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【インタビューと工房探訪記】ガラス作家・安土忠久さんと天平さんが残す痕跡。

ものからなにかを感じて人に会いたくなる、会いに行く。
そこからさらなる広がりを見つけて、好奇心がかき立てられて、もっともっと好きになる。人に伝えたくなる。

そんなことをあらためて感じたのが、今回の飛騨高山の旅だった。

会いに行ったのは、ガラス作家の安土忠久 あづちただひささん、息子の天平 てんぺいさん。

左が安土忠久さん、右が息子の天平さん

目的は「ガラスのうつわを仕入れること」だったのだけれど、やっぱりそれ以上に大きかったのはお二人と会って話せたことだった。

作品を選びながら、梱包をしながら、ご飯を食べながら、お茶を飲みながら、お互いの色々な話をする。些細な表情やしぐさにも、なんだかメッセージが詰まっているようでグッとくる場面が多かった。この一年、会えることを心待ちにしていたこともあったのだろうか。とにかく感じたことが多い旅だった。

このnoteでは安土天平さんのインタビューやお二人の工房の様子をお届けします。


【インタビュー】夏休みの自由研究の延長で、ガラスを吹いている。ーガラス作家・安土天平さんのお話。


安土天平プロフィール
1981年 岐阜県高山市に生まれる
2005年 金沢大学文学部史学科 卒業
2007年 富山ガラス造形研究所 造形科卒業
2010年以降、JR名古屋高島屋や横浜高島屋、神戸そごう、高島屋大阪、高島屋京都を中心に各地で展示会を開催。
現在は飛騨高山にて工房をかまえて制作している。

ー天平さんがガラスをはじめたきっかけを教えてください。

” 子どものころから美術や技術の授業が好きで、ものをつくることが好きでした。きっかけは、小学生のころの夏休みの自由研究。父にアシスタントしてもらいながらガラスを吹き、コップなどをつくったのですが、たのしかった。そのときから「こういうことでご飯食べていけたら幸せだろうな」とずっと思っていました。 ”

ーへぇ、幼いころからガラス職人になることを思い描いていたのですね。

” 父の姿を見ていて、たのしそうに見えていたことも影響しているのかもしれません。そしていまでもこうやってガラスを吹いているのだから、おもしろかったのでしょうね。結局人間って、一生働いていかなくちゃいけない時代じゃないですか。人生のほとんどの時間を労働に使うわけなので、小さいころから自分がたのしんで向き合える仕事を見つけられたことは、幸せだなぁと思います。 ”

ーなんだか話を聞いていて羨ましいです。天平さんがガラスをやっていて特に「たのしい」と思う瞬間はありますか?

” 「自分に正直でいられること」ですね。ものづくりって素材と対話しながらつくりあげていくものだから、嘘をつけないんです。自分の鬱屈したものを抱えているといいものをつくれない。人間関係って複雑ですから、なんでもかんでも正直にいったらうまくいかないことがあります。しかしものづくりは、正直に向き合わなければつくれない。「自分を写す鏡」みたいなものだと思います。 ”

ーあぁ…。自分を写す鏡、ですか。

” そもそも自分の中でだめなときは、うまくつくれないんです。逆にいい感じでつくれているときは時間の進みが早いし、疲れない。そういう意味で、ストレスとは無縁の状態で仕事をさせてもらっているなぁと思います。 ”

写真提供:安土天平

ー私もお店をやっていて、ものは、つくり手そのものだなぁと思うことがよくあります。

” 自分にとって、ものづくりは哲学みたいなものですね。自分自身と向き合って対話しながらつくっていくので、ある意味で「自己探求」だと思います。 ”

ー自己探求。それは、「孤独」と向き合うことでもありそうですね。

” 自分はアシスタントなしで全部ひとりで完結できる範囲でやっているので、孤独みたいに見えることはあるかもしれません。逆に人に気を配るのがストレスになる性格ですし、かといって社会との接点が全くないわけではない。作品を通して外の世界と繋がれているなと思います。 ”

写真提供:安土天平

ー天平さんにとって、お父さんの忠久さんはどういう存在なのでしょうか。

” 父は基本的に放任主義です。幼いころから父には「自分でつくって自分で売って生計立てていけよ」といわれていました。だから、聞きに行かないと教えてくれないですし、富山ガラス造形研究所を卒業して飛騨高山に戻ってきたときも、しばらくは父がガラスを吹いているところをずーっと見ていました。

写真提供:安土天平

ーへぇ、そうだったのですね。

” 聞いたら教えてくれるけれど、父から答えがかえってきてもなかなかそれをほんとうの意味では理解していなかった。自分ひとりで仕事をするようになって、あのときなぜ父があんなことをしていたのか、にふっと気づくことがあるんです。それがおもしろいなと思います。"

ーそこから少しずつ自分のやり方ができていきそうですね。ちなみに天平さんの中で、これからガラス職人としてどうなりたいか、などのイメージはありますか? 

