過去に僕が出会った中でトップクラスのとんでも転職希望者の話

僕は仕事柄、日々さまざまな転職希望者に会います。

年齢や職業、転職する理由も十人十色です。

ただ、皆さん転職をしたいということだけは共通しています。

そのため、自身の転職のために真摯に転職活動に取り組む方がほとんどです。

ほとんどの方は。



ただ一部、「とんでも転職希望者」がいるものです。
※とんでも転職希望者=とんでもなく奇妙でヤバイ転職希望者


そう、こんな人のように。



もちろんこの動画の人物はフィクションであるため、ここまであからさまにとんでもないわけではありません。

むしろ一見普通の人にしか見えないがゆえに、より一層とんでもなさが際立つと言っても過言ではありません。


ということで、過去に僕が対峙した「とんでも転職希望者」について語っていこうと思います。



1.第一印象は普通に良い人

僕がそのとんでも転職希望者に出会ったのは、かれこれ3年も前のことになります。

しかし彼のインパクトは他の追随を許さないくらいに強烈であるため、今でも鮮明に覚えています。

ちなみにここでは彼の名前を「佐藤さん」としておきます。


面談当日、佐藤さんは約束の時間に現れませんでした。

僕は「これはドタキャンかな」ということが頭によぎりました。

転職エージェントであれば一度や二度経験があるのですが、面談当日に連絡もなく現れない人もいます。

しかしそんな思いが頭をよぎったのも束の間、会社に電話がありました。
佐藤さんでした。


佐藤さん「ちょっと反対方向に歩いていたみたいで、遅くなってしまい大変申し訳ありません!」


道に迷ったために約束の時間に遅れるということで、わざわざ連絡をくれたのです。

そして約束の時間から10分ほど遅れて到着した佐藤さんでしたが、本当に申し訳なさそうに頭を下げながら挨拶してくれました。

最近仕事を辞めていたこともあってか(先月末で退職済みと経歴に記載)、「未経験でも自分が応募できる会社であれば」という身のほどをわきまえ、無理な希望や条件も口にしませんでした。

