒頭みたいな流れだ。イクイノックスも天皇賞へ。
昔から『菊花賞は一番強い馬が勝つ』と言われるものだが、一体このメンバーで『一番強い馬』は誰なのか、頭を悩ませたファンは多いと思う。
●菊花賞 枠のポイント
— 金色のマスクマン(株) (@keiba_maskman) October 20, 2022
・ガイアフォースの最内は本当に好枠?
・ポジションの鍵はプラダリア池添の後ろ
・ビーアストニッシドは抑えが利くのか
・まくれそうなディナースタ
・ジャスティンパレスとセレシオン、仲良く8枠
木曜、マスクは菊花賞のポイントとして5つの項目を上げている。
そもそも今年の菊花賞は逃げ馬が少なかった。ビーアストニッシドは以前掛かり気味に行くことがあった馬。最近は抑えが利いているが、3000mだとこれがどうなるか分からない。
仮に飛ばして逃げてしまった場合、馬群は縦長になる。すると、インの好位にいるであろうガイアフォースや、その後ろにいるであろうプラダリアあたりが恵まれる。
対してビーアストニッシドやその他の馬が行かない場合、序盤か中盤はスローペースになる。すると、今回出走するディナースタがいつものようにまくるかもしれない。
まくると当然内の馬は1列分ずつ後ろに下がってしまい、ポジションが悪くなる。その影響を受けない外の馬が有利になってくる。
大きく分けて2パターンの展開が考えられたのが今年の菊花賞だったんだ。
先週の秋華賞は回顧にも書いたように、真ん中に人気馬、そして上手いジョッキーたちが固まったことによって、誰の後ろが有利とか、レースの展開を大筋で考えることができたんだよね。
今回の菊花賞に関しては行く馬の有無に応じて状況が変化する可能性が高かった。それでいて、冒頭に記したように春の2冠の連対馬3頭がまとめていない。予想難易度としてはここ10年の菊花賞でもトップクラスに難しいものだったのではないかな。
●菊花賞 出走馬
白 ①ガイアフォース 松山
紫 ②シェルビーズアイ 松田
桃 ③プラダリア 池添
黒 ④ボルドグフーシュ 吉田隼
水 ⑤ヤマニンゼスト 武豊
赤 ⑥ビーアストニッシド 岩田康
黄 ⑩セイウンハーデス 幸
緑 ⑪ドゥラドーレス 横山武
青 ⑫ヴェローナシチー 川田
灰 ⑬ディナースタ 横山和
橙 ⑭アスクビクターモア 田辺
銀 ⑯フェーングロッテン 松若
茶 ⑰ジャスティンパレス 鮫島駿
スタート。青ヴェローナシチーが出遅れてしまった。特段これまで凄くスタートが遅かったわけでもなく、テンション面も川田が返し馬を丁寧にやった分落ち着いていた。むしろ買っているこちらが油断していたのかもしれない。
何かサイドから馬が飛んできたとか、そういうわけでもなく、馬自体がよっこらせという感じでゲートを出た。重心が後ろに残ってしまっている。これでは出られない。
外パターン、1列目をヴェローナシチーとアスクビクターモアで迷い、ヴェローナにしてしまったマスクはこの時点で馬券を捨てた。まー、仕方ない。
スタート後、ポイントとなる動きを見せていたのが赤ビーアストニッシドのヤスナリの動きだ。
冒頭に書いたように、ビーアストニッシドは3000m持つのか、これはポイントの1つだったんだよね。相変わらずパドックからテンションが高く、返し馬も先出し。ヤスナリとしては、3000持たせるためになるべく好位のインでロスなく運びたい。
スタートしてから赤ビーアストニッシドが一気にインを締めながら先行したものだから、白ガイアフォースの行き場が狭くなって、馬の頭が上がってしまっている。
これが冒頭に載せた『ガイアフォースの最内は本当に好枠か』にかかってくる。ガイアフォースという馬はこれまでの5走中、3走で4コーナー2番手以内。好位で運びたいタイプだ。
父がキタサンブラックで母がダート重賞の活躍馬ナターレ、母の父がクロフネという血統背景からも分かるように、一瞬のキレ味というより、長く脚を使うタイプ。持続力を生かすなら早めに動きたい。
松山としてもこれまで5走全部に騎乗しているように、ガイアフォースがどういう馬かはよく分かっている。
●①ガイアフォース松山の理想
⑭
⑥
③ ① 逃
ーーーーーーーーー
内ラチ →
①ガイアフォース 松山
③プラダリア 池添
⑥ビーアストニッシド 岩田康
⑭アスクビクターモア 田辺
●現実
⑬
③ ⑭
① ⑥ ⑩
ーーーーーーーーー
内ラチ →
①ガイアフォース 松山
③プラダリア 池添
⑥ビーアストニッシド 岩田康
