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ラスボスが高人さんで困ってます!5

村の南にある学舎には村の子供達がたくさん集まる。様々な種族が集い勉強する。高人さんが子供達に勉学を教えている場所。

俺は高人さんと一緒に教室の前までいくと、ピタリと止められる。
「ちょっとそこでまってろ。呼んだら入れ。」
ふふっと笑い、高人さんは教室に入っていく。

チラリとガラス窓から教室を覗き込むと、椅子や机はなど無く、教卓と黒板があるだけ。板張りの広い室内に子供達が思い思いに座っていた。

高人さんが子供達を見渡しすと、子供達はそれぞれの獣耳をパタパタひらひらさせて高人さんの話に耳を傾けていた。
「みなさんおはようございます。」
「「「先生。おはようございます!」」」

子供達が一斉に挨拶を返している。
みんなとても良い笑顔で、先生が大好きなんだなとわかった。

「今日は、新しいお友達兼先生を紹介します。ちゅ…ジュンタ先生〜」
あ、今チュン太って言いそうになった。笑いながらカラカラと引き戸を開けて中に入る。
「はい。」
高人さんの横に立つとにこりと笑う。
子供は嫌いではないのだけど、今まで関わってきた事が無いので正直接し方が分からない。
「ジュンタです。西大陸のミストルから来ました。みなさん仲良くして下さいね。」
とりあえず、大人としてお手本にならなきゃいけないよな…と、礼儀正しく挨拶をする。すると、子供達がざわついた。
「あ!先生のとこにいる人だ!」
「ほんとだ!チュン太だ!」
「ちゅんた?ちゅんた先生!」
「チュン太でしょ?チュン太だよね?」
みんなガヤガヤと思い思いの解釈をする。
どうやら、子供達にまでチュン太が定着しているようで苦笑する。チラリと高人さんを見るが、彼は彼らの様子を見ているだけだ。俺の視線に気づいて耳打ちてくる。
「子供たちで知ってる事を共有してるんだ。落ち着いたら鎮まるから待ってろ。」
ふふっと笑う高人さんはとても楽しそうだ。
「はい。」
俺も優しく笑う
子供たちがひとしきり話終わると、高人さんがパンパンと手を叩いた。
「はーい静かにな!ジュンタ先生は西大陸に長く居たから瑞穂国の事をあまり知らないんだ。だから今日からお友達になって一緒にお勉強するぞー!みんな仲良くしてあげてな!」

「「「はーい!」」」
子供達が大きく返事をした。
「先生、チュン太先生でいい?先生もチュン太って呼んでたよね?」
「あー。そうだな。チュン太先生だ!」
もう先に定着してしまっているので、馴染みやすい名前が良いだろう。チラリと見てくる高人さんに、俺はニコリと笑いかけた。

「じゃあ、…チュン太先生は、授業中は子供達と一緒に座っててな。」

「はい。」
俺は返事をすると子供達と一緒に床に座る。わらわらと女の子達が駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ!先生の彼氏なの!?」
「いつもお家に居るよね!」

「あ…え――――っ…と」
チラリと高人さんを見上げる。
俺としては彼氏になりたいですけど…。

ち が う。

口パクで高人さんが伝えてくる。
狼の耳がへしょっとなる。
そしてまた女の子達を見て申し訳なさそうに言った。
「違うそうです。でも俺は好きですよ。」
そう言うと、女の子達がキャーキャーと叫び始める。あはは。どこでも女の子の話題は恋愛の話なんだな。
男の子からは西大陸についての話を聞かれて、色々と教えてあげた。食べ物や暮らしに興味があるようだ。
だいぶ打ち解けてきたころ、また高人さんから号令がかる。
「よし。じゃあ授業を始めるぞー!!」
ぱんぱん!と手を叩くと、子供達が一斉に高人さんを期待の眼差しで見る。
高人さんが、耳の後ろに手を当てて子供達を見つめる。と、コホンっと咳払いをして、可愛くウインクする。
「お耳を先生に向けて――?」
「「「お口は閉じまーす!」」」

