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2022年 ベスト

2023年が始まってそろそろ1ヶ月が経とうとしている今日この頃ですが、やっと去年のベストアルバムが固まったのでなんか書きました〜
以下、順不同で9枚選んでみました!

Zeal & Ardor - Zeal & Ardor

アメリカ発アヴァンギャルドメタルバンド(wikipedia曰く)の3rdアルバム。ブラックメタルとアフリカンミュージックの調和をテーマとしてやってきたこのバンド、3枚目にしてより高度なサウンドを提示してきました。基調となっているのはエクストリームメタル、とりわけブラックメタル由来のバンドサウンド。そしてそこにソウルやブルースを感じさせる何処か浮遊感のあるボーカルが絡み合う。一見そこには違和感しかないのですが、慣れると逆に一貫した怪しさを見出すことができると思います。個人的には今作のキーとなるのはその怪しさ(湿っぽさとも形容できるだろう)であると考えています。ブラックメタルにある過剰なソリッド感と閉塞感、そしてアフリカンミュージックにある何処かエキゾチックな質感(これは自分が西洋/日本の音楽に親しんでいるというのもある)が”怪しさ”という軸に収束しています。そして、その二つの音楽のみがブレンドされているわけではないという事実が、今作の完成度に貢献しています。「I Caught You」に代表されるように、ニューメタル、ひいてはモダンなメタルのリズムは作中に散りばめられていますし、「Emersion」のようなドリーミーなポップサウンドも従来のメタルとはまた違う音像という意味で重要な役割を果たしています。結果生まれた忍び寄るような怪しさがたまらない一枚。

PHALARIS - DIR EN GREY

大御所ヴィジュアル系バンドの11thアルバム。ハードコア的衝動を基調としていた前作に比べると、だいぶしっとりした作風。イメージは『UROBOROS』や『DUM SPIRO SPERO』に近いものがあります。しかし、サウンド自体はモダンかつクリアで、『ARCHE』以降のスタイルを引き継いでいるという印象。『UROBOROS』以降の集大成、なんていう意見もちょこちょこ見かけますが、自分もそう思います。そして、今作のクオリティーもそれらの作品に劣るものではありません。まず重要なポイントは『ARCHE』以降はナーフされていたドロドロした暗さが帰ってきたことです。その筆頭とも言える長尺曲「Schadenfreude」から今作はスタートし、終始尾を引くような湿っぽさがアルバム全体に漂っています。特に、京(vo)による多彩な表現(時には一周回ってシュールなものも)の影響は大きいでしょう。前作からその片鱗は見えていましたが、今作で花開きました。「御伽」のサビで聴くことができる過剰なまでのビブラートや歌舞伎のような歌唱法は、一見シュールにも感じられますが、そのミスマッチ感が余計怪しさを感じさせます。全体的なサウンド自体はモダンなメタルに近いソリッドなものなのに、ボーカルの怪しさが既存のメタルとはまた違った印象をもたらしているのです。また、その歌唱力の進化は「朧」や「響」、そして再録された「ain’t afraid to die」といったバラードの存在感にも影響を与えています。京の豊かな感情表現やメリハリのついた歌唱が、このバンドの隠れた魅力の一つである美しいメロディーを活かしているのです。それでいて「Eddie」のようなハードコアナンバーでは、錆びることのないヘヴィネスへの執着がこれでもかというほどに示されています。過去に通ってきた道を振り返りつつ、”今”の技術と視点を加えることで、DIR EN GREYが常に進化し続けるバンドであることを示した一枚。

Zeit - Rammstein

ドイツの大御所の8thアルバム。シングル曲が大きく話題になった前作とは異なり、今作は比較的地味かなと思っていたのですが、アルバムを通して聴くと印象が変わりました。路線は基本的にいつもと変わらず。行進のような機械的なリズムに重厚なリフとTill Lindemann(vo)の芳醇な低音ボーカルが花を添えるスタイルは健在です。しかし、一部の曲で新たな試みが行われています。「Dicke Titten」ではフォークミュージック的旋律が堂々と取り入れられていますし、「Lügen」では大胆なボーカルエフェクトが取り入れられています。特に後者は壮大なスケール感も相まって今作の肝とも言える曲に仕上がっていると言えるでしょう。そういった新しい要素と今までの作風がシームレスに混ざり合うことで、安定感と新鮮さを併せ持つ素晴らしい作品になっていると思います。前作の曲と合わせてライブで聴いてみたい。