⑩セイウンハーデス 幸
⑬ディナースタ 横山和
⑭アスクビクターモア 田辺
一瞬でキレないガイアフォースとしては、エンジンを吹かしながら進出したい。そのためには勝負所ですぐ外に出せるようにしたいわけで、インの3番手くらいが欲しかったんだよな。
ところがテンはビーアストニッシドのほうが速い。理想は逃げ馬の真後ろだが、現実は逃げ馬との間にビーアストニッシドを挟んでしまったんだ。
図から察せるように、これだと簡単に外には出せない。松山は1周目向正面でかなり厳しい状況に置かれてしまった。
8着ガイアフォース松山「1番枠でしたし、しっかりスタートを決めて、もう1つ前のポジションを取りたかったです」
実際レース後、松山はこう話している。
スタートしてすぐ。横から見るとこんな感じ。白ガイアフォースがそこまで速くないスタートを切っていることが分かる。
もうこの時点で赤ビーアストニッシドが半馬身は前にいるもんね。これではビーより前には行きづらい。
ハナを切ったのは黄セイウンハーデスだった。今回が初ブリンカー。セントライト記念4着の際にも道中気を抜く素振りがあったことから、矯正馬具を使用してきた。
馬は草食動物のため視野が広い。後ろの存在まで見えてしまう。ブリンカーを着けると後ろと真横の視界を消すこともあって、スタート後一気に行ってしまう時が往々としてある。今回のセイウンハーデスもこのパターンだろう。ペースについては後程また触れる。
黄セイウンハーデスが一気に行ったことで、恵まれたのは橙アスクビクターモアだった。仮に赤ビーアストニッシドがハナだった場合、外の2番手がセイウンになって、アスクは外の3番手という形になりえるからね。
ビーアストニッシドが行かずにインの好位で抑えたことで、セイウンを行かせて楽に外の2番手を取れることになった。
アスクビクターモアは元々掛かりやすいところがある馬で、下手したらマイラーになるかもしれない気性、とまで言われていた馬。3000mを使うにあたって田辺が一番気にしたのは序盤、いかに楽に、スムーズに好位を取るかだったはず。
ここまでは田辺の理想通りに事が運んでいる。いや、ビーアストニッシドが行かずに抑えたことで、ガイアフォースたち内枠のポジションが1列後ろになったことを考えると、田辺の想像以上に事が運んだと言っていいかもしれない。
3コーナー前。ここで勝負を分けることになるポイントがやってくる。
冒頭に『ディナースタがまくれそう』と書いたTweetを載せた。ディナースタはここ4走連続でまくっている。切れ味勝負になると分が悪いが、持続力に関してはなかなかある馬。ワンペース気味でもあるため、中盤緩めばまくってきた。
ただ今回、灰ディナースタは序盤から先行したんだよね。レース後和生が「アスクビクターモアの後ろが取れ、一発あるならこの形だと思っていました」と話しているように、最初から先行策で臨むプランだったんだ。
和生としては、最初のコーナーで橙アスクビクターモアの後ろにいたままだと、更に外から先行馬がやってきた場合、外から締められてしまう。
前述したようにディナースタはワンペースだからこれまでまくっている馬。周りを囲まれて動けなくなってしまっては先行した意味がない。
それもあって、最初のコーナーの前に一旦、橙アスクビクターモアの真後ろから左後ろに移動しているんだ。外対策でね。
するとこうなる。灰ディナースタが橙アスクビクターモアの外に動いた。
すると、橙アスクビクターモアの真後ろのポジションが空くんだよね。ここを狙ってきたのが茶ジャスティンパレスの鮫島克駿さ。
レース後、克駿は「17番枠で、一般的に3000mでは不利と言われる外枠で、いかにロスなく誘導できるかを考えていました」と話している。枠が出たのが木曜。そこから3日間、相当研究してきたんだろうな。
研究し尽くした克駿の答えが、スタートを決めてアスクビクターモアについていってロスを防ぐ、という手だった。
アスクビクターモアの後ろに入るために邪魔だったのは、桃プラダリアの池添だった。池添としても簡単にポジションは奪われたくない。
●③プラダリア池添の理想
⑰⑬
③ ⑭
①⑥ ⑩
ーーーーーーーーー
内ラチ →
①ガイアフォース 松山
③プラダリア 池添
⑥ビーアストニッシド 岩田康
⑩セイウンハーデス 幸
⑬ディナースタ 横山和
⑭アスクビクターモア 田辺
⑰ジャスティンパレス 鮫島駿
