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22年安田記念を振り返る~ジョッキーを試す過去最高に窮屈なレース~

今年の安田記念は、アドマイヤコジーンが勝ってからちょうど20年目なのだという。

もう、20年か。昨日のことのように思い出すレースだ。アドマイヤコジーンと後藤浩輝という、紆余曲折あった者同士のコンビが突き抜け、後藤が男泣きしたシーンは、2002年の競馬シーンを代表する光景だった。

この時、アドマイヤコジーンは7番人気。めちゃくちゃ難しい年でね。1番人気のエイシンプレストンの線は薄いと見ていたが、そこからどう考えるか迷いに迷ったのを覚えているよ。

アドマイヤコジーンに限らず、安田記念というレースは人気薄の伏兵が勝つことが多いんだ。

過去20年のJRAGI 5番人気以下の馬が勝った回数
1位 9回 安田記念
2位 8回 皐月賞
2位 8回 宝塚記念
2位 8回 菊花賞
2位 8回 ヴィクトリアマイル

1位は安田記念なのだ。ここ20回中、9回で5番人気以下の馬が勝っている。2年に1回のペースと考えれば相当荒れているレースだと思う。

皐月賞、宝塚記念は分かる。どちらも小回りコースで紛れがある条件さ。実際今年の皐月賞も勝ったのは5番人気のジオグリフだった。菊花賞も分かる。全馬初めての3000mだから、適性が実力を凌駕しやすい舞台と言える。

20年前はなかったのに、すでに5番人気以下が8回も勝っているヴィクトリアマイルはなかなか強烈なのだが、1位安田記念同様、東京の芝1600mで施行されている点が見逃せない。

変だと思わないか?東京のマイルって、広いコースで、直線も長い。実力を出し切りやすいフェアな条件と思っている人間は多いと思う。であれば実力通り決まるのではないか。

以前予想にも書いたことがあるが、安田を始め東京の芝マイルGIは道中断続的にペースが流れることが多いのだ。

ここ3年の安田記念のラップ

・19年
12.2-10.9-11.4-11.3-11.2-11.1-11.2-11.6

・20年
12.1-10.9-11.2-11.5-11.6-11.4-11.0-11.9

・21年
12.3-11.0-11.6-11.5-11.4-11.2-11.0-11.7

道中断続的に1F11.5以内のラップが刻まれているのが分かるよね。中盤のペースがそう簡単に緩まないのだ。

人気というのは前哨戦や、それまでの近走成績で決まることが多い。よほどのことがない限り、ここ3走二桁着順の馬は1番人気にはならんだろう。5番人気以下の馬は、最近着順が今一歩だったり、実力が少し足りないと思われている場合が多い。

最近のレースとは求められる傾向が違う』のだ。だから最近着順が今一歩でも、適性さえあればなんとかなってしまう。道中断続的に締まる条件ってそうないからね。ペースが締まる安田やヴィクトリアマイルが荒れやすい理由はこれ。


道中締まった流れになりやすい安田記念だが、今年はどうだっただろう。

昨年の安田記念と今年の安田記念

・21年
12.3-11.0-11.6-11.5-11.4-11.2-11.0-11.7

・22年
12.2-11.0-11.5-12.0-12.0-11.2-11.0-11.4

注目してほしいのは600m地点→1000m地点。今年はどちらも12.0だったのだ。この地点は3、4コーナーにあたるのだが、どちらも12秒台だったのは16年、ロゴタイプがスローペースを刻んで逃げ切って以来6年ぶりのことだった。

今年の前半3Fは34.7。ここ10年の安田と比較すると4番目に遅い数字だ。大して速くもない前半3F6年ぶりに中盤どちらも1F12秒台だったこと、ここから分かるように、近年としては珍しいほど遅いペースだったんだよな、今年は。

ハイペースになると馬群はバラける。逆にスローペースはどの馬もついていけるから馬群が固まりやすい

GIはタイトな馬群になりやすいのだが、そこにスローで馬群がより凝縮されれば、例年以上に窮屈なレースになってしまう。今年の安田記念は『近年最高に窮屈だったレース』としてマスクの記憶に残るだろう。

