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22年有馬記念を振り返る~更なる飛躍を目指す王者と復権を狙う王者~

いきなりなんですけどね、あるなしクイズってあるでしょ。

お茶にはあるけどコーヒーにはない、赤ちゃんにはあるけど子どもにはない、お城にはあるけど家にはない…正解はあるほうには色が入っている、こんな感じのものがあったよね。

オリジナルのあるなしクイズがあるんだけど、やります?

昨年の有馬記念にはあるけど、今年の有馬記念にはない

!?そんなことはない。

希望!?そんなことはない。

昨年の有馬記念を思い出してくれ。昨年のこのレースにはパンサラッサという強力な逃げ馬があった。今年はない。

●2021年 有馬記念
6.9-11.3-11.6-11.5-11.9-12.5-12.6-12.2-12.4-12.4-12.2-12.0-12.5
前半1100m 65.7
1着エフフォーリア 9-9-8-5
2着ディープボンド 5-6-6-5
3着クロノジェネシス 7-7-8-8


パンサラッサにとって2500mという距離は長いから、いつもなら道中1F11秒台をガンガン刻んでくるのに、中盤12.5-12.6と、ちょっと慎重な逃げ方になっている。

ただそれまで1F11秒台を4つ刻んでいるように、有馬記念にしてはペースが流れていた。前半1100mは65.7。これはここ10年の有馬記念で2番目に速い

今年はそんなペースメーカーが香港に行ってしまって出走していない。しかも逃げると予想されていたタイトルホルダーが枠順抽選の結果13番という枠を引いてきた

木曜に書いた枠順ポイントの1番目にも書いたところさ。

これが仮に内枠でスタートを失敗してしまったりした場合、そこからハナを奪いに行こうとすると前半のペースは速くなるだろう。

しかし13番だったら多少出負けしてもそう揉まれることなく先行できる。ブレークアップも今は番手で競馬できるから、あえて被せてきたりはしないと考えられる。

これがもしブレークのほうが内なら、ブレークを交わしてハナに行くのにそれなりに脚を使うだろうが、自分より外ならその心配は少ない。

タイトルホルダーはパンサラッサがいなかった日経賞で逃げ切ったんだが、その時の前半1100mはなんと70.2。デキがイマイチだったとはいえ、有馬記念より4.5秒も遅い逃げだったんだ。

岡田牧雄さんなんかはスタミナを生かすためにハイペースで逃げたほうがいいと言っていたが、タイトルホルダーは大跳び。序盤コーナーがある中山2500で最初からフルスロットルで逃げられるとも思えない。

今回どこで、どれだけ息を入れたペースを作ってくるか。マスクの興味はここにあった。ペースはレースの設計図。それによって好走馬も変わってくる。

遅いほど前にいる馬は有利だろうし、後ろはハイペースになるかロングスパートにならないと届かないからね。タイトルホルダーが鍵を握っていた。


まずは今年のペースを整理しよう。

●22年有馬記念
7.0-11.3-11.7-12.1-12.5-13.1-12.7-12.4-11.8-11.9-12.2-11.4-12.3
前半1100m 67.7

●ここ10年の有馬記念 前半1100m
12年 66.8
13年 67.1
14年 69.8
15年 68.9
16年 67.5
17年 68.1
18年 67.1
19年 64.5
20年 68.6
21年 65.7

22年 67.6

過去10年で比較すると、7番目に遅いタイムにあたる。これだけ見たら決して速くはない。

●16年有馬記念 前半1100m67.5 後半1000m59.4
6.8-11.3-12.0-11.9-12.1-13.4-12.8-12.9-11.8-11.7-12.1-11.7-12.1
1着⑪サトノダイヤモンド
2着①キタサンブラック
3着②ゴールドアクター
4着④ヤマカツエース

●22年有馬記念 前半1100m67.6 後半1000m59.6
7.0-11.3-11.7-12.1-12.5-13.1-12.7-12.4-11.8-11.9-12.2-11.4-12.3
1着⑨イクイノックス
2着③ボルドグフーシュ
3着⑤ジェラルディーナ
4着②イズジョーノキセキ

近いのは2016年、サトノダイヤモンドがルメールを乗せて勝った年だ。2着はキタサンブラック。キタサン産駒にルメールが乗って、似たようなラップの有馬を勝つのもなんかの縁だろう。

マルターズアポジーが逃げた時さ。前半がそこまで速くなく、中盤が緩めば、当然スパートするタイミングが速くなってくる。2~4着まで内枠だったところまで似ている。

このペースについてはまた後程触れよう。

さて、ペースを見たところで、ここからパトロールなどを見ていこう。イクイノックスのコース取り、そしてボルドグフーシュやジェラルディーナはどう来たのか見ていきたい。

●有馬記念 出走馬
銀 ①アカイイト 幸
白 ②イズジョーノキセキ 岩田康
黒 ③ボルドグフーシュ 福永
紫 ④アリストテレス 武豊
赤 ⑤ジェラルディーナ C.デムーロ
茶 ⑥ヴェラアズール 松山
青 ⑦エフフォーリア 横山武
水 ⑨イクイノックス ルメール
黄 ⑩ジャスティンパレス マーカンド
緑 ⑪ラストドラフト 三浦
橙 ⑬タイトルホルダー 横山和
桃 ⑯ディープボンド 川田

スタート。赤ジェラルディーナが出遅れてしまった

レース後クリスチャンが「ゲートではリラックスし過ぎて出遅れてしまいました」と話しているのだが、確かに今日のジェラルディーナはいつもと違った。

パドックを見ている人間は分かるだろうが、ジェラルディーナはいつもパドックからテンションが高い。頭をブンブン振りながら、まるでライブでヘドバンしてるかのような周回をする