この形の場合、逃げる⑩セイウンハーデスが下がろうがその被害は受けないし、③プラダリア池添としては⑭アスクビクターモアが進出する後ろをついていける。
●池添が望まない形
⑬
③⑰⑭
①⑥ ⑩
ーーーーーーーーー
内ラチ →
①ガイアフォース 松山
③プラダリア 池添
⑥ビーアストニッシド 岩田康
⑩セイウンハーデス 幸
⑬ディナースタ 横山和
⑭アスクビクターモア 田辺
⑰ジャスティンパレス 鮫島駿
アスクビクターモアの後ろに⑰ジャスティンパレスが入ってしまうと、③プラダリアの池添は『ジャスティンパレスが動くのを待つ』必要が出てくる。つまり後手に回りたくないから、池添としては譲りたくない。
が、この3コーナーのポジション争いを制したのは茶ジャスティンパレスの鮫島克駿だった。これで桃プラダリアは1列ポジションが下がってしまう。
7着プラダリア池添「最初のコーナーでごちゃついて引く形になりました」
このコメントが指すのがここ。池添としてはなるべくアスクの後ろで溜めたかっただけに、入られたのは痛い。白ガイアフォースの真横のポジションまで下がってしまっている。
逆に言えば、ジャスティンパレスはアスクの後ろでかなりいいポジションに入った。17番だったことを考えると相当上手くポジションを取っている。
これは白ガイアフォースの1周目3コーナー。赤ビーアストニッシドに前に入られてしまったことで、進路がなくなり馬が頭を上げる素振りを見せている。
かなり窮屈な状態になっていて、最内のメリットが完全になくなってしまっている。
白ガイアフォースの後ろを見てみよう。ただでさえポジションを悪くしたガイアの後ろには紫シェルビーズアイ、その後ろには黒ボルドグフーシュがいる。
ボルドグフーシュの隼人としては、迷う。前にいるのはシェルビーズアイで、左前には緑ドゥラドーレス武史。この2頭、どちらが強いかって、客観的に見ればドゥラドーレスだ。
ただドゥラドーレスは3000mだと掛かる可能性もあり、自分から動かない。かといってシェルビーズアイが自分から捌いて上がることもない。脚を溜めるはいいが、先々どうしたものかと考えないといけない局面だ。
ペースの話をしよう。
●21年菊花賞 3:04.6 前半600m35.1 前半1000m60.0
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2
●22年菊花賞 3:02.4 前半600m34.9 前半1000m58.7
12.3-10.9-11.7-11.9-11.9-12.1-12.6-13.3-12.6-12.1-12.1-11.9-11.9-12.2-12.9
菊花賞が阪神開催となったのは昨年から。昨年逃げたのはタイトルホルダーなんだが、今年のペースと比べると前半600mのタイムは大差ない。
注目したいのは前半1000mの通過タイム。昨年60.0だったのに対し、今年は58.7。600m通過では0.2秒差しかないのに、1000m通過地点では1.3秒も差がついているのだ。
その原因は800m→1000m地点が約1秒も違うから。
この地点はちょうど4コーナー付近にあたる。下り坂の部分だね。4コーナーから直線にかけて、昨年12.8-12.6、今年は11.9-12.1。セイウンハーデスがブリンカーの影響もあって、全然ペースを緩めずに運んでしまった。
当然ペースが少し緩んだ昨年のほうが、流れた今年より馬群が詰まる。はずなのだが、これがそうでもなかったんだよね。
↑
21年菊花賞 1周目直線
22年菊花賞 2周目直線
↓
昨年より今年のほうが、馬群が全般的に前に寄っているのがお分かりだろうか。ただでさえ昨年より速い流れなのに、追走してくる馬も多い。つまり、昨年より道中脚を使っている馬が多い。
●昨年の菊花賞 上がり3F順
34.7
ステラヴェローチェ
アサマノイタズラ
34.8
オーソクレース
34.9
ディープモンスター
ヴェローチェオロ
●今年の菊花賞 上がり3F順
36.3
ボルドグフーシュ
36.5
ジャスティンパレス
36.8
シホノスペランツァ
もちろんこの部分のラップだけが原因ではないけれど、上がり最速馬のタイムが1.6秒も違うように、今年の菊花賞は速い上がりの脚ではなく、みんな最後苦しくなる中で、どれだけしぶとく粘れるかの勝負になった。
それこそ肉を切らせて骨を断つ、いや骨を切らせて肉を断つだったか、どっちでもいいや、とにかくそんなペースだったわけ。
