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【この曲がすごい】マニアック解説第8弾!シベリウス交響曲第6番ニ長調

この記事はこちらの動画を基にしています。


このシリーズでは知名度や歴史的な重要性に関わらず、私がすごい!と思っている曲を紹介していきます。

今回はシベリウス交響曲第6番ニ長調
シベリウスの交響曲は、有名な第2番を除けばどれも不人気です。その要因としては、美しいメロディというよりはシンプルなモティーフの積み重ねで聴かせるテーマや性格がはっきりとしておらず捉えどころがないなどがあると思います。中でもこの第6番はその傾向が顕著です。
つまり、伝統的な様式美にも前衛的な逸脱にも寄らず、独特の立ち位置にいるのがシベリウスだと言えるでしょう。では、この曲はいったいどこが魅力的なのか、これから見ていきたいと思います。

シベリウス交響曲第6番ってどんな曲?


まずはこの曲の概要について簡単に説明しておきたいと思います。

1923年(58歳)に完成、同年シベリウス自身の指揮によって初演されました。

着想されたのは1914年(49歳)で、交響曲第5番・第7番と同じ時期と言われています。着想から完成まで10年近くの年月があります。これは第1次世界大戦の勃発により中断して、1918年にフィンランド独立を経て落ち着いてから再開したこと。また、自身の50歳の記念のためであった、第5番の完成を先行したことなどがあります。

内容的なことにも少し触れますと、1919年にシベリウスを経済的にも精神的にも支援していたカルぺラン男爵が亡くなります。これがこの曲の宗教的な曲想に影響していると言われています。
例えば、この曲には教会旋法のひとつであるドリア旋法が用いられています。ドリア旋法はこの曲の主調である二調でどこか古風で懐かしさを覚える音階であることが特徴です。

ここがすごい!

それでは第1楽章から順に、すごいポイントを見ていきましょう。

第1楽章

この楽章はソナタ形式ですが、雰囲気的には三部形式の要素も持っています。
まず、弦楽器による清明さに溢れた序奏が登場します。この部分は譜例1の通り、第1・第2ヴァイオリンがそれぞれ2部に分かれており、かなり繊細なつくりとなっていることがわかります。

譜例1

そこから自然とオーボエとフルートによる第1主題が登場します。ここはシームレスなのでほとんど区別がないと言っても良いかもしれません。
続いて、テンポが上がりハープと弦のトレモロに乗って、木管による爽快な第2主題が登場します。このままのテンポと伴奏で展開部と再現部が続きます。
コーダはまずホルンと弦のやりとりがあり、休止。その後、上昇と下降、休止を繰り返し、序奏の主題が回帰したところでさりげなく終わります。え?これで終わり?と思う間もないまま、第2楽章へ突入します。

第2楽章

この楽章もソナタ形式ですが、かなり自由で不定形なものとなっています。
まず弱音のティンパニに導かれて、木管楽器が寂しげな序奏を奏でます。譜例2の通り、休符から始まり小節をまたぐため、ずれた拍節感を生んでいます。ブラームスが好んでいた方法ですね。

譜例2

やがて、ヴァイオリンによる捉えどころのない主題が登場します。これが変奏・展開されて何度か繰り返されます。
テンポが上がると、弦のトレモロに乗って木管楽器による短い動機が登場します。これは主題と呼ぶには簡素で、発展途上のままです。
そして主題の断片が回帰して、さりげなく終わります。これも第1楽章と同じく、あっけないものです。

第3楽章

この楽章もソナタ形式ですが、雰囲気的には三部形式のスケルツォです。
特徴的な付点風のリズムの序奏から始まります。付点「風」と言ったのは、譜例3の通り、八分音符・十六分休符・十六分音符で構成されているためです。実際、休符を聞き取ることは難しいので、付点のように聞こえます。

譜例3

すぐに疾走感のある木管と弦の掛け合いによる第1主題木管を中心とした第2主題が登場します。
コデッタは序奏のリズムが再登場して展開します。弦と木管が交互に演奏し、金管がアクセントを加えて盛り上がります。ここまでの展開はあっという間です。
ソナタ形式とは言いましたが展開部はなしで、すぐに再現部が訪れます。その後、全オーケストラで荒々しく盛り上がり、その頂点でやはりあっけなく終わります。

第4楽章

この楽章は三部形式ですが、やはり自由で不定形です。
まず厳粛で古風な主題が現れます。これは譜例4の通り、ヴァイオリン・木管・ホルンによる下降音型とそれに応える形でヴィオラ・チェロによる上昇音型の組み合わせです。いかにも宗教的、教会の中で演奏される音楽といった感じですね。

譜例4

しばらくすると、テンポが上がり弦によるリズミカルな中間部となります。
その盛り上がりの頂点で主題が回帰します。それもすぐにテンポが上がり、疾走感が出てきます。
最後は「ドッピオ・ピウ・レント(さらに倍ほどの遅さで)」という指示があり、落ち着いた雰囲気で消えるように終わります。


まとめ

いかがでしたでしょうか?

このようにシベリウスの6番は、美しい旋律や巧みな構成があるわけではありません。しかし、ごく簡素な動機の積み重ねとどこか郷愁を誘う響きには心地良さを感じます。それでいて不器用さや垢ぬけなさはありません。これはこれで一流の洗練の極みを感じます。

新鮮な素材と熟成された出汁で勝負する日本料理のようなものかもしれません。ぜひみなさんもたっぷり味わってみてください。


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