今回もヘドバン自体はしていたんだけれど、いつもと比べればだいぶおとなしかったんだよな。あれをおとなしいと表現していいのか何とも言えないが。

今回は秋3戦目。間隔がそこまで空いていない状況だったこともあって、陣営もかなりソフトな調教を施してきたんだ

テンションが上がっていいことはない。ごはんも食べないし、余計に体力を消費してしまう。しかも長距離輸送があるから、大幅に体重が減る可能性もある。どうしてもソフトに仕上げる必要がある。

ソフトに、優しいメニューだったからか、いつもよりマシだったのだろう。ただその分『落ち着きすぎて』出遅れてしまった。

まー、難しいよね。もっと攻めたとしたらゲートは出たかもしれないが、たぶん道中の折り合いは怪しかったろうし、パドックから暴れて体力の無駄遣いをしていたと思う。難しいね、どちらか選ぶことになってしまった。

赤ジェラルディーナが出遅れたことで、一瞬危ないシーンがあった。ジェラルが遅れると、紫アリストテレスの左隣が空いてしまう。

馬は空いてるほうに行ってしまう場合が多い。ジェラルが下がってしまったことで、アリストテレスが左に飛んでしまったんだ

なんとか武さんが修正したが、アリストテレスの斜行により、もしかすると青エフフォーリアがまとめて外に弾かれたり、間の茶ヴェラアズールが挟まれて下がっていたかもしれない。若干際どいシーンだった。

橙タイトルホルダーは決して悪いスタートではなかった。むしろかなりいい方だったんだ。

内を見ると、2番の白イズジョーノキセキもかなりいいスタートを決めていた。タイトルの和生としてはハナを切りたいから、イズジョーを交わしにいくため押す。

ただ今回のタイトルホルダーは、ゲートは良かったのにその後のスピードの乗りが少し物足りなかった

写真で分かるか微妙なところだが、下のほうの写真を見ると和生のお尻、重心が下に下がっているのが分かる。つまり追っている。これはもうVTRを見てくれ。そのほうが分かる。大体スタート後8秒、9秒付近まで追っているんだよね。大体100m以上追っている。

宝塚記念のVTRを見直すと、5、6秒くらいまで追っている。宝塚記念に比べると押しても進みが甘いんだ

実際レース後、和生は「天皇賞や宝塚記念の時よりゲートの出が鈍いように感じました」と話している。和生としてはここでもっと楽に運びたかっただろうね。

今回のタイトルホルダーは調教を見ていても、陣営の話を聞いていても、宝塚>天皇賞≒有馬>日経賞という状態だった。

パドックでどこまで変わってくるかと思ったが、まだ体に重めがある状況。体重的には宝塚と変わってないのだが、順調に使い込んでいた宝塚と、間隔が2カ月半は開いている今回とでは、当然身体面の状況は異なる。まだ気持ち重たい影響などもあってのテンだったんだろうね。

加えて、中山2500mというコースレイアウトの問題もある。

中山という競馬場は小回りとして知られているが、実際コース図を見るとコーナー角度はかなり急。

タイトルホルダーという馬は跳びが大きいんだよね。自分で走ると分かるだろうが、大きなストライドでコーナーを走るのと、小さなストライドでコーナーを走るの、どちらが走りやすいかって言ったら当然後者だ。

跳びが大きな馬が小回りのコーナーでペースを上げるというのはなかなか難しい

中山2500mはスタート後200m付近からもう4コーナーに入る。大跳びのタイトルホルダーの場合、スタートから200mでペースを上げられないとその後もなかなかペースアップしにくい。

阪神も小回りやんって話があるかもしれないが、それは違うんだよな。阪神の場合、1、2コーナーは狭いが、3、4コーナーは広いという形状。跳びが大きくても3、4コーナーは回りやすい

しかもこれまでタイトルホルダーが勝ってきた菊花賞、天皇賞春、宝塚記念は、それぞれスタートから最初のコーナーまでの距離が遠い。大跳びでも逃げやすい形状なんだよな。

予想にも書いたが、実際タイトルホルダーの数字を振り返ると、中山で走った7走で、良かった数字が1つもないのだ。皐月賞2着時の数字もやや低調。日経賞は勝ったものの、かなり数字は悪い。まー、あの時はデキも悪かったのだが。

小回りは前にいたほうが有利ではあるから、これまでのタイトルホルダーはポジション差を生かした粘り込みが多かった。ただ逆に言えば『ポジション利を作れなければ有利に立てない』とも言える。

ポジション差を作るには、加速しにくい最初のコーナーまでに楽に出て、後ろとの距離を作りたい。ところが今回はテンに若干苦労してポジション差を作りきれなかった。

テンからなかなか自分の形に持ち込めなかったのが今回の大きな敗因と言えるだろうし、その遠因を考えると出走間隔の問題、海外帰りの影響は少なからずあった

いいかげんそろそろ展開を進めよう。4000字使ってまだスタート直後だ。俺は早く回顧を書き終えて、酒飲みながら明石家サンタが見たいんだ。

橙タイトルホルダーがハナを取り切った、ところまでは書いたね。ここで空いたポジションがあるんだよ。白イズジョーノキセキの前のポジションだ。

イズジョーノキセキは今回が初めての2500m。マイルから1800mを主戦場としていた馬で、当然なるべく脚を溜めて運びたい。

スタートは素晴らしかったのだが、出していかずに出たなりの位置で脚を溜めにくる。すると、逃げる橙タイトルホルダーとの間に、白い丸で囲んだスペースができるんだよ。

このポジションに入る可能性があったのは、距離的に青エフフォーリアか黄ジャスティンパレスだった。

エフフォーリアは金曜も追ったり、返し馬で武史がかなり気合をつけていたように、レースに対して前向きさが足りなかったから、よくここまでのポジションを取れたと思う。

ただこれ以上攻めていくと、休み明けで若干太いだけに最後止まる可能性が出てくる。タイトルホルダーの後ろについていくことがいかに体力がいるかは、タイトルに実際乗ってGIを勝っている武史はよく知っているだろう。ここで深追いしなかった。

