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せめてもの弔い

「おはよう。5000年ぶり」
「……博士がまだ生きているとは思いませんでした」
少年の応答に肩をすくめる。
「精神をデータ化する方法が見つかってね。肉体に固執するような風潮は殆ど消えたよ。おかげで君の仕事は殆ど無い」
仕事。その言葉を聞き少年の顔が曇る。
「もうダメですか……」
「まあね。けど思った以上に頑張った。終末戦争が起きるかと思ったが。人は愚かじゃなかった。宇宙は無事老衰を迎える」
少年は体を起こす。
「宇宙の終焉……」
「膨張し続けたものがまさか800年で収縮しきるとはね。慌てて研究したが時間切れ。あと一ヶ月で宇宙はビッグバン前に元通りさ」
「それは……どうしようもありませんね……」
同調の言葉にはシニカルな笑みだけ。会話は途切れた。

やがて、博士は口を開く。
「まだ足掻いている人達はこの銀河系に集まっている。安楽死を自分で選べない人達だ。想定とは異なるが、楽にしてやってくれ。」

【つづく】

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