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24年オークスを振り返る~『受けの競馬』になった桜の女王~

競馬の祭典・日本ダービーで最後に逃げ切った馬は誰かお分かりだろうか。

まー、ダービーで逃げ切るというのはなかなか難しい話で、先に答えを書いてしまうと97年サニーブライアンが最後だ

それからはサンデーサイレンス産駒の全盛期と被った影響なんかもあって、逃げ切り勝ちはない

サンデー産駒がいなくなった07年以降はアサクサキングス(07年14番人気2着)、アポロソニック(13年8番人気3着)、エポカドーロ(18年4番人気2着)と一応好走馬は出ているのだが、勝ち切りまではいかなかった。

みんな欲しいタイトルだからプレッシャーが厳しいのはある。東京の長い直線を逃げ切るには展開利だけでなく相当な能力も求められるのもある。『競馬で一番有利なのは逃げ』と言われながら、ダービーは逆の展開になっているんだ。

これはオークスの回顧だからオークスの話に移らせてもらうと、オークスの逃げ切りとなるともっとレア

最後に逃げ切り勝ちを果たしたのは91年イソノルーブル。まだオークスが20頭立てだった頃の話さ。実はそれ以降、逃げて好走したのは11年ピュアブリーゼ1頭だけなんだよ。

まー、あれは直前の雨の影響もあった。まともな条件となると逃げて残るのは相当難しい。

ダービー出走馬の主な前走
皐月賞 中山芝2000m
青葉賞 東京芝2400m
京都新聞杯 京都芝2200m
プリンシパルS 東京芝2000m
NHKマイルC 東京芝1600m

オークス出走馬の主な前走
桜花賞 阪神芝1600m
フローラS 東京芝2000m
スイートピーS 東京芝1800m
忘れな草賞 阪神芝2000m
フラワーC 中山芝1800m

なんで逃げが不利になるかって、ダービーと同じ東京芝2400mでも、オークスはダービーと違ってマイルや1800前後からの参戦が多くなる影響はある。スピード色が濃い馬が多くなるとその分前が速くなって、先行勢は厳しい。

加えてオークスはBコース。ダービーはCコースの開幕週で内が良くなるのに対して、オークスは外の伸びが良くなってきやすい。

24年桜花賞
1着11-8 ステレンボッシュ
2着8-8 アスコリピチェーノ 未出走
3着17-18 ライトバック
4着18-17 スウィープフィート
5着2-2 エトヴプレ 未出走

今年はオークスに出走する桜花賞上位組が差し馬中心。レース展開上桜花賞上位組に向きそうな状況で、他路線からやってきた馬がどこまで上位に絡めるか、それがマスクの注目ポイントの一つだった。


歴史に残るハイペース、その時歴史が動いた

結構好きだったんだけどな、あの番組。まー、それはいいとして、今年のオークスは歴史的な一戦となった。まずは好走馬から見てもらいたい。

24年オークス
1着チェルヴィニア 12-9-9-10
2着ステレンボッシュ 9-9-9-12
3着ライトバック 15-14-13-15
4着クイーンズウォーク 5-5-5-4
5着ランスオブクイーン 3-3-3-2

決まり方としては差し馬上位でいつものオークスなのだが、例年と違ったのはペースだ。

24年オークス 2:24.0
12.4-10.8-11.5-11.5-11.5-12.1-12.8-12.9-13.4-12.2-11.5-11.4
1000m通過 57.7

1000m57.7と来た。泣く子も黙る10.8-11.5-11.5-11.5。こんなのはもはや京王杯スプリングカップなのだ。

24年京王杯SC
12.7-11.1-11.0-11.0-11.2-11.4-11.3

24年オークス 1400mまで
12.4-10.8-11.5-11.5-11.5-12.1-12.8

と思って試しにラップを見比べてみたら、思ったより京王杯が速かった(笑)。ただそれでもこちらは2400mのオークス。57.7は異常と言っていいハイペースだ。

オークス1000m通過 歴代(86年~)
24年 57.7 1着チェルヴィニア
06年 58.1 1着カワカミプリンセス
90年 58.6 1着エイシンサニー
95年 59.0 1着ダンスパートナー