1周目直線でも相変わらず後ろは密集していた。黒ボルドグフーシュは前に紫シェルビーズアイ、緑ドゥラドーレスがいて動けない。ドゥラも、桃プラダリアがいて簡単には動けない。
つくづくプラダリアはもう1列前にいたかった。もちろんもう1列前だから好走したかというと、そんな着差でもないから厳しかったろうが、この並びだと前が動くのを待つしかない。
●21年菊花賞 3:04.6
12.5-11.1-11.5-12.1-12.8-12.6-12.8-14.3-13.1-12.6-12.4-11.7-11.5-11.4-12.2
●22年菊花賞 3:02.4
12.3-10.9-11.7-11.9-11.9-12.1-12.6-13.3-12.6-12.1-12.1-11.9-11.9-12.2-12.9
これは2周目2コーナー。ちょうどペースが緩んだところだ。緩んだといっても1F13.3。昨年のこの区間は1秒遅い14.3だったことを考えると、緩んではいるけどそれなりに流れている、とも言えるペース。
14.3だったら2コーナーで外から動いていく馬もいたかもしれない。ただ黄セイウンハーデスは13.3までしか落とさなかったことで、後ろはほとんど誰も動いていない。
外から誰も来ていない状況で、2番手の橙アスクビクターモアは脚を溜めることができる。
2周目2コーナーから向正面にかけて。ここで遠心力も掛かって茶ジャスティンパレスが1頭分外に動いてしまい、一度橙アスクビクターモアの後ろのラインに、白ガイアフォースが入ってしまうんだ。
ジャスティンパレスの前には自然と灰ディナースタになる。客観的に見て、ダービー3着馬と2勝クラスを卒業したばかりの馬、どちらの後ろがいいかと言われたら、ダービー3着馬であるアスクビクターモアの後ろを選ぶ。
茶ジャスティンパレスの克駿はポジショニングにこだわっていたんだ。何が何でも橙アスクビクターモアの後ろのラインをキープするという熱い思いが伝わってきたね。
向正面でもう一度ジャスティンパレスが、内の白ガイアフォースをラチ沿いに押し込めて、アスクの後ろを確保するんだ。これで灰ディナースタが早めに下がっても巻き込まれなくて済む。
対して桃プラダリアの池添は、ジャスティンパレスの後ろではなく1、2頭分外に移動している。まー、勝負所が近づいている中で、外から囲まれたくもないし、いつでも外に出せるポジションにいたい。今までのポジションにいたままだと、下がってきたディナースタに巻き込まれる可能性があるからね。
アスクビクターモアの後ろというポジションを1周目3コーナーで早くも取りにいった効果がここで出ている。プラダリアとジャスティンのポジション差はボディーブローのようにジワジワと効いてくるんだ。
今桃プラダリアが外に動いたという話をしたが、すると恵まれるのは黒ボルドグフーシュさ。
前にいたプラダリアが勝手に外に行ったことで、ボルドの前が開いて、茶ジャスティンパレスの後ろに入れる。今までプラダリアがいたポジションが棚からぼた餅のごとくやってきたのだ。
これにより、今まで自分の前を走っていて邪魔だった紫シェルビーズアイを追い抜くことができる。プラダリアのこの小さな動きが、ボルドグフーシュにとっては非常に大きな意味を持ったんだよね。
せっかくだから、更に後ろを見てみよう。こういう話ばっかりしてるからいつも1万字以内に収まらないんだよな。おかげで文章が間に合わず、情熱大陸を見逃す。
桃プラダリアが外に行ったことで、黒ボルドグフーシュが1つ前、ジャスティンパレスの後ろのラインという好ポジションをゲットした。
更にその後ろにいた水ヤマニンゼストの武さんとしては、できるならボルドグフーシュの真後ろに入っていきたい。ゼストは前走神戸新聞杯を見て分かるように内を捌けるからね。
ただ武さんはその案を捨てた。水ヤマニンゼストが2周目3コーナーで外に動いているのが分かる。
武さんがレース後触れていない部分だからどのような心情だったか推測するしかないが、セイコーの時計より精巧な体内時計を持つ武さんだから、当然ペースが速いのは分かっていたはず。
馬群も固まりかけていて、前にいる力の足りない馬たちが下がってくる。いくら前を走るボルドグフーシュに脚があっても、その後ろに入れば、ボルドが詰まったらその後ろで巻き添えを食らうように詰まってしまう。一蓮托生になってしまうんだよな。
