初心

　「初心忘るべからず」という言葉がある。

　誰もが知っている格言である。しかし、何をもってスタート地点となり、何をもって初心とするのだろうか。
　
　「決心したとき」があらゆることのスタート地点なのではないかというのが（少なくともこの文章を書いている現時点での）私の結論である。自分が始めると決心しないと、物事は何も始まらないと思う。恣意的に点と点を打って、それらを矢印でつないで、過去と今を表現するように。

　どうしてこのようなことを述べるに至るかというと、自分の心の内を文章で表現してみようという気になったからである。そう、今この瞬間に、文を書こうと決心したのである。しかし、一つ問題がある。私は物事を継続して行うのがこの上なく苦手だ。暇だから料理でも毎日作ってみようと思っても、健康のために運動をしてみようと思っても、それらが長く続いた試しはない。何度日記を書こうと思い立って、何度中断したか分からない。ついには今は日付感覚さえも無くなって、自室の机の上にある宝塚スターのカレンダーは未だ２月の日付を示し、３月の宣材写真の彼女は日の目を見ないままに、３月は終わりをとげてしまう。いわば私は、禁煙のプロ、出会い系アプリのプロと同じように、「スタートダッシュのプロ」だ。いや、その肩書きは恐れ多いかもしれないけれど。
　だからもしかすると文を書くという作業も長くは続かず、初心を忘れないように気をつけるまでもなくなるかもしれない。しかし、思い立ったならば仕方がない、とにかくやってみようというのが私の魂胆である。何も毎日続けることが義務ではない。文章を書きたくなければ書かず、書きたくなったら書けば良いだけのことだ。第一、この文章は誰が読むのかも分からない。もしかしたら誰も読まないのかもしれない。正直なところ、何のために書くのかさえ、私はよく分かっていない。自分のためだろうか。それとも、これを読む誰かのためだろうか。まだ何も定かではないけれども、心の赴くままにこの文章を書いている。
　そんな状況だけれども、私は今とてもワクワクしている。文章を書くというのは、自分の脳内が目に見える形に変換される作業だと思うから。これから先、私はどんなことを考え、どんなことを文字にするのだろう。そもそも学校の作文やレポートなどのような明確な目的のない文章を自発的に書くこと自体、初めてだ。これが記念すべき第一号の私の文章。未来の私が読んだらどんな反応をするのだろう。この先どうなろうと、この文章によって自分の中のどこかの０の部分が、１になった事は確かだと信じたいと思う。

　どうか今この瞬間が、いつかの私の「初心」になることを祈って。