見出し画像

「夕暮れへ」(齋藤なずな)読みました

短編集の漫画本。古くからの漫画読みには有名な方のようですが、私は初めて知りました。
痛快!爽快!とはいかない、大人向けのくせもの作品。お話も絵柄も…どれもざわざわとした気持ちにさせられます。不安定で不安な気持ちが残り…でも途中で辞められず、1篇読むたびに、さあ次のお話はとページをめくってしまう。けっして“好み”ではないのに…。
あとがきや奥付によると、作者のデビューは1965年19歳の時。実力派として認知されつつも、途中20年間のブランク。2013年に久しぶりの単行本出版、この本は2018年刊行とのことです。
すっきりとわかりやすいオチ、でない作品多し。わかりやすいはらはらどきどきのきれいな夢の世界、ではない。
そう実際には、誰の人生も、映画やドラマのようなオチってないのです。決まっているタイムリミットに向かい何かを成し遂げるため邁進する…って人生は超稀なことで、大抵の人の生は、ある日突然、ぶつっと終わる。
ブランク後に描かれた2編は、特に感慨深かったです。長く生きれば生きるほどに、ますます人生はとらえどころがなくなってくるものなんだろうな、と思わされます。
人生に起承転結はない。人生に美しい輝きがある、というのは、それを信じたい人の心が生み出してきたある種の哲学。生きるための知恵。人は、淡々と息をするだけでは、生きられない心の仕組みを持っているから。
私たちは、生きていることに意味や意義を見出したいし、喜びを感じていたい。生きている間は、美しいものを、見たい聞きたいそれを求めることをやめられない。
人間、人生というものに、何ら幻想を持たずに生きることは不可能なんだ。でもこの「夕暮れへ」は、身も蓋もない現実を無情に突き付けてくる。
印象に残る言葉や場面が多くどきっ。中でも特に、親の死の話が身につまされる。
年老いた親が弱っていく状況がリアルです。かつての元気な親の姿、当時自分にかけられていた期待を思い出す主人公…行き場のない気持ちを処理できないままに時は過ぎていき…そして死による別れが確実にやってくる。
人の一生はそれぞれ…というとかっこいいけど、理不尽な不公平がいっぱい。それに憤る姿を滑稽として人は納得したふりするけど、皆本当は、悔しい!と正直に叫びたい。
ただ生きて死ぬ私たち。その不思議と愛おしさ。何千年も昔から数多の人々が思いを巡らしてきた、生きることの光について。普段目を背けていたことを、考えずにはいられなくなります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?