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歴史を作ったアーモンドアイは衰えたのか?~天皇賞を読み解く~

アーモンドアイが新たな歴史を作った。8つ目の芝GIタイトル。素晴らしい記録だと思う。

昔よりGIの個数が増えたから更新されて当然とか、相手が弱いレースを使ったからとか、そういうくだらない意見が目に入るが、かわいそうに競馬を面白く見れていないのだなという感想しかない。

これまでのレース振り、数字からこの馬の能力が突出しているのは明らか。東京マイルから2400mまでこなし、それでいてまったく適性の異なる京都の2000mGIまで勝っている馬が、相手関係に恵まれたとか、そんな失礼なことを言われるいわれはない。

そんなアーモンドアイだが、さすがに全盛期である昨年に比べると、今年は緩やかに、本当に緩やかにだが、数字、パフォーマンスに陰りがみられるのも事実だ。それでも勝っちゃうのだから凄い。今回のパトロール回顧からそれが分かる。


先週、先々週と京都のGIを解説していったが、先に断っておくと、東京のパトロールは京都の中長距離よりは語ることが少ない。レースがつまらないのではない。俺から言わせてもらえば、GIくらいになれば全てのレースが面白い。もちろんどのレースも面白いのだが、特にGIは全員がマジだから、面白さが段違いだ。

それでも東京という競馬場はやはりコースが広いから、狭いコースより細かい駆け引きが少ないのはまた事実だと思う。

このレースを分けた最大のポイントはスタートして100mくらいにある。

白矢印→ウインブライト
黒矢印→クロノジェネシス
緑矢印→キセキ
桃矢印→ジナンボー
黄矢印→フィエールマン
赤矢印→ダノンプレミアム
青矢印→ダノンキングリー

橙矢印→アーモンドアイ

●前提
12.7-11.7-12.1-12.1-11.9-12.0-11.7-10.9-11.1-11.6

前半3F36.5
前半5F60.5

後半4F45.3
後半3F33.6

・ペースは序盤緩い
・フィエールマンは長距離GIを勝っているが道中掛かりやすい
・クロノジェネシスはそんなにスタートが早くない

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東京の2000mは2コーナーが近いから、どうしてもポジション争いが激しくなる。有利になるのはロスのない内枠、そして外からかぶされない外枠。逆に真ん中の枠は往々にして不利を受けやすい。今回もそうだった。

スタートした後、ウインブライトがやや外に、キセキがやや内に来たことで、その内にいたフィエールマンとクロノジェネシスが挟まれる形となっている。


ただこれは明確な斜行ではない。このレベルの斜行なんてよくある話で、実際審議にもならない。馬はまっすぐ走らないものだし、真ん中の枠のリスクが出てしまっている。

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スタートして100m。ここでフィエールマンとクロノジェネシスが完全に挟まれている。ただしキセキの進路取りはちょっと厳しい程度で、本来だったら真ん中の馬がもっと張って行かないといけない局面だ。


ただここで前提である、・クロノジェネシスはスタートがそんなに速くない、・フィエールマンは長距離GIを勝っているのに掛かり気味になりがちという2つの要素が絡んでくる。


つまりクロノジェネシスは張っていけないし、フィエールマンも押してポジションを取りにいけないのだ。押してポジションを取りに行ったらそれこそ引っかかってしまう。


レース後福永、北村友一共にこの場面を悔いていた。「もう1列前にいたかった」。二人はそう言うが、乗っている馬はポジション争いに向いていなかった。そんな2頭が『共に真ん中に入った』ことが最後まで影響する。

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向正面入口。矢印をよく見てほしい。ウインブライトの後ろにフィエールマン。ジナンボーの後ろにクロノジェネシス。クロノはすぐ外に出せる位置だが、果たしてフィエールマンは進路があるだろうか。


ないんだよな。前のウインブライトがこのメンバーで力が最上位であれば、ウインの後ろについていくだけでいい。ところがそんなことはないし、休み明け。どう考えても後ろについていくのは自殺行為だ。

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向正面半ば。この時点でテンの3Fは36.5。スローペース。馬群は凝縮し、頭数が少ないとはいえGIで簡単に開けてくれるジョッキーなど存在しない。相変わらずフィエールマンの前にはウインブライト。斜め前にジナンボー。スローで降着したことでフィエールマンはこの時点で進路がない。


もう一つ注目したいのは赤ダノンプレミアムのコース取りだ。あえて黒い線を引かせてもらったが、この線より右側が色が変わっている部分。左がまだマシな部分。先々週の秋華賞リアアメリア、先週のガロアクリークといい、川田はいつもこの『馬場のライン』の真上、ちょっと外側を走っている。意識が高過ぎる。


「色が変わってるんだから走っちゃ駄目だろ」という声も聞こえてきそうだが、そこを開けて走って内をすくわれたりでもしたら、見た目も悪い、心象も良くない。しかも馬は生き物。『まっすぐ走らせることがそもそも難しい』から、川田のこうしてまっすぐラインの上を走らせる技術、度胸が凄いことが改めて分かるシーンだ。


そしてよく見ると、その後ろ、ラインの上にキセキの武さんがいる。武さんもまた馬場のラインを読む人だ。川田ー武さんー福永と、このラインを、この3人がきっちりと守っていることは注目に値する。

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3コーナー後ろ。ここまで1000m60.5。はっきり言ってまだ緩い。少しずつベースアップしている場所だ。


