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令和の中学校月報⑨地方公立中学校のファシリテーションの取り組み。課題たくさん


近年、中学生の間でSNSやインターネットを通じたトラブルが増加しています。これらのトラブルは、些細な言葉の行き違いから深刻ないじめ、さらには社会的孤立にまで発展することもあります。私たち教師も、こうした問題に対処する中で、生徒自身が自ら考え、互いに意見を交わしながら合意を形成する力の重要性を痛感しています。

そこで、今回の授業では「ネットを使う上で一番大事にしたいこと」というテーマを設定し、ファシリテーションを通じて生徒同士が対話し、合意形成を目指す活動を行いました。この取り組みは、単に知識を伝えるだけでなく、生徒が自ら考え、話し合う場を作ることを目的としています。「納得解」を得るまでの合意形成の過程で生徒の認知力を伸ばしたいと考えました。

1.はじめに

1-1 学級活動「テーマ:ネットを使う上で大事にしたいこと」の取り組み

中学生のネットトラブル防止の指導は、政府や民間団体、学校など広く取り組まれています。それにもかかわらず、誹謗中傷で自殺者がでるなど、問題は後を絶ちません。そのため、この問題を深く考えてもらおうという主旨で、全校で「ネットを使う上で、あなたが一番大事にしたいことは何だろう?」というテーマで取組みました。

1-2 ファシリテーションの導入


ファシリテーションとは

ファシリテーションとは、グループになり、全員から意見を引き出し、全員が納得できる結論(納得解といいます)や方向性をたどり着くことを目指します。このことを合意形成といいます。これまで学校でよく行われる班会議と違うところは、班会議が情報共有や意志決定を行いますが、ファシリテーションは、複雑な問題解決やアイデアの創出などで使われます。

1-3 中学校でファシリテーションを行う理由

中学校でファシリテーションを行う理由はいくつかありますが、特に重要なのは、納得解を得るまでの合意形成に至るプロセスです。ここで、生徒たちの主体性や協働スキルを育むことです。以下に、ファシリテーションを中学校で導入する主な理由を挙げてみます。

1. 主体的な学びの促進

ファシリテーションは、生徒が自ら考え、意見を発表する機会を提供します。中学校生はまだ自分の意見をはっきりと述べることが難しい場合が多いですが、ファシリテーションを通じて自分の考えをまとめ、他者と共有する経験を重ねることで、主体的に学ぶ姿勢を育むことができます。

2. 対話的なスキルの育成

グループでの議論や意見交換は、生徒同士が互いに学び合う場を提供します。ファシリテーターとして教師が生徒たちの発言を促し、意見が対立した場合も建設的な対話を促進することで、生徒たちは傾聴や問題解決のスキルを磨くことができます。

3. 多様な意見を尊重し、協働の力を育てる

ファシリテーションは、クラス全体で多様な意見を尊重し合う文化を作る手助けをします。特に、多様な背景や能力を持つ生徒が増える中学校では、協力して一つの結論に導く経験を通じて、チームワークや協働の力が自然に身につきます。

4. 問題解決能力の向上

ファシリテーションのプロセスでは、生徒たちが課題に対して自分たちで解決策を見つけることが求められます。これにより、自発的に問題を発見し、解決する力が身につき、将来的なリーダーシップや社会性の向上にもつながります。

5. 生徒の自信を育む

自分の意見が受け入れられたり、他者と協力して目標を達成できた経験は、生徒たちの自信を育みます。特に、普段あまり発言しない生徒にとって、ファシリテーションの場は自分の考えを共有する貴重な機会となります。

6. 学級経営や学校行事への応用

ファシリテーションの技術は、学級運営や学校行事でも大いに役立ちます。生徒が主体的に運営に関わる場面では、教師がファシリテーターとして関与し、生徒の自主性を尊重しながら、秩序を保つことができます。

ファシリテーションを通じて、単なる「教える」だけではなく、生徒たちが自ら学び、成長する場を創り出すことができるのが、中学校でのファシリテーションの最大の利点です。今回は、「納得解」を得るまでの合意形成の過程で生徒の認知力を伸ばしたいと考えました。