普段の高人さんからは想像が付かないほど可愛い仕草で先生と生徒の合言葉を言う。子供達はとても楽しそうだ。そのやり取りに顔が綻ぶ。

授業が始まると、子供達は思い思いに床に座る。俺の膝には女の子が数人、周りも子供達でいっぱいだ。
困ったように笑い高人さんを見上げると、高人さんは嬉しそうに笑っていた。本当に子供が好きなんだな。この笑顔をずっと隣で見守れたらいいのに。

「今日は魔法について学んでいくぞ。じゃあ、そうだな、魔法について皆んなが知ってる事を発表してくれ。」

高人さんはチョークを持って黒板の前に立つ。
すると数人が、ぱぱぱっと手を挙げた。

「じゃあ、雛菊!」
「はい!魔法には、3種類あります!一つめは私達の魔力を使う魔法、二つめは精霊さんに力を貸して貰う魔法、三つめは神様に力を借りる魔法です!」

子供達が、おー。と感嘆の声を上げて拍手をする。
「ヒナすごいな!」
発表のあった内容を黒板に書くとまた子供達を見渡す。
「次ー!ほんのちょっとした事でも構わないぞ」
また、子供達から手が上がる。
「それじゃ琥太郎!」

「はーい!えっと、魔力はみんな持っている量が違う!」
元気に発表した虎耳の男の子は満面の笑みだ。
「うんうん。コタもよく知ってたな!」
教室からぱちぱちと拍手の音がする。
ふと、膝に座る女の子が手に触れてくる。見た目的に5歳くらいだろうか。
「どうしたの?」
小声で話しかけると、女の子は俺の手を小さな手で掴んで何かをさせたいようだった。誘導されるままに手を動かす。
ぱちぱちぱち。と小さく音が鳴る。
拍手させたかったのか。可愛いな。ふっと笑う。
女の子は満足そうだ。
いいな子供って。チラリと高人さんを見ると、こちらを見てニヤリと笑っている。

可愛いだろ!?うちの子達は!!

という声が聞こえてきそうだ。
ええ、凄く可愛いですね。俺は笑顔を返した。

「次、何か知ってる事はあるか?」
子供達は周りを見渡すが、誰も挙手していない。
すると、今子供達が言った事を、黒板に書いていく。
何やら絵も交えて書いているようだ。

俺はここに来てから一通りの文字は読めるようになっていたので、小さい子達に教えるくらいの文字なら何の問題もなく読めた。

「よし、じゃあ説明していくぞ?ヒナギクが答えてくれたか3種類の魔法は、それぞれに特徴が違うんだ。」
1番上に書いた神様の文字を教鞭で指す

「神様に頼んで神力を貸してもらう魔法は広い範囲に使う魔法だ。皆んなが知ってるもので言えばこの国を護っている結界だ。あれは神様の力を借りて張っているものなんだ。」

結界…なんてあったのか。
「先生質問いいですか?」
俺はひょいっと手を上げる。
「どうぞ?」
「結界についてもう少し詳しくお願いします。」

「瑞穂国は悪意のある者を迷わせて追い出す霧の魔法を海に張り巡らせているんだ。それこそ大陸一周覆うくらいの規模でな。だから外からの悪意は大陸に届かない。この魔法は年に一回祭事を行って張り直すんだ。」

「先生が神楽を舞うんだよ!とっても綺麗なの!」
「次の祭事ももうすぐだよ!夏にあるんだぁ!」
「縁日もあるんだぁ!お祭りも楽しみ!」
「ねぇ!ちゅん太先生も行くでしょ?」
高人さんの説明に子供達が次々補足してくれる。
子供達が興奮気味に次々と喋るので静かに聴いている。
「みんな楽しみにしてるんだね。俺も行ってみたいな。」
一通り子供達が喋り終わると俺は言った。

「娯楽の少ない土地だからな。みんな、狩猟祭、収穫祭、夏の祭事は楽しみにしてるんだ。」
「なるほどです。」
子供達の頭を撫でながら俺は優しく笑う。
「で、他に知りたい事はあるか?」
「今のところは大丈夫です。」
高人さんはこくりと頷いて、次の説明に移る。

「神様はとても強いけど神界に居るから声だと届かないんだ。ほら、遠くから喋っても何言ってるか分からないだろう?だから、神楽舞や神様が好む鈴の音で、まずは降りてきてもらうんだ。そこから祝詞でお願いして、お力をお借りする。これが神力の使い方。ただし、お借りした力を制御するのは自分の魔力だから、竜族くらいしか神様も応答してくれない。」

