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【この曲がすごい】マニアック解説第7弾!ブラームス交響曲第3番へ長調

この記事はこちらの動画を基にしています。


このシリーズでは知名度や歴史的な重要性に関わらず、私がすごい!と思っている曲を紹介していきます。

第7弾はブラームス交響曲第3番へ長調ブラームスの交響曲の中では最も不人気な作品です。その要因は全体的に雰囲気が地味性格がはっきりしていない、すべての楽章が弱音で終わるため盛り上がりに欠けるなどがあると思います。しかし、いやだからこそブラームスらしい良さがあると思います。では、この曲はいったいどこが魅力的なのか、これから見ていきましょう。

ブラームス交響曲第3番ってどんな曲?


まずはこの曲の概要について簡単に説明しておきたいと思います。

1883年(50歳)作曲、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルによって初演されました。
そのハンス・リヒターいわく「この曲はブラームスの『英雄交響曲』だ」とのこと。『英雄交響曲』とはもちろんベートーヴェンの交響曲第3番のことです。しかし、この曲には『英雄』のような標題は付いていませんし、調性も異なるのであまり参考にはならない意見だと思います。

それよりも、この曲は誰かに捧げられたり、依頼されたりして書かれた曲ではないため、個人的な感情が込められているのではないかと考えられます。
特に恩師であるシューマンへのオマージュではないか?という意見もあります。その辺りについては後ほど見ていきましょう。

ここがすごい!

第1楽章

それでは第1楽章から順に、すごいポイントを見ていきましょう。

第1楽章は伝統的なソナタ形式です。
まず「ファ・ラ♭・ファ」という基本動機が管楽器で提示されます。譜例1の赤い部分です。
この基本動機は原調のヘ長調なら「ファ・ラ・ファ」となるところですが、真ん中の「ラ」が半音下がりヘ短調になります。これによりいきなり不安定な緊張感が生まれます。

譜例1

そして、続けて第1主題が弦楽器によって登場します。これはシューマンの交響曲第3番『ライン』冒頭と似ています。譜例1の青い部分と譜例2を比べてみてください。

譜例2

もちろん音程も調性も異なりますが、実際の拍子(ブラームスは6/4でシューマンは3/4)を逸脱して3/2を感じさせるところがそっくりです。ここがシューマンへのオマージュと言われる所以です。このずれた感覚は全編にわたって出てきますので、覚えておいてください。

第2主題はクラリネットによる穏やかなメロディです。譜例3の通りこのメロディは休符から始まっています。そのため、ここでも「ずれた拍節感」を生んでいます。

譜例3

続く展開部は、低弦による暗く情熱的に変化した第2主題、ホルンによる大らかな基本動機、弦によって繰り返される第1主題という変則的な順序で展開されます。
再現部の後、コーダは基本動機と第1主題が絡み合いながら静かに終わります。


第2楽章

主題はクラリネットによる素朴で穏やかなメロディです。先ほどの第1楽章第2主題もそうでしたが、落ち着いた静かなメロディをクラリネットが吹くことで暖かい中間色のようなニュアンスが出ており、ブラームスらしさを感じさせます。
中間部はコラール風の陰りを帯びたメロディです。譜例4の通り、これも「ずれた拍節感」ですね。このメロディは後で第4楽章でも再登場します。

譜例4

穏やかな楽章の副主題がフィナーレで再登場するアプローチは後にマーラーが5番で行っています。ブラームスの影響でしょうか?

その後、明るさとほの暗さを不安定に行き来しながら展開していきます。特にコーダの前では一度大きな広がりを見せてから、弱音でコラールの断片を奏でます。この部分は全曲中の白眉とも言えるほど絶品です。ぜひご自身の耳で確かめてみてください。
最後は冒頭のクラリネットによるメロディが戻り、静かに終わります。

第3楽章

第3楽章はこの曲の中でもっとも有名な音楽です。映画やドラマの音楽として使われたり、歌詞を付けて歌われたりしています。

譜例5

この湿り気のある美しいメロディの秘密はやはり「ずれた拍節感」です。譜例5をご覧ください。赤色で示した部分がワンフレーズですが、フレーズの先頭が小節の後ろに来ています。この弱拍から始まるずれたフレーズが心地良い揺らぎとなっているのです。

中間部は少しテンポを上げて、やや不安げなメロディが木管楽器によって演奏されます。
その後、主題が戻ります。最初はチェロによって演奏されましたが、今度はホルンによって演奏されます。ここは特にロマンティックで印象的です。最後はやはり静かに終わります。

第4楽章

第4楽章はこの曲の中ではもっとも激しく闘争的な雰囲気を持っています。

まず忙しなく動き回る第1主題が登場します。その途中で第2楽章中間部のコラール風の主題が再登場します。今度は少しテンポを上げて不気味な印象です。その後、流れるような第2主題と激情的なコデッタが出てきます。

展開部と再現部は合体しており、第1主題とその展開、コラール、第2主題、コデッタという風に進んでいきます。
コーダでは第1主題が扱われますがどんどん穏やかになっていきます。そして、最後には第1楽章第1主題が回帰して静かに終わります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

このようにブラームスの3番は、いきなりヘ短調の基本動機を提示したり、「ずれた拍節感」のメロディが出てきたり、落ち着かない不安定さが持ち味となっています。
それがもどかしさにつながり好みは分かれるとは思いますが、私は人間の弱さのようなものが前面に出たこの曲が好きです。このあたりもシューマンと共通するところかもしれません。

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