代わりに半ば強引に内ラチ沿いに入っていったのがジャスティンパレスのマーカンドさ。

溜めようとした白イズジョーノキセキの前に、押しながら体をねじ込みにいったんだ。なかなか強引な縦列駐車だね。昼時の新宿を思い出すよ。

桃ディープボンドが外外を回される中、10番枠なのに最初のコーナーでもうラチ沿い好位のポジションに入ってしまっている。

これはジャスティンパレスの2走前、神戸新聞杯の最初の直線と向正面だ。青ジャスティンパレスが3番手の内ラチ沿いを確保して、2着ヤマニンゼストに3馬身半差をつける圧勝劇を見せたレースさ。

当然マーカンドもこのVTRを見ていたんだろうな。好走確率を高めるため、スタートを決めて好位ラチ沿いを確保するプランは事前にあったのだろう

別にそれは結構なのだが、ではジャスティンパレスがこの有馬記念のメンバーの中でかなり強いか、というとそうでもない。ジャスティンパレスの後ろというポジションは特に利がない

だってジャスティンパレスが内から早めに動いてタイトルホルダーを潰しに行くか?可能性としてはかなり低い。内で我慢して直線を向く形の可能性のほうが高い。

これが仮に、エフフォーリアがインの3番手を取ったとしたらまた話は変わっていたかもしれないね。外枠の馬たちが内ラチ沿いまで進出してしまったことで、内を通る馬の有利がそこまでなくなってしまったのだ。外を回っても足りる伏線ができた瞬間だった。

黄ジャスティンパレスが内ラチ沿いの好位を取りに行ったことで、取れなかった青エフフォーリアが1列後ろに下がる。

自然と水イクイノックスの前にやってきたんだよな、これが。ルメールにとってラッキーな話だったと思うよ。

確かに最近のエフフォーリアの戦績は微妙なものだし、休み明けで太め。動けるか何とも言えないところではあったが、GIを3勝するだけの実力がある馬

そんな馬が勝手に自分の前にやってきたんだから、ルメール、今日の星座占い1位だな(テレ朝グッドモーニングのゴーゴー星占いでおうし座は3位)。

青エフフォーリアの武史は最初内目にいたのだが、1周目の直線では外目に出す手に切り換えた。

まー、ボッケリーニの後ろとディープボンド川田の後ろ、どっちがいいかって言われたら、よほど内有利馬場でない限り、外でもディープボンド川田の後ろだと思う。今の中山は馬場もフラットだしね。

エフフォーリアが外目に切り換えたことで、水イクイノックスも楽に進路を確保することができる。その後ろに茶ヴェラアズール、その後ろに黒ボルドグフーシュという隊列が作られた。臨時開業した京成電鉄エフフォーリア線だ。非常にゴロが悪いが、イッテQ見ながらだと他に思いつかなかった。

この京成線の線路の中に飛び込もうとしてきたのが緑ラストドラフトだ。騎乗している三浦皇成くんにとっては、できているラインの外をただ回り続けても何も発生しない。

自分の右前には水イクイノックス。せっかく自分の近くに最強馬がいるのだ。その後ろが欲しい。身体を内にねじ込んでいったんだよ

そしてなんと、緑ラストドラフトが一旦は水イクイノックスの後ろに入ることができたのだ。

マスクはパドックのデキを見てラストドラフトも3列目に念のために加えたんだけど、追加で買った最低人気がイクイノックスの真後ろに入った瞬間、思わず立ち上がってしまった。

余談だが、今年の秋、マスクは嫁さん、いわゆる総裁に化粧水を買ってくるよう命じられた。品名も覚えられず、化粧水の名前をラストドラフトだと勘違いしていた

それがリフトモイストだと後に指摘で判明したのだが、未だにマスクはその化粧水のことをラストドラフトと呼んでいる。

世の中は上手いこといかないものさ。マスクが化粧水をラストドラフトと呼んで総裁に怒られ、緑ラストドラフトは再度内からポジションを取りにきた茶ヴェラアズールに弾き飛ばされ、京成線から外に弾き出されてしまった

この瞬間マスクはリフトモイストを諦め、化粧水ラストドラフトの正しい名前をちゃんと覚えようと決意したものだ。

真面目な話をすると、前述したように内の有利性がそこまで高くない状態の中、外にできたラインの中にいる水イクイノックスはだいぶいいポジションと言っていいだろう。この時点でマスクはほぼほぼイクイノックスの勝利を確信していた

確信した、のだが、そんな簡単にいかないのが競馬だ

ここで橙タイトルホルダーのペースについて改めて触れたい。これは1コーナー付近。

●22年有馬記念 前半1100m67.6
7.0-11.3-11.7-12.1-12.5-13.1-12.7-12.4-11.8-11.9-12.2-11.4-12.3

