LGBTに理解がある人に投票したい、という20代に極左が語ったこと

「政治について教えてほしい」と、ある20代の知り合いに相談された。聞くとその人はLGBTや同性婚といった議題について関心があり、身近な人が使っていた「過度な人権」「LGBTには生産性が無い」といったような言葉を、政治家までもが使っていることを知って、成人してから今まで投票したことは無かったが、これからは政治に参加しなければならないと思ったのだという。そして、明日の投票日までに誰に投票したらいいか決めたいのだという。

困ったな、と思った。私はその人よりも間違いなく政治について知識を持ってはいるが、正しく・わかりやすく・手短に教えられるかは全く別だからである。

まず、私の立場が極左と言えるほどに偏っていることを伝えねばならないと考えたので、最初に右翼/左翼とは何かを説明した。その次に世代間の対立について、それら左右や世代の対立のなかで中立というものがありえるのかについて語った。最後に、明日までに投票先を決めなければならない都合上かなり強引で場当たり的なテクニックを伝えた。

結果として2時間ぐらいの対話であったが、少なくとも私にとっては大いに有意義で、相手も喜んでくれたようである。だから他の人にも有意義かもしれないと思い、記事の形で公開することにした。本人の許可を得てこのように公開するにあたり、かなり編集し、かなりの補足を加えたが、大筋は以下のような話をした。

右翼と左翼とは何か?

右翼と左翼は、どちらが欠けても羽ばたけない

LGBTとか同性婚とかの問題……シンプル化と資料の集めやすさのために、とりあえず今回は同性婚にだけ絞って話そう。すごく大まかに言えば、同性婚に反対している人ほど右=保守的で、同性婚に賛成している人ほど左=革新的であるといえる。この見方は後ほど修正するけれど、とりあえずは一旦この説明でいく。

「右翼=右派=保守(後になるほど丁寧)」と、「左翼=左派=革新」とはなにか? フランス革命の時に議会で右の方に集まっていたグループと左の方に集まっていたグループの考え方の対立がめっちゃ普遍的だったので、その時の呼び名が今でも使われているのである。フランス革命は革命なのですさまじく社会が変わろうとしていたのだが、右の方のグループは「そんな急に変えても皆ついていけないし、守るべき伝統というものがあるはずだ」と言った。左の方のグループは「そんな悠長な事を言ってる間も苦しんでる人がいる。社会はどんどん進歩して変わっていくべきだ」と言った。

そう、どちらの言っていることも正しい。フランス革命の時代にも、今の時代にも、守るべき伝統はあるし、変えなければならない欠点もある。だから、相手が右翼だからというだけで悪いと批判する「左翼」の人も、相手が左翼だからというだけで悪いと批判する「右翼」の人も、どちらも間違っていると、私は思う。だからあなたにも、同性婚に反対している人々を「敵」だとか「頭のおかしいやつ」だとは思わないでほしい。別に「友」だと思う必要も無いけれど、そっと距離を取るとか、そいつに投票しないことで否を示すとか、もっと直接的に議論をするとか、とにかく「敵」として単純に処理するのではなく、なるべく「自分と違う意見を持っている人」という風に思っておくのがよいと思う。

友達や知人に「自分と違う意見を持っている人」が多くてもストレスに感じる必要はない。そうした人々と日常で接していると、それらうっかりすると「敵」と考えたくなるような人たちの、日常生活における美点とか、隠された真剣で切実な主張の理由が見えたりする。遠回りに見えて実は近道である、ということは政治に限らず多い。

あなたが何についても100%正しくて、その人が何についても100%間違っている、ということは考えにくいのだから、その友人から自分では思いつかないような物の見方や、自分では気付かなかった思い込みを教えてもらえた方が、単に「敵」として切断処理するよりもあなたにとってプラスになるはずだ。それはお互い様で、向こうもあなたを「敵」でないと思ってくれれば、いずれあなたの説得を受け入れてくれるかもしれない。相手を「敵」とか「悪魔」とか見なすことは、すべきではないし、しても得がないことは歴史が示している。

なぜ右翼=保守は同性婚に反対するか?

