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ムーンシャイン・ラグナロク

新宿の街中をリュックを背負った猿が駆け抜けていく。
人々をすり抜け、飛び越え、ビルを登り、縦横無尽に動き回る。
そんな奇っ怪な光景も、街の人々は気にも止めない。ここ数年でこの怪現象は日常へと溶け込んだ。

終戦直後以来、70年振りに日本で密造酒が流行している。
バッカスと名乗る違法酒造家が、市販の酒を上回るクオリティの密造酒を販売してしまったからである。
取り締まろうにも猩々ーーー運び屋も兼ねた先述の猿妖怪が妖術の類を使いあの手この手で違法行為を揉み消しにかかる。
酒の味、理不尽な人外の技。この違法酒造家が神本人である証明だろう。

神の情熱。そんなものに人間如きが敵う訳がない。
もう神を倒すには神をぶつけるしかない。
シェアを失った各メーカーはそれぞれの企業カラーに合った酒神を降臨させ、バッカス神の酒を超える酒を目指し、人神一体で研究に取り掛かる。
静かなラグナロクの幕が、今上がる。

【続く】