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私が美容室に行くことにおいて「モテたい」以外の理由は、ない

中学生の頃、とにかく自分のクセ毛で悩んでいた私は、毎朝の登校前にヘアアイロンで髪のクセを伸ばすのが日課だった。

いまでこそ、男性がスタイリング時にヘアアイロンを使用することは珍しくないようにも思う。

だが、私が中学生の頃というのはいまから十数年も前のこと。その頃からクセ毛をわざわざヘアアイロンで伸ばしていた男子生徒は、少なくとも私の周りには他にいなかった。

だから私は、毎朝ヘアアイロンを使うことに少し恥ずかしさを感じてしまったのか、周りには言いづらかった。


しかし、どんなに朝からヘアアイロンでクセを伸ばしても、雨の日は外に出た瞬間、湿度によって私の許可なくうねり出す。

これが本当に悲しかった。

たとえ晴れていても、汗をかけば結局うねる。部活が終わると結局、私の髪はクネクネしていた。このクネクネした髪を鏡越しに見るのが、とにかくイヤだった。

特に前髪。うねった前髪をなんとか伸ばしたくて、必死に手で引っ張ったり濡らしてみたり、試行錯誤してみたが、無理だった。

気にし過ぎだとかナルシストだとか自意識過剰だとか言われようと、知ったことではない。こちとら真剣に悩んでいたのだ。


「お前はファッションやオシャレで部活をしているのか」

前髪を気にしすぎたことがきっかけで、部活の顧問にこう叱られたことがある。まぁ髪型以外にも、シャツを出していたり、ジャージを腰まで落として履いていたりしたこともあったので、そういった身だしなみ全般に対しての注意だったのだろう。

「お前はファッションやオシャレで部活をしているのか」

だがこれに関しては、ハッキリ言っておきたい。



その通りだ。


私はファッションやお洒落で部活をしているのだ。モテたいし。

スポーツをナメるなということだったのかもしれないが、逆にクセ毛をナメるなと、私は言いたかった。クセさえなければ、私はもっと部活にも勉強にも集中できる。

つまり、私が部活で結果が出せなかったり、テストの成績が悪かったりしたのは、クセ毛のせいなのだ。間違いない。言い訳ではない。

冗談抜きで、クセがあまり出ておらず、理想の髪型になったときは気分がいいし、快適な一日を過ごせる。

クセ一つで顔の印象が異なり、気分を左右するというこの経験は、私にとってはテスト勉強や部活動より何倍も興味深いことで、それがのちに私が美容師を志すキッカケの一つとなったほどだった。

そんな中学時代だが、ついに私は「美容室」という場所に足を運ぶこととなる。

それまでは適当に自分で切るか親と同じ床屋に通っていた。だが色気づいた思春期ということもあり、髪型に気を使い始めた私は、ど田舎ながらもお洒落さを感じさせる美容室を友人に教えてもらった。

幸い、家から自転車で通える距離だった。

だが、実は私の髪の問題はクセだけではない。多毛で乾燥しやすく、頭の形も決して良くはないのだ。

その美容室でも、やはり私の髪は扱いづらかったのだろう。思うような髪型になることはなく、結局クセを含む私の髪に対するコンプレックスが解消されることはなかった。


クセ毛に悩めば悩むほど、髪をサラサラのストレートにしたいという願望が日に日に強くなっていく。同じクラスの直毛イケメン野郎には、とことん憧れた。

「クセ毛がまとまる」だとか「ストレートになる」といった謳い文句のシャンプーやトリートメントもいろいろと試したが、効果を感じられることはない。

そして私の中学時代はまったくモテず、彼女ができることもないまま終わった。全部、クセ毛のせいだ。間違いない。

そんな私も、中学を卒業し、高校に通うこととなった。

しかも私が通うこととなったこの高校は、なんと男子生徒よりも女子生徒のほうが多いのだ。


高校デビュー。


これしかない。私は高校に入り、髪をストレートにし、モテる。モテたい。高校は中学とは違い、少し開けた街にあるため、デートもしやすい。

中学の頃から、街でデートをする高校生を見ては、自分も絶対にあんな感じの高校生ライフを送るのだと、心に決めていた。

そして私は、縮毛矯正(普通のストレートパーマよりしっかりクセを伸ばせる)をかける覚悟を決めた。髪をサラッサラのストレートにし、モテる!


