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「サンライズ」

 毎週金曜の楽しみといえば、通学路にある地元のパン屋さん「Miyamoto Bakery」でメロンパンを買うことだ。価格は125円。学生には良心的。値段の割には少し大きめで、しかも生地の上のビスケットは程よい硬さで甘いし、中はふわっとしている。
 なぜ他のおいしいパンを買うのではなく敢えてメロンパンなのか。そう疑問に思うだろう。
 もちろん最高に美味しいというのもそうだが、実は最近僕は好きな人ができた。その子は同じ学校に通っているが、今まで一度も話したことがない。最初に見かけたのは1ヶ月前で、その子が友達と屋上で昼ご飯を食べていた時だ。まぁその子はメロンパンを食べていたんだけど、僕は一瞬で一目惚れ。白い肌に大きめの目、艶のある長い髪で清楚な美しいイメージだ。いかにも映画のヒロインって感じである。僕は友達と毎日昼ご飯を屋上で食べているが、その子は来る日がバラバラ。でも毎週金曜日は必ずいつも屋上に現れてメロンパンを食べている。もうお分かりだろう。僕がメロンパンを買う理由を。いつかあの子がメロンパンをきっかけに話しかけてきてくれないか、そう夢見ている今日この頃。

 朝早くから最高気温なんじゃないかと思うほど暑い今日は、いつもより早めに学校に行かなければならない。文化祭が近いので朝からクラスで模擬店の準備だ。パン屋は朝7時には開いてるから、問題ない。お店に入ると店主の宮本さんが
「おはよう!今日は朝から暑いんじゃけどいつもより早いんね。」
と、いつも以上にニコニコしながら世間話をしてくる。
 僕は、文化祭の準備をしなければいけないんだ、と伝えメロンパンを手に取った。できたてのメロンパンは少し温かかった。今日もあの子は屋上に来るのかな、と思いながら会計をしていると、1人お客さんが来たようだ。僕は宮本さんとメロンパンの話に夢中になっていたから誰かは見ていない。僕は宮本さんにこのメロンパンがすごく好きで、特にこのちょうどいい甘さと中のふわっとしたところが堪らないと言った。その時、後ろから
「それ、わかります!すっごくおいしいし、しかも大きめで学生でも良心的な値段!」
おぉ、僕と全く同じ考えで学生ってことはいい友達になれそうだ、なんて思いながら後ろを振り返ると、なんとあの子だった。白い肌に桃色の唇、黒のロングヘアー。小さな手には大きなメロンパン。僕はあまりにも驚き言葉が出なかった。あの子が僕の真後ろにいる。。真夏なのに心臓が凍ったようだった。
彼女は僕の驚愕した顔を見て、申し訳なさそうに
「あぁ、すみません!私もここのメロンパン好きで。。あの、共感しちゃったんです、だからつい。。」
 僕は初めてちゃんと彼女の声を聞いた。透き通るような純粋な声。ますます好きになった。僕は、
「いえいえいえ、僕も共感してくれた人がいて、つい驚いてしまって。。」
どちらも照れくさい雰囲気になって、宮本さんもいつも以上にニコニコしている。
「芽郁ちゃんも金曜日の朝、いっつもこの時間に買って来てくれるけんね。」
まさか同じところでメロンパンを買っていたなんて。。めいっていう名前なんだ。。てか毎日この時間!?。。驚きの連続だ。
「はい!宮本さんのメロンパンが世界で一番大好きです!」
満面な笑みから放たれたこの言葉は僕の胸を貫いて背中に大きな白い翼が生えたようだった。全てがスローモーションだった。。。ハッと意識を取り戻し、僕はここが一世一代のチャンスだと心の底から勇気を振り絞った、というより勝手に言葉が出てしまった。
「よかったら今日の昼に屋上で一緒にメロンパン食べませんか!」
僕は何を言ってるんだ。いきなりそんなこと言ったって。。
めいちゃんは少し驚きながらもまた満面の笑みで、
「いいですよ。このメロンパンを一緒に食べるとますます美味しさが増しそうですね!」
また僕は胸を貫かれた。普通胸を刺されたら死ぬほど痛いが、今は怪我を負うどころか不思議と癒されている。

 僕たちは会計を済ませた後、宮本さんにありがとうと言い、店を出た。同じ学校だから同じ通学路である。僕は緊張して何を話したらいいか戸惑っていた。
「私、芽郁っていいます。2年1組です。よろしくお願いします。」
まさかの同じ学年。
「俺、蓮っていいます。2年5組です。よろしく。」
「同じ学年だったんだぁ!じゃあ敬語とかいらないね。あぁ、でも初対面だから最初は敬語で、徐々にタメ語ってことも。。」
思ったことがすぐ言葉に出てしまうピュアな性格。ますます彼女に惹かれる。
「俺敬語とか全然気にしないからさ。気軽に話してかけてよ。」
「そうなの?よかった!じゃあ、改めてよろしくね! 蓮くん!」
僕の人生最高の夏が始まった。