太字にした部分、1F13.1の区間。こりは残り1600m→1400m、つまり2周目1コーナー付近にあたる。タイトルホルダーがペースを落とし、息を入れている。

中山2500に限らず、1周半の競馬の場合、2周目1、2コーナーでペースが緩んで前の馬の息が入るのは珍しい話ではない。むしろ基本的にここでペースは緩む。

似たようなペースだった16年有馬記念なんて、この区間は1F13.4。昨年のパンサラッサが刻んだ1F12.6ってペースはかなり速かったんだなと改めて思わされるよ。

画像を見ると分かるが、タイトルホルダーは2番手ブレークアップと2馬身ほど差を離して逃げられていて、番手のプレッシャー自体はそうでもない。だからこそ1、2コーナーで13.1-12.7と息を入れられた。

16年は13.4-12.8だからもっと遅かったんだけど、これ以上落とすと後ろも来てしまうからね。和生の作るペースが速過ぎたとは思えない。

前が息を入れてるのに馬群の長さが変わらないということは、後ろも似たようなペースを刻んでいると考えられるんだけど、このちょっと遅いペースに我慢できない馬が現れたんだよ。

そう、イクイノックスだ。

大体これを画像で伝えようとするほうが無茶なのだが、水イクイノックスが口を割りかけて掛かり気味になっているのだ。

前述したようにペースが緩んでしまっていて、馬からすると「もっと早く走りたいのになんで?」と思う場面だ。

イクイノックスが方言を使うか存じ上げないところだから標準語を使うが、たぶんそんな感じのことを言っていたと思う。イクイノックスがエセ関西弁を使っていたら、それはそれでなんか嫌だな。

これは本当に画像で伝えにくい。実際映像を見てほしいんだけど、水イクイノックスが行きたがる中、ルメールが絶妙に抑えているんだよ

掛かっている馬を抑える場合、手綱を引いて、重心を後ろに下げるシーンは見たことがあると思う。すると馬は口が後ろに引っ張られ、頭が上がり口を割る。いかにも掛かっているシーンさ。

この場合、ルメールが使っているのはだ。言葉で説明しにくいのだが、膝、そしてその下の足首を柔らかく使いながら、重心を後ろに落とし過ぎず、「モウスコシマッテクレマセンカ?」と言っているような、絶妙なバランスをキープしている。

とにかく繊細なタッチ。これは映像で見てほしいんだよね。口でなかなか伝わらない部分だ。行きたがるイクイノックスを柔らかくいなすような抑え方は鳥肌が立つ。

今年の有馬記念、4コーナーのイクイノックス馬なりも衝撃的だったんだけど、同じくらい衝撃だったのがこの部分。こんなに綺麗に折り合わせられるジョッキーが世界に何人いるか…

掛かる馬を強引に引くと、重心は後ろに寄る。自分が誰かをおんぶして走る姿をイメージしてほしい。おんぶしている人間が、後ろに体重をかけると背負いにくいし走りにくいだろう。

ルメールは膝を柔らかく使って重心を後ろに落とさない。馬は掛かっても走りやすい。余分な力を過剰に使わなくて済むから、その力を終盤に残しておけるんだよね。さすがの技術だよ、これは。

終盤力が残っているからこそ、あれだけ楽に進出できる。影の勝因はここでルメールが完璧な対処を取れているからだと思う。

そんな水イクイノックスの後ろにしれっと入っていくのが紫アリストテレスの武豊さんだ。

何度も書いているように、強い馬の後ろはべスポジ。今回最初のポイントの6番に上げたように、イクイノックスの後ろはべスポジとなる可能性があった。

中盤までは真後ろは茶ヴェラアズール松山だったんだ。一瞬リフトモイストに入られちゃったけど。ただ2周目直線入口あたりで、自然な感じでアリストテレスがイクイノックスの真後ろに入っていったんだよ。

するとヴェラアズールは更に1頭分外のポジションを回るし、緑リフトモイストとその後ろの赤ジェラルディーナは更に外を回されるよね。

このロスがなかったら勝った、なんてことはないが、より逆転要素が少なくなった部分だ。

水イクイノックスにとってはもう楽なものだ。青エフフォーリアが上がってくれれば、それについていくだけでいい。強い馬の真後ろというポジションをふんだんに利用している。

水色の丸で囲んだように、エフフォーリアとイクイノックスの間に少しスペースが空いているのが分かるだろうか。

フルゲート、小回りの中山2500だ。当然ゴチャつく可能性だってあるし、ましてGIなんだから勝負所でギュウギュウ詰めになって動けない、なんてこともある。

この2周目3コーナーの画像を見ても分かるが、イクイノックスは前にもスペースが空いているし、外にだって出せる

外がラストドラフトで力不足もあって締めてこなかったのも良かった。全然負荷が掛かっていない。これが自分の外にジェラルディーナとかだったらまた話は変わったかもしれないが。

その赤ジェラルディーナといえば、若干難しいポジションにいた。出遅れてしまってポジションを取れなかったから仕方ないのだが、茶ヴェラアズールを締めるようなポジション。

仮にここから進出するには、自分の前にいるラストドラフトを外から交わしていかないといけない。より大きく回るロスがある。

黒ボルドグフーシュに至っては、『外からラストドラフトを交わすジェラルディーナを、更に外から交わす』必要があるから、距離ロスを強いられる。福永もどこで動こうかちょっと迷っていたのではないかな。

