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産官学スタートアップ連携教育プログラムへの挑戦を振り返る-講義ゲスト・西宮市議会議員 一色風子さんとの対談-

富士通株式会社でのオープンイノベーションを用いた新規事業開発経験を活かし、関西学院大学で開講した「産官学スタートアップ連携によるオープンイノベーションを活用した教育プログラム」(以下、オープンイノベーション2.0教育プログラム)の取り組みを紹介します。(不定期更新)

前回の記事では、私が同大学の非常勤講師としてオープンイノベーション2.0教育プログラムに挑戦することになったきっかけや本プログラムが目指すビジョンについてお話しました。

本プログラムは講義のアウトカムを有識者に「直談判ピッチ」出来る場を設け、社会実装につなげていくことを狙いとしていました。

初の試みとなった2022年度秋学期には、西宮市市議会議員の一色風子さんにご協力頂き、学生達のグループワークやプレゼンテーションを通じて彼らのアイデアを受け止めてもらいました。

西宮市議会議員 一色さんによる講義模様

<西宮市議会議員 一色風子さん>
4人の子どもと2匹の保護猫と暮らすシンママ議員。只今2期目(教育こども常任委員会副委員長、民生常任委員会副委員長、建設常任委員会副委員長)。子ども支援、子育て支援、教育施策、人権施策、環境施策、市民主体のまちづくりなどを中心に活動。

今回は、一色さんとの対談形式で本プログラムの振り返りを行ってみたいと思います。

全14回の講義を振り返って:学生達からの評価や感想


松尾:
改めて、今回は本当にご協力ありがとうございました。一色さんにお力添え頂いたことで、講義に対する学生達の満足度は非常に高かったようです。
詳細な振り返りに入る前に、まずは学生達から収集したデータを先にシェアしておこうと思います。

今回受講申込みしてくれた学生はトータル50名、うち実際に授業に参加したのが40名でした。今回が初の試みだったため下地がなく、しかも学生達からすると内容が予想しづらい授業だったと思いますが、その割に参加率は高めだった印象です。

理由として、学生達が「今までの大学にない実践的な授業」を求めていたこと、そしてSDGsに関する事業をリサーチし社会課題の解決に向けてビジネスアイデアを練るというテーマ設定が良かったのではないかと考えています。
 
学生達に講義への総合的な評価を聞いたところ、以下のような結果でした。

個別の感想を見ても、以下の通り、全体的に好評だったといえるでしょう。特にグループワークを積極的に取り入れたことや、一色さんという有識者と直接話す機会が持てたことが学生達にとっては大きかったようです。

<感想一例>

  • あまりないグループワーク主体の授業で協働力や主体性を身につけることが出来た。

  • 講義を履修したことで今までは他人事だったSDGsに対して、主体は自分たちなのだと気付かされた。現実社会との意識の差を強く感じた。

  • 経済学部の授業は固いものが多かったので、今回のようなテーマの授業はありがたかった。

  • 抽象的ではない実際に役立つ知識を学べたため、他の授業よりも積極的に参加できた。レポートに対する質問も課題をすぐに見抜いて頂き、解決の糸口を迅速に提案頂けてありがたかった。

  • 今学期履修していた授業の中で一番好きな講義だった。元々SDGsに興味はあったものの、まだまだ知らないことが多く、最新のトレンドや社会の動きを知ることが出来て関心が深まった。単位関係なく学びたいと思える講義内容で、今まで大学の使い方を間違えていたと感じた。

  • グループワーク中心の講義は初めてだったので最初は不安だったが、参加型の講義は予想以上に楽しく、全14回の講義があっという間だった。幅広い視点から物事を捉え、アイデアを出していくことがこの先SDGsを実現させるためにも必要だと感じた。

  • プレゼンテーションの難しさを知った。グループ内で綿密な打ち合わせをして、個人でも練習をしていたが、本番を迎えると思うように発表できなかった。社会人になってからもプレゼンの機会は多いと思うので、今回の経験を活かしていきたい。