” ものづくりしている人は、個人的に2種類いると思います。
外部から色んな影響を受けながらそれを消化して、自分のものにできる人。
逆に影響を受けすぎて、うまく消化できなくて、完全にシャットアウトしてしまう人。

…自分はたぶん、後者の方なんですよ。

だからものづくりをしながら、自分の中のなにかを探し続ける。
最後の最後、死ぬまでになにか自分の理想のかたち、理想のものなのかわからないですけど、なにかこう、自分を削って削ぎ落としていった後になにかひとつでも出てくれば、やった甲斐はあったと思えるのではないかと。そういう目標みたいなものはあります。

たとえ削りきった後になにも残らなくても、そこまで自分はやりきったんだという満足感はあると思います。だから、どっちに転んでも後悔しないから、この仕事をしているような気がしますね。 ”

ーあぁ…。そういうものが生まれるか生まれないかはやってみなくちゃわからないし、そもそもそれ自体が目的ではないような気がしますね。

” そうですね。いまだに自分は、子供のころの夏休みの自由研究の延長でやっているようなものだと思います。そういう意味では昔から変わっていなくて、子どものまんまの人生を送っている。いつまで経っても大人になれない子どもみたいなものですね。 ”

ー大人になれない子ども、ってなんだかいいですね。今回短い時間でしたが、天平さんとお話できてよかったです。ありがとうございました。

安土忠久さんの現在と、へちかんだグラス、ことば、受け身のお話。

安土忠久さんはいま、肩が上がらず半年以上ガラスを吹けていない状況だった。そのことは事前に奥さまから聞いていたのだけれど、本人は変わらず元気な様子でホッとした。

「昔つくったものでよかったら…」といまある在庫の中から、選ばせてもらった。在庫といえどもどれもやっぱりすばらしい。私にとっては宝の山。鼻息荒めに選ばせてもらった。

しかも忠久さん自ら梱包までしてくれたうえに、気になる作品をチェックして、磨いてくれたりもした。恐れ多いながらもなんだかうれしくって、私は忠久さんに自然にカメラを向けていた。

ひと通り梱包し終わったあとで、奥さまと天平さんも交えてみんなでゆっくりご飯を食べながら話をした。

そうして、「ものをつくる」話になったときに、忠久さんはこんな話をしてくれた。

” ものをつくることとは、初めは自己主張のかたまりなんですよ。しかしだんだんつくっている方は希薄になっていって、自己存在が曖昧になっていく。最終的には自分がつくっているものに、選ばれていくと思うのです。 "

この話を聞いたとき、あぁ…と深くため息が出た。

そういえば、昨年会いに行った富山県大福寺の太田浩史さんや、先日工房へ行った陶芸家の森岡夫妻も似たようなことを言っていた気がする。
「もの同士が引き寄せあう話」や、「自分の思いだけでものはつくれない」という話。それらをぼんやりと思い出しながら、この境地へいけるのは、あとどのくらいの時間がかかるのだろうと気が遠くなった。

さらに、忠久さんは「へちかんだグラス」が生まれた話もしてくれた。
忠久さんが初めてガラスを吹く人に教えたとき、不均衡なものができあがって初々しいなぁと思った。それからある日、忠久さんが指をケガした状態でコップを吹いたときにまともに吹けなくて、ぐにゃりと曲がった。そこから繋がって、あえて不均衡な「へちかんだグラス」をつくるようになったのだそう。

そうしてテーマは、「ことば 」の話へ。
私が最近ある陶芸家さんと対話した内容を伝えたところ、忠久さんはこんな話をしてくれた。

” ことばというのはね、話の流れの中でそのことばがどういう位置を占めているのかが大事だと思うのです。
そのことばを一つ取り出してきて意味を問うたら、違う意味になっていることがある。いくつものシチュエーション、色んな意味を持っていることがある。
だから、言葉を発するとき、聞くときは文脈の中で理解することがぼくは大事だと思います。そうしないとみんな同じ説明ですんでしまう。 ”

忠久さんの発することばは、色々な捉え方ができることが多い。
意味を限定していなくて、受け手の想像を広げる要素が十分にある。

続けて忠久さんはこう言った。

” だからやっぱり、ものをつくる人間って、どこかでことばも必要だと思います。"

さらに、ここには書ききれないほど色々な話をしたのだけれど、最後の方に忠久さんがぽつりと話していたことで強く印象に残っているのが、「人は生まれながらにして受け身である」というお話。忠久さんはある詩を読んだときにこのことばを見つけて妙に納得したのだそう。

