『九十歳。何がめでたい』 佐藤愛子
わたしが初めて佐藤愛子作品と出会ったのは、遥か昔の学生時代のこと。
直木賞受賞作『戦いすんで日が暮れて』でした。
ベストセラーになった『血脈』は上中下巻で、かなりのボリュームがありました。
佐藤家のファミリーヒストリーとして、きっかけは興味本位でしたが、あまりの面白さに貪るように読みました。
父は小説家の佐藤紅緑、兄は詩人のサトウハチロー、一見恵まれた家庭の内幕が赤裸々に描かれていて、一族が共存共栄というわけでもなく、影の部分もあったことを知りました。
母が佐藤愛子さんのファンで、子どもの頃には、狐狸庵先生こと遠藤周作さん、船乗りクプクプやどくとるマンボウシリーズでお馴染みの北杜夫さんと3人で放談する番組をよく観ていました。
まるで漫才のようでした。
女流作家というものは、物怖じせず、豪快でカッコいいなと子ども心に思いました。
お嬢さま育ちでありながら、最初の結婚は夫がモルヒネ中毒になって破綻。
二度目の結婚は夫が事業に失敗し離婚するも、その借金返済に追われ…
浮き沈みもあり、辛酸も舐め、佐藤愛子は人生と戦う人です。
『90歳。何がめでたい』は、6年前に母にプレゼントした本です。
今年映画化され、再び話題になっているので、読んでみました。
猪突猛進、直情径行型の気性、長いものに巻かれず、他人に媚びない物言い、間違っていると思ったら一刀両断に斬って捨てる痛快さや、ほとばしるユーモア、すべてひっくるめて佐藤愛子さんの魅力だと思います。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、おかしいことはおかしいと、発言する。
エッセイは今まで数数読みましたが、90年生きて来られた自信に裏打ちされて、更に説得力が増しているように感じられました。
(現在100歳です)
いいたいこともいえないこんな世の中で、
炎上や、〇〇ハラで訴えられないように戦々兢々とし、他人の顔色ばかり伺っている現代人。
他人の機嫌を損ねると自分が生きづらくなるだけ。
波風立てず、なんとなく横並びで、無難に生きたいけれど、横並びにさえストレスを感じる今日この頃。
だがしかし!
現代人、ストレスに弱すぎない?
何でもストレスのせいにしている場合じゃないでしょ!
もう少し、打たれ強く、時には鈍感に、図太く生きなければ。
たまには毒も吐かなきゃ、酸欠になるよ。
(これは老婆の日常茶飯事の独り言です)
わたしも佐藤愛子先生を見習って、「ここが変だよ!」といえる勇気を、小出しにしていきたいと思います。
佐藤愛子さんのエッセイが今も支持されるのは、わたしも思うことをズバッといってみたい、そんな風に思っている人が、実は多いからではないでしょうか?
次は小説『晩鐘』を読んでみたいです。