86年以前は記録がないから定かではないが、少なくとも当時の競馬で1000m57.7より速い年があったとは思えない。ほぼほぼオークスの歴代最速ラップだろう。

これまでの記録は06年、カワカミプリンセスが勝った年。この年はヤマニンファビュルが単独で飛ばして大逃げする形になっての超ハイペースだったのだが、今年は状況が異なる。

当初、スタートからのテンが速かったのは桃ショウナンマヌエラ。当初から逃げ宣言をしていた馬で、そもそもマイルでも逃げていたように他馬とはテンのスピードが違う。

ただここで緑ヴィントシュティレの北村宏司が、ショウナンマヌエラのほうを見ているのが分かる

こちらのヴィントシュティレも前走東京の2000mで逃げて勝ってきた馬で、1000m58.4となかなか速いペースを刻んで大逃げしていた。

一旦はハナが桃ショウナンマヌエラになりかけたのだが、緑ヴィントシュティレの宏司が切り返し、競りかけにいったんだ。

この画像を見ても分かるが、ショウナンマヌエラのヤスナリが隣のヴィントシュティレのほうを見ている

ヤスナリ的には「いつまで競りかけるねん…」という気持ちだろうな。完全に一度隊列は固まっているわけで、ここから競りかけられるのは辛い

なんで競るんだよと思う人間も多いと思うが、この場合、最初にハナを切ったヤスナリは悪くない。逃げたほうがいい馬で一度ハナを切った後は下げにくいしね。

もちろん競りかけてはいけないなんていうルールは存在しない。競るも競らんも宏司の自由なのだが、これにより生まれたのが10.8-11.5-11.5-11.5というラップなわけで、当然この2頭は飛ぶ。この2頭のオークスは最初の500mくらいでもう終わった。

今年のオークスは本当にハイペースだったのか

お前は前の章で一体何を書いていたんだと思われそうだが、マスクの話をもう少し聞いてほしい。改めて今年のオークスのラップを見てほしい。

24年オークス 2:24.0
12.4-10.8-11.5-11.5-11.5-12.1-12.8-12.9-13.4-12.2-11.5-11.4
1000m通過 57.7

先ほども書いたように10.8-11.5-11.5-11.5と非常に速い流れで展開されているのだが、注目したいのは5着のランスオブクイーンのポジショニング。

☆24年オークス
1着チェルヴィニア 12-9-9-10
2着ステレンボッシュ 9-9-9-12
3着ライトバック 15-14-13-15
4着クイーンズウォーク 5-5-5-4
5着ランスオブクイーン 3-3-3-2

14番人気ランスオブクイーンが3番手から5着に粘り込んでいるんだよ。もちろん人気が馬の実力を反映しているわけではないのだが、これだけ速いのに、未勝利を勝ちあがったばかりの馬が5着に粘り込めてしまっているのだ。

なんでこうなったかって、前2頭とその後ろ、緑タガノエルピーダ、ランスオブクイーンとの間が大きく開いているから。

推定だが、3番手のタガノ、ランスの付近で1000m59秒台半ばくらい。決して遅くはないが、この数字を見る限りそこまで速くない

オークス 過去5年勝ち時計
20年 2:24.4
21年 2:24.5
22年 2:23.9
23年 2:23.1
24年 2:24.0

普通これだけハイペースだと勝ち時計が速くなるものだが、勝ち時計自体、近年と大差ない数字になっている。

これら2つの原因はラップの後半にある。

24年オークス 2:24.0
12.4-10.8-11.5-11.5-11.5-12.1-12.8-12.9-13.4-12.2-11.5-11.4
1200m→1800m 39.1