また、とても丁寧で落ち着いてもいたため印象も良く、僕自身サポートしやすそうな人だと思っていました。

そして、まずは3社ほど応募するということでその日の面談を終えたのです。


◆ ◇ ◆


2.転職活動も順調に進む

佐藤さんは未経験の職種への転職希望だったため、当初は全て見送られると考えていました。

しかし予想に反して、最初に応募した3社のうちの1社は書類選考も通過し、面接に進むことができました。

そして面接でもしっかりとした受け答えをしたようで(僕は同席せず)、先方からも良い印象だったとのことでした。

一方で佐藤さんも、最低限自身の希望を満たしており、かつ企業の印象も良かったということで、もし内定をもらえた場合は入社を希望するということでした。

苦戦を予想していた僕にとっては、図らずもあっさり転職先が決まりそうだと思いました。

そして面接から3日ほどして、その企業から内定が出ました。


◆ ◇ ◆


3.無事、就職先が決まる

内定を伝えるのと併せて、佐藤さんにとって初めての業界・職種だったということもあり、改めて面談を行うことにしました。


面談当日、佐藤さんに内定を伝えました。

するととても喜んでおり、初めての仕事なので不安ではあるものの、頑張っていきたいと言っていました。

改めて雇用条件にも納得の上、入社の意思を確認することができたことで、僕としても予想に反してあっさりと転職先を決めることができ安堵したのを覚えています。

離職中だったこともあり、入社日も1週間後に調整できました。

そして、あとは入社日を待つだけとなったのです。


この時はまだ、後にあのようなことになるなんて、微塵たりとも思っていませんでした。


◆ ◇ ◆


4.入社してから

無事入社日を迎え、当日も予定通り出社しました。

初日ということもあり、退勤時間を目途に佐藤さんに連絡してみると、


佐藤さん「初日が無事終わりました。皆さん良い方ばかりで、今日は仕事の流れを教えてもらいました!」


と、このような状況を聞けることができ、安堵しました。

そして僕からは、「まだ始まったばかりで当面は色々と大変かと思いますが、焦らずに慣れていくようにしましょう。」と伝え、電話を切ったのです。

また翌日、転職先の佐藤さんの上司宛に御礼を兼ねて初日の状況を伺おうと連絡をしたところ、


佐藤さんの上司「まぁ当分は先輩が付いて手取り足取り教えていくので心配しないでください。今日も先輩と一緒に業務にあたってもらっています。」


ということでした。

僕としても、「まずは無事スタートできて良かったな。」と安心し、2週間ほど経ったころに改めて連絡してみようと思ったのでした。



しかし、週明け早々に企業から連絡が入ったのです。

話を聞いてみると、


佐藤さんの上司「先週入社した佐藤君なんですけどね、実は3日目以降来ていないんですよ。」


ということでした。


さらに、


佐藤さんの上司「加えて、一切連絡も無しに休んでるんですよね。ご自宅に連絡してもつながらなくて。」


僕は謝罪し、佐藤さんに連絡取ってみると伝えた上で、彼に連絡してみたのです。

そして電話をかけてみたところ、あっさり佐藤さんが出たのです。


僕「仕事、何かありましたか?」


と僕が尋ねましたが、落ち込んでいる様子でなかなか話を切り出せない様子でした。

そのため、一度直接会って話を聞くことにし、その日の午後に佐藤さんと会う約束をしたのです。


◆ ◇ ◆


5.再面談にて

待ち合わせたカフェで待っていると、暗い面持ちの佐藤さんが現れました。

まずはコーヒーを頼み、一服して落ち着いたところで、


僕「仕事で、何かあったんですか?」


すると佐藤さんは重そうな口を開き、


佐藤さん「ご迷惑を掛けてしまい、本当にすみませんでした。」
僕「大丈夫ですよ。でも心配してました。もし差し支えなければ、無断欠勤していた理由を聞いてもいいでしょうか?」


すると佐藤さんが言うには、初めて携わる仕事で慣れないにもかかわらず、上司からやたらと注意を受けるし、先輩からも仕事をちゃんと教えてもらえないということでした。

そして2日目でそれに不満や不安を感じ、3日目以降休んでいたのだということでした。

また、急遽休んだ日に連絡しなかったこともあり、どんどん連絡しづらくなり、無断欠勤が続いてしまったのだと。


仮に上司や先輩の指導に不満があったとしても、無断で休んでしまうのはいただけないと思いつつも、余計に佐藤さんを追い込んではいけないと思い、その時は佐藤さんの言い分に共感しました。

また佐藤さんとしても、不満があったのは事実である一方、無断欠勤したことは自分が悪く、このまま仕事から逃げ出すのは本意ではないということでした。

そして1時間ほど話を聞いたところで、佐藤さんとしても今回の件は反省し、明日から改めて仕事に行き、謝罪するということでした。

その言葉を聞いた僕は、


僕「では、ちょっと僕から佐藤さんの会社に連絡しますね。佐藤さんが反省していて、改めて明日から出勤するということを伝えます。明日いきなり行って謝罪をするよりは、先に僕から状況や経緯を伝えておいた方が佐藤さんと会社、お互いにとってリスタートしやすいと思いますので。いいでしょうか?」


佐藤さん「分かりました、お願いします。ご迷惑お掛けしてすみませんでしたとお伝えいただければと思います。」


ということで、僕は席を立って会社に連絡を入れたのです。


佐藤さんの上司宛に連絡をし、彼の状況や無断欠勤した経緯を話したところ、まだ若く慣れない環境で誰にも相談できずに悩んでいたことや、指導に関しては至らない点があったのかもしれないということでした。