●安田記念 出走馬
白 ①カフェファラオ 福永
朱 ③ロータスランド デムーロ
黒 ④ダノンザキッド 川田
赤 ⑤ホウオウアマゾン 坂井
青 ⑦ファインルージュ 武豊
紫 ⑧イルーシヴパンサー 田辺
黄 ⑨シュネルマイスター ルメール
緑 ⑫ダイアトニック 岩田康
橙 ⑬ソングライン 池添
水 ⑭ソウルラッシュ 浜中
灰 ⑮セリフォス 藤岡佑
茶 ⑯レシステンシア 横山武
桃 ⑰サリオス レーン

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スタート後。マスクは200mあたりで非常に嫌な予感がしていた。

なぜなら赤ホウオウアマゾンが行くのはいいとして、茶レシステンシアの内から、掛かり気味に緑ダイアトニックが上がっていったからだ。

当初から今年の安田記念は逃げ馬の数がそこまで多くない情勢。ひと昔前ならシルポートという、放っておいても飛ばすタイプの逃げ馬がいたものだが、今年ハナ候補はロータスランド、ホウオウアマゾン、レシステンシアくらい。しかも3頭とも絶対ハナに行かないといけないタイプでもない

ホウオウアマゾンハナで外の2番手にレシステンシアであれば、仮にホウオウが少し緩いペースを刻んだとしても、上がり勝負を避けたいレシステンシアが突っついて、ペースはそれなりに流れる可能性があった。

ところが真ん中にダイアトニックがいるとなると話は変わる。レシステンシアが外の3番手になってしまうのだ。たぶん皆さんご存じの通り、レシステンシアにマイルは長い。前走はややゆったりしたペースを2番手で流れに乗って3着に粘り込んだが、あのペースでも最後止まり気味。本質的に今は1400以下がいい馬。

そんな馬で外の3番手から強引に競りかけていくだろうか?普通は競りかけないよね。つまりダイアトニックがホウオウアマゾンをいじめるか、ホウオウアマゾンが自分からペースを上げない限りは、ゆったりしたペースになることがほぼ決まってしまったのだ。

ダイアトニックにしたって掛かりながら2番手に行っただけで、ハナを切りたいわけでもない。この路線いつからこんなに逃げ馬不足になったのかと思ったほど面倒な隊列だった。

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序盤から緩めのレースだったから、すでに馬群が固まりつつある。しかも真ん中を構成しているのが武豊、池添、ルメール、レーンと腕達者ばかり。この時点で結構面白い。

最初黄シュネルマイスタールメールは、橙ソングラインの少し内目の後ろにつけていたんだよな。

たぶん水ソウルラッシュの浜中はもう1列前、シュネルマイスターのポジションより前に入りたかったはず。レース後浜中が「ペースが流れないと思っていたので、位置を取りたかったのですが取れず」と言っているようにね。

スタートを出てからの行き脚がイマイチで、シュネルの後ろになってしまった。これが最後の最後まで影響することになる

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ジョッキーコメントから興味深いシーンだったのは、外の前目のポジション争いだ。

●安田記念 レース後コメント
1着橙ソングライン 池添騎手「しっかりポジションを取りたいと思っていましたし、良い形でスタートを切ってくれたので、取りに行きたいと思っていましたが、サリオスが外にいたので、この馬の動きでどうしようかと考え、そこは我慢させる判断をして、サリオスの後ろにつけました

4着灰セリフォス 藤岡佑騎手「外枠からイメージ通りのレースができました。理想はサリオスの後ろ、ソングラインの位置でしたが、そこに入られてしまいました

掲示板に載った2頭が『サリオスの後ろ』というワードを口にしているのだ。

以前からマスクが言っているように、強い馬の後ろというのはベストポジションになりやすい。ついていくだけで勝手に進路が生まれるからね。

サリオスは今回8番人気ではあったが、未だに能力の高さに関して疑う人間は、たぶんこれまでの競馬の数字を見れない人間だろう。

池添、藤岡両ジョッキーが『サリオスの後ろ』を狙ったのは、今回レーンが騎乗したことも大きいはず。

租界には以前書いたと思うが、ダミアン・レーンというオーストラリア人は外目の好位につけて、コーナーから早めに踏んでいく競馬が多い。オーストラリアのジョッキーってこの手の競馬が好きな人間が多い。C.ウィリアムズあたりもそう。

たぶんあれだけ動けば、ジョッキーも『レーンは早く動く』ということを頭に入れて乗っている。サリオスレベルの強い馬に乗って、しかも早ろ…じゃないや、早めに踏むレーンが乗っているとなれば、その後ろに入れば後はついていくだけでいい、という考えが池添、藤岡にあったのだと思う。