  • フィールドワークメインの授業などを1年以内に開講する予定があればぜひ教えて欲しい。

また、学生達には授業の最後に「講義を通じて身につけたことをもとに、今の自分の環境(大学)を使って、どうすればよりSDGsに貢献できると思うか?」というテーマで2000字のレポートを書いてもらいました。

彼らのレポートを見ると、以下のような意見が多く見られました。

  • 今回のような授業を必修にしてほしい。単位のためではなく、 自ら考え形にしていく力を身につけられるようにもっと学びたい。

  • 地元企業の合同説明会などと連動させる形で社会経験を積むためのフィールドワークを大学のカリキュラムに組み込んでほしい。たとえば長期インターン制度のようなものがあると良いのではないか。

その他、社会課題の根幹部分として教育格差に着目し、自分ごととしてどのように改善していけるか具体的な提案まで考えていた学生もいました。
まだまだ荒削りな部分はありますが、彼らはやはりダイヤの原石なのだと感じます。
彼らの意見はきちんと大学側に共有させて頂き、今後に反映させていきたいと思います。

学生達との対話の意義:”今見えている世界”を広げる機会の提供

 
一色さん(以下、一色):
大学の授業に参加させて頂くというのは私にとって初めての体験でした。
今回松尾さんにお声がけ頂き、未知の世界に飛び込んだわけですが、西宮市の課題について学生達と話する機会を頂けたのは非常に良かったと思っています。

今回の気付きとして、学生の方々から見えている世界は私が想像していた以上に狭いように感じました。

たとえば、今西宮市が抱えている課題として講義の中では「子どもの貧困」や「ゴミの減量」をテーマとして挙げました。
ゴミの減量については、特に事業系ゴミがなかなか減らない中で、どうすれば事業者の方々の意識を変えていけるのか、学生達の意見もぜひ聞いてみたいと思いました。

そこで予想外だったのが、多くの学生が「事業系ゴミ=オフィスゴミ」と認識していたことです。事業者と一言で言っても、小売業の店舗や工場など様々な業態がありますが、社会を体感していない彼らにはイメージしづらかったようです。

一つの社会課題でも少し視点を変えるだけで様々なことが見えてきます。日々市政の現場で社会課題に取り組む身として、これから社会に出ていく学生の皆さんに新たな視点を提供できたのは有意義だったと感じています。

松尾:
学生達の視点にもっと広がりを持たせられなかったかという点は、今回の講義を通じて私が感じた大きな反省点の一つでした。

講義内では8組のチームにプレゼンをしてもらいましたが、うち4組が西宮市塩瀬地区の空き家問題にフォーカスしていました。その他のチームも大半が北部地域の社会問題に目を向けていたことから、全体的に彼らがインプットしている情報の偏りを感じました。

西宮市は南北に長く、南部地域にも様々な社会課題があります。たとえば待機児童や教育格差など多様な社会課題に学生達がもっと目を向けられるように、次回の講義では意識付けの部分をもっと工夫していきたいです。

課題解決力の強化に向けて:ネット上のリサーチから現場でのフィールドワークへ


一色:
学生の皆さんのプレゼンを拝見した印象ですが、社会課題に関するデータは皆さん非常によくリサーチされていたと思います。4チームが取り上げていた空き家問題などは、私自身もいい勉強になりました。

ただ、西宮市が現在それぞれの課題に対してどういった取組を行っているのかという点に言及した発表が少なかったのが少し残念でした。市役所に実際に足を運んで、担当官に直接話を聞いてもらえたら、より議論が深まったのではないかと思います。

松尾:
学生達には、自分ごととして西宮市の社会課題と向き合うために実務者や実際に困っている方々に話を聞いてみてほしいとはお伝えしていましたが、実際フィールドワークまで実践できた学生はほとんどいなかったようです。

