あの人がどんぶりを置いた理由

駅の構内。九州随一のターミナル駅だからそれなりに大きい。
平日でもスーツ姿にネクタイをしめた男性や、買い物にきた女性、学生や旅行客でそれはまぁ人が多い。大勢の人にまじって自分も駅内を歩くのだ。

改札を抜け出口へ･･････と思って歩いていると、午前中から明らかに違和感のある光景に出くわす。
どんぶりが置いてあるのだ、床に。コインロッカーの前の床に。

新手のカンパかと思ったけど、こんな中途半端な場所にどんぶりだけ置いたって貯まるはずもなし。何か食べ終えたどんぶりかとも考えたけど、中めっちゃ綺麗だし。

まずみんな素通りしてるけど、気になりませんか？駅構内とは言え道端にどんぶり置いてあるってないでしょ。床が白っぽいから気づかなかった･･･？
もう違和感しかないでしょ！

駅の通路のあんな場所にどんぶりを置く理由。何があるだろう。

1.【コインロッカーを使っていて忘れたパターン】
どんぶりの前にはコインロッカーがある。これを使っていて忘れたパターンがある。
きっと利用者は、多くの荷物を持っていたのだ。背中に背負ったリュックを入れて、両手に抱えた袋も入れて･･････あれ、入らない。ちょっと整理して･･････あ、どんぶりが引っかかってる。ちょっとどんぶり出してから･･････入った入った！良かったー。
で、出したどんぶりがそのままになってた。

もしくはロッカーから多くの荷物を出すときに、たまたま個別に出したどんぶりを持っていき忘れた可能性もあるな。うん、ある。

2.【偶然落としたパターン】
どんぶりを何らかの理由で持っていて、ポロッと荷物の中からこぼれていったパターンもある。
引っ越しでどこか離れた場所へ行くのか、それとも鍋パーティならぬどんぶりパーティーでもするのか。とにかくどんぶりをどこかへ持っていく必要があったのだ。でも他の身の回りのものなのか、食材なのかを袋に入れているうちに、どんぶりは袋の上のほうに置くしかなくて。
電車に間に合わない！と思って急いでホームに向かったところ、どんぶりは手元からこぼれ落ちて、気づかず行ってしまったのだ。

もしどんぶりパーティに行く人だったとしたら、主役のどんぶり無くて困っただろうな･･････。どんぶりパーティのどんぶり抜きって。

3.【恋にやぶれたパターン】
恋にやぶれた結果、あんなところにどんぶりが置かれる事態になったパターンもある。
パートナーとは3年付き合ってきた。でも、今日で終止符。自分が至らなかったんだ、分かってる。
部屋を出て行くときに持ってきたどんぶり。ペアで買ったんだよな。全然高くないけど、これで毎日ご飯食べてた。
ダメだ･･････涙が出そう。もうこのどんぶりとも、お別れしなきゃ。次に進めない。ありがとう、どんぶり。

モノにも思い出が宿る感じ、分かるよ。ただ、駅のど真ん中には置いていかないでくれ。

4.【一線を退いたパターン】
どこかの世界からその一線を退く過程で、どんぶりを置いていったパターンもある。
ずっとこの業界でやってきたけど、新たな夢に向かって、別の世界に進む決意をした。先輩に、「これ持ってけよ」と言われてもらったどんぶり。どんな時だって支えてくれた。このどんぶりが無ければ、ここまでやって来られなかったかもしれない。
でもダメだ、先輩には申し訳ないけど置いていこう。ずっとこれに頼っていると、新しい世界に踏み出していけないかもしれない。まっさらな自分で、もう一度頑張るんだ。ありがとう、どんぶり。

大丈夫、あなたの決断はすごいよ。どんぶりなんかで揺らいだりしない。だから駅に置かないで取りに来て。

とは言えどうしたら良いのか分からず、自分も一旦どんぶりを見過ごしてしまった。ごめんなさい。

また駅に戻ってくると、もうどんぶりは無かった。駅員さんが気づいて回収してくれたかな？それとも拾得物としてどこかに届けられた？
忘れた誰かが取りに来た？落としたどんぶりパーティの人が取りにきた？
恋にやぶれたあの人がやっぱり持ち帰った？一線を退いたあの人が、大事だってことに気づいたかな。

とりあえず、どんぶりが駅の通路に放置されっぱなしじゃなくて良かった。週の真ん中から、こんなどんぶりって言ったこともないわ。
違和感ありすぎる出来事って、思わぬ妄想を生んでくれますね。