それを避けるための外だと思う。一瞬の判断だ。確かに内だったら、ボルドが捌いてその後ろをついていくだけという状況が成立したかもしれない。でもそれは結果論。詰まる可能性もあったわけで、この良し悪しは分からない。
2周目3コーナーの形はこんな感じ。水ヤマニンゼストの前は桃プラダリア。緑ドゥラドーレスの武史は強気に外から上がっていくタイプだから、このライン上にいれば、内で待っているより早く進出できる。
一方の内は、ラチ沿いで赤ビーアストニッシドの後ろに白ガイアフォースという並びが続いている。ビーアストニッシドが自力で上がっていけるならまだしも、単勝123.7倍の馬に求めるのは酷。この時点でガイアは詰んでいる。
ここでもう1つポイントになる出来事が発生するんだ。
黒ボルドグフーシュの隼人が勝負をかけにいったんだよ。まー、勝ちに行くならもう動くしかないポイントではあった。
外前にいた銀フェーングロッテンを外にはじき出すように間を割っていったんだよね。これで緑ドゥラドーレスが更に外に弾かれる形になる。
前から見るとこんな感じ。黒ボルドグフーシュが割り込むような形になって、緑ドゥラドーレスを更に外に弾いている。若干というか、結構強引な動きで、隼人は過怠金5万円の制裁を受けた。
まー、ならクリーンに内で何もしなかったら、ジャスティンが抜け出すのを待たないと進路は開かないわけで、2着もなかっただろう。3着もあったか分からない。
もちろん制裁に対して賛同しているわけではないが、GIは多少無理してでも進路を作りにいくもの。隼人も自分の技術、そしてボルドグフーシュの脚色なら行けると判断してのことだ。ドゥラドーレスを買っている人たちにとっては痛いけどね。これも競馬。
茶ジャスティンパレスは赤ビーアストニッシド、灰ディナースタが前にいることで追い出しを待たされる形になっている。
これに関しては追い出しを待てた分より脚が溜まったとも言えるから、不利うんぬんにはあたらないと思う。
更に内を見ると、白ガイアフォースが完全に詰んでいる。前には下がってくる黄セイウンハーデスと、自力で動けない赤ビーアストニッシド。
そりゃこのペースで行ったらセイウンハーデスは早めに下がってくるし、ビーアストニッシドに盛り返す体力はない。
序盤にも書いたが、「1番枠でしたし、しっかりスタートを決めて、もう1つ前のポジションを取りたかったです」という松山のコメントはその通りなのだ。せめてビーアストニッシドの前にいれば、このように包まれる可能性はかなり減っていた。
この3枚は、上からガイアフォースの3走前あずさ賞(2着)、2走前国東特別(1着)、前走セントライト記念(1着)。
どのレースでも、勝負所でガイアフォースは外に馬がいない状況を作っているのだ。これは予想でも指摘したところ。これまでのガイアフォースは全部これ。
一瞬で抜け出せるタイプではなく、早めにエンジンを踏みたい、踏むには囲まれたくないから、内枠だろうが外枠だろうが、勝負どころで外から被されない形を作る。
それが、今日はこう。赤ビーアストニッシドの後ろで、白ガイアフォースの松山の体が完全に起きてしまっている。行き場がないのだ。
序盤に書いたように、ガイアフォースの最内は結構疑っていた。このパターンの可能性があったからね。
回避するには松山の言うようにスタートを完璧に決めてビーアストニッシドの前にいるしかないんだが、仮にスタートを決めても、そもそもビーアストニッシドのほうがテンが速いわけで、ポジションが逆になっていたかは疑わしい。今まで隠せていたようで隠せていなかった弱点がはっきり露呈してしまった。
4コーナーは結構ゴチャついた。まー、ペースが速くて前の馬が垂れてくると、捌きながら進路を確保しないといけないからどうしてもゴチャつく確率は高まるんだけどね。
水ヤマニンゼストの武さんも不利というか、捌けないところがあった。先ほど外に行ったところまで説明したが、4コーナー、本来であれば武さんは黒ボルドグフーシュの後ろに入っていきたい。ボルドが進路を確保して、そこについていけば自分の進路も開ける。
ただボルドとヤマニンゼストの間のスペースが少し大きいんだよね。
このスペースを見逃さなかったのが桃プラダリアの池添だ。少し空いただけのスペースに入ってきて、黒ボルドグフーシュの後ろについていき、自分の進路を確保しようとしたんだ。
すると、水ヤマニンゼストの武さんはブレーキをかけることになる。レース後、武さんが「4コーナーだけうまく捌けませんでした。もったいなかったです。うまく捌けていれば、4着はあったと思います」と話している部分がここ。