結果的にサリオスの後ろを取り切ったソングラインが1着、取れなかったセリフォスが4着なのだから、この池添の判断は大正解だったと言っていいだろうね。

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ここで動きがあった。橙ソングラインの内目の後ろにいた黄シュネルマイスターが、外目に張り出してきたんだ。

ルメールも考えは近かったんだろう。すでにゆったりした流れになっていて、包まれて脚を使えないのだけは避けたい。早めに外に出せるよう、外にいた灰セリフォスを外に弾き飛ばすような感じで外目に動いてきた。

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ここが勝負の分かれ目だったと言ってもいいだろうね。

灰セリフォスが黄シュネルマイスターのルメールの動きを封じようと外目からブロックして、橙ソングラインもシュネルマイスターの前に入って完全に進路を消している

映像で見るとセリフォスがかなり内を締めているんだ。藤岡としては、仮にシュネルマイスターを外に出してしまうと、もう1頭分外を回されることになってしまう。それだけは避けたい。

だからこそルメールをしっかりブロックしたんだよな。藤岡は結構流れに乗る形の競馬をするタイプだから、これだけガッチリ、ケンカするような締め方をGIでするなんて、なかなかいい意味でマスクの思いを裏切ってくれた

シュネルマイスターがそのまま外に出せていたら、もっとスムーズに進路を確保できていた。着差を考えると勝っていた説もある。セリフォスがある意味ソングライン優勝の立役者となったと言っていい

ソングラインの池添は、ここでルメールの進路を消したのが一番の勝因と言ってもいいと思う。

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伏線はヴィクトリアマイルにあった

これはヴィクトリアマイルのパトロールだが、内枠2番を引いたソングラインは、攻めずに控えたところゴチャつき、外目に持ち出したら3コーナーで躓いてしまい、落馬寸前になっていた。

結果は5着。レース後池添が「ゲートは普通に出たのですが、ゴチャつきかけたので出して張っていくよりも、スムーズさを優先して引いて位置取りが悪くなりました。そこが一番の敗因です」と悔しさをにじませるコメントを残している。

レース後の池添はかなり悔しそうでね。ソングラインのデキがとにかく良かったこともあり、スタートから攻めた騎乗をしていれば勝ち負けになっていた可能性がある。タラレバだが、少なくとも3コーナーで躓いたりはしていない。

今回安田記念のレース後、「前回うまく乗れなかったので、この馬の持ち味を出していこうと思い、~(中略)~、ソングラインと林厩舎とGIを一緒に取りたいと思い、そこだけだったので、今日取れて本当に嬉しく、良かったと思います」と池添が話しているように、本人の中では相当悔しかったんだろう。

あれだけデキがいい状態で攻めなかったのはジョッキーの責任。今回ソングラインのデキは更に良くなっていた。ジョッキーが攻めれば結果が出る状況。池添は腹をくくって、向正面でゲットしたポジションをシュネルマイスターから死守したんだ。

正直、この時点で9割方勝負が決まったと言っても過言ではない。池添の悔しさが生んだ攻めの気持ちが、形として現れた部分だった。男だね

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橙ソングラインが桃サリオスの後ろというベストポジションを死守したことで、黄シュネルマイスターはその後ろ、1列下がってしまった。

その後ろの水ソウルラッシュはもうこの時点で危うい。シュネルマイスターが捌けなければ終わるようなポジションだ。

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しかも黄シュネルマイスターは3コーナーで一度内を絞るように回ってきている

水ソウルラッシュはその斜め後ろ、内側にいたんだが、この距離感だと外に出せるわけもなく、一旦シュネルに内に押し込まれるような形になってしまった

後述する直線の詰まり以前に、3コーナーでも詰まりかけているんだよな。正直行けなかったことに関してはもう仕方ない。行き脚がどれくらいつくかはゲートを出てみないと分からないところがあるからね。

しかしシュネルマイスターの後ろで迷っていたら内に押し込まれた、これはよろしくない。確かに前述したように強い馬の後ろはいいポジションだが、今日のシュネルマイスターは明らかに太い