そのため明日出社したら、改めて指導方法なども見直すということで納得してもらえました。

佐藤さんの上司に連絡をして話した内容を彼に伝え、改めて明日会社に行ってやり直すという約束をし、その日はお互い帰途についたのでした。


◆ ◇ ◆


6.再出社

翌日、佐藤さんの出勤を確認しようと企業先に連絡を入れました。

連絡をすると、前日に僕から佐藤さんの上司が出ました。

しかし、彼の上司からの言葉に僕は一瞬耳を疑いました。



佐藤さんの上司「佐藤君、今日も来ていませんよ。」



昨日あれだけ話をして納得したと思っていたにもかかわらず、佐藤さんは欠勤したのです。

加えて、


佐藤さんの上司「一切連絡もありません。念のためこちらから電話してみましたが、留守電になるだけです。」


声から、先方もさすがに呆れかえっているのが読み取れました。

呆れるも当たり前で、前日に「明日改めて出社します」と言っておいて、結果連絡も無しに欠勤しているのですから。

僕は電話越しに謝罪をし、先方の仕事に支障が出てはいけないと思い、僕が改めて佐藤さんに連絡を取ることにしました。

そして先方との電話を切った後、すぐさま電話しました。

しかし、留守電になるだけでした。

コール音も鳴らなかったため、これは着信拒否かもしれないと思い、やむを得ず佐藤さんの住所宛(初回面談時に記載してもらっていた)に直接伺うことにしたのです。

仮に辞めるとしても、佐藤さん本人からその旨を申し出てもらわないことには会社としても対応しようがないですし、紹介してわずか2日しか勤めていない彼の責任は僕にあると思いました。


佐藤さんの住所に到着し、チャイムを鳴らしました。

しかし、誰も出てきません。

何度か鳴らしたものの応答はなく、また人の気配も感じませんでした。

ただ、どうしても連絡を取らなければ、佐藤さんを雇い入れした企業(クライアント)に迷惑をかけてしまいます。


一旦佐藤さんの自宅を離れて数分考え込んだところで、僕は彼の前職に連絡してみようと思ったのです。

というのも、うちの会社へ転職相談に来た際に記入してもらった内容には、本人の住所や連絡先しかなかったのです。

加えて、本来は転職先で身元保証書(佐藤さんに何かあった際の連絡先 ※両親や兄弟)を提出してもらうはずだったのですが、入社前や入社当日までという提出期限があるわけではなかったため、転職先の企業も本人以外の連絡先を把握していなかったのです。


また、万が一、前日に会った後に佐藤さんに何かがあり、連絡が取れないという可能性も考慮しました。

その上でこれは緊急時であると自分に言い聞かせ、(辞めたのも直近であったため)以前の勤め先であれば佐藤さんの両親や兄弟の連絡先を知っているのではないかと思い、思い切って連絡をしてみることにしたのです。
(登録時に職務経歴を記入してもらっていたため、前職の勤め先は把握していました。)


◆ ◇ ◆


7.明らかになったこと

通常であれば転職サポートしている人の前の職場に連絡するなんてことはあり得ないのですが、さすがに僕も佐藤さん本人と連絡を取らないことには、どうしようもありませんし、クライアントに迷惑をかけてしまいます。

また、本当にもし事故などで連絡がつかないのだとしたら、彼のご両親に確認し、その状況を彼の上司に伝えなければいけません。

そして意を決し、僕は彼の以前の勤め先に電話をかけたのです。


僕「お忙しいところ大変申し訳ありません。私は◆◆という会社の者で・・・、〇〇部(彼が前職で配属されていた部署)の責任者の方はいらっしゃいますでしょうか?実は先月まで御社に在籍していた佐藤●●さんのことを伺いたく・・・。」


まずは自分が一体何者で、今回なぜ連絡をしたのかを説明しました。

当たり前ですが、最初はものすごく不審がられました。

しかし、僕の会社を通じて転職した彼が急遽出社しなくなり、連絡も取れず、かつ他に連絡先も分からず、かといって警察に連絡する段階ではないということで、やむを得ず彼の前職先として記載してあった御社に連絡したとうことを一つ一つ説明し、理解してもらいました。