実際これで水ヤマニンゼストは更に外を回るしかなくなった。黒ボルドグフーシュの後ろに入れていれば、3頭分くらいは内を回れていたことになり、うまくいっていれば着順は上がったと思う。
ただ武さんが言うように、『4着は』あったのだ。仮にスムーズにいっていても4着までにしかならない不利で、なかろうがこの並びでは3着以内は難しかった。
黒ボルドグフーシュが外を回る間、茶ジャスティンパレスは内目で追い出しを我慢できていた。
序盤からペースが流れたことで灰ディナースタが脱落。左隣の壁がなくなったことで、スムーズに外に出すことが可能になっている。
進路取りとしてはほぼほぼ完璧だった。レース後克駿が「コースロス無く立ち回ることができました」と話しているが、本当にこの通り。17番を考えればこれ以上ない騎乗と言っていい。
直線であえてパトロールから取り上げる点が少なかったからゴール前の話をしてしまうけど、GIというタイトルが懸っているだけに大きなハナ差だった。
ゴール前、残り5m付近の画像がこれ。黒ボルドグフーシュ隼人の腕が完全に伸びきっている。対して橙アスクビクターモアの田辺は腕がたたまれている。
その分、こうなる。ちょうどボルドグフーシュの頭が戻ったところで、アスクビクターモアの頭が下がった形だ。
前にいた田辺がハナ差を合わせるわけにもいかないし、隼人もこれ以上やりようがなかったと思う。こればかりはもう運の世界。
あえて言えば、ボルドグフーシュの頭が少し高かった分はあるかな。この馬、馬体写真で見ると分かるけど前腕の発達具合に比べて、トモ、つまり腰から後ろ脚の部分が下がっているんだよ。
前からそうで、前に比べて後ろが若干物足りない体型だからどうしても前輪駆動みたいな走り方になる。すると自然と頭が高くなってしまうんだよな。
トモが物足りない分スタートダッシュもつきにくく、どうしても後ろからになってしまってペース、展開を選んでしまう。使える脚もまだそこまで長くない。こればかりはもう体型、成長具合にもよるから今すぐ変えられるものではない。
このトモの部分がもう少しパンとしてくれば、もう少し前(といっても今より3、4番手くらい前とかそういうレベルだろうが)につけられる。少なくともレースの幅は今より広がるだろう。
隼人がレース後「4コーナーを回った時には勝ち馬にセーフティーリードを取られていました」と話しているように、現状のポジションだとどうしても前次第になってしまう。
注目はやはり来年の春だよね。来年4月22日に京都競馬場がグランドオープンする。天皇賞春は京都競馬場の開催だ。トモが甘いボルドグフーシュにとってはむしろ直線に坂がないのはいいかもしれない。
まー、そもそもこの世代がデビューする前から京都は改修に入ってしまっていて、3歳世代は誰も京都を走ったことがない。やってみたら阪神のほうが良かったという可能性はあるが、ちょっと融通の利くファストタテヤマみたいな状況だから、天皇賞に出てくれば気にしておきたい1頭。
3着ジャスティンパレスはもうこれ以上ない競馬での3着。17番からポジションを取りに行き、譲らず、最後までアスクビクターモアのラインに乗っての3着。逆にどうやったらここから勝てるのか想像がつかない。
鮫島克駿というジョッキーは、若手の中で一番ロスない競馬にこだわる。春の高松宮記念でも13番トゥラヴェスーラは内ラチ沿いに誘導して、直線内目から抜け出しかけて4着と見せ場を作った。昨年秋もサンレイポケットで内目を巧みに使って見せ場を作った。
もちろんロスなく内目にこだわる分詰まる時もあるのだが、若手でここまで自分の色を持っているジョッキーはそういない。もうGIを勝つべきジョッキーの一人になっていると言っていいんじゃないかな。
レース後「最後は、3頭の追い比べで、もう少し頑張らせてあげられれば良かったです。これから精進したいです」と克駿は語った。
昨年、サンレイポケットに乗ってジャパンカップ4着だった後は「天皇賞秋もそうでしたが、強い相手に頑張っていながらその一角を崩せないのは自分の技術不足です」とも語っている。
正直どちらのレースも完璧に乗られている(ように見える)のだが、向上心の塊だよね。レース前に新聞などでメンバーと展開、並びを研究しているから、ロスのない競馬が可能になる。
先週スタニングローズでGIジョッキーとなった坂井瑠星もとにかく研究熱心。努力は実を結ぶ。戴冠の日は近いと思うよ。
