『ぼけよろ』と『親知らず』の話。

どうも!
京都映画センターです!
今日は
『ぼけますから、よろしくお願いします。』
のコトを書こうと思います。


映画を楽しむ要素の中に『いかにその作品にリアルを感じられるか』というコトがあるのではと思います。

キャラクター設定や物語の背景に何かリアルな物があると、その作品自体に説得力みたいな物が生まれて、よりグッッ!と惹き込まれるような気になります。
この説得力があるかないかって重要だと思うんですよね!

『ぼけますから、よろしくお願いします。』は〈認知症〉を通して家族の繋がりを描かれたドキュメンタリー作品です。

〈家族の繋がり〉を題材にした作品は多くあると思いますがやっぱりドキュメンタリー作品の魅力は、ダイレクトに作品の〈説得力〉が目に飛び込んでくることじゃないでしょうか。(お家の感じとか生活感とか!)

さらにこの作品は信友監督自身が乳ガンになられたことをきっかけにその姿を残そうと“セルフドキュメンタリー”の撮影を始め、たまたま映っていたご家族にシフトした映像なので、プライベート感がすごい出てくるんですよね。

ここから内容なんですが(前置きが長い!)

その映像にも出てこられる、かわいいお母さんが認知症になります。
「なります。」と書きましたが、ある日突然、認知症になるわけではないんですよね。
日々の生活の中で、少しづつ、でも確実にちょっとずつ徴候が見えてきて受診し、症状に名前をつけられる。みたいな。
家族だからわかる違和感。でも家族だからなかなか受け入れられない。みたいなモヤモヤが心臓をギュッとします。

まぁここで〈認知症〉についてぼくは専門の知識もないので何か書くわけではないのですが。

映像の中に違和感を感じ、乳ガン克服後も撮影を続けた信友監督。〈認知症〉と診断されたお母さんの姿を撮り続けることを決意します。
それは「仕事柄」ということもあるかもしれませんが、「撮らなくては」という責任と後押ししてくれる「家族」があったからこその決意でした。
作品の中の【現在】はお母さんの〈認知症〉が進行していく過程で、家族間の葛藤や老老介護の現状、公的な支援、そしてお母さんの気持ちの揺れが大きく描かれています。

そして、この作品の1番の魅力は【過去】がとても丁寧かつ効果的に入っていることだと思うのです。

ご両親の馴れ初めや小さな頃の写真、たまたま撮っていた映像など、過去の物語が出てくることで作品の奥行きが広がり、いつのまにか自分のコトのように感じて観てしまっています。

【子ども】なのか【親】なのか【父親】か【母親】か【パートナー】なのか…観る人によって立ち位置は変わると思いますが、共感できる場所に立って観てしまいます。

チャットモンチーの2ndアルバム『生命力』。

ご存知でしょうか?
何を急にって感じですよね。
もともとチャットモンチーが好きで、今でもAppleMusicに入っていてよく聴くのですが、一曲目『親知らず』がめちゃくちゃいいんですよ。

『親知らず』
「親知らずが生えてきたよ 怖いから歯医者には行かない
 親知らずが生えてきたよ 誰も知らない間に」

と言う歌詞から始まるのですが、〈親知らず〉が生えたことを通して〈家族〉との繋がりや存在の温かさを再認識したり自分の過去と現在と未来への思いを、「広くなった家の中」「家族写真の中の目」「たまに帰ればご馳走 もう子どもじゃないのにね」といった日常生活のちょっとした変化や行動なんかを、丁寧で誰もが思い当たるような優しい言葉で書いてあるんです。

当時の自分と今の三十路超えの自分では歌詞の捉え方が変わっていて、それは当然ながら自分が年をとったこともありますが周りの環境、特に子どもが出来たことが、この曲がもっと身近に感じるようになった一番大きな要因なのかなぁと思います。

自分の子どもの事、全部とは言いませんが、好きな食べ物や苦手なコト、お気に入りの服やその特徴。最近ハマってるゲームに好きなポケモンの名前とかわかっていることは多いと思っているつもりなんですが、友達が増えたりして知らない間に子ども同士でコミュニティ作ってるのを見ると、「あんな小さかった子が!」みたいな、驚いたり嬉しくなったりちょっと寂しくなったりしますよね。

作中で信友監督が東京から実家の広島に帰る際、いつも買って帰るお弁当があるってシーンや、お母さんが認知症が進んで出来る事が少なくなっていく中でもずっと誰も入れることのなかった台所の掃除だけは誰にもさせないというシーンを観ると、やっぱりそこには日々の生活や積み重ねがあることを実感させられます。

ドキュメンタリー作品なので【未来】を映すことはできません。
この作品も最後は食卓のシーンで終わるのですが、そこにはこれからも、家族で作る日々が積み重ねられていくのだろうな、と【未来】を想像させられます。

ある1つの事を通して何かの存在を改めて見つめ直すことって、普段の生活でもよくあると思うのですが、『ぼけますから、よろしくお願いします。』は〈認知症〉という忘れてしまう病気を通して、「写真」や「映像」といった消えない物が作品に登場することで、「家族」という繋がりを再認識させてくれます

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