社員から「できない理由より、やる方法」が出てこないのは、経営と執行を分けて考えていないから
お客さまのご支援にあたって、社員さんへのインタビューをさせていただくことがあります。一次情報に直接触れることで、組織の中で何が起こっているのか仮説が得られます。共感的に聴きながら、一方で分析的に自分が持っている知見と組み合わせて理解を深めていくような感覚です。様々に発見があり、面白いクリエイティブな仕事のひとつです。
ニワトリが先か卵が先かみたいなところがありますが、組織の中で語られている言葉で風土が創られていると感じます。
上の図はある会社でのヒアリング内容をまとめたものです。電子機器を作るメーカーさんです。社歴も100年以上あり、コツコツと品質改善をする良い会社です。ただ、安定感がある一方で、過去の成功体験だけに頼っていて、ここ数年売り上げが鈍化しています。この会社では、若手が、新しいことをやろうとすると「まずは目の前のことを片づけろ」という声が、マネジャーから出てくることがあります。マネジャーからすれば良かれと思ってのことです。かつては、それでうまく行っていたわけですから無理もありません。結果として、悪気はないのだけど、次の成長の芽を摘んでしまうようなことが起きていました。
勤勉でコツコツと改善を重ねると確かに品質は磨かれます。しかしながら、それが時代に合っていなければどんなに磨いても選ばれません。となると、今までと異なる視点から捉えなおしていくことも大切です。そこで参考になるのがダブル・ループ学習という考え方です。
ダブル・ループ学習とは、行動の前提を見直して、再構築するような学習のことです。これ対してシングル・ループは、コツコツやっているけど、前提が変わってしまったら機能しなくなります。世の中、価値観が多様になってきていて、かつ変化も速くなっているので、これに対応していくことは必須事項となっています。つまり、前提を作り変えていくことが経営です。シングル・ループで回しているのは経営ではなく執行です。特にこのコロナ禍の中で、既存の枠組みを超えることが求められています。「新常態」と言った言葉にそれが表れています。ただ「新」と言っていますが、変わらないと生き残れないのは今までも同じでした。「まだ大丈夫だろう」と同じところをぐるぐると回っていたのです。
こうなると、変われる会社はどこか、変われない会社はどこかが明らかになります。変われない会社では「できない理由」がやたらと語られます。どうすればできるかという「できる方法」を自律的に考える事ができていないのです。下の図は、お客さまに組織の自律度合いを説明するときにわたしがよく使う表です。皆さんの会社はどのレベルにいるでしょうか。
先ほどのお客さまの場合、Level2まで来ているんじゃないかと思います。ただ、そこで停滞してしまっているんですね。現状を良くしていこうとする意識や力がありながら、目の前のことだけになっている。現場のマネジャーからすれば、目の前のことを効率化することが求められているので、結果として変革のストッパーになってしまっているのです。このとき経営者も一緒になって現場の問題、執行に目が行ってしまっていると停滞します。
コロナによって前提が変わりました。それに対応できる組織は、前提が変わっても、できない理由ではなく、やる方法がでてくる組織です。経営者はこうした「やる方法」がでてくるように現場のマネジメントに目を向けがちです。しかし、そうなってしまう原因は経営と執行を分けて、経営を考えてこなかったことにあります。つまり、経営者が前提を変えようとしてこなかったので、現場が変化に適応する力を身につけていないのです。
このことは、わたし自身もコンサルタントとして、お客さまと共に向き合っていかなくてはならない、これからの大きな課題だと認識しています。
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