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【読書メモ】未来をつくる言葉: わかりあえなさをつなぐために

ドミニク・チェンさんの『未来をつくる言葉』。言葉と世界の認識など哲学的な内容ですが表現が美しく、すっと入ってきます。ドミニク・チェンさんが体験されたことを美しい映像とともに追体験しているような感覚を得る事ができました。

印象に残ったことをひとつあげるとすれば

この本の中で印象に残ったのは下記の文章です。

いずれの関係性においても、固有の「わかりあえなさ」のパターンが生起するが、それは埋められるべき隙間ではなく、新しい意味が生じる余白である。このような空白を前にする時、わたしたちは言葉を失う。そして、すでに存在するカテゴリに当てはめて理解しようとする誘惑に駆られる。しかし、じっと耳を傾け、眼差しを向けていれば、そこから互いをつなげる未知の言葉が溢れてくる。わたしたちは目的の定まらない旅路を共に歩むための言語を紡いでいける。

「わかりあえなさ」があるから、共に歩むことができるのだということが、とても美しく表現されていて何度も読み返しました。世界に「分断」が表れるのは、自身の狭い料簡に囚われているからではないか。新しい意味が生まれる余白を感じ、共に歩むための言葉を紡ぎたいと願いました。

そこからあれこれ考えたこと

ニュートンの言葉を思い出しました。

Men build too many walls and not enough bridges.
人はあまりにも多くの壁を造るが架け橋の数は十分ではない。

既に存在する考え方で世界や相手を捉えた方が楽です。自分の考え方と違ったらそこに壁を作れば良い。悩まないで済む。あの人には分からないのだ、と。そのようにして作った壁によって、わたしたちの限界が規定されてしまいます。「わかりあえない」という前提を自然に受け入れ、橋を架ける力を発揮できる世界にできないか、そんな問題意識が立ち上がってきました。

DXが遅れているのではなく、わたしたちが限界を決めているのだ

壁も橋も人工物です。ニュートンの言葉を心理的な比喩として解釈していましたが、人工物(テクノロジー)と人の進化の関係としても解釈できます。わかりあえなさを発見しても、いつも通り壁が立てられたのでは、やはり進化がとまります。ドミニク・チェンさんは、以下のようにも語っています。

自然言語こそが人間が作り出した原初のテクノロジーであり、言語の文法が環世界から意味を抽出し、他者に向けて表現を行うインタフェースだとすれば、人間と言葉もまた、共に進化する循環的な関係を結んできたといえるだろう。

コロナ禍で、デジタル対応の遅れが顕になりました。ただ、それは新しいテクノロジーを使って効率化しようという議論で留まっています。何を変えたくて、どのような課題を解決したいのか、その議論は浅いままです。「いつか収まるのだろうから、それまでオンラインでしのごう」という対処が、オンライン化を促進したにすぎません。本当は、それぞれが「対面の場を持つことの価値」「つながることの重要性」「分断ではなく連帯」など、感じていることがあるはずです。それらを進化すべき課題として認識し、これからのわたし達のあり方を紡ぐ言葉や知恵を見出したいところです。

コロナで、ある意味で未来が早くきましたが、未来をつくるのはやはりわたし達です。

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