読書感想#15「田村俊子/ここ過ぎて」

瀬戸内寂聴伝記小説集というシリーズの第1巻です。明治〜昭和前期を生きた女小説家の田村俊子と、北原白秋の3人の妻の生涯がそれぞれ緻密に書かれた濃密な二篇でした。

まず最初は、田村俊子のあまりの奔放さ、お金に対するだらしなさに閉口しました。生活が苦しくカツカツでも、お金があれば贅沢して立ち所に使ってしまう性質で、しょっちゅう知人からお金を借りて踏み倒しています。身近には居てほしくないタイプだなと思いましたが、不思議と、死後俊子を知る人からは懐かしく語られ、田村俊子賞という文学賞まで作られています。
文章の中にもありましたが、きちんとした誰にも迷惑をかけない人が必ずしもよき友を得るとは限らないのでしょうか。俊子はその逆ということで、波乱に満ちた生涯でしたが恵まれていたとも言えると思います。

「ここ過ぎて」に書かれた白秋の3人の妻の中では章子(あやこ)が1番印象的でした。なんとなく、前述の田村俊子と似た性質の持ち主のような気がします。
衝動的に行動することが多く、お金の管理ができず、甘え上手な所がある女性だと思いました。癖のある人柄であるにも関わらず、生前関わった人が、懐かしく好意的に思い出す点も似ているなと思いました。白秋と一夜にして仲睦まじい夫婦から離婚へと急転直下したのは驚きでした。
章子の衝動的に行動する性質は生涯にわたって続き、章子自身を苦しめていたように思います。

田村俊子においても、白秋の妻で離婚した俊子、章子においても思ったのは、人間には、安寧を手放してでも自分らしく生きなければいけない時があるのだろうかということです。
俯瞰で彼女らの人生を見れば、田村俊子は浪費癖さえ直せば物書きのお給料だけでつつましく幸せに暮らせたのではと思いますし、離婚した白秋の前妻2人だって(特に章子は)何があっても白秋の妻という位置に居続ければ大詩人の妻として名を残せたのではないかと思います。
しかし、人が岡目八目で見てどうこう言ったところでどうにもならないのが人生というものなのかもしれません。
その人らしく悩み苦しんで生き抜いた人生はそれだけで価値があるのだと思います。


※私が読んだのは二篇が1冊になっている文藝春秋版ですが、古本しかないと思うので求めやすいものをリンク貼っておきます。

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