つまり、声が届けば直接お願いする事もできるのだろうか。すっと喉に触れる。…なんで、出来ると思うんだろう。まぁ出来たとしても、良い結果にはならない気もする。

皆んな静かに聞いている。俺も高人さんの話に耳を傾ける。
「そして、次に精霊に力を借りる精霊魔法だ。精霊は現世の隣にある異界に住んでる。お隣さんだから言葉もすぐに聴き取ってくれる。精霊魔法は魔力があれば誰でも使える。魔力は使わないが魔力を貯める器を使うんだ。器が大きければ威力が増し、小さければ威力も小さくなる。精霊への呼びかけは、言霊を使う。」

また、高人さんが絵を描く。あれは、猫なのか犬なのか。うさぎはわかった。可愛い。

「問題!この猫ちゃんは魔力を沢山持っています。精霊さんに、雨を降らせて!と言いました。さてどんな雨が降ると思う?」

猫ちゃん。なるほど?

子供達が一斉に手を挙げる。
これは昨晩言っていたやつかな。

「颯太!どうぞ」
教鞭で、ぴっと男の子を刺せめす。
「たくさん魔力があると、たくさん力を借りれるから、雨もたくさん降ると思います。」

「颯太正解だ。何の制限もなく、ただ雨を降らせろと漠然とお願いした場合、精霊はその者が扱える最大量の霊力で適当に願いを叶える。つまり、魔力量によっては、いきなり桶をひっくり返したような雨が降ったり嵐になったり洪水になったりするんだ。魔力が多い者が精霊に力を借りる場合はより多くの言霊で詩や歌を作って魔法を制御しなきゃいけない。」

最初に出会った時のことを思い出す。高人さんが水を出した精霊魔法は確かに沢山の言葉を使っていた気がする。

「魔力量が少ない者は、言霊が少なくても良いが、向けたい場所、使う霊力、やりたい事は必ず言霊として伝える。さらに繊細な事をしたい場合に言霊を足したりするんだ。―例えば、」

―"風の精霊よ、その小さき羽の1枚をもって、我が手が触れしものを瞬きの間、浮かせよ"―

高人さんが教鞭を手のひらに置くと、ふわりと教鞭が浮き、すぐに手のひらに戻った。
「わぁすごい。」
ぱちぱちと子供達が拍手する。
「精霊は、自然にあるものに例えて詩を作るとよく聞き届けてくれる。本を沢山読んで言葉を覚えると精霊魔法の幅が広がるから、しっかり本を読むんだぞ」

子供達が、はーい!と返事をした。

「では次、自分の魔力についてだ。魔力は知識とかは関係なく、使いたいという感覚と創造力で制御する。指先を使って折り紙や粘土をする感覚に似ているかな。ただし魔力が空になると、身体も動かせなくなる。使い過ぎには注意する事、夢中になりすぎない事だ。魔力が多い者が精神を害すると魔力暴走なんて事もある。だから何か悩みとかあったらお家の人や先生に相談すること。」

子供達ははぁーい!と大きく返事をした。
高人さんは満足そうに笑う。
「よし!じゃあ、今日はここまで!海や山に遊びに行く子は気をつけて行きなさい。チュン太先生、俺は明後日の教材作るから、教室に残る子供達と一緒に遊んでやってくれ。親が迎えに来るから。」

ふと見ると、幼い子だけが教室に残っている。
「分かりました。」
「助かる。たのんだぞ。」
高人さんはヒラヒラと手を振りながら教室を後にした。
「さて、みんな何して遊ぶ?」
小さな子達は教室の壁に設置された玩具箱をズルズルと引きずってきた。