馬に関して言えば、まだまだ緩くて成長途上。本格化は来年秋以降とかになりそう。京都の長いところが合うタイプとは思えないが、目黒記念で内枠を引いたりしたら買いたいね。
4着ドゥラドーレスは個人的にほとんど買っていないくらい長距離適性がないと思っていた馬。引っかかるからね、この馬。実際今回も道中ハミを噛んでいたのだが、その状況で、3コーナーから更に外を回って不利まで受けているのに4着。良くなってるね、本当に。
春先はそのフットワークに筋肉の質がついてこなかったこともあって取りこぼしが続いたけれど、次第にエンジンに体が追い付いてきている。本来は2000m以下の馬。
なんだかんだまだ3勝クラスで、次は年明けの東京3勝クラスあたりを使うのだろうが、間に合えば東京新聞杯などで買いたい馬だし、上位の中では一番将来性がありそうな馬。
5着シホノスペランツァは大健闘。3コーナーから内ラチ沿いに入ってガイアフォースの後ろを使う好騎乗だった。ただ、この乗り方だと掲示板を拾うのが精いっぱい。浜中も最初から割り切って乗っていた。まだまだ成長途上の馬で、心身ともにこれから。長い目で見たい。
6着ヤマニンゼストは書いた通り、4コーナーで捌けていれば4着はあった。ただこちらも書いたように、あの進路取りは結果論だろう。3走前の札幌戦などの内容が本当にいい馬。オープンだと若干分が悪そうだが、洋芝の1800オープン、巴賞あたりに出てきたら枠次第で狙ってみたいね。
7着プラダリアは最初のコーナーでポジション争いに敗れた影響が尾を引いていたが、仮に取れたとしても距離が少し長かったかな。母系からも3000は気持ち長かったね。もう少し器用に立ち回りたかったところもある。
神戸新聞杯前に体重が減った状態で戻ってきてしまったことで、前走は立て直し途上の状態。今回も叩いてだいぶ良くなっていたが、ダービーのほうがもっといいデキだった。今回がMAXではないはず。荒れた芝もできるだけに、1月の日経新春杯で内枠でも引いたら楽しみがある。
8着ガイアフォースは最内の影響でポジションを取れず、前にビーアストニッシドという絶望的な状況。やはりこの馬は勝負所で外から被されないポジションが欲しい。
ただレース後松山が「折り合いはついていましたが、距離もあるかもしれません」とも話しているように、決してポジション差だけが敗因ではないね。これだけインで脚が溜まる状況ながら、直線向いてから急速に手応えがなくなっていった。
予想に「体形的に血統ほど長距離という感じもない馬」と書いたんだけど、実際今日のパドックを見ていても距離を疑いたい体型。小回りの立ち回りも上手いし、時計勝負もできるから今後いくらでも買うところはある。
まー、夏場のローカル小回り重賞はハンデ戦ばかりだから斤量が不安だけど、函館記念とかでも面白そう。どちらにしても現状、外から被されない展開がいい。真ん中より外のほうが買いやすいかな。
11着セレシオンはラチを頼って走りたい馬なのに、大外の時点で今回マスクの中では出走していなかった。現状この弱点が大きいだけに、条件を選ぶ。
まだ3勝クラス。準オープンに出られる点はいい。左回りの3勝クラスで、内ラチ沿いが走れる状態の馬場で内枠なら買いたいね。モタれる癖がどうにかならないと選択肢は増えない。
12着ヴェローナシチーは出遅れで終わってしまった。長距離なら出遅れても巻き返すチャンスがあるとよく言われるが、そんなことはなくて、現代の長距離はよりポジションゲームになっていることから後手に回ること自体が良くない。
まー、川田が言うように距離も長そうな走り。最後一気に手応えがなくなっていた。春に京都新聞杯で仕上げ過ぎたせいで反動があり、反省を生かして神戸新聞杯を緩く作った影響か、菊花賞までにかなりしっかり追い切りをやって絞りにきていた馬。
それでも今日は気持ち太かった。もう少し絞れたほうがいいと思う。断続的に流れる2000m~2200mで見直し。
あとは14着ディナースタか。今回は速いペースを3番手で追いかけてしまって最後止まってしまった。まー、現状ワンペースで、控えてもまくらないといけないだとか色々レース振りに制約はつくのだが、馬はいいんだよね。見た目はドゥラメンテ産駒らしい、いかにも走りそうな体つき。
まだまだ緩いし現状オープンに行ってどうこうと言えるほどではないが、大事に使っていけば面白い存在だと思う。担当はキセキと同じ方。馬づくりにかけては超一流だから、ケガさえなければいいところがありそう。