そして、ようやく彼が以前所属していた〇〇部の責任者の方に連絡がつながったのです。


佐藤さんの前職の責任者「お待たせしました。私〇〇部の責任者をしております□□と申します。大体の話は伺ったのですが、再度ご説明いただけますでしょうか?」


僕は改めて連絡した経緯や状況を説明しました。

ところが、その責任者の方はいまいち理解できていないようでした。

そのため僕は自分の説明に至らない点があると思い、改めて説明をしようとしたところ、その責任者の方が、



佐藤さんの前職の責任者
「佐藤●●という人はうちにいなかったんですよ。」



僕はその言葉の意味が分からず、「はい?」と言ってしまいました。


僕「佐藤●●さんがいなかったって、どういうことですか???」


僕がこう問うと、その責任者の方が説明してくれたのです。


佐藤さんの前職の責任者
「おかしな連絡が入っているということで内容を聞いたんですがね、そんな名前の社員、ここ最近どころか、過去に遡ってもいないんですよ。一応、派遣社員やパート・アルバイトの人でもうちの会社で何等かの業務に就いたことのある人であればデータは残しているんですが、そんな名前の人が在籍したというデータ自体無いんです。」


僕は耳を疑いました。一体どういうことなのかと。すると続けて責任者の方が、


佐藤さんの前職の責任者
「まぁ個人情報にも関わるので、本来であればそんな問い合わせに応えることはないんですが、うちの社員どころかうちに関与した人ですらないので、今回お応えしたんです。」


それを聞いて僕は、

僕「そうでしたか・・・、分かりました。お忙しいところご迷惑をお掛けしてしまい大変申し訳ありませんでした。」

そう言って、電話を切りました。

電話を切ってからも、いまいち状況が理解できませんでした。
(じゃあ、あの経歴は一体何なんだ?嘘の経歴か?)


しかし次第にこんな考えが頭に浮かんできました。
(そもそも、何が本当なんだ?住所や名前は?自分が先ほど訪ねた彼の家には本当に住んでいるのか?)

そして僕は確かめてみたくなり、改めて彼の住所に訪ねてみることにしました。



そして先ほどチャイムを鳴らした家に着き、あるものを確認しに行きました。

郵便受けです。

先ほど訪れた際は意識していなかったのですが、玄関に表札が無かったのです。

まぁ表札を掲げていない家はありますし、マンションだったため表札を掲げていなくても不自然ではありません。

しかし郵便受けには表札があるかもしれませんし、もし郵便物があれば名前を垣間見ることができるかもしれません。

そして僕はマンションの集合ポストにあるところに着き、佐藤さんの登録情報にあった部屋番号が書かれた郵便受けを見ましたが、表札はありませんでした。

続いて、恐る恐る郵便受けを覗いてみたのです。




中にはチラシがどっさり入っていました。




これ以上は僕も分かりませんでした。

郵便受けには表札がなく、郵便受けの中にはチラシがどっさり入っていて、長い間放置されているように思われました。

果たして誰か住んではいるけどチラシを片付けていないのか、それとも誰も住んでいないのか。

おそらく後者でしょう。

誰か住んでいるとしたら、郵便受けにどっさり郵便物が入るまで放置していることもないでしょう。

いずれにせよ、佐藤さんは転職エージェントにも転職先にも嘘をついていたということです。


その後、この件を佐藤さんの転職先と会社に報告をしました。

幸いにもこの件に関しては未然に察知することも、これ以上深い入りする必要もないということ、佐藤さんの転職先においても試用期間中ということもあり、何もおとがめはありませんでした。

もちろん入社2日目で姿を消すような人を入社させてしまったことは反省すべきであるものの、それは事前に分かり得ず、また何か盗まれたりと被害があったわけではないし、そのような嘘をつく人に長くいられた方が怖かったということでした。

ただ僕も佐藤さんの転職先の上司も、まるできつねにつままれたような気分でした。


◆ ◇ ◆


8.最後に

結局、いまだに何が目的だったのかも分かりません。

もしかすると、ちょうど入社したタイミングで他の会社から誘いがあったため、姿を消したのかもしれません。

しかしそうだとしても、最初から職歴や住所を偽る理由にはなりません。

いずれにしても、このような転職者に出会ったのは後にも先にもこの時だけです。


日々転職希望者との出会いがある転職エージェントという仕事をしていると、時に癖のある人に出会うことはあります。

しかしこの時僕が経験したように、中には癖も何もないような普通の人のフリをして、他人には理解できないようなことを考えている人もいるものです。


この経験から、僕は人間には到底理解に及ばない考えや思いを持つ人もいるのだと知りました。

あなたが普段顔を顔を合わせる佐藤さんも、案外佐藤さんですらないかもしれません。



ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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