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人間リサイクル

日本では、てっきり土葬は禁止されているものだと思い込んでいたら、法律で禁じられているわけでもないらしい。
実際には土葬できる墓地などはほとんどないということで、火葬が当たり前になっている。
火葬すれば、焼かれた骨は形は残るものの、触れば脆く崩れてしまう。


何の話かというと、村田沙耶香の芥川賞受賞作『コンビニ人間』を読み、面白かったので、続いて短編集『生命式』を読んだ。
その感想を少しだけ書いてみる。
(一部ネタバレ、一部不快な表現があります)

『コンビニ人間』も相当風変わりな作品だったが、『生命式』はそれに輪をかけて強烈な内容だった。


賛否両論大いにありそう。
好き嫌いが分かれそう。

帯には「文学史上、最も危険な短編集」とある。

『生命式』はタイトルにもなっているだけあって、相当攻めた内容だった。

とくにわたしの印象に残ったのは、『素敵な素材』という作品だった。

主人公の女性は親友と、ホテルで優雅にお茶を楽しんでいる。

場所が場所だけに、一張羅のセーターを着込んでいる。
人毛100%のセーターを。

これは近い未来か遠い未来の話か知らないが、死んだ人間の体をとことんリサイクルしましょう、そんな時代が物語の舞台になっている。


骨は指輪に、歯はピアスに、
人体の各部位が再利用される。

家具も食器も人骨で作られたものは高価で価値があるものとして扱われる。
そして胃袋に至るまで……。

そんな価値観が当たり前になってしまった中で、主人公の婚約者は人間リサイクルは「気持ち悪い」「死への冒瀆」だと今のわたしたちに近い感覚を持っている。

しかし、主人公はこのように反論する。

「他の動物に同じことをするより、ずっといいじゃない。死んだ人間を素材として扱うのは、私たち高等動物の尊い営みよ。死んだ人間の身体を無駄にしないように活用し、いずれ自分の肉体もリサイクルされて、道具として使われていく、素晴らしいことじゃない。道具として使える部分がいっぱいあるのに捨ててしまうなんて、そんな勿体ないことをするほうが、ずっと死への冒瀆だと思うわ」

p.58〜59より抜粋


12編の短編が収められているけれど、どれも個性的な作品揃いだった。
読後感は……
正直いって爽やかとは言い難いものもあった。


先日、ぼんやり見ていたNHKの「クローズアップ現代」で、外国で臓器をあっせんして、捕まった男のことを追跡していた。
つまり、法を犯してまで、臓器移植を望んでいる人が現実にいるということだ。

医学的に問題がなく、適切な手続きを経れば、許される善意の臓器移植。
人間リサイクルは実は、既に始まっているんだなと改めて気づかされたのだった。







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