さて、最後に触れるのは勝ち馬アスクビクターモアだ。正直2歳春から見ている人間として、よく菊花賞を勝ったというのがまず最初にくる。
初期は掛かりやすい馬で、調教でも周りに馬がいるとすぐテンションが上がるような2歳馬だった。陣営もマイラーかもしれないと言ってしまうほどの気性だった。
戸崎が競馬を教えて、田辺も慎重に乗ってきて、なおかつ日々スタッフさんたちが丁寧に仕事をしてきたからこそ3000mでも走れた。確かに血統背景は長距離だが、あの気性で3000を持たせるまでに作り上げるのが凄い。
今日は仕上がりも完璧。裏話に書いたようにトーンはかなり高かったんだけど、パドックも素晴らしい仕上がり。人が完璧な仕事をこなしてきて、馬がそれに応えたレースだ。
うまく行く時は全てうまく行くもの。当初逃げ馬不在で、この馬が逃げる可能性もあった。だいぶマシになったとはいえ元々掛かりやすい馬が3000mでハナ、前に誰もいない状態だったら折り合いを欠いていた可能性がある。
これは1周目の直線だが、黄セイウンハーデス『だけ』行く状況で、橙アスクビクターモアは『インの2番手』を追走できている。2番手なのに前に壁があるという状況さ。これで馬に我慢させる隊列ができた。
セイウンハーデスがブリンカーを着けて逃げてくれたのは良かったね。自分がハナだった場合、たぶんそれなりのペースにはしただろうが、ここまで速いペースは刻まなかったはず。ディナースタに限らずまくられていた可能性は否定できない。
セイウンハーデスがペースを簡単に緩めず逃げたことで、折り合いがより付きやすい状況。確かに2番手のアスクビクターモアにとっても厳しいペースなんだけれど、レース後田辺が「流れが速いのは自分の馬だけじゃない。後ろの馬にとっても速いんだから。確かにスパートは速かったし、止まるとも思ったけど、後ろも同じように止まると思っていた」と言うように、後ろもついてきたことで止まっている。
普段から適当でとんでもないことばかり言う男だが、競馬に関しては真面目。研究もする。よく考えられた騎乗だった。普通だったらこれだけ流れるとどうしても溜めを利かせたくなるもの。それでも勇気を持って引かなかったことが最大の勝因だ。肉を切らせて肉を切るってやつだね。
この先有馬記念を予定しているようだが、だいぶ折り合えるようになったとはいえ2500m短縮は歓迎。タイトルホルダーが持続戦を作ってきそうなのもプラス。馬場次第でありえそうだね。
あまり日経賞向きという感じはしないが、来年のオールカマーあたりに出てきたらまた買いたい。気が早いか。
そういえばレース後、社台ファームの菊花賞制覇って久々だなって思ったんだ。改めて調べてみると2007年のアサクサキングス以来の優勝だった。15年ぶり。そんなに経ったかという印象しかない。
それこそ近年は低迷期もあって、生産馬が期待ほど走らない時期もあった。それが、ここ最近場長の交代や設備の変更でまた注目度が増してきた。育成システムから変えてきていて、復活の狼煙と言っても大げさな話ではないと思う。
しかも2着ボルドグフーシュも社台ファーム生産。社台ファーム生産馬のGIワンツーなんていつ以来ですかって話さ。調べてみたら16年エリザベス女王杯のクイーンズリング→シングウィズジョイ以来だった。牡馬混合なら13年マイルCSのトーセンラー→ダイワマッジョーレ以来。
ボルドグフーシュの父スクリーンヒーローは、モデルスポート→ダイナアクトレスと社台ファーム千歳の初期から大事にされている牝系の出身。社台ファームの持つ伝統と、技術が再度花開こうとしている。
余談だが、アスクビクターモアを管理する田村康仁師の父、故・田村駿仁元調教師は、故・大橋巨泉氏とちょっとした騒動になったレジェンドテイオーの管理調教師でもある。
86年のセントライト記念を勝って菊花賞に臨んだレジェンドテイオーだったが、距離の壁もあって17着と大敗してしまった。この年の菊花賞2着だったのが、社台ファームが生んだ傑作ダイナガリバー。メジロデュレンの前に涙をのんだ。
時は流れて令和。
息子の康仁師が管理する社台ファーム生産馬が菊の大輪を咲かす。ちょっと強引だが、競馬の裏に歴史あり。伝統と革新が調和する菊花賞だったのではないかな。
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