左派=革新的な人たちが同性婚について主張することはあなたも既に分かるはずで、今の社会には同性で結婚できないために苦しんでいる人がいる、だから社会は変わるべきだと考えている。

一方で、さっき言ったことからすれば右派=保守の人たちの言い分にも正しい部分はあるはずだ。保守の人たちも理由も無く意地悪で反対しているわけではない。その人たちにとって、「結婚は男女のもの」という価値観が守るべきものとして我々よりも強く感じられているのだろうが、別にその人ひとりの思い込みではなく、実際これまで長いあいだ結婚といえば男女のものだったことは歴史的な事実である。このことについては世代の話の際に詳しく考えよう。

もっと実際的に、同性間で結婚しても子供ができない、子供ができないことにはこの国にメリットがない、だから国はその人たちに結婚という経済的・社会的利益、つまり補助金とか社会的信用とかをわざわざ与えるべきではない、と考える人もいる。もちろんこの理屈にはいくらでも突っ込み所があると我々は思うが、まずそういう風に考えている人がいること自体は認めなければならない。そしてその人たちだってそれぞれ真剣に考えているので、こんな一言でまとめられるほど単純でないし、またこんなに隙だらけの理論でもない。

たとえば複雑性の例として、異性婚でも子供ができない、つくらない夫婦についての考え方がある。同性婚に反対する人の中でもそれは権利として当然許されるべきだと考える人もいるし、あまりよく思わない人もいる。後者の人は、「ただ結婚しているだけの夫婦」より「結婚して子供を持つ夫婦」をより評価すべきだろう、と考える。別にこれもそんな非常識な考えじゃなくて、たとえば子供を産んだ夫婦に補助金を出したりするようなのだって見方によってはその一種類だ。それを批判するのは難しいし、そもそも批判すべきなのかどうかもすぐには分からない。

ここまで来てようやく、あなたがどれだけ微妙な教師を選んだかをお伝えすることができるのだが、私は同性婚に賛成する人間の中でも、極左と言われる種類の人間である。私は世の中の多くの人々や多分あなたよりも伝統をかなり軽んじて、社会が激変してもいいし激変すべきだと思っている。逆に言えばそれだけ問題を解決しようとしているつもりだが、まあそういう偏り方をしていることを念頭に続きを聞いてほしい。

テンプレート:左翼 - アンサイクロペディア

同性婚における世代間対立

さっきまでは大雑把に右の人が同性婚に反対して左の人が賛成している、と言ったけど、実際は右派/左派と同じかそれ以上に世代で意見が分かれてもいる。

(世論調査のトリセツ)同性婚への理解、6年で広がる:朝日新聞デジタル
同性婚に賛成65% 自民支持層でも58% 本社世論調査 - 日本経済新聞

同性婚ができないことが「問題」であると日本で広く知られたのは、ここ10年20年ぐらいの話だと言っていい。それまで何をしていたかというと、そもそも平民に人権がなかったり、女性が自由に働けなかったりした、今から見れば「常識外れ」の状況を、少しずつでも良くしようとし続けていた。

だからたとえば今70歳の人にとっては、50歳まで正しいと思ってきた常識が、ここ20年くらいで急に通用しなくなってしまったように感じられているはずだ。これが多くの難しい感情を生み出すことは分かるだろう。単に知る機会が無かったり習慣を変えるのが面倒だったりもするだろうし、もっと頑なであったとしても全然驚かない。だって我々が産まれてから今までより長い、50年以上をその常識で生きてきたのだから。

さらに複雑なことには、同性婚に賛成している人の中には残念ながら「男が働いて、女が家を守るなんて信じられない、ありえない、絶対間違ってる」なんて強い言葉を使ってしまう人がいる。そんな言葉を「男が働いて、女が家を守る」家庭で、これまで幸せな何十年かを過ごしてきた、その家庭こそが生きがいであるような人たちが聞いたらどう思うだろうか?

たとえば今から50年後、我々が70歳とか80歳とかになるころには今我々が持っているいくつかの常識は間違いなく覆っているはずだ。それに嫌悪感を持ったり、嫌悪まで行かなくても納得できないことだって当然あるはずだ。その気持ちを責められたくはない。だから我々だって、いま同性婚にそういう気持ちをもっている人たちを、責めるべきではない。

たとえばインターネット仲間たちとインターネット老人ホームを開いて2020年代あるあるで盛り上がって寿命を迎えかけてるところに、「インターネットは人類史上もっともおぞましい発明で、それに関わった奴は穢らわしい、気持ち悪い」なんてことを言われたら嫌でしょう。人類史上その程度の価値観の転換は数え切れないほどあった。たとえば右翼左翼の元ネタのフランス革命の時代は国中でそんなことが数ヶ月間隔で何度も起こった人類史上でも指折りのジェットコースターだし、日本に住む多くの人々は古墳を作ってたころも、戦闘機を作ってたころも、同性婚はできないのが当たり前だと思ってきたことを考えれば、この20年の角度も相当急だ。

中立な人や政党はどこにいる?