オークス 過去5年の1200m→1800m通過タイム
20年 37.7
21年 37.1
22年 36.0
23年 36.0
24年 39.1

今年は1200→1800mの区間が39.1と、断然遅いのだ

推移としてはこんな感じ。ただ前2頭でやりあっただけで、3番手以下は至っていつもに近いペース。3番手以下はハイペースは関係なく、実質末脚能力が問われる展開だった。

実際9着だったアドマイヤベルの武史が「切れ味勝負になったのは厳しかったです」と話しているし、レース上がり3Fは12.2-11.5-11.4と加速ラップだった

これが例えば、離れたハナがパンサラッサのような実力馬なら後ろも早めに前を捕まえに行って持久力勝負になる。

それなら話は変わるが、未勝利を勝ったばかりのヴィントシュティレ、2400mが長いのは明らかなショウナンマヌエラの2頭がやり合おうが、後ろはどうせ前2頭は下がってくると思っているから関係ない。

だからこそ3番手追走だったランスオブクイーンも残れている。もちろん3歳牝馬に東京2400は大変なことに変わりはないが、ペースの数字ほど苦しい、タフなレースだったかというと疑問が残る

桜花賞馬の明暗を分けた1コーナー

よくマスクが回顧で『強い馬の後ろはいいポジション』と書いている。たぶん目にタコができるくらい見ているだろうが、簡単に言えば前が強い馬なら進路を勝手に作ってくれるから、ついていくだけでいい、という話だ。

当然逆に考えれば、『そこまで強くない馬の後ろは悪いポジション』とも言える。

今から書くことは前提として、ラヴァンダは実力はあるけれどこのメンバーではそこまでではないこと、戸崎圭太くんは上手いジョッキー、この2つを頭に入れて見てほしい。

こういう注意書きしておかないと勝手に解釈する方々がいるからね。別に俺は戸崎が下手だったと書きたくて書いているわけではない。

スタート後。青ステレンボッシュのスタートは悪いものではなかった。ステレンボッシュの外には黄ラヴァンダがいる。

ラヴァンダはフローラ2着からの参戦。前述したように人気がその馬の力量を正しく反映しているわけではないが、客観的に見てこのメンバーの中でラヴァンダの実力は上とは言い難い

ところが青ステレンボッシュはここで少し抑えてしまった。その間に内から黒パレハが、外から黄ラヴァンダが前に出てくる。

パレハは前走忘れな草賞6着。こちらもこのメンバーの中では能力面で下位の部類に入るだろう。

この2頭に前に入られることがよろしくないことくらい、戸崎だって分かっている。自分の前にいるのは実力がある馬のほうがいいからね、競馬のしやすさが変わってくるわけだから。

でもそうしなかった。返し馬の映像を見た人間なら分かると思うが、ステレンボッシュは馬場入りする時にだいぶテンションが高かったんだよね。

元々テンションが上がる時がある馬ではある。それもあって桜花賞前に栗東滞在していたような馬だからね。こればかりはもう仕方ない。

ラヴァンダたちにポジションを取られないよう、ステレンボッシュを出していってポジションを取りに行くのがセオリーではあるが、あのテンションだと攻めにくい。ラヴァンダも速かったし、取りにくかったのもある。

攻めきれなかった分、青ステレンボッシュは黒パレハと黄ラヴァンダに完全に前に入りきられてしまった。

当然こうなると青ステレンボッシュの戸崎のやることは一つ。『ラヴァンダの後ろからの脱出』だ。新手の脱出ゲームが始まる。

内に進路などないし、狙うは水アドマイヤベルの内側。ここを通して外目に出していくしか手がない。

しかし水アドマイヤベルの武史からしたら、みすみす人気馬に自分のポジションを取られるわけにはいかない。当然内を締めにいく

加えて黄ラヴァンダが少し折り合いを欠いてフラついた分、青ステレンボッシュの戸崎が簡単に外に出せる状況ではなくなってしまったんだ。

まー、1番人気の難しいところはここだよな。ノーマークならともかく、他馬にマークされる存在はどうしても囲まれやすい。しかも今回は7番。真ん中枠だ。真ん中枠は1コーナー前に両サイドから締められやすい

