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JAZZのように対話を重ねる1 on 1

はじめに

社内の対話機会のきっかけとして、最近は1 on 1が注目されています。
以前は就職した会社で一貫して働くスタイルでしたが、最近では転職やフリーランス、副業のような個人の働き方が増えており、個人と会社の関係性も変わってきています。また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが導入され、部下と上司の距離感もそれぞれ違っています。

これまで会社で1 on 1を受けたことはあるけれども、業務に関わる話が中心で上司の考えを聞き出すようなスタイルで受けていました。でも、1 on 1とはどのように向き合うものなのか気になり、 「1 on 1ミーティング「対話の質」が組織の強さを決める」という本を読んでみることにしました。

2017年に「ヤフーの1 on 1」という本を書いた著者が、その後の社会変化を鑑みて改めて1 on 1への向き合い方について捉え直しています。

本書の構成

本書は以下5章で構成されています。

  • 第1章 1 on 1とは何か

    • 1 on 1は部下のための時間。部下の話を傾聴して、信頼関係を構築し、経験学習を回す場として使われます。

  • 第2章 企業の取り組みを知る

    • パナソニックや日清食品など、業種の異なる企業が1 on 1を導入した背景とその後の効果を紹介しています。

  • 第3章 なぜ1 on 1なのか

    • 前段は著者2人と、ODソリューションズの由井さんが、企業が1 on 1を浸透させるにはどうするかをディスカッション。後段は、個の尊重が進む中、リーダーの課せられる責任や必要となる行動を紹介しています。

  • 第4章 1 on 1の「場外効果」

    • 1 on 1のシチュエーションを台本形式で解説し、1 on 1が終わった後の経験学習の流れを説明しています。

  • 第5章 専門家の知見に学ぶ

    • 組織開発、経験学習、カウンセリング、コーチングの専門家との対談形式。

1 on 1とは

1 on 1は、「部下と対話によってそのやる気や成長を促し、仕事の質を上げて成果につなげること」を目的にしています。
本書では、1 on 1を「部下のための時間」と表現していて、上司は聞き役に徹して、部下の話を傾聴するスタイルを取ります。
上司はその時間、部下の発言を先回りするように問題に介入したり、部下が沈黙した時にしびれを切らして発言したり、質問を畳み掛けて一種の詰問に感じさせることがないようにする必要があります。
上司と部下の1対1で行ない、著者が在籍するヤフーでは週1回30分行うようにしているようです。

1 on 1で話すこと

本書では、1 on 1の活用に代表的な6つを挙げています。

  1. 部下との信頼関係を構築する
    人は話を最後まで聞いてくれた相手に心を開くし、耳を傾ける

  2. 部下の経験学習を促進する
    ロミンガーの法則(人が成長する割合の7割は仕事経験) をもとに、経験を学びに変換するプロセスの場として活用

  3. ホウレンソウの機会とする
    「今日は報告でもいいですか?」で始まってもいいし、仕事で迷ったことを報告や相談していい

  4. フィードバックとそこからの学びを得る
    自分のことは自分でわからないから、フィードバックを得て自己認識の精度を上げ、自分の行動を変える

  5. 部下のモチベーションを高める

  6. 意思決定に必要な組織の情報を得る
    1 on 1を通して上司が知らない情報を部下から聞く機会がある。それで上司は組織の状態を知り部下の職場改善につなげることも

ただ、これらは1例で、実践する人によって変えて良いとのことです。
なお、著者は1 on 1で「今日は何の話をする?」という問いかけから始めるそうです。第4章で解説していますが、「話したいテーマはありますか?」というクローズドクエスションで始めると、部下が「特にないです」と返答しやすくなってしまうため、オープンクエスションから始めています。

1 on 1の実施頻度

前述に挙げたように、ヤフーでは毎週30分時間をとっていて、第2章で紹介された企業だと、2週間や月に1回のペースで行っていたりします。
著者は、以前は部下の都合の良い頻度でという考えだったのが、「10分でもいいから週1回は必ずやってほしい」の考えに変わったと述べています。
頻度が少なくなると信頼関係に影響すること、またそれだけ今の世の中が変わり難しくなってきたということが背景にあります。