今回の講義は通年ではないため、テーマ設定からプレゼンまでに2ヵ月しか準備期間がありませんでした。時間的に厳しい部分はあったかと思いますし、実務者の視点を体感したことがない分、社会課題の解像度が低く、深掘りしきれなかったのだろうと思います。

フィールドワークに関心がある学生が一定数いることはアンケート結果からも判明しているので、この点は次回以降の宿題にしたいと思います。

一色:
あと気になった点としては、たとえば「空き家問題×待機児童問題」というように、異なる社会課題を組み合わせて両方解決しようとする提案が多かったように感じました。

一つの社会課題だけでも、利害関係者は多岐にわたります。 それぞれの背景を考え、かつ財源の問題等をクリアしていかないと、なかなか課題の解決にはつながらないというのが実情です。

そのため、課題をかけ合わせるよりは、1つに絞ってより丁寧に掘り下げていくとより面白い議論ができたかもしれません。学生の方々の提案の中には興味深い着眼点もあったので、その点がもったいないと感じました。

 特に、同じような社会課題を抱えている自治体と連携するアイデアは目を引きました。市政に携わっている立場だと、つい今の自治体の中で考えてしまいがちですが、今後は自治体同士で協力し合うことがより重要になってくると思います。その他、私が過去に議会に提案した内容とよく似た実践的なアイデアもありました。

何年も市議会議員をしていると、どうしても思考が経験則に縛られてしまいがちです。だからこそ、これからのより良い街づくりのために、既存の枠組みにとらわれない学生さん達の自由な発想をもっと活かせたらと思います。

松尾:
今回学生達には、単純に税金を投入して解決するのではなく、きちんと経済活動を伴ったサステナブルな提案を出してほしいという点を強調していました。経済性を回せる社会課題解決の仕組みを提案するために、学生達は様々な組み合わせを考えながら、試行錯誤していたようです。
 
全体を通してみると、学生達はやはり、「なぜその社会課題が起きたのか(WHY)」の部分はしっかりと調べてくれるのですが、「どうやってその社会課題を解決するのか(HOW)」の部分が苦手なように感じました。学生達の課題解決力をより引き出していけるように、今後のプログラムではより改善を図りたいと思います。

 色々と反省点はありますが、荒削りながら様々なアイデアを学生達がぶつけてくれたことも、一色さんがそれらを非常に前向きに受け止めてくださったことも、本当に感謝しています。今回の講義は、社会課題に対する意識が薄い学生達に一石を投じる良い機会になったと考えています。

個人的には、一色さんがうなるようなアイデアが学生達から少しでも出たことが一つの成果だと思いますし、改めて今後もっと彼らのアイデアを受け止める仕組みを作っていきたいと思いました。

オープンイノベーション2.0教育プログラムの今後:学生達のアイデアを受け止める仕組みづくりを目指して

一色:
市政には様々な方たちが関わっています。私と真逆の思想や信条を持った議員の方もおられますし、そういった多様な視点を持ち寄りながら街づくりをしているということを学生の方々にもっと感じて頂けたらうれしいです。

他の議員の方を紹介することも出来ますし、市役所とのつなぎ役も可能なので、ぜひ今回のご縁をきっかけに、松尾さんのチャレンジが先につながるように私も何かしらお力添え出来たらと思います。

松尾:
ありがとうございます。大変心強いです。このオープンイノベーション2.0教育プログラムは、様々な大人たちを巻き込みながら、学生達のアイデアを受け止める仕組みを作り、市民の皆さんと共に考えながら、最終的には社会実装へとつなげていくことを目標としています。

将来的には西宮市長にもアクセス出来たらと考えていますので、ぜひ引き続き一色さんには色々とご意見を頂けたらと思います。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

一色さんとライターの多田さん(SHUUU)を交えた取材模様

文章協力)株式会社SHUUU

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