「これ!」
中身は、木でできたママごとセットだ。

なるほど。

「お茶会ごっこ!チュン太先生は王子様役で、後はみんなお姫様!」
よく見れば、みんな女の子だ。男の子はみんな遊びに出たらしい。

ふむ。
…王子様…王子様ってどんなだっけ…。
西大陸の王都に居た王子を思い出すが、スキャンダルばかりのクズ王子だ。あれが次の国王だと思うと頭が痛い…いやいやそこじゃない。王子様…王子様。
とりあえず、爽やかで平等に接して、にこにこしてれば良いのかな?
「王子さまぁー!お茶をどうぞ」
「ありがとう」
よく考えると、俺は女の子達の名前を知らない。
座って考えていると、女の子がティーセットを並べていく。みんなが席につくと、俺は話はじめる。
「ようこそお城主催のお茶会へ!麗しい姫君達、良ければ皆様のお名前をわたくしめに教えて下さい。」
胸に手を当て、軽く会釈する。
「えっと、私は花!」
「わたくしは、トモエともうしわますわ!」
「私の名前はルリ!」
「私の名前はハリ!」
4人の姫君は、それぞれお名前を教えてあげくれる。
女の子達はきゃっきゃと楽しそうにお話をしている。俺はふふっと笑い見守った。

すると、窓の方でざわりと空気が揺れる。耳がピンと立ち、ぱっと窓を見る。
何か巨大な羽虫のような物が飛んでくる。魔物?見た事無い型だ。だが殺意だけはしっかり伝わってくる。

「みんな、窓から離れて先生の後ろに隠れて!」

ガシャァァン!
窓ガラスを割る盛大な音が鳴り響く。

「「「「きゃぁぁー!」」」」
子供達が耳を抑えて悲鳴を上げる。よくないものだ。
こいつ1匹だけ?

「大丈夫だよ。そかから動かないでね。」
子供達の頭を撫でると入ってきた魔物に対峙する。
武器が無い。未知の魔物に素手で殴り掛かるのは気が引けた。

無ければ作ればいい。

ああそうか。
ひゅっと息を吸い、魔力を言葉に込めていく。
―"凍つく大地に住まいし水の精霊にお願い申し上げる。"―
右手がひゅぅうっと冷たくなる。
―"その白波と息吹の一欠片をもって我に剣を打て"―
手から溢れた水がパキパキ凍りながら長い剣に姿を変えていく。
なるほど、こう使うのか。

「初めてにしては上出来でしょう?」
後ろを振り向くと、高人さんが子供達を庇いながら俺を見ている。高人さんはチッと舌打ちするが、にやりと笑った。
「ほんと可愛くねーなお前は。」
これは褒め言葉だ。
「ありがとうございます。」

ギジャァァァァァァ!
魔物は威嚇するように鳴き、襲いかかってくる。
俺はふぅ…と息を吐き。正面から斬り込み一刀両断してやった。
「え…」
スパンと手応え無く切れてしまう。
精霊が剣を作る時に俺は自分の魔力で刃を研いでみたのだが、すごい切れ味で正直豆腐でも切っているようだった。
床を見ると、深々と縦長の穴があいている。

「あーあぁ、こりゃしばらく授業は別の教室だな。派手に窓ガラス破りやがって。」
「すみません、床にも穴あけちゃいました。」
あはは。と困ったように笑うと、高人さんはため息をつく。
「ただの魔物に魔王に挑むような剣作るからだ。」
さっきの剣はそんなに強かったのだろうか。基準がよく分からない。かなり言霊で縛りつけつもりだった。
まだ足りないのか。自分の手を眺めながら思う。

「この残骸はどうするんですか?」
「村外れまで持っていって焼く。」
高人さんはじっと魔物をみて言った。何やら考え込んでいる様子だった。

その後、子供達は無事みんな帰宅し、俺と高人さんが帰路に着いた頃には夕方になっていた。

「今晩は、ご飯何しましょうか。」
「そうだな、揚げ出し豆腐がいい。あんが甘いやつ。」
「わかりました。」
高人さんのリクエストにふふっと笑う。
夜になると、またあの得体の知れない感情が見え隠れしてくる。呼吸を整えて平静を保った。
その様子を、高人さんはじっと見ていたが俺は気付かない。

「チュン太、夕食を食べたら少し話をしようか。特別授業だ。」
「え、何教えてくれるんですか?」
一緒に居れるだけでも嬉しいので、尻尾がパタパタと揺れた。
「んー、まぁ、色々な。大人な話だ。」
高人さんはそう言うと、遠くの夕陽を見つめた。

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