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米不足はずっと続く?台風や異常気象とお米の関係


現在、「スーパーマーケットの棚からお米がなくなった!」と、連日報道されていますが、そもそもなぜ、今年は米不足が発生したのかについての理由と今後も同じようなことが起こりうるのかについて、整理してみたいと思います。

お米の生産量日本一を誇るのが多くの人が知っているであろう「新潟県」です。その日本一の産地では、2023年の夏に異常な高温台風によるフェーン現象が発生し、稲作に大きな影響を与えました。この影響による高温障害は、新潟県だけでなく、他の米どころでも同様に問題となりました。以下に、令和5年の新潟県での高温障害の具体的な状況について解説します。

1.米どころで何が起こったか?

米どころ新潟県では前代未聞の出来事が起こっていました。収穫されたお米は検査規格があり、その検査を受けた後消費者のもとに出荷されていきます。その等級検査の結果は「1等級・2等級・3等級」の3区分に仕分けられます。基本的には粒の大きさや成長不良によるお米の割合で仕分けられます。
 普段の新潟県ではこの等級検査の結果、1等級に仕分けられる比率が約75%くらいになることが多いのですが、それが、2023年は4%と非常に低くなってしまいました。
これがどれくらいのことなのかと言うと、学校のテストで普段なら80点を当たり前に取っているような生徒が、突然4点を取ったらびっくりしますよね?それくらいの衝撃的な出来事でした。

1等米が極端に少なくなったことにより、精米歩留まりが減って白米の流通が減少してしまったことが米不足の原因かと思います。

では、なぜそのようなことになってしまったのでしょうか?

2.暑すぎた夏

2023年の新潟県は全国で最も暑い場所でした。


植物は日の光を浴びると光合成をしてデンプンを蓄えて成長していきます。ただし、気温が高すぎると必ずしも成長が促進されるわけではありません。
日中にたくさんの陽ざしを浴びて光合成によりデンプンを蓄えても、夜間の気温が高く推移すると呼吸で消費されてしまい、スカスカのお米になってしまいます。夜間の気温が25℃を下回らず、高い温度で推移し、日中に蓄積したデンプンが呼吸により消費されてしまうことを指して「高温障害」といいます。

さらに、追い打ちをかけたのが、台風によって発生したフェーン現象(山を越えた風が乾燥して高温になる現象)が重なり、気温が一時的に非常に高くなったことです。

フェーン現象の模式図
台風7号によるフェーン現象が発生した2023年8月14日の最高気温

フェーン現象により、高温になった空気が山を駆け下ってきます。それだけでなくこの空気はとても乾燥しているので、田んぼに水が無かったら、あっという間に稲が萎れたり、籾の中の米粒に胴割れが発生したり、米粒が白濁してしまいます。

2. 高温障害の影響

高温障害による米の品質低下は、以下のような形で現れました。
出穂期(しゅっすいき)の気温が高温になると、お米の粒にデンプンが詰まりきらないうちに登熟が終了(胚乳細胞の肥大過程でデンプン粒の発達が不完全になるため)してしまい。米の粒の中身が詰まっておらず空気の隙間ができることで、光が乱反射し白く濁って見える白未熟粒となってしまいます。
 その白未熟粒になってしまう温度の目安として、一日の平均気温が27℃を超えてしまうと発生が多発する傾向があるといいます。2023年の新潟県では例年であればほとんど発生しない27℃以上の日が約2か月にわたって発生していました。

これによる被害を整理すると以下のようになります

  • 白濁米の増加: 異常な高温によって、米粒のデンプン構造が乱れ、白濁米が増加しました。白濁米は品質が劣るため、精米後の白米としての市場価値が低下します。

  • 胴割れ米の増加: 高温による水分の不均一な移動が原因で、収穫後の乾燥過程で胴割れ米が多く発生しました。胴割れ米も同様に品質が劣るとされ、市場での評価が下がります。

  • 米粒の重量減少: 高温によるストレスで、稲の実が十分に成長せず、米粒の重量が減少しました。これにより、収量が減少し、生産者にとっては大きな打撃となりました。


4. 対策と課題

新潟県では、高温障害を防ぐためにいくつかの対策が講じています。

  • 水管理の徹底: 高温時には、水田の水位を高く保ち、稲の根を冷やすことで、高温の影響を軽減する方法が取られました。特にフェーン現象の発生時などは水の管理をしておくことが非常に重要です。

  • 早めの収穫: 高温障害を避けるため、通常より早めに収穫を行う農家も増えました。これにより、品質の低下を最小限に抑える努力がされました。

  • 高温に強い品種の導入: 今後の対策として、高温に強い稲の品種を導入する動きも見られます。

5. 長期的な影響

令和5年の異常な高温は、地球温暖化の影響とされる異常気象の一環と考えられ、今後も同様の現象が発生する可能性があります。そのため、農業分野では影響が長期にわたるとも考えられます。

このように、令和5年の新潟県では異常な高温フェーン現象によって、米の品質が大きく低下する高温障害が発生しました。農家や自治体は、これに対する様々な対策を講じていますが、2023年だけの問題というよりは、長期的なトレンドとなることも考えられることから、さらなる適応策を講じることが必要です。


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