1 on 1で経験学習を回す

1 on 1の時間を部下にとって良いものにすることが先走ってしまうと、小手先のテクニックにとらわれた「いい1 on 1選手権」に陥ってしまいます。

実は、1 on 1が終わり業務に戻ってから、その時の内容を内省し行動に移したりすることが大事だと、本書では書かれています。こうした1 on 1をやっていない時に表れる効果を、本書では「場外効果」という言葉で定義しています。

そして、これは部下だけに限らず、部下からの話を聞いた上司にも効果をもたらします。部下の日々の観察を通して、次の1 on 1のことを考えたり、部下へのキャリアの話に広げようかという思いを広げられるからです。

本書を読んだ感想

1 on 1は銀の弾丸ではない

社内のコミュニケーション不足を解消するには1 on 1が最適だという結論になりそうですが、本書では1 on 1の良い点を挙げつつも、第3章で組織の問題を解決する最適な手法は、1 on 1ではないかもしれないと触れています。

私自身も、1 on 1が対話の質を上げて、社員を伸ばせるかというと懐疑的なところを感じていました。これまでの上司の振る舞いや信頼関係によっては、1 on 1になったとしても萎縮して言いたいことも言いづらいままなのではと思ったためです。

また本書で、1 on 1が終わった後も部下がその時の内容を振り返って行動しようとする「経験学習」にフォーカスをあてています。これも、全てのケースであてはまるかという疑問はあります。1 on 1をルーティンの一種と捉えて流そうとする部下もいるでしょう。

なので、部下に対して「1 on 1はあなたの時間」という意図を予め明確に伝えた上で、進める必要があるのだろうと考えています。

どこか本音で語り合えないわたしたち

1 on 1を導入する背景に、社内の上司・部下の信頼関係が希薄になっていることから、社員同士が当たり障りのない言葉のやり取りになっているという部分もあるのかもしれません。

今年放送された、TBSの金曜ドラマ「不適切にもほどがある」の1話でも、それを示唆するような場面がありました。

パワハラ・セクハラなどに気を遣って部下に嫌な気持ちをさせないよう、上司が言動に気をつけすぎた結果、部下が退職しそうになるシーンがありました。上辺だけの言葉のやり取りは、これで良いのかと不安になったり悩む部下も出てくるのでしょう。

わたしも会社を退職した時を思い返すと、仕事面でやるべきことはやったと思いつつ、不満や改善について上司に本音でぶつけ合ったかというと心残りがあります。言っても無駄だろうという諦めとか、上司が評価する立場上こちらが言うとマイナスにならないかという気持ちも当時よぎっていたのかもしれません。

今では、会社でやりたいことができなかったり組織の人間関係にうんざりして、会社に見切りをつけることもできます。それだけ人との関係が表面的になっている現状に対して、最適解ではないかもしれませんが、1 on 1を試験的に始めてみても良いのかもしれません。

おわりに

本書の「1 on 1は部下のための時間」や「対話を重ねる」という言葉が、わたしの中で印象に残りました。まるで異なるパートが音を重ねるJAZZのように思え、1 on 1は部下にとってのソロパートのようなイメージです。

Image by Social Butterfly from Pixabay

本書にはスクリプト(台本)で上司・部下の会話シーンがあり、ここでとった発言にはこういう意図があるという解説を残しています。そうしたところは1 on 1のテクニック要素なのかもしれませんが、ひと対ひとのやりとりなので、そうしたケースが使えないこともあると思います。
相手の仕草や言葉に対して即興的に対応する必要があり、こういった点もJAZZに近いのかもしれません。

わたしも過去の1 on 1を思い返すと、「それって〇〇のことですね」、「それはよくわかります」と、上司の話や言いたいことに「当てに行く」傾向をとっていました。
それが他人に関係なく自身から出た言葉ならいいのですが、「それを言ったらいい気分になってくれそう」とか「わたし分かってますよアピール」という気持ちが根底にあったのではないかと考えています。
なので、次に1 on 1をする機会があるときは、自分のための時間であり上司を忖度する時間ではないことを念頭に、対話を重ねたいと思います。

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