誰が見ても太かった。太いというニュースは戦前それなりに流れていたし、浜中だって知っていた可能性はある。そんな馬の後ろがいいポジションとはとても思えない。

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一方、前のほうで困っていたのは青ファインルージュの武さんだった。出負けしたファインルージュだったが、その後の行き脚はついたことで5番手でレースを進められた。

武さんとしては馬場がよりいい外に出したい。出すためには緑ダイアトニックを交わしていかないといけない。

迷う局面なんだよな。通常だったら緑ダイアトニックが相手が強くて伸びきれないところで、黒ダノンザキッドと緑ダイアトニックの差が広がるから、開いたスペースに割り込んでいけばいい。

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実際、緑ダイアトニックの手応えは怪しい。黒ダノンザキッドとの差が少し開いて、緑で印をつけた部分に小さなスペースが生まれつつあったんだ。

青ファインルージュの武さんはずっとこのスペースを見ている。Cコース2週目、確かに内ラチ沿いは先週より使えていたが、それにしたって極端にいいというわけではない

武さんとしてはなるべくスムーズに、ファインルージュを外に出したい。ダイアトニック早く下がらんかなと思いながら4コーナーを回っていたと思う。でないと進路が開かないからね。

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ところが、直線入口から黒ダノンザキッドの川田がどんどん外に流れていくんだよね。

さっき4コーナーで青ファインルージュの右前にあった、ダノンと緑ダイアトニックの間の1頭分のスペースはもうなくなっている。府中街道安田トンネルと名付けようか、安田トンネルは川田の外への動きの影響で崩落してしまった

おかげでファインルージュはダノンの内側に入っていかないといけない。内目はそこまで凄くいいわけではないから、武さんとしてはもったいないシーンだったと思う。まー、これは外には出せん。仕方ない。

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思い返せば、川田はオークスの時の黒アートハウスでも似たようなことをやっていた。川田は結構やるんだよね、道中内目先行からの直線入口外目出し

道中のロスを削って、直線馬場のいいところを自分で選ぶという戦法だが、川田のこの乗り方の影響でファインルージュは進路を失ってしまっている。

レース後、武さんは「外に出すタイミングがなくて、馬場の悪い所を通らされました。抜け出せず、もう少し外枠が欲しかったです」と話している。だね。もう少し外枠だったらスムーズに外に出せていたと思う。7番枠は中途半端だった。

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さて、話を水ソウルラッシュに戻そう。黄シュネルマイスターの後ろにくっつく形になったソウルラッシュだが、ここでシュネルが勝手に伸びてくれれば、その後ろをついていくだけでいい。

ただ、思い出してくれ、今回の安田記念のラップを。

22年安田記念
12.2-11.0-11.5-12.0-12.0-11.2-11.0-11.4

3、4コーナーで1F12.0が2連発と、かなりペースが緩んでいるのだ。浜中だけでなく、誰もが道中遅いなと感じたはず。遅いと感じられないジョッキーはGIに乗ってはいけないのではないか。

道中緩んだということは、上がりが速くなる。つまり他の馬にも脚が残っている。自分より前の馬たちが脚を残していると考えられる現状、シュネルマイスターについていって外から追い上げてもたぶん届かない。

届かせるには『最短ルート』を通らないといけない。浜中は4コーナー前から相当迷っていたと思う。

急がば回れ』っていう言葉があるだろう。最短ルートっていうのはリスクも伴うものさ。

マスクもこの前職場に行く時に工事渋滞に嵌まり、近道を通ろうとしたらまた渋滞に巻き込まれて仕事に遅れた。どうせ遅れるんだったら近くのコンビニでサンデーを読んで心を整えてから、堂々と遅刻するんだった。

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最短ルート』を選択するとなると、外ではなく、馬場の中ほどに切り返す必要が出てくる。

白カフェファラオの福永は馬場読みの達人。早朝から自分で芝コースを歩いて馬場のいいところ、悪いところを確認して歩くのが日課というレベルだから、福永の通っている白ラインより外側のほうが馬場はいい

となると水ソウルラッシュは白ラインの内側に入っていくわけにもいかず、前で団子になっている他馬を捌いていく必要が出てくる。

コーナーでペースが緩んだ結果、他馬にも脚はあるからね。これだけ窮屈になっている直線を捌くのは難しい作業だよ。脚がない馬がいればまだ楽さ、その馬が下がっていったところに入ればいいのだから。しかしスローだと直線簡単に前は開かない。