THE END, SO FAR - Slipknot

前作が出たばかりだと思っていたら発表された7thアルバム。矛先を変えてきました。今までと比べるとグルーヴィーなメタルサウンドが少し減退し、その分ゴシック/ニューウェーブ/ポストパンク辺りの要素を組み込んできました。1曲目の「Adderall」に代表されるように、ヘヴィーなバンドサウンドが無い曲もいくつかあります。メタルバンドのこういった変化は大方あまり良くない方向に着陸するものですが、今作の場合はむしろプラスになっています。ゴシック等の音像が加わることで、メランコリーな空気感に厚みが増して、より奥行きのある世界観を曲中に生み出しているのです。一方で、いつもの縦ノリメタルサウンドの存在感が無いかと言われればそんなことはなく、「The Dying Song (Time To Sing)」や「The Chapeltown Rag」などテンポ良く疾走する曲もアルバムの中でキーとなる役割を果たしています(実際この2曲はシングルカットされています)。しかし、ここでも大事なのは、前述したゴシック等の要素の影響です。今作におけるCorey Taylor(vo)のクリーンボーカルは、メロディアスかつ怪しい揺らぎに満ちたフレーズが特徴的(個人的今作一のポイント)ですし、モダンなエフェクトに溢れているはずのギターサウンドも土着的なおどろおどろしさを醸し出しています。そして合間合間でシンセやピアノなどが的確なフレーズでもってしてリアリティを補完していきます。ドラムは割といつも通りという感じですが、それがSlipknotぽさを引き留めているような気はします。ベースは激しい曲では裏方に徹していますが、メロウな曲になると痒いところに手が届くような、絶妙なプレイで甘さと不安の間を演出しています。今作は「Adderall」のサビのベースラインのためだけに聴いても良いくらいです。個人的には、これでもう1stや2ndを求めなくて良くなったのではないかなーと思いました。Roadrunner Recordsからは離れてしまいますが、この調子で新しい作風に積極的にチャレンジしていくSlipknotを見たいです。

Pain Remains - Lorna Shore

アメリカ産デスコアバンドの4thアルバム。前作も素晴らしいアルバムでしたが更にスケールアップしました。スタイルは基本的には変わらず。ソリッドかつ爆走するデスコアをシンフォニックなシンセやストリングスが彩っています。そしてこの後者が今作ではより効果的に使われています。「Sun//Eater」のイントロなど、視界の全てから柔らかい旋律が響く、まるでハリウッド映画のようなスケール感を演出しています。また、このシンフォニックなメロディーにギターフレーズが絡み合っているのも今作の大きなポイントです。普通のシンフォデスコア(ブラッケンドデスコア)だと竿隊は低音リフに徹することが多い印象ですが、今作では素直にリードフレーズを弾いているパートが多く、これがさながらパワーメタルかのような美しいメロディーを生み出しています。そして更に加えられるブラックメタル由来の不穏さ。実際ギターが時折Emperorを想起させるフレーズやサウンドを聴かせていますし、ボーカルにくぐもったエフェクトを通したりと、かなり明らかにやっている印象。「Souless Exsistence」が良い例でしょう。デスコア(ひいてはハードコア)の比較的健康なノリを悪魔的なアルペジオと地の底から叫んでいるようなスクリームを織り交ぜることで邪悪さが加えられています。これらの要素が絶妙な比率で混ざり合うことで、天へと登るようなメロディーが際立つ一方、気を抜くと漆黒の闇に飲み込まれてしまいそうな、そんな二面性のある一枚が生まれたのではないでしょうか。

Rakshak - Bloodywood

インド発メタルバンドの1stアルバム。2019年ごろからじわじわと知名度が上がり始め、来日も果たした2022年、遂に待望の1stアルバムをリリースしました。その完成度は…1stアルバムとは思えないほど。基本的な路線としては、軸はノリのいいラップメタルで、そこにインドの民俗音楽の楽器や音階を使った音で彩っています。まずこの基礎となるバンドサウンドがガチッとしていることが特徴でしょう。結構な音圧で繰り出される生き生きとしたギターリフは(「Zanjeero Se」のイントロなんてまるでメタルコア)、このバンドの音楽的ベースがメタルにあることをよく示しています。そして、意欲的に用いられている電子音やシンセサウンドも相まって、この時点でかなりアーバンな雰囲気が形成されています。一般的にフォークメタルであれば、ここまで主張の強いメタルサウンドはあまり見られないのですが、今作の場合、一周回ってこれがフォーク要素とマッチしています。ダンサブルなラップメタルのノリがインド音楽のリズムと完璧にシンクロしているのです。「Machi Bhasad」でも聴くことができるように、一見大味のパワーコードリフとインドのフルートや打楽器の音色が何か調和しています。それに独特の音階の色が出るメロディーを歌うクリーンボーカルが重なることで、エスニックかつアメリカンな匂いも感じるとんでもないモノが生まれているのです。「Jee Veerey」のようなメロウな曲もいい味出してたので、次作ではそういった一面にも期待。

