見出し画像

【この曲がすごい】マニアック解説第2弾!ブルックナー交響曲第6番 イ長調

 この記事はこちらの動画を基にしています。


 このシリーズでは知名度や歴史的な重要性に関わらず、私がすごい!と思っている曲を紹介していきます。
 第2弾はブルックナー交響曲第6番イ長調です。この曲もマーラーの7番同様に、とにかく私が大好きな曲です。しかし、この曲もブルックナーの交響曲の中ではあまり人気のない曲で、マニアからも「ブルックナーらしくない」という評価がよく聞かれます。
 では、一体どこがすごいのかこれから探っていきたいと思います!

ブルックナー交響曲第6番ってどんな曲?


 まずはこの曲の概要について簡単に説明しておきたいと思います。
 この曲は1879-81年(55-57歳)に作曲されました。1883年に初演が行われたものの、このときは第2・3楽章のみで、全曲の初演はブルックナーの死後1899年になってから行われました。このときの指揮はマーラーだそうです。
 この曲の特徴として、全休止(いわゆる「ブルックナー休止」と呼ばれるもの)がなく、全体的に流れを重視したつくりとなっています。このあたりが「ブルックナーらしくない」と呼ばれる一つの要因かと思われますが、ブルックナー自身は「大胆なスタイル」と自負していたそうです。
 また、ブルックナーは何度も改訂を行うことで有名ですが、6番は5番とともに改訂を行っていない数少ない例です。原典版であるハース版とノヴァーク版にもほとんど違いはありません。
 ちなみに、ハース版やノヴァーク版といった版問題については、込み入った話になりますので、ここでは割愛いたします。以前上げた記事や動画で概要をご紹介しておりますので、ご覧いただければと思います。


ここがすごい①第1楽章


 それでは、具体的にどこがすごいのか、順を追ってみていきましょう。

 まず、第1楽章は執拗なリズムの繰り返しが特徴的です。
 冒頭で「タッタ・タタタ」というリズムが出てきて、何度も繰り返されます。このリズムはいわゆる「ブルックナー・リズム」(タンタン・タタタ)の応用です。
 このリズムをベースにしばらく弱音で進行されますが、突然の最強音で主題が提示されます。
 その後、第2・3主題も提示され、ブルックナーらしい「拡大されたソナタ形式」での展開が続きます。展開部と再現部が融合し、シームレスに主題が再現されるあたりもブルックナーらしい展開と言えます。
 最後はリズムと主題を何度も繰り返しながら輝かしく終わります。構造的には「ブルックナーらしさ」が全開となっているのですが、飛び跳ねるようなリズムが「らしくない」のかもしれません。

ここがすごい②第2楽章


 第2楽章も第1楽章同様に「拡大されたソナタ形式」です。2つの主題で構成する三部形式(ABABA)が多い中、これは少し異例かもしれません。
 第1主題はオーボエによるもの悲しい旋律、第2主題は弦楽器による明るい旋律、第3主題は重い足取りの葬送行進曲というそれぞれ異なる性格を持っています。
 全体としてはブルックナー作品の緩徐楽章(ゆっくりした楽章)特有の息の長い美しさが堪能できます。

ここがすごい③第3楽章


 第3楽章は浮遊感のあるモダンなスケルツォです。ABACABAという複合三部形式と呼ばれるスタイルで、ブルックナー作品によく見られます。
 主題はメロデイらしいメロディはなく、ほぼリズムだけで構成されています。このあたりはミニマル的でモダンです。
 また、トリオ(真ん中のCの部分)の前後で数少ない「ブルックナー休止」も登場します。
 このトリオではピツィカートとホルンに導かれて、5番の主題が引用されるのが非常に印象的です。

ここがすごい④第4楽章


 第4楽章フィナーレは不安げに揺れ動く序奏から始まり、やがて勇ましい主題が登場します。このあたりの対比は非常に強烈です。
 第2主題はワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の「愛の死」を思わせるモチーフが出てきます。ここも序奏同様にとても妖しげです。こうした官能美は、他のブルックナー作品にはあまりない要素かもしれません。
 後半は展開部で断片が散りばめられたのちに、再現部で主題が執拗に繰り返されるので、これも展開部と再現部の融合と言って良いかもしれません。
 最後は第1楽章の第1主題が華やかに登場しますが、5番のように圧倒的なクライマックスが築かれるわけではなく意外とあっさり終了します。このあたりも「ブルックナーらしくない」と言われる所以かもしれませんが、初期の交響曲も同じような終わり方をしているので決して「らしくない」ことはないと思います。

まとめ


 このようにブルックナーの6番は、ブルックナー得意の構成を活かしつつ、繰り返しによるミニマル的な面白さや休止によって分断しない流れの美しさを堪能できる稀有な作品だと思います。

 いかがでしたでしょうか?
 ぜひみなさんもブルックナーの交響曲第6番を聴いてみてください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?