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最初、水ソウルラッシュの浜中が目をつけていたのは緑ダイアトニックのヤスナリの外側、緑丸で囲んだスペースだったと思う。

正直突けるほど大きなスペースではなかったこと、そしてヤスナリが左ムチを持っていたことから、ここは違うと浜中も思ったはず。

ヤスナリが左ムチ叩けばダイアトニックは右、つまり外ラチ側に動くわけで、スペースなんてすぐ消えてしまう。

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実際このスペースはすぐ埋まった。代わりに、緑ダイアトニック、黒ダノンザキッドが若干外に動いたことで、ダノンの真後ろにスペースができた。

ダノンはそれなりにまだ粘っていたから、水ソウルラッシュの浜中も『ここだ!』と思っただろうね。

残念でした、そこは正解ではありません

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なんでかって、朱ロータスランドも同じ進路を狙っているからだ。ファインルージュが内目にいることで、ロータスもダノンの後ろに入るしかない。

位置関係的にはロータスのほうが前で、ソウルラッシュのほうが後ろ。普通にロータスのほうがスペースに入りやすい。

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結果、ロータスランドに前に入られてしまった水ソウルラッシュは、内目に戻ってきたダイアトニックにも挟まれるような形になってしまい、思い切り詰まってしまった。

一瞬鋭く伸びかけていたところで完全に詰まってしまったことで、これでソウルラッシュの安田記念は終わってしまっている。

元をただせば、こんなところにいるほうが悪いとも言える。シュネルマイスターにポジションを取られた向正面に話は遡ることになり、向正面早くから後手に回り続けたことで、結局ロータスランドに進路を取られてしまったのだ。

もちろん馬のスタート後ダッシュが鈍かった影響もある。後ろからになったのは仕方ないとして、もっと腹を括った乗り方が見たかった。4コーナーで内か外かで迷っていたが、迷う乗り方をして勝てるほどGIは甘くない

まー、結果論だけどね。馬群の真ん中がもしかするとスムーズに空いていたかもしれないし、道中のソウルラッシュのポジションから外回していたら届かない可能性がそれなりに高いほど、ペースは緩かった。

あの一瞬の伸びを見ちゃうとね。詰まっていなかったら…なんて、タラレバも書きたくなるよ。もったいないレースだった

レース後の浜中が「直線は前が壁になって追えませんでした。上手く自分が誘導できませんでした」と話しているが、その通りだねとしか言いようがない。

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一方、ソウルラッシュが道中ついていっていた黄シュネルマイスターはどうか。こちらはルメールが恐ろしく落ち着いていた

直線、前にいるのは茶レシステンシアと桃サリオス。この時点でまだ、シュネルマイスターに進路はない。間のスペースは半頭分。この程度の間隔は入れない。

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ルメールが凄い点は、人気馬に乗ろうが、どういう状況でも落ち着いていること。とにかく冷静。前が開かないなら開くまで待つスタイルで、いつ開いてもいいようにエンジンだけは掛けておくタイプ。

ここでも茶レシステンシアの武史が右ムチを持っている。持ち換えでもしない限り、レシステンシアはムチを叩かれれば内側へ行くだろう。

という見方を黄シュネルマイスターのジョッキーは常にしているものだから、進路が開くタイミングを今か今かと待ちわびているんだ。

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実際ちゃんと開くんだもんね。茶レシステンシアが右ムチを叩いたことで、内前のほうへ動いた。これで黄シュネルマイスターの前が大きく開く。あとは通るだけ。

今回のルメールの敗因は、向正面でセリフォスにブロックされたこと、ソングラインにサリオスの後ろを取られたこと、大きく分ければこの2点だったと思う。ポジション取れていれば直線、レシステンシアが内に行くのを待たなくてもいいからね。

ただそもそも今回490kg。昨年のマイルCSが480kgだったように、太目が残ってしまい、パドックでも普通に太かった。美浦にいた時も見ているが、その時よりは若干絞れていたものの、あの体型がベストとはとても思えない。

そんな体型で、道中締められて後ろに下がり、中盤思い切り緩んだにも関わらず最後飛んできてソングラインとはクビ差。強いね。ただただ強い。正直この体型でここまでやられては馬を褒めるしかないだろう。

相変わらずトモのウィークポイントが解消されていないことから、今後どこまで馬を仕上げていけるか分からない。この血統だけにヨーロッパのレースで見たいが、ウッドを使えないとトモの影響で体が使えなくなることはドバイで分かってしまった。

