見出し画像

短編小説/怪談ではない

ニ階建ての家によしおが帰ってきた。引き戸を開け玄関の框を上がると右手のドアがあいていて薄暗いキッチンのテーブルの椅子に人影を横目にみとめた。ニ階へと階段をのぼり自室へはいる。ふたつの部屋が廊下を挟んで向かい合っていてどちらもドアは全開にしてある自室から隣の部屋の半分と窓が見える、視界から外れた残り半分にテレビがあり大音量でアニメ放送が流れている、クレヨンしんちゃんだとすぐわかる、テレビは見えないのでその前にいるとおもわれる人も見えない、この家にはよしおと妻のふたりしか住んでないので一階で見た人影は見間違いということになる、いつもそこを通るとき椅子に座っている姿を目にしているので脳が錯覚したのかもしれない。30分経った、テレビの部屋からはテレビの音以外なにも物音がせず妻がテレビの前で横になったまま死んでいる絵が浮かんだ。トイレに行くために立ち上がり向かいの部屋をのぞいてみると、そこには誰もいなかった、たんにテレビを消し忘れていただけだった。一階の人影は見間違いではなく本物の妻だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?