そうして高校デビューをするべく、意気揚々と中学時代と同じ美容室に行った。だが残念なことに、縮毛矯正を私の髪にかけるには、長さが足りないと言うではないか。

縮毛矯正はその過程で、ヘアアイロンを利用し、髪に熱を与えてクセを伸ばす。だが、私の髪はしっかりアイロンをかけて伸ばすだけの長さが足りないのだという。

中学時代は校則によって男子生徒はあまり髪を伸ばせず、その影響もあってか縮毛矯正はかけられないと言われてしまった。

かなり悲しかったが、できないものはしょうがない。その日は諦め、一応市販のストレートパーマ剤を買って試してみた。あまり期待してはいなかったが、やはりダメだった。


そんなこんなで、高校にストレートヘアで入学するという目標は叶えられなかったが、それでもモテたい気持ちは変わらない。

とりあえず私は結局また毎朝ヘアアイロンをかける生活を続けながら高校に通うこととなった。

校則が多少ゆるくなったこともあり、とりあえず少しずつ髪を伸ばし、いつか縮毛矯正をかけようと企んでいた。


そして数ヶ月経ち、ある程度髪の長さにも余裕ができてきたため、そろそろ縮毛矯正もできるのではないかと、また同じ美容室に向かった。今度こそ私は髪を真っ直ぐにする。サラッサラのストレートにし、モテる。モテる!!

だが、世の中とは奇妙なもので、あんなにストレートヘアに憧れていたはずの私がかけたのは、縮毛矯正ではなかった。「とにかく髪をストレートにしたい」という、私の強い思い。その思いが強すぎたのか、どうやら私の欲求はねじれにねじれてしまったらしい。


私がかけたのは、髪をクルクルとねじるようにしてクセづけする、ツイストパーマだった


チリチリになった。


クネクネのくせ毛にクルクルとパーマをかけ、チリチリになったのだ。

この自分の行動はいま考えてもあまり意味がわからないが、当時の曖昧な記憶を辿ってみるに、確か私の思考が「毒をもって毒を制す」という方向にシフトし、クセ毛に対してより強いパーマをかけることで、クセ毛に打ち勝とうと考えたのだ(たぶん)。

この頃から美容師になりたいという気持ちが強かったこともあり、様々なヘア雑誌を読んでいたため、パーマヘアに憧れを抱き始めていたこともあったのだろう。


だが、髪は思ったよりもチリチリになった。それは私が思い描いていた”パーマヘア”とは少しかけ離れていた。そのチリチリ具合から、同級生には「髪がチ○毛みたい」と揶揄されることもあった。当然、モテない。髪がチ○毛なのだから。

ちなみにこれはツイストパーマが悪いのではなく、私のスタイリング力が未熟だったことが原因である。パーマをかけた髪こそスタイリングが重要であるということを知ったのは、これからさらに数年後の話だった。

そしてもう一つ、このパーマが原因でめんどうなことになった。男子バスケ部の先輩から「あいつは調子に乗っている」と言われ、目をつけられてしまったのだ。

正直なところ、当時は「パーマくらいでごちゃごちゃ言うなようるさいな」という気持ちもあった。

ただ、パーマも染髪も認められていない高校であり、その校則に違反しているため、悪いのは私のほうだ。それに、いまとなってはなんとなく、その先輩側の気持ちもわからなくはない。

スポーツに取り組む高校生が、髪型に気を取られていていいのか。そんな長くチリチリした前髪で、周りを見渡せるのか。パスが来た時、すぐに対応できるのか。まともなシュートを打てるのか。バスケをなめるなよ。

そう言いたかったのかもしれない。

「お前はファッションやオシャレで部活をしているのか。」

中学の頃の顧問に言われたこの言葉を思い出す。

だがこれに関しても、やはりハッキリ言っておきたいことがある。




私は卓球部だ。



校則違反とはいえ、名前も知らず、話したこともなく、所属すらしていないバスケ部の先輩にとやかく言われる筋合いはない。したがって、その先輩のことはひたすら無視することで特にトラブルになることはなかった。


そんなこんなで、結局私はこれといったモテを実感することもなく、高校生活を終えることとなる。なぜ、こうなったのだろう。

そんな私もついに上京し、美容学校へ通うこととなる。そして東京は原宿にある有名美容室で、ヘアカットを体験することとなった。

初めての東京でのヘアカット。正直に言うと、緊張していたこともあり、どうだったのかはまったく覚えていない。ただ、地元でのヘアカットよりは満足度が高かったということくらいは思い出せる。