見たいよね、ヨーロッパで。ニューマーケットのウッドとか使って調整して、ワンチャンイギリスはないかなと思ってしまう。現状だと難しいか。

以前よりピッチの回転が早くなりつつあるだけに、もうベストはマイル。絞れてくれば秋も楽しめるでしょう。あとはトモだけ。

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一方、勝った橙ソングラインは道中外を回り、直線でもなんの不利もなく運べている。

レース後池添が「この馬の持ち味を出していこうと思い、4コーナー手前から出していきました」と話しているように、ちょっと動き出しのタイミングが早い気もするのだが、それでもなんとかなると池添に思わせるデキだったのだろう。

前走とはまさに雲泥の差があるレース振りだった。控えて、躓いて、完全に後手に回っていた前走に対し、今回は自分でポジションを取りに行き、譲らず、直線早めに踏んで能力を完全に出し切っている

たぶん池添はヴィクトリアマイルを相当見たんだろうね。ソングラインの長所、短所を改めて頭に入れて馬と呼吸を合わせにいった。

確かに3、4コーナーで大外を回っているのだが、前述したようにここだけ12.0-12.0とペースが遅くなっていることから、大外を回るロスも最小限に抑えられている。ペースも良かった。

まー、ペースがいいだけで東京マイルのGIは勝てないからね。パドックや調教からも前走のデキは相当良かったと推察するが、今回はそれ以上だった。シャープに締まり、それでいて幅もある、馬体は完成形を迎えつつある。

明らかに今がいいだけにこの先もう一段上がるかは何とも言い難いが、左回りの高速馬場だったらもう1つ、2つくらいタイトルが積み重なってもいいかもしれない。今回は池添の研究、熱意と馬が噛み合った

右回りより左回りのほうが使いやすいだけに、秋、オーストラリアという手もあるかもしれないね。10月、11月にコーフィールドやフレミントンで合いそうなレースがあるだけに、ローテに期待したい。

4着セリフォスは現状の力は出し切っていると思う。斤量面の有利もあっただろうが、向正面でシュネルマイスターを締めての4着だから内容は悪くない。

直線よく見ると、藤岡が右手綱を引っ張りながら左ムチを連打している。つまり馬が内にモタれようとしている。これはNHKマイルカップもそうで、内ラチに寄ろうとしていた。

相変わらず内にモタれ気味というクセが抜けない現状なのがネック。ただ藤岡がこの形で乗って4着に粘り込ませているように、乗り方一つで克服可能と知れたのは収穫だね。スワンSや阪神カップで買いたい。阪神の短縮1400は絶対合うと思うんだよね。

5着ファインルージュは道中少し内目にコースを絞られ、直線外目に持ち出せなかったのがもったいない。ダノンザキッドの進路取りの影響を受けてしまった。

まー、やっぱり7番が敗因かもしれないね。先入れで出負け、その後行き脚はついたとはいえ、出負けしないに越したことはない。相変わらず競馬が上手い馬。秋の2200のGIは距離が長そうなだけに厳しいと思うが、府中牝馬あたりなら普通に楽しめそう。

6着ダノンザキッドは今日、思ったよりいい馬体で出てきた。中山記念はスタートから枠から全部悪かったが、左回りのワンターンがベストだね、この馬。

惜しむらくはテンションが高まってパドック周回中から発汗していたこと。以前からその気配がある馬だが、もう少し落ち着いてくれるといいね。毎日王冠は若干距離が長く、富士Sはペースが合うか疑問だが、あの体でこれから重賞未勝利は考えづらい。

7着エアロロノアは今回外を回したように、この形が現状の理想。内を突いたり馬群を捌く競馬があまり向いておらず、オープン以上になるとどうしても外を回るしかなさそう

そんなレース振りで届く馬場、展開ならいいのだが、都合のいいレースが今後存在…あるわ、関屋記念で外枠を引いてくれたら狙いたい

8着イルーシヴパンサーは仕方ない。結構田辺の騎乗ミスという声も見かけるが、そもそもこの馬はテンが速くない。以前3番手から競馬したフリージア賞は2000m。2走前のノベンバーSも4番手だが、1800のスローペース。

別にイルーシヴパンサーが何か変わったわけではなく、ほぼいつも通りのテン。自発的にそんなに出ていかない馬だから、これはもうレース前にテンが遅いことを念頭に買わないといけない