かといって、黒ボルドグフーシュ福永はどこかのタイミングで動かないといけない。仕掛けをいつまでも待っていると、更に外にいる銀アカイイトにまくられてしまうからね。

仮にアカイイトにまくられてしまうと、ボルドグフーシュは内に締められる形になってしまう。要は仕掛け遅れ。菊花賞で2着になったように、ボルドグフーシュの持ち味はスタミナ。持ち味を生かすにはアカイイトより早めに動く必要がある。

レース後幸が「早めにマクるイメージでしたが、隣りの(福永)祐一に察知されてスッと動かれてしまいました。そこからリズムが崩れて手応えが悪くなりました」と話しているように、福永は自分の外の動きに気を付けていた

福永の上手いところはこういう部分。視野が広い。普通自分の前だけに目が行きがちだが、後ろにいる馬の動きもしっかり気にしている

以前、福永にはこういう想定が甘かった時期がある。たまに詰まっていた頃だ。いわゆる『先読み』が甘く、派手に詰まってネタにされていた。仕方ない詰まりも多かったんだけど、回避できたのでは…と思う時もあったのは事実さ。

それを福永は研究で克服した。相当レース見たのだなと分かるもんね。色々なパターンを頭に入れて、出走馬、騎手の動きのパターンを頭に入れているから、この場合も自分の前だけでなく、後ろの幸の動きまで把握できている。

え?本当に来年2月でジョッキー引退するの?もう1年くらいジョッキーでいない…?

アカイイトの動きを察知して、腹をくくって外から動いた黒ボルドグフーシュ。どうしても外を回ることになるし、水イクイノックスが緑ラストドラフトを少しだけ弾いたことで、1頭分更に外を回ることになった。

ここで進路を考えていたのが赤ジェラルディーナのクリスチャンだ。仮に外を回すとすると、緑ラストドラフトの更に外を回ることになるし、ボルドグフーシュのまくる動きに抵抗しないといけない。

ジェラルディーナはそもそも出遅れて、ポジションを取るまでに脚を使っている。なるべく負荷がかからないよう直線を向かないといけないんだ

4コーナーを正面から見るとこんな感じ。セオリー的には2択。

1.自分の前にいる茶ヴェラアズールの後ろについていき、引っ張ってもらう
2.大外を回る黒ボルドグフーシュの後ろについていく

ネックとしては、ヴェラアズールの後ろの場合、『ヴェラアズールが動けなかったら巻き込まれる』。動いてくれればいいんだけどね。

対してボルドグフーシュの後ろについていく場合、その分外を回るわけで、よりロスのある競馬になる。

赤ジェラルディーナのクリスチャンは考えた。そして『第3の手』を思いついたんだ。

お分かりだろうか、ジェラルディーナが茶ヴェラアズールの真後ろから、少し内に寄ったことに。

これ、序盤の枠順のポイント3に書いたんだけど、ヴェラアズールという馬はストライドが大きいから小回りだと外を回る可能性が高い。内に寄ってくる可能性が低い。

これがムーアならまだ、ジャパンCのようにインから上がっていく可能性もあったが、松山が内に寄ることはほぼない(松山が下手とかそういうことではなく、ムーアが超抜)。

それを見越したのか分からないが、クリスチャンはジェラルディーナを少し内目に誘導して、ショートカットを試みたんだよ。初期のマリカーみたいなことをやり始めた。

斜め前から見るとこんな感じ。完全に切り換えて視線が内目をむいている。

しかしだ。ここで問題なのは、内目にいる馬さ。前に並んでいるのはジャスティンパレス、ボッケリーニ、ポタジェ…どの馬もビュンと動いてくれるような馬ではない

いかにしてこの馬群を捌くのか、ジェラルディーナの命運はクリスチャンの腕に託された。

ここでクリスチャンの『アシスト役』になったのが白イズジョーノキセキのヤスナリだった。

序盤登場して以来一切触れてこなかったが、イズジョーはずーっと内ラチ沿いで脚を溜めていた。溜めて、溜めて、ゲージが満タンになったところで満を持して外に出し馬群を割に行ったんだ。

赤ジェラルディーナにとって救いの女神みたいなものさ。勝手に進路を作りに行ってくれるんだから。いい先輩を持ったね。

赤ジェラルディーナのクリスチャンに無駄な動きは一切なかった。

レース後「4コーナーでズブさを見せました」と言っているように、4コーナー前からムチも入ってかなり動かされているんだけど、促されながら白イズジョーノキセキの真後ろをついてくると、クリスチャンはヤスナリが左ムチを叩いているのをずっと見ていた。

左ムチを叩かれたイズジョーノキセキは、自分の右側、内ラチのほうに寄っていく。

だから狙いはイズジョーノキセキの外。これ画像で見るとそんなに大したことない動きに見えるかもしれないけど、パトロールで見てほしい。恐ろしいほどスムーズに進路を取っているから

確かに4コーナーで思ったよりバラけたとはいえ、右ムチ使いながら一度も詰まらず追ってきた。ゴールまでのイメージ図が見えているかのようにね。

右ムチ叩いていたのも、前のイズジョーのヤスナリがずっと左ムチ叩いていることを踏まえているんだろうな。

有馬記念は外国人ジョッキーが強いレースでもあるんだけど、フルゲートの小回りでこんなに器用に乗ってくるんだから、そりゃ外国人ジョッキーの成績いいわ。

まー、それだけに出遅れが痛かった。タラレバになってしまうが、五分にゲートを切ってイクイノックスの後ろやエフフォーリアの後ろに入っていたとすると確実に違う未来があった。もちろんそれで失速していた可能性もあるけどね。

