見出し画像

卒論テーマにリバークリーン

連載/ナイスピックな人 vol.2
ゴミ問題を想う「人」に焦点を当てる不定期連載。第2回目は一橋大学ラフティング部の4年生、Kちゃんです。

十人十色のライフストーリー

10月の朝6時。青梅市の御岳渓谷で、川沿いのゴミを拾うリバークリーンに参加した。そこにいる人たちと話をした。

なぜリバークリーンをするのですか?


きっかけは、ゼミで出会った本だった。『顔にあざのある女性たち-「問題経験の語り」の社会学』(著・西倉実季)。

顔に疾患や外傷を持つ女性たちのライフストーリーを取材して、当事者の存在や軌跡を顕在化する一冊。社会から「存在しない」とされた悲痛な叫びや苦しみ、経験が綴られていた。ショックを受けた。

ゼミでは、ライフストーリーという研究手法に着目した。直接テーマを研究するのではなく、当事者の人生や物語を取材し、当事者の声を通してテーマの本質を浮き彫りにする。

リバースポーツ仲間の間で話題になっている、リバークリーンが頭に浮かんだ。なぜみんなリバークリーンをするのか気になっていた。

リバークリーンと当人のライフストーリー。

卒論テーマが決まった。


仕事も年齢も、趣味も経歴も異なる人が渓谷に集まり、歩いてゴミを拾っていた。消防士、画家、写真家、プログラマー……。普段は出会わないであろう人たちが、近況を話し合ったり、笑い合ったりしながら。

「安らぎ」を大切にする女性に話を聞いた。転職をきっかけに奥多摩に移住した女性は当初、地域を知る一環で参加した。何度か参加するうち、リバークリーンは「安らげる場所」と感じたという。

自分も安らげる空間を提供したい。そんな想いを強くして、女性は今、奥多摩で新規事業の準備を進めている。

リバークリーンの先頭に立つのは、リバースポーツの選手として世界の頂点を競った男性。現在はリバースポーツのプランナーとして活動している。約2年前から渓谷でリバークリーンをはじめた。顔を上げると、いつの間にか周囲に人の輪が広がっていた。

人が夢中になる瞬間――。リバースポーツもリバークリーンも共通していた。ネガティブに捉えがちなゴミ問題だが、アウトドア事業者なら遊びとして取り組めるかもしれない。追求したはずのリバースポーツには、まだまだ余白があった。そう話してくれた。

健全なライフサイクルを築くため、創作意欲をかき立てるため、人に出会うため。リバークリーンの動機は十人十色。だけどそこには確かに、前向きで、穏やかで、心地よい一体感があった。

卒論発表は1月末。そろそろ取材を終えてまとめないと。

陽光差し込む凜とした渓谷に、笑い声がこだました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?