生きる中でやらなければいけないこと、やりたくないけれどやるべきことはたくさんある。忠久さんがガラスをはじめたときも「もうこれしかない」という気持ちで必死にやった。しかしこだわりがありすぎてしまうから、一番自分に負荷のかかるやり方で回り道ばっかりしてやっていたら病気になってガラスが吹けなくなった。退院して復帰しても、自分はなーんにも変わらなかった。変わるものと変わらないもの。絶望とよろこびと悲しみとを繰り返しながら、人はやがて死んでいく。後半は、ぐるぐるぐるぐるとそんな話を繰り返しながら、「もうすぐ日が暮れる」となり、この会はお開きとなりました。

帰り際、「必ず復帰しますから」と言いながら忠久さんが手を振ってくれた光景が強く残っていて、帰りの道中もそのことについて考えていた。
お二人と話したことが、私の背中にずっしりと重たくのしかかっていて、この文章を書きながら少しずつ解きほぐしていった感じだった。

そうして奈良に到着してすぐに、忠久さんから宅急便でこのことばが送られてきた。「今回の展示に向けてことばをください」と数ヶ月前に依頼していたものが、清書して送られてきたのだった。

林のなかの仕事場の外へところがり出たガラスたち 
ふり積る落葉に埋もれ
やがて腐葉土のなかへと姿をかくす
人新世の終るころ ぶ厚い気圏の底
僕の痕跡は縄文の地層のほんの少し上あたりで 
しずかに銀化しているだろう 

実は、忠久さんは今回ギリギリまでことばを考えてくれたが、新しいことばを思いつかなかったのだそう。ガラスをしばらく吹いていないから出てこなくて、過去のことばを引っ張り出して書いてくれたとのことだった。

ちなみに私はこれを読んだとき、ポロッと泣いた。これは、悲しいわけではなくて安堵からきた涙だった。忠久さんはきっと、やりきったのかもしれないなぁ…と。まぁこれは、私の勝手な解釈なのだけれども。

今回もたくさんお時間取ってくださりありがとうございました。
お二人の「痕跡」を、草々からしっかり届けていきたいと思います。

〈草々メインテーブルイベント〉
4/12-5/4 安土忠久・天平ガラス展
※GWまで延長しました。

安土忠久さんのインタビューはこちらのnoteをご覧ください。↓


番外編:飛騨高山のお店「やわい屋」さんへ

安土家へいく前日、私は暮らしの道具を扱うお店「やわい屋」さんへ行った。やわい屋さんは、忠久さんの奥さまにおすすめされていたのと、前から気になっていたお店だったから訪ねてみた。

築150年の古民家を移築したという建物は、それそれは立派な佇まいだった。入った瞬間、なつかしくてやさしい空気が溢れていた。

このお店をはじめて8年。
店主の朝倉さんは、このお店のほかに飛騨民藝協会理事や雑誌「民藝」の編集委員をやっているほど民藝の分野にどっぷり浸かっている方で、そんなお話を織り交ぜながら丁寧に色々と説明してくれた。
安土家とも古くから付き合いがあるそうで一気に親近感が湧いたし、さらに文章を書いていて、もの選びの基準にこだわりが詰まっているお店だった。草々と同じ精神性を感じて話が弾みに弾んだ。

2階の屋根裏部屋も見せてくれた。
もともと朝倉さんの本好きが広がって、私設図書館にしたのだそう。こんなすてきな場所を解放するなんて、すばらしい。

しかしやわい屋さんは、正直行きやすい場所ではない。
市街地から車で約20分ほど。まぁまぁ遠くて、目指していかなければたどり着かないはず。草々よりも行きずらいお店でやっているなんて、すごいなぁとひたすらため息が出た。

冬は薪ストーブを焚いてお店で待っていても、人が来ない日もある。
寒くて、気持ちも後ろ向きになって…
というお話もたくさんして、もう共感できることばかりだった。お店をやるって、続けるってやっぱりたいへんなことだ。でも、好きなことをやっているのだから、うまくいかないことも受け止めて少しずつ前に進んでいるという話をたっぷり聞かせてくれて、なんだかすごく励まされた気持ちになった。
「いいもの」にもたくさん出会えたし、また必ず立ち寄りたいお店のひとつになった。

***

やっぱり旅って、いい出会いがたくさんあるなぁ。
これ以外にも高速のサービスエリアで食べたものは全部おいしかったし、古風な宿もおもしろかったし、まちの小さな民藝店にもいってみた。お土産で買ってきたうどんやそば、おやつもしばらく堪能した。

仕入れにかこつけて、これからもたくさん旅をしていきたいなと思ったのでありました。

【完】

***

うつわと暮らしのお店「草々」

住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00

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https://www.instagram.com/sousou_nara/
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