スタートで気持ちが入らず出遅れ、4コーナーでもズブかったように、今回は近走で一番おとなしかった。掛かるくらいに動く馬がね。

成長もあるのだろうが、今のジェラルディーナにはもう少し強い仕上げを施しても良かったのかもしれない。まー、それは結果論。攻め過ぎては元も子もない。競馬って難しい。

春に賞金面の問題で大阪杯に出られず、マイルの阪神牝馬Sを使ったことがある。完全に置いていかれてしまっていた。今はもう最低2000は欲しい。立ち回りが上手く非根幹も歓迎。

すると京都記念はいい。内伸び馬場になる可能性が高いから、内枠ならよりいい。日経賞でもありかな。大阪杯はローテ、枠によりそう。ヴィクトリアマイルは短いし、宝塚記念に出てきてほしい。今回の序盤のロスを考えると十分通用する。

しかし…ジェンティルドンナに似てないね(笑)似てるのは馬名にジェがついてるところだけじゃないかと思うくらい。

それだけに、京都記念や宝塚記念のような『ジェンティルドンナを買いたくなかった条件』で買っていきたい。


2着ボルドグフーシュはよく頑張った2着。内の利が早めに消えて、イクイノックスが早めに進出して内を取り込んだこともあって、より差しやすかった。フラットな馬場も良かったね。

ただラストドラフトの更に外を回って差してきたのも事実。レース後福永が「勝ち馬は強かったにしても、3コーナーから外を回って3着は離していますから、来年は主役になってくれるでしょう」と言う気持ちも分かる。

まー、その後に「スタートを出てからが遅いところはまだ成長が必要でしょうね」と話しているように、テンが課題。今回もゲートは出た。その後のテンのスピードが乗らない。

菊花賞回顧に書いたように、この馬はまだトモが物足りないんだよな。短距離馬のダッシュが速いのはこのトモがしっかりしているからで、腰の踏ん張りが足りない分スピードの乗りが遅い。

ただし、菊花賞の時のパドックに比べると今回の有馬記念のパドックで見るトモは少し良くなっていた。この期間でこの伸びであれば、来年はよりトモが成長してくるはず。

トモの成長は大きい。16番手でしかレースができなかった馬が、13番手、10番手…と、序盤のポジションを取れるようになってくるとより競馬の選択肢が増えるからね。大外を一気に動く戦法とは違うやり方も生まれるかもしれないし、より成績は良くなるはず。

しかし今回はいいパドックだった。イクイノックスが笑っちゃうくらい良かったから陰に隠れた感じはあるが、陣営の話通り、素晴らしいパドックだったね。福永がレース後「素晴らしい状態でした」という気持ちも分かる。天皇賞までにどこまでトモが良くなるか。

4着イズジョーノキセキは何よりも内枠が良かった。完璧なスタートを切って、インで溜めに溜めて、外に出すタイミングも完璧。パドックからいかにもいいデキだったが、乗り方も完璧で、もう言うことのないレース

これ以上ない4着。逆に言えば、こんなに完璧に乗ったのに4着。適性はもっと短いところで、1800~2000付近の内枠で立ち回りの上手さを生かしたい。元々下手ではなかったけれど、競馬がどんどん上手くなってるね。成長著しい。


5着エフフォーリアはよく頑張ったと思う。5着でよく頑張った、この言葉をGI3勝馬に使うのは失礼な気もするのだが、俺はあえて、よく頑張ったという言葉を使いたい

それほどまでにここまでの道は険しかったのだ。春の連続大敗。色々と敗因は考えられたが、今回は完全にゼロから立ち上げた

ゼロから立ち上げて、なんとか間に合ったのが今回の有馬記念さ。正直間に合ったか、というと何とも言い難い。

俺は2週前追い切りを見て、有馬記念で消すことを決めた。脚の返しも重く、体も太い。誌上パドックは写真の写り方も悪くて牛なんて言われていたんだけど、あれはさすがに写り方も悪かったとはいえ、実際太かった。

鹿戸師はレース前、「やれることは全部やった」と言っていた。本当にそうだと思う。冬場は寒くて絞りにくいが、あえて調教を少しでも気温が高くなるかなり遅い時間帯にやって、2週連続で3頭併せの真ん中にぶち込み、びっしりと動かした。

それでも足りないとみて、金曜にも追い切ってくるほど。まさか1年前の今頃、翌年の有馬前にここまで攻めるなんて予想しなかったな…

馬体は成長分もあるからちょっと太いくらいだったんだが、気持ちだよね、あとは。長い休みも挟んでいるからどうしてもレースに対して前向きさが足りない

調教で出来る限り闘志を引き出し、返し馬では武史が必死に気合をつけていた。いくつもGIタイトルを獲った馬がさ、ここまでやるわけよ。1頭の馬を何とかして復活させたいっていう陣営の想いがヒシヒシと伝わってくるわけ

こんな姿を近くで見ていたら、普段情を入れて考えない俺でも頑張ってほしいという気持ちが湧く。気づいたら、エフフォーリアのがんばれ馬券を計200円だけ買ってしまっていた。

正直マスクの予想以上だったね。武史が返し馬で気合をつけた分、テンから行けたのも大きい。パドックでは少し頭が高くまだ気持ちが入り切っていなかったが、それでここまで出れたら上出来。最後まで抵抗して、ここ最近では一番いい内容だった

武史がレース後「今年の中で一番状態が良く、自分のやりたい競馬はできました。負けはしましたが、得るものもありました」と話しているが、本当にその通りだろう。

もちろん一番いい時に比べたら全然足りない内容なんだけれど、春が春だからね。春のレース振りを見た後に今日の有馬を見たら、相当良くなっている。

あとはこのデキをどこまで上げていけるかだろう。今日は一番いい時を100とするとまだ70くらい。80、90と上げていく時に、馬の精神面を壊さずに持っていけるか、来年に向けて新たな楽しみができたね