もちろん真ん中枠は内にも、外にも行けるという点で有利な部分はあるが、両サイドから締められる可能性もある分、有利不利は表裏一体であることが改めて分かる。

余談だが、白クイーンズウォークの川田はこうして内が締められる形の対処法が上手い。

この2枚を見て分かるように、川田は1枠を引いても馬を少しだけ外側に持っていく。この場合は外に黒パレハの田辺がいるが、パレハを少し外に押しながら、白丸で囲んだ部分の内ラチ沿いに『逃げるスペース』を作っておく。

こうすることで、外から寄られたりしても逃げるところを作ってあるからラチとの間に挟まれることがない

結局白クイーンズウォークは黒パレハの前に入ってポジションを確保しにいくんだけれど、こういうちょっとした、1頭分の動きが勝敗に直結することは今までの回顧を見てもらえれば分かるだろうから省略する。

抜かりないフランス人

ルメールの競馬を一言で言えば、いやらしい。ルメールが全裸で走っているわけではなくて、単純に競馬がいやらしいのだ。

ルメールから買っている場合、こっちのいてほしいところにいるから非常に助かる。しかしルメールから買っていない場合ルメールのポジションは非常に厄介だし、同じレースに乗っている他のジョッキーは、見ている俺たち以上にルメールの存在を厄介に感じていると思う

これはステレンボッシュのジョッキーカメラ。前の章で触れたように、水アドマイヤベルの武史が外から内を締めていることが分かる。

チラ見しながら締めてくるんだから、これはもうただのポケモンカードマニアじゃないね。とても調整ルームの玄関にポケモンカードを並べて遊んでいるとは思えない、Sっ気ある人間の所業だよ。

ジョッキーカメラはいいね。実際どれくらい締められているのかがよく分かる。まー、今回はオークス、GI。このくらい厳しい攻めはむしろ当たり前とも言えるが。

こうやってポケモンカードマニアが1番人気を締めている時に、2番人気のチェルヴィニアとルメールがどこにいるかというと。

締めてる水アドマイヤベル武史の真後ろにいるんだよなあ。こういうところが本当にいやらしい。

租界でも『ルメールが怖いところにいる』と書いたが、その理由がこれ。だって1番人気が外から締められているのを、締めている馬の真後ろでずっと眺めているんだよ。それはSっ気があり過ぎる。

緑チェルヴィニアのルメールの外には橙サフィラがいる。水アドマイヤベルのラインならともかく、更に外を回されているサフィラの松山としては、せめてアドマイヤベルの真後ろが欲しい。1頭分のロスを削りたい。

しかしルメールは水アドマイヤベルとの間を空けない。これでサフィラが内に入れない。本当にいやらしいフランス人だよ。サフィラはただ外を回されるだけになり、だいぶ苦しい。

他馬を上手いことブロックしながら削っていく、それでいて自分は悪くないポジションにいる、ルメールの真骨頂を見た気分だ

向正面。水アドマイヤベルが少し頭を上げているのが分かるだろうか。ステレンボッシュのジョッキーカメラを見ていても、アドマイヤベルはハミを噛んで少し行きたがっていた。

こうなるとアドマイヤベルが疲れて垂れてきた時に、その真後ろの緑チェルヴィニアのポジションはよろしくない。ただ橙サフィラがずっと外を回っている分脚が衰えることが予想されるから、いつでも外に出せる状況が待っている。

正面から見れば青ステレンボッシュと緑チェルヴィニアはただ1頭分ラインが違うだけだが、この1頭分が大きいんだよな。

そしてそのチェルヴィニアの真後ろに赤ライトバック瑠星。瑠星はステレンボッシュかチェルヴィニアの後ろに入れれば良かっただろうから、折り合いを少し欠いた以外はある程度理想的な展開だったと思われる

開きそうで開かない扉

余談だが、マスクの実家の和室の扉の立て付けが悪い。まー、建ててから結構経つからね。ガタが来ていて不思議ではないのだが、たまに扉が開かなくなることがある。

開くのか開かないのか、その時々によるもんだから結構フラストレーションが溜まるのだが、今回のオークスの向正面、戸崎も似たようなフラストレーションを抱いたかもしれないね。

