マガジンのカバー画像

きーんのショートショート

7
運営しているクリエイター

#小説

00:00 | 00:00

百物語『いちばんこわいもの』 #note百物語2017

――え、ああ、私の番ですか。
いやもう、皆さんのお話が怖くてね。耳を塞いじゃってました。
何しに来たんだっていうね、ほんと。

すいませんね、なんか。見た感じ若い人たちが多くて。
私らみたいないい歳のおじさんはあまり多くないみたいだ。
これ、どういうアレで召集されてるんだろう。なあ田中?

ああ、ごめんなさい。怖い話でしたね。怖い話。
うー

もっとみる

それぞれの悩み(修正ver.)

 今から五百年後。かつての地球における『国境』が意味を成さなくなったこの時代にも、銀河を舞台に戦争は続いた。それは人類が考えることをやめない限り、無くならないもののように思えた。

「提督、少し休まれませんと…。」

 眉間を寄せ、艦首からはるか遠くの星々を眺める男に、部下が心配そうに声をかけた。すべての部下にとって、彼は心から尊敬する上司である。宇宙戦争430年の歴史の中でも、彼の軍人としての戦

もっとみる
夕暮れの夫婦

夕暮れの夫婦

「うん、すきよ、だいすき、ドストエフスキー。」

僕のこと好き?と尋ねた時の、妻の常套句だ。
チャイコフスキーだったり、ストラヴィンスキーだったり、
バリエーションはある。
ドス、が若干言えてなくて、ドフってなってるのが可愛い。

「適当だなあ」と返すのがいつものやり取りで、
それで愛情を確認しているように思う。

空が赤みを帯び、近所の公園から
バイバーイと叫びあう無邪気な声が響いてきた。

もっとみる
明け方の夫婦

明け方の夫婦

 

「面倒なことになったな。」上田アキラが苛立ちながら言う。
面倒くさそうな表情で、妻のミサコが一瞥を返した。

「何も殺すことはなかったんじゃないか。」

空は既に白み始め、闇に紛れて行動するには遅すぎる時間だ。
雀の声がいつにも増して鬱陶しく聞こえる。

「奴らはもう、仲間がやられたことに気づいてる。
 お前は知らないだろうが、そういうもんなんだ。
 じきに大勢ここに押し寄せてくるぞ。そした

もっとみる