2.    事前の取り組み

2-1 「P4C(ピーフォーシー)」の導入

「P4C」とは「Philosophy for Children」の略で、子どもたちが哲学的な対話を通じて考える力や表現力を育む教育手法です。1970年代にアメリカの哲学者マシュー・リップマン(Matthew Lipman)によって提唱され、子どもたちが自分の経験や感情をもとに問いを立て、それについてグループで対話を重ねるプロセスが中心となります。日本国内でも小学校を中心に広がっているようです。

「P4C」の目的は、ファシリテーションを用いて、子どもたちがクリティカルシンキングや創造的思考を養い、多様な視点から物事を考え、他者との対話を通じて意見を深めることです。

本校の「P4C」の取り組みは、全校ですることになりました。私は3年生学年主任だったので、この取り組みの推進係になりました。正直に言うと「P4C」という教育はつい先日の校内研修で知ったばかりです。校内研究部の「やってみないとわからない」はいささか強引な気がしますが、とにかく文部科学省がいう「主体的・対話的で深い学び」をすることになりました。

ねらいは、ファシリテーションを通して、「自主的に考え、判断し、誠実に実行して、その結果に責任をもつこと」です。すぐにはこの力を発揮できないにしても、問題を発見する力や解決策を考える力につながれば、と思います。そうなると、身近で起こる生徒トラブルも減少するかもしれません。そのような期待をもって、取り組みました。

ファシリテーションは、3年生がファシリテーターという推進役、2年生、1年生がサイドワーカーといわれるメンバーとして、各学年2,3名を1グループにしました。各教室に4グループずつ配置し、教師が1、2名ずつ各教室担当として付きました。各学年混合にしたのは、ブロック別の体育大会の流れを汲むものです。体育大会のように下級生が上級生の刺激を受けて育つだろうという発想からです。これは後に大きな反省のもととなりました。

2-2 それまでの取り組み①プレゼン作成

これまで生徒は、SDGsの取り組みで、各自タブレットでプレゼンを作成し、各学級で発表をしています。1年生は環境関係、2年生はエネルギー関係、3年生はSDGsの取り組みが必要な理由などについて取り組みました。それを各学年、各クラスで発表をしました。プレゼンをすることで、自分が得た情報収集力や発言力を身につけさせるのが目的です。

2-3 それまでの取り組み②はがき新聞つくり

夏休みに全校生徒にはがき新聞の作成の課題をだしました。はがき新聞とは、はがきサイズの紙にまとめられた記事やコラム、イラストなど掲載した新聞です。はがき新聞をつくることで、情報の収集力、整理力、文章力の向上を期待しました。とくに期待したのは、情報発信力です。自分の意見や考えを、周囲に伝える力を養うことです。はがき新聞をつくることで、よいファシリテーションにつながると考えました。

2-4 「ファシリテーション」の授業をした

3年生学年集会でプレゼンを使って、ファシリテーションの基本の説明をしました。司会にあたるファシリテーターの仕事内容、メンバーにあたるサイドワーカーの心構えについての説明をしました。また、正解がわからない課題で、自分や皆が納得できるような解決策を「納得解」といいます。この「納得解」を得るまでの過程(合意形成)も重点的に指導しました。

2-5 「傾聴」の授業をした

同じく別の日に集会形式で「傾聴」についての授業もしました。傾聴とは、単に他者の話を聞くということだけでなく、注意深く耳を傾け、相手の思いや感情に共感しつつ、相手の立場や視点を理解しようする姿勢をもち、対話や相互理解を深めるための大切なスキルです。授業では、以前カウンセリング研修で配布された傾聴を用いたAとBの二人の会話文のプリントを二人一組になって読んでみました。傾聴は、ファシリテーションをする上でも
、重要な態度だと思います。

「傾聴」参考
令和の中学校月報⑥傾聴を使い、生徒の自立を促し母子分離を図る。|ボンボ (note.com)

