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呑んで忘れたい3

「アンタモノミナサイヨ」そう言われて

もうすでに空になったシャンパンが並べられた

席に焦りを感じながら座る。

西蓮寺さんがすでに仕上がった表情をうかべ

2人の確実に成功者と思われる女性二人を

相手にしている。

「エレンくん紹介するね、こちらチョウ社長と

 イー社長、お金もちだぞ!」

「コラ、ワタシタチヲカネデミテルノカ!」

なんとも愉快な空間だ。

「カワイイ、カオシテルネ、シンジンクン」

おそらく40代だが一般的に美魔女の類いに

入るであろうチョウ社長に顔を触られる。

「あ、ありがとうございます・・」

「キンチョウシテルネ!シャンパン1つ!」

僕は緊張しただけでシャンパンを貰った。

「いいねエレン君、仕事できるじゃん!」

・・仕事できるじゃん?

そこからは1時間は経っただろうか

とりあえず社長たちを気持ちよくするために

これでもかとリアクションをとり続ける

シャンパンの瓶が置き場がなくなった頃

「ワタシハ、アシタシゴトヤカラ、カエル」

チョウ社長が席を立つ。

生々しい現金の札束を西蓮寺さんに渡すと

店の入り口に社長の鞄持ちが立っている。

「イーちゃんはまだ飲む?」西蓮寺が尋ねると

「マダノメル?」と僕を見て言ってくる。

「どうぞごゆっくり!」西蓮寺は間髪を入れず

僕とイー社長に新しい席を設け座らせる。

こうやって接客などしたことのない僕は

年上かつ外国人という初回にしてはS級難易度の

仕事をすることにアルコールで麻痺した神経で

自分を保っていた。

「あ、では改めましてエレンです、いただきます」

「ニテルノヨネ・・」

「似ている?えーと誰にでしょうか?」

「ワタシガ上海ニ、好きだったカレに」

その後イー社長は自分の過去の話をしてくれた

上海の一般家庭で生まれた彼女は

大学時代に大恋愛をしたという

某大学の語学を専攻していた彼女は

留学していたとある日本人学生に恋をし

付き合っていたという。

「どうして別れちゃったんですか?」

「オヤニ、ケッコンアイテ決められチャッテネ」

「いや、でも恋愛は好きな人と一緒になるべき

 じゃないですか?」

「中国ハ、一人っ子セイサクアルカラ

 親モオカネモチと結婚サセタカッタノヨ」

そういうとイー社長は表情が変わり

小さな涙がこぼれる。

彼女は親に決められた大手企業の御曹司と

半ば強制的に結婚をしいられ

裕福な生活を手にいれたという

しかし現在企業のトップである旦那は

妻にたいして関心はなく

嫌気がさした彼女は個人的に事業を立ち上げ

日本で活動をしているという。

「へぇすごいですね、どうしてわざわざ日本で」

「彼ニ、マタアエルカナッテ・・」

一見、宝石(きれいなもの)にまとわれ

何一つと手に入らないものがないと思わせる彼女

しかし、お金で買える全てがそろってもなお

学生時代に芽生えた恋心を満たすことは

出来ていないのだという。

「その方に、僕が似ていると?笑」

「ソウナノ、ソノヒトノコドモかなッテ」

「たぶん違います」

「wwwワカッテルヨ!」

その笑った表情に社長という肩書き

お金持ち、国籍などは存在しなかった。

「カエルね」

そういって席を立つ彼女を出口まで見送る

気付けば日は昇っている。

「マタネ、タクミ!」

そういってイー社長は歌舞伎町に消えていった。

「おつかれエレンくん、社長さんだいぶ

 気に入ってくれたみたいだね!」

「いや、ただ話し聞いてただけなんで」

店では店長が札束を数えながら

〆作業をしている、その他のスタッフは

ソファーで酔い潰れ寝ている。

「エレン君、おつかれ!これ今日の分ね」

手渡しで現金が入った封筒を受け取る。

「こんなに、いいんですか?」

「歌舞伎町だからね、今日の夜からもいける?」

「・・・はい。」

「おっけーじゃあ、また今夜!」

朝の歌舞伎町一番街を歩く

目の前にミニスカートにロングブーツを履いた

女性が靴擦れをかばうように歩く

君は誰に可愛いと褒められるために

無理しておめかしをしたんだい

そんなことを心の中で小さくツッコミを入れた

初出勤だった。

                  (続く)










































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