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第121話 「気が合うふたり」

犬と猫だったら、猫。
バンドの<竜巻>のファンで、ライブにも何度か行ったことがある、と云う。
しかも、なんとベースの山下くん推し。
運動音痴の私と違って、スポーツマンに見えるが、「僕もインドア派です」と爽やかに笑う。
読書が趣味で、好きなジャンルはミステリー。斑尾先生の作品は一通り読んでいて、映画の好みも一緒。最近のベストは「サスペンションかなぁ」。うん、そうそう、あれは面白かった。私も3回くらい観た。

……本当に不思議だ。
私と彼は、どこまでも気が合った。

お見合いパーティーは、ホテルの高層階のラウンジで開かれていた。片側は一面ガラス張りで、落ちていく夕陽が、50人くらいの男女を少しだけ赤く染めていた。
婚活アプリの運営会社が定期的に開いているオフラインイベントで、私は3回目の挑戦だった。
普段はお喋りなタイプなのに、こういう場面では毎回、緊張してしまい、全然ダメ。過去2回、親しくなれた人はいなかった。

今日こそは3度目の正直でーー、なんて鼻息荒く家を出たんだけど、結局、会場に着くといつものように場の空気に飲まれてしまった。
会話の輪に入れず、隅で乾いたクラッカーを何枚も口に流し込んでいた私に気を遣って、彼は話し掛けてくれたのだった。

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2020〜2022年に投稿した意味怖を載せるマガジンです。

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