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TED翻訳で「自己愛を殺す」の練習をしてみた

ある TED Talk を訳しながら、先日の通訳翻訳フォーラムで習った「自己愛を殺す」という考え方を試してみました。

『Why winning doesn't always equal success(勝利と成功がイコールになるとは限らない理由)』。このトークは、以前うちのコ(=KEC 受講生)が「感動した!」とシェアしてくれて知ったものですが、巡り巡って、このたび私が翻訳を担当することになりました。ご縁を感じます。

トークは、教育的にもコーチング的にも素晴らしい内容。もちろんスポーツと言語はまったく別の畑ですが、それでもやっぱり英語学習コーチングに通じるものはあります。うちのコが「爪の垢でも煎じて飲め」という意味でシェアしてくれたんじゃないことを祈ります。

ここで、「自己愛を殺す」を復習。こういうお話でした。

・自己愛を殺す。「ここは気合いを入れて、頑張って訳した、工夫した」と思うと、余計なエゴ、自己愛が出てしまう。「自分の翻訳に酔ってないだろうか」と編集者の目で見るようにすることが、安定度につながる。

おっしゃることはよくわかるし、自己満足の独りよがりが残念であることは間違いないです。そこで、この翻訳の機会を利用して、さっそく実践してみることにしました。もちろんプロの翻訳家とアマチュアのボランティアは違いますが、それでも多少は通じるところがあるでしょう。

結論から言うと、どうも私には向いてないみたいです。自己愛は殺せませんでした。偶然ですが、このトークで「self-love」は持つべきものとして登場します。

この翻訳の中で私が「気合いを入れて、頑張って訳した、工夫した」箇所は、たとえばこれ。

Winning is really, really, like, really, really fun.
(勝つことは本当に 本当に マジで最高に楽しいものです)

すぐ後ろに観客の笑いが起きていますから、工夫が必要なところです。大人のエレガントさと、キリッとしたかっこよさを併せもつ登壇者が、あえてこんな言葉づかいをするギャップを日本語にも出したくて頑張りました。

My inner voice whispered to me that something was on her mind.
(私の内なる声が ささやきました 「彼女の心の中で何かが渦巻いている」)

"on her mind" なので頭で考えていることではなく、心に引っかかっていること。いつになくペラペラしゃべる「彼女」が感じさせる異変。また、話者が確信している雰囲気を出すために、ここだけ敬体(です・ます)ではなく常体(だ・である)を使いました。

ほかにも、日本語の語順で訳し上げをするか・英語の語順を守るかという判断や、かな・カナ・漢字表記の混ぜ方で工夫したところがあります。

工夫しようとしたけど力及ばず、不満なままやり過ごすしかなかった箇所もあります。たとえば

I'm sad to tell you, not even for your Christmas card bragging rights.
(言いにくいですがクリスマスカードに自慢を並べるためでもありません)
"I just don't want to be great again."
(「すごい人に戻りたくないんです」)
Simply --
(大したことではなく)

このあたりは、いかにも苦しいなと思っています。もしもっとピッタリの表現を見つけられていたら、私は「やった!」とガッツポーズしていたことでしょう。

“自己愛”的に危ういのは以下のような箇所かもしれませんが、意外とこういうのは私の感情を動かさないようです。辞書などで調べさえすれば済むからでしょうね。

... often gets swept under the proverbial rug
(... は 臭いものにフタで葬り去られることが多く)
because we had addressed the elephant in the room
(私たちがタブーに切り込んだから)

こうして実践と観察をしてみると、私は自分を褒めたり、自分のやったことに満足したりする方が快適なようです。そういえば、私はうちのコたちにもそうなってもらいたいと思っています。自分に酔って、あまりに現実が見えなくなるのはまずいでしょうけれど、そうでなければ「私、頑張ったなぁ」「我ながら良い出来!」と喜んじゃっていいと思います。

加点主義と減点主義にはどちらも良いところがあり、立場や環境、場面によってどちらか一方だけではうまくいかないことがあります。私はもともとはゴリゴリの減点主義でしたし、今も部分的にはそれが残っていると感じます。だからこそコーチングでは意識的に加点主義を実践・推奨してきたのですが、どうやらいつの間にか、私自身にも加点主義が浸透していたということのようです。


Photo by Content Pixie on Unsplash

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