2-6 アイスブレイク

ファシリテーションにおけるアイスブレイクとは、会議やグループワークの最初に行う活動で、参加者の緊張をほぐし、リラックスした雰囲気を作り出すことを目的とした簡単なゲームやアクティビティです。特に初対面のメンバーがいる場合や、場の雰囲気が硬い場合に有効で、コミュニケーションの促進やグループの一体感を高めるために使われます。

本番のファシリテーションの前に、教師が決めた本番と同じグループで一度集まり、自己紹介や簡単なゲームをしました。これの目的は、参加者同士が親しくなり、コミュニケーションが促進されるようにするためです。

2-7 教師のミーティング

教師は、各クラス4グループのファシリテーションで行われる様子を見守ります。最後に各グループの納得解や合意形成に至るプロセスの紹介をアプローチします。また、生徒はこれまで馴染んでき班会議の多数決による意思決定ではなく、他者の意見を参考にみんなの合意を得る「納得解」をゴールとなるように推進します。

2-8 事前の資料読み

本番の授業を前に、新聞の「中学生の誹謗中傷による自死」の記事の感想をICTを利用して事前に作成しておいたグループ別に投稿しておきました。これで、同じグループのメンバーは、自分のタブレットから事前にメンバーの感想を知ることができます。事前に資料読みと感想の投稿をした理由は、時間的に短縮できるからです。

3.ファシリテーションを使った授業

3-1テーマ「ネットを使う上で、あなたが一番大事にしたいことは何だろう?」

このテーマになったのは、先にも述べましたが、中学生のスマホやネットトラブルが続出していてこという生徒指導上の問題もあります。「中学生にスマホを持たせるのは、無免許で車を運転することに似ている」という声もあります。たしかに中学生のネットトラブルは後を絶ちません。

授業のスタートは、各教室のグループのファシリテーターが、「あなたがネットを使う上で大事にしたいことは何ですか」という問いをメンバーにします。メンバーは各自答えます。「読む人に対して思いやりをもつ」とか「責任感をもって投稿する」という言葉が最初に聞かれました。

ファシリテーターが「では、ネットでの被害者の中には死を選んだ中学生もいます。自分たちが思いやりを持ったり、責任感をもったりするだけでこのような事件はなくなるのでしょうか。」「とりあえず、そこからだろう」「そのような匿名の加害者を許して良いのか」と話の内容は広がりました。

30分ほどのファシリテーションでしたが、最後に各グループの納得解を発表してもらいました。発表の内容は「匿名での誹謗中傷は人権侵害にあたる」「ネットの発展の方が法律の整備よりも進んでいる。一刻も早い法律の整備をする」という意見が上がりました。少し、解決の方向からずれていましたが、「誹謗中傷をする人はどのような人なのか」という話題も盛り上がったと発表するところもあり興味深かったです。

3-2主体的、対話的、深い学びはできたか?

主体的とは、学習者自身が自己の関心に基づいて学びを進めることを指します。今回は、教師側からの「ネットを使う上で、あなたが一番大事にしたいことは何だろう?」というアプローチからはじまりました。はじめは、自分の関心からの発言でしたが、やがて社会道徳的に関心が広がっていきました。俯瞰的にものごとを捉えられるきっかけになったかもしれません。

対話的では、他者の意見を聞いて、「なるほど」「そうだね」ということが多数ありました。深い学びという点では、建設的に話題を深めていけたと思います。また、自分はこの点がわかっていなかったなど自己理解を促進することもありました。

3-3生徒の感想

しかし、今回のファシリテーショは、全員に効果的だったわけではありません。交流会後の生徒の感想では、

・全体的に消極的だった。
・声が小さかった。
・知らない人たちばかりで緊張した。
・気まずい、話しにくい、恥ずかしかった。
・自分の意見をはっきり言うことができなかった。
などの声がありました。

また、次回への改善点としては、
・もっと声を大きくする。
・もっと話を広げる。
・もっと意見を伝えやすくする。
・一言で終わるような発言が多かった。
というようなことが書かれていました。

グループへの貢献ということでは、
・もっと相づちをするなど、話し手が話しやすいようにする。
・もっと質問をする。
・もっと会話のキャッチボールをする。
・もっと話が深まるような質問や雰囲気づくりをする。
というのがありました。

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