●エフフォーリア
これまでの前半1000mと前半2F目

61.8 11.2 1着 新馬 札幌2000
63.4 11.7 1着 百日草 東京2000
61.9 11.8 1着 共同通信 東京1800
60.3 11.7 1着 皐月賞 中山2000
60.3 10.6 2着 ダービー 東京2400
60.5 11.5 1着 天皇賞秋 東京2000
59.4 11.3 1着 有馬記念 中山2500 ※

58.8 10.3 9着 大阪杯 阪神2000
57.6 10.4 6着 宝塚記念 阪神2200

61.2 11.3 5着 有馬記念 中山2500 ※

※有馬は2500のため100→300m区間。前半1000mは推定。

100m→300m区間の11.3は昨年と一緒だが、今年の1000m通過は推定61.2昨年パンサラッサがいた時に比べて1.8秒も遅い

これは宝塚の回顧でも紹介したのだが、エフフォーリアは前半1000mが速くなるほど着順が悪くなる。そして前半2F目が10秒台前半だと脆い

今回は昨年の有馬記念より遅いペースだったことも大きい。仮にパンサラッサがいたとしたらこの着順はなかったのではないかな。

忘れてたかのように序盤のあるなしクイズの話を持ち出すと、パンサラッサのあるなしでこの馬の着順は変わる

まー、パンサラッサは今のところ春シーズンはサウジ、ドバイと転戦する予定。どうなるかは分からないから断言できないところで、大阪杯はパンサラッサ、ジャックドールがいなければ…というところではないか。大変な時期に生まれてきたね。

いずれは克服してほしいところだが、まずは1勝。良化途上の現状、上位を目指すならスローが欲しい。そしてそれ以前に、まずは無事に運んでほしいね。

6着ウインマイティーもよく頑張った。好走要因は道中ラチ沿いにいたこと。イズジョーノキセキの真後ろで溜められた分。

もちろん実力がないとここまで来れないんだけどね。前走が負けすぎで精神面の心配をしたが、現状この馬は前に壁を作ってじっくり溜めるほうがいいのかもしれない。

立ち回り自体は上手いから、牡馬混合重賞でも内枠なら足りる。金鯱賞…あたりか。その都度の条件で考えたい馬。

前脚が硬くなりやすい馬だが、使い込んでいる割にはパドックで前脚が出ていた。体質もだいぶ強くなったね。もう一発あっていい。それだけにエリザベス女王杯で変な馬場になったのが痛い。

7着ジャスティンパレスはレース後マーカンドが「タイトルホルダーの後ろの位置が取れました。ただ、まだ体が出来上がっておらず、直線のヨーイドンでは分が悪かった」と話しているように、体がまだ緩い。菊花賞でも書いたなこれは。

何度も書いているから今更触れないが、この馬は晩成。完成形が100とすると、春は70、今は80くらいでは。まだまだ良くなる。外枠からインの好位に入って立ち回れるように、立ち回りの上手さは大きな武器。

あくまで成長次第だが、来年の宝塚記念はワンチャン。来年の有馬記念では本命にしたいくらいだから、いい成長曲線を描いてほしい。春よりだいぶ良くなっているし、もっといい馬になる。

8着ディープボンドは川田がレース後「輸送のトラブルの影響で歩様の感じが違っていました」と話していた。今日はここ最近では一番前脚が出ているように見えて、プラス要素かなと思ったんだけどね。あれだけ前脚が出てはいけないのか。勉強になったし、今後の指標ができたのは収穫。

なにせ輸送が当初の予定より7時間以上かかってしまった。ボッケリーニとジェラルディーナ以外の関西馬は条件が同じ、と言われるかもしれないが、そこは個別に差が出てしまうからね。

ただでさえ大外で不利、1周目4コーナーでも外外回される状態で、輸送でも不利。たぶん朝の星座占い、1週間連続最下位だったと思う

難しい話だ。いかにいい仕上がりでも、枠が不利だとそれだけでマイナス。枠が有利でもデキが良くなければあと一押しは利きにくい。つくづく、全て揃える難しさを感じる。

ただこれだけ不利が重なったのに8着に踏みとどまったとも言える。この中間、陣営はやけに反応が良くなったことを強調していた。確かに柔らかみは感じていて、この状況で3000以上を使ったら春よりもっと反応良く動けるのでは?という希望的観測はある。来年の春、立て直された姿を楽しみにしたい。


9着タイトルホルダーは序盤に思っているほとんどの敗因を書いてしまったから、そちらを参照で。

ただ大跳びで中山がそこまで合っていないからとはいえ、和生のこのペースメイクの割に手応えが悪くなるのが早い。宝塚レベルのデキにないと中山のGIは乗り切れないということなのではないかな

●タイトルホルダーの中山
1着 新馬
4着 ホープフルS
1着 弥生賞
2着 皐月賞
13着 セントライト記念
5着 有馬記念
1着 日経賞

予想にも書いたように、見方は分かれると思う。皐月賞2着のある馬に中山が苦手なのではなんて本来言ってはいけないと思う。

セントライト記念では外からどんどん来られて塞がれてしまったからノーカン。日経賞はデキが悪かったから勝っても数字が低調なのは仕方ない。

だが、 勝った弥生賞の数字はそんなに良くない。皐月賞にしても全体時計自体はそうでもなくて、エフフォーリアには3馬身離されてしまった。全体的にまだ中山でいい数字が出ていない。