まず見ておきたいのは白クイーンズウォーク川田のポジションだ。1枠スタートなのに白丸の部分を思い切り空けていることが分かるよね。

川田は1コーナー前でもインを空けていたが、向正面でもインを空けているんだ。これはわざと。なんでかって、前の緑線を引いたヴィントシュティレ、ショウナンマヌエラがどうやったって下がってくる。

後ろのジョッキーも前2頭がハイペースで飛ばしているのは分かっているし、実力的に早めに下がってくることは読めている。そうなると内に閉じ込められてしまっては、前から下がってくる2頭を回避できない。

この2頭が下がってくることを事前に予想して川田はインを空けているわけだ。ならラチ沿いにいる水ミアネーロの津村が何も考えていない、というわけではない。最内枠からラチ沿いをロスなく回って少しでも上を目指す乗り方をしているだけで、前が下がってくること自体は普通に考えている。

青ステレンボッシュの戸崎としては、白クイーンズウォークが通るラインの後ろに入っていきたい。

序盤から言っているように、『強い馬の後ろは有利ポジション』。ラヴァンダとクイーンズウォーク、どちらが強いかと言ったら後者だろうし、『上手いジョッキーの後ろ』も有利ポジだから、川田の後ろはいい。

ところが黄ラヴァンダがちょっとフラフラしているんだよ。内に少し寄ったかと思ったら、今度は外に寄ってきたり。

ステレンボッシュのジョッキーカメラを見ていてもラヴァンダがフラついているのが分かる。もちろん斜行レベルではないのだが、ステレンの入れるスペースがなかった。

ジョッキーカメラで見るとこんな感じ。微妙な感じで空いたりしてるんだけどね。

白クイーンズウォークのラインに入りたい戸崎の左前で少しフラつく黄ラヴァンダ、締めてくる水アドマイヤベルの影響で、ステレンボッシュがなかなか進めていないのだ。

ここで右前にサフィラの姿が見える。あれ?チェルヴィニアはどうした?と思ったりするそこのあなた。

まだ黄アドマイヤベルの後ろにいるんだよ。橙サフィラが外から動いたのに、緑チェルヴィニアのルメールはここで仕掛けを待っているんだ。

ここで外から上がっていったサフィラについていくという手も十分あったと思うが、ルメールがレース後「今回1600mから2400mに距離が延長することから、3~4コーナーまで我慢しました」と話しているように、意図的な溜め。

こういう部分だよね、ルメールの怖いところは。いつも恐ろしく冷静。普通ちょっと動きたくなるものだが、待てる。メリハリのある競馬ができるのがルメールの長所の一つだ

3コーナー。緑チェルヴィニアのルメールは仕掛けを待っているのだが、内の青ステレンボッシュはというと黄ラヴァンダが動いてくれないおかげで、いつまで経っても水アドマイヤベルに締められ続けたままになっている。

そうこうしているうちに、今度は紫ホーエリートの原が外から上がってきてしまった。

原はレース後「後ろの組同士の瞬発力勝負では分が悪いですし、過去のレースを見ても切れる脚を使ったことがないので、早めに仕掛けていきました」と話しているように、数字はハイペースだが、後ろの認識は瞬発力勝負なんだよな。

ホーエリートが橙サフィラの隣から早めに上がっていったことで、内のポジションが更に悪くなっていく。黄ラヴァンダがそれこそGIでも好走できるレベルで強かったら自分から動いたかもしれないが、そんな馬だったらチューリップ賞で7着に負けていない。

選択肢がない戸崎、選択肢があるルメール

ラヴァンダが動かない限り青ステレンボッシュは動けない。東京2400でいえばエフフォーリアのダービーを少し思い出す局面だ。そういえばあれもエピファネイア産駒だったな。

前述したように、1200m→1800m通過タイムは近年で一番遅い。4コーナー手前ではハイペースで競り合っていた緑ヴィントシュティレと桃ショウナンマヌエラが下がってくる。

クイーンズウォークの川田はそれを察知して早めに外に出していたからまったく影響を受けていないものの、前が下がれば黄ラヴァンダのポジションはもっと悪くなるし、その後ろの青ステレンボッシュは言わずもがなだ。ここで渋滞を起こしかけている