仮に今までの形を崩して、安田は出していったとする。確かにスローだったら流れに乗ったほうがいいのだが、スローかどうかは実際ゲート開いてみないと分からないこと。少なくともマスクはもう少し流れると思ってイルーシヴも買った。

メンバー的にそんなに速くならないことが予想できたとはいえ、鉄砲玉みたいな馬が逃げてハイペースになる可能性はある。競馬だからね。そんな時に、前半から出していった影響で最後脚をなくしたらそれこそ悔いが残る。

この戦法で勝ってきた馬。スタートから溜めに溜めて…というプランを選んだのは、結果的に正解ではなかったが、間違いでもなかったと思うのだ。

レース後「二の脚がつきませんでしたし、ペースが遅くて動けないところにいました。自分で競馬を作れないタイプです」と田辺が言っているのだが、その通りだと思う。

毎日王冠は開幕週で内有利になる年があるから、富士Sのほうがいいと思う。今回は異例とも言える12.0-12.0の中盤のアオリを食らってしまったものの、来年、もっと強くなった姿でハイペースの安田を走ってほしい。


さて、本日のラストは3着サリオスだ。

まず経緯として、先月頭にはしがらきで570kgちょっとあったこと、今回レースは528kgで迎えたことを頭に入れておきたい。

以前から予想などで触れているが、サリオスという馬は輸送でかなり体重が減るタイプで、しがらきから美浦に戻すだけで20kg以上減る馬。どこかに輸送する際は減ることを念頭に置いて作る。

ところが色々あって美浦に戻して1週間で530まで体重が落ちてしまった。背中の筋肉が落ちて見栄えも悪くなってしまい、一時期これは安田記念も無理では、なんて言われたほど。

ただサリオスがカイバをしっかり食べていたこと、スタッフさんたちの懸命なケアによって調子は上向きとなり、レーンに「文句のないデキ」とまで言わせた話は裏情報に書いたと思う。

-22kgという数字を見て驚いた人間も多かったと思うが、マスクからすると、週中すでに528kgだったのに、日曜、レース前に528kgだったことに驚いた。思い返してほしい、『輸送で減る馬』なのだ。いくら東京は関西より近いとはいえ、輸送は輸送。

つまり美浦出発時点で540近くまで戻っていたことになる。実際パドックでは1週前に見られたアバラが薄くなり、背中の筋肉もある程度戻っていた。

背中の筋肉が落ちてかなり見栄えが悪かった日から3週間も経っていない。よくぞこの短期間で馬をGIでも戦えるレベルまで戻したと思う。スタッフさんたちの努力と執念を見たね

もちろん応えたサリオスも素晴らしい。どうしても輸送という弱点、あとは硬い返し馬、トモなど色々ウィークポイントはあるのだが、それだけ問題点を抱えながらGIで、一線級相手に3着になってしまうのだから強い。

道中12.0-12.0というスローペースだったことも効いた。ハイペースで外から先行したら脚をなくすが、コーナーでペースが緩んだ分脚も溜まった。早めに動き出すレーンとも合う。展開も良かったにしてもだ。経緯が経緯だけに、この3着は中身が濃い

難しい馬だよ。父ハーツクライ、母はドイツオークス馬サロミナ。血統構成だけなら中長距離を走っているべき馬なのだが、中長距離血統なのに首が短距離馬のように太く、距離が持たない

だからこそ短距離の高松宮記念を使うなどしている。しかし血統的に本質は中長距離と、噛み合う条件が少ないんだよな。噛み合えば毎日王冠のように恐ろしく強いのだがね…

堀厩舎は先々週の日本ダービーで、ダノンベルーガで攻めに攻めた結果、最後は水がこぼれるようにデキがピークを迎えてしまったばかり。加えてアクシデントにも見舞われてしまった。そんな状況で迎えたのが今回のサリオスの安田記念だった。

改めて、目標とするレースに調子を合わせて仕上げる難しさを感じるね。馬は生き物。ゲーム感覚で物事は進まない。だからこそ競馬は面白い。

勝負の世界だから、今回の安田記念で3着という結果が最高の結果だったとは言い難い。ただ「やれることは全てやった」、レース前そう言ったスタッフさんの熱意に応えたサリオスの3着に、マスクは胸が熱くなったよ。


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