普通なら動いていきたいところだが、クロノジェネシスの外前にジナンボーがいる。これがクロノにとっては痛かった。ペースが上がってもGI馬であれば外から上がっていくだろうが、ジナンボーがここで強引に動ける強さを秘めているかというと、そうではない。ジナンボーは動けない。


よってクロノジェネシスは動けない。そしてそのクロノが外に壁になっているフィエールマンも動けない。これが最初のほうに書いた「もう1列前につけたかった」という北村友一と福永のコメントに繋がる。1列位置取りを下げるとこういうリスクが生まれるのだ。


もし1列前、つまりウインブライトやジナンボーのあたりを取れていたら、当然自分からもっと動いていける。もしかするとアーモンドアイをマークできる位置にいれたかもしれない。タラレバになってしまうが、結局スタート直後のポジショニングの差がここで出てしまっている。

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直線入口。ここで迷ったのは黄色、フィエールマンの福永だ。外にクロノジェネシスがいる。前はウインブライトだから開かない。進路をどうするか一瞬考えたはずだ。


注目したいのは、青ダノンキングリーの内側が開いていること。普通だったらこのスペースのあるほうに入りたくなる。ところが福永はそれをしなかった。


8R本栖湖特別でリリーピュアハートに乗った時も、内に入らずあえて外を回して外に持ち出していた。3Rのサイモンメガライズでハナを切って内を走っているんだが、このコースより、外のほうが伸びることを完全にリリーピュアハートで理解していたのだと思う。


今日は午前中内が来て、内伸びではないかと勘違いした人間もいるだろう。ペースの関係で内を回った馬が台頭していたのであって、上位条件になれば外差しが利く、これは昨日の東京競馬でも一緒だった。福永もそれを理解していたからこそ、ここでダノンキングリーの内に行くという行為はしなかったのだと思う。


まー、前にダイワキャグニーがいるのも見えたのだと思うし、フィエールマンはエンジンが掛かるまで少し時間が掛かる。あえて空いてるとはいえ内の密集する可能性のあるスペースに行くより、自然な流れで外に出したほうが効率がいいのは間違いない。


詰まったわけではないんだが、ここでフィエールマンは追い出しをちょっと待っているんだ。クロノジェネシスが完全にジナンボーを交わしに行くところまで。ほんの1秒以内の話だが、ここで追い出しを待ったのは、最後アーモンドアイとの差が半馬身であったことを考えたら大きい。

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こうやってクロノジェネシスの後ろに入っていく。結果ダノンキングリーが外側にヨレかけているからアーモンドアイの後ろが開くんだが、それは結果論であって、俺もクロノジェネシスの後ろに入ったのは正解だったと思うし、それしかなかったと思う。

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ここで注目したいのがアーモンドアイだ。よく見てくれ。右手にムチを持っているのが分かるだろうか。直線坂上がるくらいまで馬なりで上がっていったが、上がってからは右手にムチを持って追っていた。


馬は併せると伸びる場合のほうが多い。この時内にいたのは逃げ馬ダノンプレミアム。もうルメールはダノンプレミアムさえ交わせば勝てる、後ろから差されることはないと思っていたはずだ。


もし後ろから交わされる可能性を考えていたとしたら、ここは左ムチを叩いて左側、つまり外に行ったほうがいい。外からクロノジェネシスなり、フィエールマンなり、まー、ルメールが見えていたかは分からないが、強い馬が差してくるなら少なくとも自身より外だろう。


なのに内へ行った。それだけ後ろから交わされるとは思っていなかったのだろうし、ここにアーモンドアイへの全幅の信頼がうかがえる。だからこそ、右からムチを持ってダノンプレミアム側に寄っていった。

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ところが突き放せないのだ。昔のアーモンドアイなら馬なりで坂を上がった後、残り200mくらいからムチを投入すればその分伸びた。去年の天皇賞を見ると分かる。残り200くらいで右からムチを入れた瞬間、更に伸びるのだ。


確かに今回もムチを入れて伸びてはいる。上がり3F33.1を使っている馬に『止まった』という表現は失礼だが、やはり、去年ほどの伸びではない。ムチを入れたらもっと伸びる馬だからだ。


ルメールは焦っていたわけではないし、むしろ落ち着いていたほうだが、ここで急遽プランを変えて、今度はムチを左に持ち替えた。外のクロノジェネシスやフィエールマンに併せに行ったんだよな。こんなに、右ムチ、左ムチと使い分けられるアーモンドアイは、もしかしたら初めてだったかもしれない。


去年の全盛期を100とすれば、たぶん今は90を割っている。アーモンドアイも馬。5歳秋にして緩やかに下降線を描いているのは間違いない。ムチを入れても完全な反応ではない。


この状況下で、序盤スローから残り5Fを12.0-11.7-10.9-11.1-11.6のレースを、上がり3F33.1で乗り切ったことが凄い。


改めて、90を割っている状態でこのレースができるアーモンドアイという馬はバケモノだと思ったし、逆に言えば、このムチの使い分けは確実にアーモンドアイの衰えも感じさせられる。そんな内容だった。


結局この差してきた2頭、クロノジェネシスとフィエールマンは上がり3F32秒台という猛烈な脚で差してきているのだが、やはり4コーナーの位置が後ろ過ぎる。それはつまり道中前に行けなかったのであって、結局、元を辿るとスタート直後の不利、そしてスタートから出て行かない、出て行けない2頭の馬の個性が出たと言っていい。


結論として言えるのは、アーモンドアイってやっぱりバケモノだね、そしてスタートって大事だねということだろう。


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