MONSTER - アルルカン

日本のヴィジュアル系バンドの4thアルバム。今まで「ダメ人間」しか聴いたことがなく、コテ系のバンドなのかな~という認識しかありませんでしたが、今作を聴いて認識を改めました。サウンドのベースはメタルコア/ニューメタル。しかし、様々な音楽の要素を取り入れているため、非常にバラエティに富んだ一枚となっています。「MONSTER」の中盤でのポエトリーリーディングや、「bash 脳 down」におけるヒップホップ的なアレンジ、そして「エレジー」のボカロ音楽の匂いがするメロディーなど、その範囲は広く、従来のヴィジュアル系バンドがあまり手を出さなかったような分野にまで及んでいます。また、全体的にカタルシスが得られる明るい展開の曲が多いのも面白いです。「世界の終わりと夜明け前」では、その名の通りイントロのピアノのフレーズから日の出の情景のような情緒を描いていますし、「旗のもとに」でもメタリックな刻みリフとハンドクラップを交えたオープンなパートを交えながら爽快に駆け抜けています。個人的にはこの手のメロディーが刺さりました。それは、爽快ではあるものの、青春パンクとは違うし、ベースが似ているラウド系とも違う、ヴィジュアル系という素地があるからこそのメロディーだと思っているからです。聴く人を選ぶような、クセのあるボーカルライン。しかし、それがこういった形で昇華されると、独特の魅力を持つようになる。そんなことを考えるきっかけになった作品でした。今年中に出る新作にも期待です。

The Testament - Seventh Wonder

スウェーデンのプログレメタルバンドの6thアルバム。とにかくメロディーが美しい一枚です。全体的にはプログレメタルの基本を踏襲したサウンドを展開しています。華麗なメロディーを生かしながらも、所々で変拍子を挟んだり、手数の多いフレーズを披露したりなど、プログレメタルならではというパートはもちろんしっかり組み込んでいます。それでいて、アルバム全体を通して飽きさせない豊かなメロディーが今作のキーポイントとなります。そのメロディーを主導しているのはギターです。変拍子のリフワークに徹することなく、常にリードフレーズを弾き続けることで、曲を前へ前へと導きます。ヘヴィーなリフでメタリックな演出を加えているのは「Warriors」くらいでしょうか。そういったギターが引っ込む瞬間には、すかさず他のパートが手数の多いフレーズで彩ります。その点において、今作のベースラインは素晴らしいです。歪みすぎず甘すぎない絶妙なサウンドが最高なのはもちろんのこと、裏方から脳に響くベースソロまで完璧に仕事をこなしているのです。前述のサウンドでギターと上手に棲み分けているのもいいですね。それに加えて、Kamelotでもボーカルを務めているTommy Karevikの歌唱も今作の前面に出るメロディーの演出に大きな役割を果たしています。熱いハイトーンなどは少なく、動きの多いフレーズを滑らかに歌い上げることで、非常にエレガントな印象を与えています。これらの要素が噛み合って、最高品質のプログレッシブメタルになっています。自分でも初めて聴いた際に気がついたら聴き終わっていて驚きました。あまりにメロディーが綺麗に流れていくので聴いてて心地いいんですよね。

Days Of The Lost - The Halo Effect

メロデススーパーグループの1stアルバム。Jesper StrömbladやMikael Stanneなど、錚々たる面子が参加しており、来日発表時にはメタラーの間で話題を呼びました。そして、そのネームバリューと同時に、作品のクオリティーも素晴らしいものでした。まず、1曲目の「Shadowminds」からも分かる通り、全体を通してキャッチーなリフを満載しています。例えば「Days Of The Lost」、「The Needless End」、「A Truth Worth Lying For」など、弾きたくなるような耳に残るリフが牽引する曲が今作の大半を占めていて、40分がリフの良さを噛み締めている間に終わってしまいます。この辺のセンスはIn Flamesを率いたメンバーの力でしょうか。シンセの使い方なども割とポップな作りですし。一方で、Mikael Stanneのしゃがれたスクリームやメロウなクリーンには北欧らしい寂しさがあり、そのおかげで全体的にポップさが抑制されています。つまりは、キャッチーでダレることなく、しかし軽すぎない絶妙な塩梅の作品に仕上がっているということ。じんわりとしたメロデスとキラキラ系のいいとこ取りって感じですね。単独来日公演があれば行きたいです。

まとめ

2022年、豊作の年でした。
2023年も新譜をたくさん聴いていきたいです〜!

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