ここまで来て、どこもかしこも対立ばかり、それも簡単には答えの出ない対立ばかりで疲れただろうと思う。どこか落ち着いた中立的な立場はないもののか、その気持ちは痛いほどわかるけど、しかし、政治の問題のほとんどは「どこが中立か?」について争っているのだ。

たとえば自民党は日本の右派政党の代名詞とされることが多く、じっさい私も後でそういう風に説明するが、世界規模で見れば自民党はかなり中立か、もしかしたら左寄りでさえあるかもしれない。たとえば自民党よりも右派的な例として、"Make America Great Again!"と言って大金を掛けてまでメキシコとの国境に万里の長城を作ろうとしたトランプは分かりやすい例だし、ヨーロッパでも「移民や難民、つまり外国人は我が国から出ていけ」と主張する政党がたくさんあって力を持っている。

べつにアメリカやヨーロッパの人たちが馬鹿で狭量なわけではない。たとえば地理的条件ひとつとっても、彼らの国は外国人が文字通り地続きで流れ込んでくるのだ。外国人が嫌がられる理由として最も大きなもののひとつが言葉の違いだ。言葉が違うとはどういうことかといえば、「嫌だからやめて」と言っても通じないということだ。言っても通じないなら、まあ暴力はダメだとしても、近づいてほしくないと考えるのは十分自然で有効な一つの方法だろう。

さらに言えばもし仮に世界人類が全て平和になった状態でさえも、動物の権利は? とか植物と地球環境は? とかこれから未来に産まれる人類の権利も考えるべきか? とか考え始めればきりがない。このように中立を求めても、「どこまで考えての中立か?」という問題にすぐ突き当たり、「どこまで考えるべきか」への中立的な正解は多分、ない。だから、これこそが正解だとか言ってる人に出会ったり、この考えこそまさに中立だと思ったりしたら注意した方がいい。お仕事でやってるだけだったり、マニュアルでハメてるだけかもしれない。

とはいえ「中立そのもの」を手にするのは無理だとしても、「ときどき中立のひとかけらに指先で触れる」ぐらいはできると思ってもバチはあたらないとは私は思うけれど。

こうした事情もあって私は政治的に偏っていることを隠さず、むしろ誇りに思って主張しているけども、だからといって私こそがほんとうの中立だとか、私こそが正解だと思われても困る。たとえば今までの説明から「思う」という単語を抜き出してみれば、私が細かく説明せずに、なんとなくの雰囲気で押し切ってるところがいくつも見つかるはずだ。単に面倒くさがってる場合もあるし、自分でも理屈づけが定まってなくて自分にイライラしてる場合もある。私にだって分からないことぐらいある。あるいは、ここはむしろ他人に説明せず、自分が納得できているなら十分であると積極的に「思う」こともある。

他にも「敵」についての考え方なんかも実は怒られそうなポイントだったりする。あなたは私の説明を聞いてくれているので、なんとなくそういうものだと思っているかもしれないが、政治の理論にはむしろ「友と敵に世界を分けて考えるのが重要だ」という種類の主張があったりして、きっとその理論の専門家と議論すると私が負ける。そんなもんである。

民主主義の重要な一つの考え方は、ひとりで中立に近づくのは無理そうだからみんなでやろう、ということだ。当たり前に思えるけど、ホモサピエンスがそれを見つけるのに1万年以上かかったし、最終的な正解かどうかもかなり怪しい。怪しいけど、まあいろいろあって今のところ一番マシだとされている。イギリスの首相チャーチルは第二次世界大戦の後、次のように言った。「民主主義は最悪の政治形態であると言える。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」と。第二次世界大戦の大型アプデの後に人類はこまごまとパッチを当ててここまで来たのだ。