もちろん最初から外の路線が正解だったかというとそれは分からない。もしかすると内が開いて、内しか来ない展開があったかもしれないし、これはもう結果論。

ただ川田あたりが内を外すなど準備できていることを考えると、何も準備できていない、準備する状況にないステレンボッシュのポジショニングの悪さが目立つ

外に目を移すと、緑チェルヴィニアがギリギリまで溜めている。このままだとルメールは紫ホーエリートを行かせて、その外に出す形になる。

赤スウィープフィートの武さんとしてはそれは避けたい。仮にチェルヴィニアが楽に紫ホーエリートの外に出すと、赤スウィープフィートは更に1頭分外を回ることになる。このロスは消したい。

だから武さんは早めにチェルヴィニアを締めにかかった。ここで締め切れば緑チェルヴィニアの進路がなくなる。

橙ライトバック瑠星はチェルヴィニアの後ろ。瑠星は2コーナー付近からずっとチェルヴィニアの後ろをついてきていた。ここでルメールが捌ききれば、その後ろをついていくだけで進路ができるんだ。

もちろんチェルヴィニアがスウィープフィートに締められる可能性はあったが、だったらもう直線向いて外に出せばいい。複数の進路の選択肢がある

進路の選択肢が限られているステレンボッシュとは対照的だ

まー、ここで簡単に締められたらそれはもうルメールではない。簡単に締められないからクリストフ・ルメールなのだ

直線に入るところで、緑チェルヴィニアのルメールは外の赤スウィープフィートの武さんに締められる前に、紫ホーエリートの外に持ち出すことに成功した

こうなると橙ライトバックの瑠星も助かる。逆に締めきれなかったスウィープフィートはこれで脱落。まー、セオリーとしてやることをやってのことだから仕方ない。

一方で、選択肢がなかった青ステレンボッシュのほうを見ると、直線入口で一瞬黄ラヴァンダと水アドマイヤベルの間のスペースが開く。まー、開いたと言っても1頭分で、さすがにこれは突けない。

そうこうしているうちに、すぐに黄ラヴァンダと水アドマイヤベルの間のスペースが消えてしまった。代わりにラヴァンダの内に黄丸のスペースが開く。

ほんの一瞬の出来事で大きなロスとは言えないが、このスペースのチェンジでステレンボッシュは進路を変更。一瞬だけ戸崎が詰まる形になっている。もったいないシーンだ。

同じように一瞬迷った馬がいる。橙ライトバックだ。緑チェルヴィニアについていったはいいが、紫ホーエリートの原が左ムチを叩いて、緑チェルヴィニアのほうに寄る素振りを見せていたんだ。

こうなると紫ホーエリートと緑チェルヴィニアの間のスペースが開かない。一瞬迷った結果、ホーエリート原が左ムチを叩いて更に外に行くと踏んで、その内に入っていった。

まー、2着のステレンボッシュとは0.3秒差だから、この迷いがなくてもたぶん逆転はなかったと思う。それでもこの一瞬がなければもう少し際どかったと思われる

しかし今回の3着は驚いた。というのも一応3複の相手で塗ってはいたが、折り合いが難しい馬だ。800m延長で思い切り引っかかることも覚悟していた。地下馬道が苦手な馬で、長い地下馬道がある東京でもあったしね。

桜花賞回顧でも『乗り難しいがいい馬』と褒めたりしてきた馬だが、運動神経の良さが目立つ。今日も折り合いが怪しいところがあった中でも予想以上に我慢が利いていた。成長を感じる内容だよ。

母インザスポットライトはアイルランド産馬で、レイクヴィラファームが輸入した繁殖。仔出しが良く、初仔インザオベーションが3勝、2番仔エイトスターズも勝ち上がり。3番仔ライトバックがこの活躍。

この母の子は5番仔までみんな牝馬。これは牡馬に出るとどれだけ走るのか、非常に興味深い。そしてここまで何頭も牝馬を出しているだけに、今後牝系が繋がる可能性がある。

レイクヴィラといえば元メジロ牧場の流れを汲んでいるのだが、『新たなメジロの一族』として、いずれこの牝系から何頭も走る馬が出てもおかしくない。秋が楽しみだね。2000以下で重賞を勝ってくる馬だろう。