今回にしても番手からのプレッシャーはそこまでなく、ペースは決して速くない。中盤に息も入った。残り5Fから11秒台を入れてスタミナ勝負に持ち込んで、それでも自分の形に持ち込めなかった。ジョッキーのミスではなく、馬が有馬に対応できる仕様になかった、と見たい。

もちろん陣営がこの1カ月以上じっくり仕上げているのも見ている。遠征の難しい部分が出たと思うし、これはもう仕方ない。

今後も中山はポジション差を生かせる形のほうがいいだろうね。自分から主導権を握るように、昨年のようにパンサラッサのようなペースメーカーがいたほうがいいかもしれない。後ろの脚がもっと削られるような、そういう展開のほうがいいのでは。

今回の着順が着順だけに来春のドバイ遠征を実行するかは分からないが、メイダン2410は1コーナーまでの距離がそう長くない。コーナーが大きくなるのはいいと思うが、メンバー次第では。宝塚は引き続きいいと思う。舞台設定としては完璧だよね。

秋はなあ…仮にブリーダーズカップターフに挑戦するとしたら、23年はサンタアニタ。スタートから下り坂なのは対応できると思うが、アメリカらしく芝はダートコースの内側。跳びが大きいタイトルホルダーが、トリッキーなサンタアニタパークでフルパフォーマンスを出せるかは微妙なところ

ジャパンカップはいいと思うんだよね。合うと思う。もしブリーダーズカップを使うとたぶんジャパンCは間に合わない。今後は使うレース次第。今回の負けが能力ではない。言うまでもないだろうが。

10着ヴェラアズールは「前走よりよろしくない」という話を聞いていたが、実際そんな感じのデキ。前走のパドックのほうが数段階良かった。

跳びも大きく中山も不向き。サンシャインSは届いても、今回は有馬記念。小回りで適性自体が合っていない。使わなくて良かった気しかしないが、逆に言えばこれで狙いどころはハッキリしたのでは。ドバイシーマクラシックを使ってほしいね、ムーアで


さて、本日のラストは勝ち馬イクイノックス。ここまでで1万6000字か。4時間ちょっとでここまで書いた自分を褒めたい。

何といっても今回はデキが良かった。良過ぎるくらい良かった

デキの良さはトレセンでも十分分かってはいたんだけどね。最終追い切りなんてもう馬が唸っていた。両サイドにハーメティキストとゴールデンシロップを置いた最終追い3頭併せは、両サイドをまるで蹴散らすかのように真ん中から伸びてきた。

思わずため息が出ちゃったもんね。相手が未勝利馬ならまだしも、どっちも中央でオープン馬になっている存在。ハードに追われているのに、真ん中から楽に伸びてきた。ボウリングの球がピンを弾き飛ばすかのような伸び。

間違いなく俺が見てきたイクイノックスの追い切りの中ではナンバーワンだった。陣営も「勝てるでしょ」と言ってるくらい自信を持っていて、パドックはただただ楽しみだったんだ。

パドックに出てきて1秒で勝ったなと思わせられる、素晴らしい馬体だった。踏み込み、前脚の出、気合乗り、何一つ悪いところがない。現状、これ以上仕上げるのはたぶん無理。それくらいいいデキ。

絶賛に絶賛を重ねているが、本当に良かったからパドックの映像を見てほしい。よく見て脳に焼き付けてほしい。これが理想のパドックだと言ってもいいくらいさ。ここまで仕上げた助手さんが凄い。

まー、ちょっとデキが良過ぎた分、体も余計に動くものだから、緩くなったところで若干我慢できなくなりそうだった。デキが良過ぎると馬が掛かるのはよくある話。そこをルメールが技術でカバーした結果が、2周目4コーナーの馬なり進出さ。

●22年有馬記念 前半1100m67.6
7.0-11.3-11.7-12.1-12.5-13.1-12.7-12.4-11.8-11.9-12.2-11.4-12.3

太字にした部分が、3コーナーから直線半ばまでの区間。12.2-11.4が刻まれてる中で、馬なりで唸るように回ってきた。笑っちゃったもんね、思わず。強過ぎる。

ラスト1Fは12.3だったが、最後100mはほぼ追っていないこと、そもそも残り1000mから11.8が入るラップなんだから、12.3でも特に下げる要素にはならないだろう。3年前の勝ち馬リスグラシュー並のインパクトだったね。

過去の回顧に何度も書いているが、この馬の恐ろしいところはこれでまだ『未完成』であることだ。

春を70とすれば秋は80、今は85~90くらいにはなっていると思うが、それでも馬体重の割にまだ細い感じがある。何度も完成は来年以降と書いているように、まだ上がある。今日のデキはあくまで現状ではこれ以上はないという状況。

未完成で、有馬記念の4コーナーを外から馬なりのまま上がってくるとか、乾いた笑いがこぼれちゃう

ダービーは気持ちが入りきらずに後ろからになって届かなかったが、天皇賞、有馬記念と気持ちも入って、体も少しずつ良くなったことでどんどんパフォーマンス、数字が良くなっている。

このペースで更に伸びたとして、来年この馬はどんな姿を見せてくれるんだろうね。

ドバイに行ったとしたらどんなレースを見せてくれるんだろう。

フランスに行ったとしたらどんなレースを見せてくれるんだろう。

正直、この馬の底がまだ見えない。日が経つごとに良くなっているイクイノックスが、来年どこまで夢を見せてくれるのか、1人の競馬ファンとして楽しみにしているんだ。


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