明日投票のあなたへの小手先テクニック

以上は多分この先しばらく、もしかしたら死ぬまで使えるかもしれない話だったけれど、ここから先は明日までに投票先を決めなければいけないということで、受験テク的な非本質的な話が増えるから気をつけて欲しい。

まず最初はずっと使える王道のやり方で、選挙公報を読もう。頼んでもないのにポストに入れられるあの新聞みたいなやつである。ネットでも読める。大きな選挙だとマスコミが大々的に調査して上手くまとめてくれるのだが、小規模な選挙だとそうもいかない。公式サイトやTwitterを持っていない候補はいるが、選挙公報に情報が無い候補はいない。最強のソースである。

今回は難しいだろうが、調べても分からなければ電話やメールで直接聞いてもよい。それも議員やスタッフの仕事のうちで、同性婚ぐらいメジャーな論点であればテンプレや方針が決まっているはずだから別に面倒がられはしない。むしろそれだけ同性婚について真剣に考えなければならない、と議員へのプレッシャーにもなる。もし面倒がられたら投票しなければいい。

ここからは特に小手先の内容になる。右翼=保守政党の代表は自民党で、自民党の議員はだいたい同性婚に反対なのだろう、と思っておいて、まあ、今回はよい。左翼=革新政党はいろいろあるけど、とりあえず民主党が分裂した立憲民主党と国民民主党、あと共産党あたりが世の中的には有名だ。共産党は左過ぎてちょっと……と考える日本国民が多いから共産党は小さな政党だが、正直なところ私は共産党でも左翼としてヌルいと思っている。極左だから仕方ない。

左右の他に、世代での違いもあった。20代か30代の議員に適当に入れれば8割の確率で同性婚に賛成だろうと思ってもそう間違ってはいないはずだ。しかし自民党の若い議員の場合、党内でのルールや空気を考えてあまり動いてくれないかもしれない、と考えることもできる。もちろん逆に同性婚賛成と言っている自民党以外の議員だって、単に党の方針がそうだから言ってるだけで、本心は反対かもしれない。

他にも気になることとして、同性婚に賛成の若い議員が当選したとして、その人は他のことにまったく無知で、経済や治安がめちゃくちゃになるかもしれない。

しかし幸いなことに民主主義は、全部を正しくできる政治家はいないし、全部を正しくできる有権者もいない、という前提で上手くいくようにできている。自分が全部を正しくできると主張するのは、ようするに独裁者ってことである。

だから一票は重いけど、重荷に感じなければならないほど重くもない。たとえば今回あなたは同性婚についてだけ考えて投票しても、経済とかのことは他の人が気にしてくれるだろう、と考えてもいい。とりあえず今回に限っては今から選挙公報を全員チェックするのはキツそうだから、非自民党の若い候補だけ見て決めても、自民党や高齢の優れた候補には他の人が投票してくれるだろう、と考えても、まあ、仕方ない。

とりあえず今のあなたは同性婚についてだけ考えて、明日までに投票先を決めたらいい。それだって結構大変なことのはずだから。でもこの先、きっと「同性婚についての意見は合わないけど、自分の職種についてめっちゃ考えてくれる人」とかその逆とかが現れるはずだ。その問題に他人から教えらえる正解は無いから、自分で悩んでもらうしかない。

まとめ:政治は楽しい!(しばらくは)

最近チェスとかドイツ語とか麻雀とか色々新しい趣味をある程度やりこんで思ったのだが、始めるのが一番大変で、分かりはじめが一番楽しい! 成長が一日ごとに倍になっていくのも珍しくないし、なにより単純に分からなかったことが分かるようになるのは楽しいから。何であれ続けていれば、すぐには答えが分からない難しい問題が増えていく。そこで悩むのもまあ楽しいと言えば楽しいが、かなり渋い楽しみだと思う。

あなたはこれまで、たとえばニュースで自民党の議員が同性婚に反対していても「政治家の中には同性婚に反対している人もいるんだな」ぐらいにしか思わなかったはずだ。しかしこれからは「やっぱり自民党は保守的で同性婚について否定的なんだな」なんてふうに今日の復習ができるし、逆に自民党の議員で同性婚に肯定的な人を見つけたら「この人はどういう人で、なぜそう考えるんだろう」と、さらなる発見に繋がりそうな疑問を持つことができる。そうやって世の中の解像度を上げていくのは大変だけど、楽しくもあるはずだ。一緒に悩んでいきましょう。

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