充実の秋を考えよう

4着クイーンズウォークはよく頑張ったと思う。内枠が合わない馬だが、川田もそれを見越して、出していってポジションを取る競馬。流れにも乗せて、川田がレース後「今日は素晴らしい走りができたと思います」と言うのも分かる。

ただ2400mでこの形で運びながら最後甘くなるあたり、少し距離も長い感じはある。少なくともマイルよりはこのくらいのポジションのほうが合うと思うが、本質は2000~2200くらいが合いそう

跳びの大きさを考えると内回りの2000がどうかという懸念はあって、イメージとしては『少し跳びの大きいハーパー』。今後もハーパーのイメージで上げ下げしていく馬だと思う。つくづくお兄ちゃんとは違う馬だな。

5着ランスオブクイーンもよく頑張った。確かに3番手以下はそこまで速いペースかというとそこまでではないが、それにしても冒頭に書いたようにオークスは差し有利。3番手から粘った内容自体はいい。

母マイプラーナはダートの短距離馬。その妹が短距離馬のアンバルブライベン。短距離色が濃い牝系ではあるのだが、ケープブランコと交配したエスポワールミノルが2200mをこなしていたように、父親の適性を出すんだろうな。

この子は父タリスマニック。牝馬で2400付近の先行馬はそこまで多くない。次は自己条件の1勝クラスだろうが、北海道の2600で楽しめそうだね。気性面に課題がある分、滞在もいいと思うんだけど。

気性面の問題といえば6着スウィープフィートもそうか。走り出すと大変なタイプ。と考えたらよく折り合えていたと思うのだが、チェルヴィニアを締め切れなかったとはいえ最後の甘くなり方を見る限り、武さんの言うように距離が少し長そう

見かけの脚質だけなら外回り向きだが、意外と内回りのコーナーワークも上手い。秋華賞は勝手にハイペースになるレースで外差しが入りやすい

おばあちゃんのスイープトウショウが秋華賞で他馬をまとめて差し切ったが、全差しできるかは微妙ではあるものの、秋華賞で期待している一頭。まだまだこれからの馬。今は素質だけで走っているようなもの。

同じスワーヴリチャード産駒の9着アドマイヤベルも距離っぽいな。元々陣営は距離を疑っていたが、道中折り合いが怪しかったあたり、まともに乗れるのは1800~2000。

スワーヴリチャードは自分がジャパンカップを勝った割に、産駒は距離が持たなさそうだね。スワーヴの母系が出ている感じがある。

右回りでどうかとか、小回りでどうかとかまだまだ経験が足りないから現状何とも言い難いが、とりあえずまずは短縮の時に買う。右回りや内回り適性はこれから測りたい。

一つ問題なのはフローラSを勝ったことでこの先斤量設定が厳しいレースが出てくること。まー、これはもう今更言っても仕方ないんだけどね。エリカヴィータが苦しんでいるから、似たような方向にいかないことを祈る。

12着コガネノソラはジョッキーが距離かなと言っていたが、確かに同配合ユーバーレーベンより距離が持たなさそうだね。ただゴールドシップにロージズインメイらしく上がりが掛かっていいし、成長次第で福島牝馬Sで…という思いはある。夏の成長に期待。ジョッキーの交代にも期待

成長に期待したいのは13着サフィラもそう。いい馬なんだけどね。ただ新馬が454で、今日が+16kgで448kg。成長分というより戻った分に近い。

この家系はどうしても奥手だから3歳春にそこまで多くを求めてはいない。姉のサラキアも3歳春は430kgくらいで、古馬の最後のほうで450kgまで増えた馬。ここから+16kgくらい増えて、体重が減らない体になれば重賞で勝ち負けになると思う。いい馬。

14着ミアネーロと16着タガノエルピーダも距離っぽい負け方。どちらももっと走るだけに、ミアネーロは小回り1800~2000で、タガノエルピーダも短縮で見直したい。