東京デビューだ。これできっと、モテる。

東京で一人暮らしをするのだ。学校やバイトだけでなく、恋愛に対する期待値だって半端なものではない。

東京に来てから、私は本当にさまざまな美容室に足を運んだ。美容室を一つに絞らなかったのは、将来の就職先探しと、単純にいろんな美容室を試してみたいと思ったからだ。

本当に美容室ごとに空気感や接客が違い、面白かった。中には、こちらが美容学生であることを伝えると高圧的になり、正直居心地の悪さを感じることもあった。


そして校則が自由になったこともあり、髪をとことんいじった。パーマもかけたが、どちらかといえば東京に来てからはカラーリングのほうにハマった。髪の色一つで顔の印象が変わることにトキメキを感じ、様々な色を試した。シンプルなブラウンはもちろん、ゴリゴリのブリーチをしてマッキンキンにも何度かした。

その髪型で田舎に帰った時は、両親に苦笑いされたのをいまでも覚えている。

美容室で「真っ茶色にしてください」とオーダーしたら、「抹茶色」と誤解され、笑顔の素敵な美容師さんに危うく髪を緑色にされてしまいそうになったことも、覚えている。


だが、さまざまな髪型や髪色を経験してみても、まぁモテない。東京に来てアカ抜ければもうちょっとモテるかななんて考えていたが、本当にモテなかった。

やはりこれは、クセ毛のせいだ。

女性受けする見た目でないとか、内面に問題があるとか、ファッションセンスに問題があるだとか、口がクサイだとか性癖に問題があるとかセックスがヘタだとか、そんなことは一切関係なく、私がモテないのはクセ毛のせいであると私は信じて疑っていない。

このクセ毛から開放されたとき、私はきっと、モテるのだ。

そしてそのためには、美容室、美容師という存在は欠かせない。

だが私の頭の形と髪質は、決して扱いが簡単ではない。それは、美容の業界に足を踏み入れたことでよくわかった。

乾燥・クセ・多毛。多毛なのだがスキバサミでスキすぎると、毛先がまとまりづらくなる。まるで私から逃げるかのように、方々に散ってしまうのだ。

この扱いが上手な美容師さんを見つけるのは、有名美容室が立ち並ぶ原宿・渋谷エリアといえど決して簡単ではない。そして、なかなかクセ毛から解放されることはなかった。

だから20代の頃の私が女性と関係をうまく築けなかったのも、クセ毛のせいだと考えている。

20代半ばの頃、それなりに良好な関係を築いており、大好きだった女性がいたのだが、結局フラれてしまった。明確な理由に関しては彼女しか知らないことだが、きっと、クセ毛のせいだと私は思っている。

実は見た目に不満があったのか、内面に不満があったのか、ファッションセンスに不満があったのか、もしかしたら口がクサかったのか性癖に問題があったのかセックスがヘタだったのか、それともホテル代をワリカンにしてしまったことが原因か…それはいまとなってはわからないし、というかそもそもその彼女には別に本命の彼氏がいたのだが、そんなことは一切関係なく、フラれた原因はクセ毛のせいだと信じている。

そんな私と相性のいい美容師さんを見極めるポイントは、髪が伸びたあとだ。切った直後はよくても、伸びてくると明らかに違う。相性のいい美容師さんは、伸びてきてもクセが広がらず、しっかりまとまってくれるのだ。

そして、ピタッと自分の好みと美容師さんの相性がハマったときは、本当に気持ちよく帰ることができる。髪の扱いもラクになり、快適な毎日を過ごせる。伸びてもまとまってくれるから、美容室に通う頻度も少なくて済むのだ。

そういった美容師さんのおかげで、ずっとクセ毛に悩んでいた私も、いまではだいぶ扱いやすくなり、程よいウェーブ感を演出してくれるようになり、クセ毛と共存できるようになった。


「その髪型似合ってるね」

「え、これパーマじゃないの?自然にこんなクセがつくの、いいね!」


そう言ってもらえると、自分の髪を誇らしく感じられるようにもなる。褒められれば自然と笑顔も増えるし、自信もつく。これは間違いなく、美容師さんのおかげなのだ。

クセを伸ばしてストレートにするのではなく、カットで扱いやすくし、スタイリングでキメる。それは自分が快適な毎日を送るためには欠かせないことだし、髪型から生まれる笑顔や自信が魅力となり、モテへとつながるのだと信じている。

だから私は、いままでもこれからも、「美容室に行く理由はモテたいからである」と、声を大にして言い続けたい。



(それでも結局モテてはいないのだが、もしかしたらクセ毛が原因ではないのだろうか…?)




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