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【この曲がすごい】マニアック解説第6弾!シューマン交響曲第1番変ロ長調

この記事はこちらの動画を基にしています。

このシリーズでは知名度や歴史的な重要性に関わらず、私がすごい!と思っている曲を紹介していきます。

第6弾はシューマン交響曲第1番変ロ長調です。
この曲(というかシューマンの交響曲全般がそうなのですが)、オーケストレーションに問題があるとされており、かつては様々な指揮者が独自の変更を行っていました。例えば、マーラーによるものが有名で、現在でもごくたまに演奏される機会があります。
また、私自身もシューマンの曲から感じる垢抜けなさがあまり好きになれませんでした。言いたいことが多すぎてまとまりがつかないまま落とし込み、情報過多になってしまったという印象です。
ところが、この曲のある演奏(後述)を実際に聴いてみて、シューマンの魅力に気づかされました。そんな誤解されやすいシューマンの魅力をお伝えできればと思います。

シューマン交響曲第1番ってどんな曲?


まずはこの曲の概要について簡単に説明しておきたいと思います。
1841年(31歳)に作曲、メンデルスゾーン指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏で初演されました。
その少し前、1838-39年にシューマンはシューベルトの交響曲第8番「グレイト」の自筆譜を発見しており、これに大いに影響を受けたと言われています。
そして、1840年にはクララ・ヴィークと結婚交響曲第1番は公私ともに順調な時期に作曲されたのでした。

ロベルト・シューマンと妻クララ

実はこの曲、もともと「春」という副題がついており、各楽章にも「春の始まり」「夕べ」「楽しい遊び」「たけなわの春」という標題が付いていました。しかし、初演後に行った改訂のとき「聴き手に先入観を与えてしまわないように」削除されたということです。今でのしばしば「春」という副題がついているのはそのためです。マーラーの1番と似たような経緯ですね。


ここがすごい!

第1楽章

それでは第1楽章から順に、すごいポイントを見ていきましょう。
第1楽章は伝統的なソナタ形式です。まずその序奏ですが、ここは曲全体の原始となる動機が含まれている非常に重要な部分です。
譜例1の通り、トランペットとホルンが同じミの音を反復する独特の付点のリズムでファンファーレのような動機を演奏します。弦楽器や木管楽器も含めてもう一度これが繰り返された後、弦による激しい上昇と下降の音型が出てきます。
その後、いったん木管を中心とした穏やかな部分が続き、冒頭のファンファーレの動機から派生したリズムが盛り上がって、主部へと突入します。

譜例1

主部に入ると躍動する第1主題落ち着いた第2主題の提示部が始まります。第1主題の同音反復・付点のリズムはもちろん序奏の動機が元になっています。
展開部はこの第1主題を中心として発展していきます。途中から現れる木管楽器の甘いメロディが印象的です。
展開部が終盤になると序奏が回帰して再現部を導きます。ここも非常にインパクトのある部分です。チャイコフスキーの4番の先取りと言っても良いかもしれません。
そして、やはり例の動機を元にしたコーダ。その畳みかけるような盛り上がりの途中で、急に穏やかになります。これは次に出てくる第2楽章の予告となっているのです。

第2楽章

先ほどの第1楽章コーダで予告されたメロディが穏やかに流れます。譜例2を見ての通り、これも第1楽章序奏の動機が元になっています。
この楽章の最後でトロンボーンが新しいメロディの断片を奏でます。これは次の第3楽章の予告となっています。そして、アタッカ(楽章の終わりで休止せず、そのまま次の楽章へつなげること)で第3楽章へ進みます。

譜例2

第3楽章

ニ短調で暗い激しさを持ったスケルツォ(譜例3)です。ここで特徴的なのは通常は1つの中間部(トリオ)が2つあることです。最後は激しさを取り戻すことなく、しぼむように終わるのがなんとも不思議です。ここはシューマンらしいところでしょうか。

譜例3

第4楽章

駆け上がるような弦と力強いファンファーレのようなユニゾンの短い序奏(譜例4)から始まります。これももちろん第1楽章序奏から派生したものです。

譜例4

提示部は弦による細かな動きの第1主題ユーモラスな木管に序奏の動機が絡む第2主題、そして序奏の動機を中心に展開するコデッタ(提示部のコーダのこと)で構成されています。
展開部もやはり序奏の動機を中心に展開していきます。再現部に入る手前でホルンとフルートがカデンツァ風にパッセージを演奏するのがとても印象的です。
再現部の後は疾走感を増して盛り上がるコーダです。ここでも序奏の動機が中心となっています。
このように第4楽章は繰り返し序奏の動機が出てくるため、相対的に主題の存在感が薄く、序奏が支配的な構成となっています。

私がシューマンの魅力に気づいた演奏

冒頭で述べた通り、私がシューマンの魅力に気づいたのはある演奏がきっかけでした。それはホリガー指揮札幌交響楽団による演奏です。
まず何といっても冒頭のファンファーレの音程です。通常よりも3度低い音程(ミ→ド)で演奏されています。これは初稿に基づいたアプローチです。なぜ改訂稿で音程が変わったのかというと、当時のホルンとトランペットではこの音程を出すのが難しかったためです。今は楽器の制約がなくなった以上、元の音程で演奏する方が正しいと考え、このように通常よりも3度低い音程で演奏しているのです。ちなみに、このアプローチはマーラーも採用しています。なお、その他の部分は改訂稿に基づいています。

それから、早めのテンポで即物的なアプローチを取っているのもこの演奏の特徴です。シューマンは元から非常にウェットな曲調で音が濁り易いので、ドライに演奏した方がすっきりと明快になります。例えば第4楽章の速いパッセージなどがそうでしょう。

このようなホリガーの演奏を聴いて、私は初めてシューマンという作曲家の面白さを発見したのでした。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
もともと「春」という副題がついていた通り、明るく躍動感に満ちているものの、序奏の動機や第3楽章をはじめどことなく暗い病的な妖しさがあると思います。また、シューマンはロマン主義の作曲家ですが、序奏の動機を中心に展開しており、古典的な絶対音楽の構成も持っています。こうした面白さを少しでも感じていただけたら幸いです。

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