エルピーダはチューリップ賞が運がなかっただけで、運動神経のいい秀才タイプ。もっと走る。それこそ短縮になるであろうローズSで期待している。


ステレンボッシュはもう敗因について大体書いたから、特に書くことがない。

桜花賞の回顧を読んでほしいのだが、桜花賞はモレイラが人気のアスコリピチェーノを内から外に弾く形だったが、今日はアドマイヤベルを弾けなかった。

言い方を変えれば『受け』の競馬。もちろんオークスで人気の馬に乗って攻めの競馬をしても最後止まる可能性があるから、受けの競馬=悪とは思っていないんだけれど、戸崎に受けの競馬を選択させた点は気になる

そもそも今まで乗ってきたジョッキーたちはそこまで評価してこなかったタイプ。その評価以上に走るタイプなのだが、テンションといい、戸崎に攻めさせるだけのものがなかったかな、とも感じるな。

そんなに大きくはないスペースを捌ける馬ではあるから、競馬自体は上手いほう。秋華賞でも勝ち負けが狙える馬だと思うのだが、乗り手を選びそうだね。毎回80点以上は出してくるタイプだから大崩れはないと思うが

ここまで戸崎の騎乗にやや疑問を呈してきたマスクだが、そんなに簡単に代打で結果を出せないことは重々承知している。来週は戸崎にとって人生の大勝負。悔いのない騎乗をしてもらいたいね


さて、最後になったが勝ち馬チェルヴィニアの話をしよう。まずは適性面から。

桜花賞は大敗したが、トラブル続きで立て直してからの一戦だっただけにノーカン。しかし大敗すればそれなりにダメージが残りそうなものだが、そこからここまで立て直した厩舎力、天栄の力はさすがだよなあ。大敗した牝馬の立て直しって本当に難しい

もちろんそれは馬に能力があるからこそできる話ではある。厩舎もレース前から「もっと上の状態がある」と言っていたが、実際今日の馬体はデキはいいがもっと上があると感じさせる状況。MAXでなくてもGIが獲れてしまうのだから凄い

今日は中団に控えての競馬だったが、それこそ桜花賞以前は先行馬。この一族らしく競馬が上手い。たぶん秋華賞でも最低限の結果が出てくると思う。

ヴィクトリアマイルで1分31秒台を求められて対応できるかというと疑問は残るが、シンコウラブリイの近親だけにいずれ適性がもう少し短くなる可能性もありそう。当面買いたいのはエリザベス女王杯かな。合うタイプと見ている。

たぶん俺だけではないと思うが、ゴールした直後にお母さんのチェッキーノを思い出したよ。8年前のオークスでシンハライトの2着だった馬だ。

いい馬でな。秋はもっと良くなると話していたところで屈腱炎になってしまって長期休養。2年後復帰したが、いい時とはまるで違う姿で、2走してまた屈腱炎になって引退。夢半ばという表現がぴったりの牝馬だった

馬体はチェッキーノに似てる気がしないのだが(笑)、母の経緯が経緯だっただけに、どうしても思い出すところはある。

そしてもう1頭、頭に浮かんだのはコディーノだ。チェッキーノの全兄、チェルヴィニアのおじさんにあたる馬だが、覚えている人間も多いだろう、いい馬だった。

亡くなったと聞いた時は声が出なかったもんなあ…。もう10年も経つのか。落ち込むスタッフさんを見るといたたまれなかった。どうしても上手くいかないことのほうが多い一族なんだよね。

実際チェルヴィニアもアルテミスSの後に頓挫があって、阪神JFを回避。桜花賞も大敗してしまったが、そこから立て直しての差し切り勝ちはマスク、ちょっとグッときたよ。

コディーノも、チェッキーノも管理した藤沢和雄師はもう定年引退したが、この勝利を一番喜んでいるのは藤沢先生かもしれないね。

藤沢師に感想を聞きたくなったな。たぶん「俺が管理してないからGI馬になったんだよ(笑)」と笑って返されそうな気がする。

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