シェア
序章 鮮血の天使 その日を、少年は海の上で迎えた。 「ねぇ、気付いてた? 今日はあなた…
不意に光が床に移動したのは、男が天井の金具に懐中電灯を吊るしたからだ。 同時に長身の…
ワルシャワにいた頃から隣り合わせにいつもあった感覚──死への恐怖がジワリ。十一歳の少年…
長い銀色の髪が月の光の下、流星のように鮮やかに舞う。 あまりのスピードに、甲板に溜ま…
第一章 武器庫(ヴァッフェン・カマー) ポーランドの首都ワルシャワはヴィスワ川沿いに位置し…
鋼鉄の乙女 長い金色の睫毛が震え、瞼がゆっくりと開かれる。 濃い紫の眼は焦点が定まら…
「助けたのはおれたちじゃねぇよ。アミさんが偽装船から血まみれのおまえを連れて帰ってきたんだ。今は出かけてるけど心配してたぜ。えっ……今、何て言った?」 「えっ、何?」 アミって誰? 偽装船って何? そう。尋ねたいのはどちらかと言えばこちらの方だ。 しかしロムは青い顔でプルプル震えている。 「? 僕の名前はラドム・ザク……」 「違う! その先」 「? お、お姉さんに謝っ……」 そこでロムは吠えた。 「ちがう、違う! 今のあれ、おれのお母さん
「ああ、ごめん」 抱きしめたラドムの身体がビクリと硬直したことに気付いたのだろう。 手…
眼前に聳える荘厳な要塞に圧倒され、ラドムは暫し言葉を失った。 「こ、ここは……?」 …
ここはモン・サン=ミシェル島の裏手に当たる位置であった。 島の表側には賑やかな参道(…
唸るような声とともに、細かく頷いてみせるロム。 照れているのだろうか。 これを巻…
カーテンの隙間から僅かに覗く室内。 そこには、少々変わった光景が広がっていた。 十代…
犠牲者たち 惨劇の記憶。 潮と混ざった血の匂い。 それは噎せ返るような生々しさで…
キレた上官は殺戮を求めてナイフを振り上げ船中を散策しているし、この船の乗組員は既に全員血祭りに上げている。 彼等の楽しみを邪魔するものは何も存在しない。 「お譲ちゃん、お名前は?」 猫撫で声で誰かが言った。 少女は大きな瞳を機械的にそちらに向ける。 「なに(パルドン)?」 ドイツ語を解さないのだろう。 フランス語での疑問の単語を少女の唇は紡いだ。 しかし男たちには言葉の意味などどうでもいい。 少々舌足らずな高い声は、久々に聞く女の音色だった。